二人捜査
ある男が違法ギャンブルをしていると、たれ込みがあってから数日後。
カイジは容疑者の自宅前に張り込みをしていた。
容疑者のアパートの入口が見える公園のベンチで、何十回も目を通した新聞をまた見つめた。
なかなかに暇だ。
目蓋が閉じそうになると目頭を擦るが、お目付役がいないとどうしても眠たくなってしまう。
またもやうとうとしかけた時、
「きゃっ、カイジくんみっけ」
うっ……美心……!!
どうしてここに……!
目立たないことが肝なのに、美心が一緒では元も子もない……。
「カイジくん、こんな所で何してるの? 暇ならデートしてあげるぞっ★」
勘弁してくれ……。
逃げ出すか否かを迷っていると、子供で溢れかえる公園の中を、アカギが悠然とした足取りで向かってくる。
「アカギ……!」
これぞ天の助けだ。いいところに来た。
駆け寄るとすぐに事態を察知したらしい。
アカギは美心を見ておじぎする。
「きゃっ、カイジくんと同じくらいかっこいい……!」
「…………」
「いつもカイジさんがお世話になってます……」
「いえ、こちらこそっ」
「恋人のアカギです」
ぶっ。
「な……何言ってやがる!」
「カイジさん……騒がないでください。今が仕事中なのを忘れましたか」
「あ……、でも……」
「オレたちは、公安ですよ。付きまとわれたら困る」
「だ、だけどもっと他にいい言い訳が……」
「ならカイジさんが嘘をつきますか」
「わかった……。好きにしろ」
恩人の娘さんに嘘をつくのは心が痛い。アカギに任せるしかないか……。
アカギは耳打ちをやめて美心に向き直った。
可哀相に美心はショックで顔を赤くしている。
「恋人……? アカギさんが、カイジくんの」
「ええ。今日は非番なので、デート」
デート……。
よりにもよってアカギとか……。
柄になく赤くなって動揺してる自分がおかしかった。
アカギがさりげなく手を握ってきて、静電気が走ったみたいに体がビクッとする。
二人でベンチに座ってつたない演技を演じてみせる。
アカギが腰に手をやってきて仕方なくくっつく。
しかし近すぎる……。
「カイジさん、好きだよ」
「えっ……?!」
素で反応してしまった。熱した頬を左右に振った。
「オレも……」
アカギの目が見られない。
かろうじてもにょもにょと同意するしかなかった。
心臓がバクバクうるさい。
いつもと違って優しいだけのアカギの手に、無意識にすがりついてしまいそうだった。
「ほら……カイジさん。もっと恋人らしくしないと……」
「これ以上どうしろって言うんだよ……」
「例えばカイジさんからキスするとかさ……」
「……ぇえっ! き、ききすって」
「そんな小学生みたいな反応するなよ。いつもやってるだろ……?」
からかうように囁く声に、益々顔が熱くなる。
最近はことあるごとにアカギがキスしてくる。
噛みつかれるよりだいぶマシと思ってても、されるとしばらく動けなくなるし、アカギのことばかり思った。
言わば呪いだ。
これは仕事なんだ。特別な意味なんてない。
美心を騙すための物で……。
そう唱えて深呼吸して、アカギの顔に近寄る。
あらためてアカギの通った鼻梁や、長いまつげを至近距離で見てしまい、益々挙動不審さに磨きがかかる。
(ええい……ままよ……!!)
触れて離れるだけのつもりだった。が、触れた瞬間服を掴まれ引っ張られて、深く唇が合わさった。
温い舌に唇の外周を沿うように舐められ、体がぶるぶる震えた。
これは演技で……アカギはオレのことなんか好きじゃなくて……。
背景がじわりと歪んでいく。
肩を抱いていたアカギの体が離れて、不思議に思って顔を上げる。
「お母さん、ホモップル!」
「こらっ、静かになさい!」
「母ちゃん、あれってどっちが攻?」
「あんたには十年早いの!」
「あらら、おばさん年甲斐もなく萌えるわ……」
「……………」
何だよこの人だかり。オレたちは上野のパンダか……?
これじゃあ監視すらままならない。
アカギの手を握ったまま、公園を出て車に戻った。
「………」
ドアを閉めて助手席に乗ると、ホッと息をつく。
二人っきりの空間が心地よい。オレと、アカギしかいない空間。
こちらもなかなか仕事に戻らないでいる、アカギの手を取った。
不思議そうに見るアカギに、何とか言葉を押し出した。
「まだ……恋人のフリしてたい……」
「………いいよ」
喜んでアカギの膝に乗った。
抱きついて鼻をうずめて、十二分にアカギの感触や匂いを堪能する。
こっちの額を撫でるアカギは、仕方ないと言った具合に苦笑する。
「また、班長にサボってるって怒られるだろうな……」
だが離れたくないのはアカギも一緒だった。
あれほど追いつめたのに、無条件に好いてくるカイジを放置できるわけがない。
壊すか愛でるか、どちらにしろ、することは同じだ。
終
カイジは容疑者の自宅前に張り込みをしていた。
容疑者のアパートの入口が見える公園のベンチで、何十回も目を通した新聞をまた見つめた。
なかなかに暇だ。
目蓋が閉じそうになると目頭を擦るが、お目付役がいないとどうしても眠たくなってしまう。
またもやうとうとしかけた時、
「きゃっ、カイジくんみっけ」
うっ……美心……!!
どうしてここに……!
目立たないことが肝なのに、美心が一緒では元も子もない……。
「カイジくん、こんな所で何してるの? 暇ならデートしてあげるぞっ★」
勘弁してくれ……。
逃げ出すか否かを迷っていると、子供で溢れかえる公園の中を、アカギが悠然とした足取りで向かってくる。
「アカギ……!」
これぞ天の助けだ。いいところに来た。
駆け寄るとすぐに事態を察知したらしい。
アカギは美心を見ておじぎする。
「きゃっ、カイジくんと同じくらいかっこいい……!」
「…………」
「いつもカイジさんがお世話になってます……」
「いえ、こちらこそっ」
「恋人のアカギです」
ぶっ。
「な……何言ってやがる!」
「カイジさん……騒がないでください。今が仕事中なのを忘れましたか」
「あ……、でも……」
「オレたちは、公安ですよ。付きまとわれたら困る」
「だ、だけどもっと他にいい言い訳が……」
「ならカイジさんが嘘をつきますか」
「わかった……。好きにしろ」
恩人の娘さんに嘘をつくのは心が痛い。アカギに任せるしかないか……。
アカギは耳打ちをやめて美心に向き直った。
可哀相に美心はショックで顔を赤くしている。
「恋人……? アカギさんが、カイジくんの」
「ええ。今日は非番なので、デート」
デート……。
よりにもよってアカギとか……。
柄になく赤くなって動揺してる自分がおかしかった。
アカギがさりげなく手を握ってきて、静電気が走ったみたいに体がビクッとする。
二人でベンチに座ってつたない演技を演じてみせる。
アカギが腰に手をやってきて仕方なくくっつく。
しかし近すぎる……。
「カイジさん、好きだよ」
「えっ……?!」
素で反応してしまった。熱した頬を左右に振った。
「オレも……」
アカギの目が見られない。
かろうじてもにょもにょと同意するしかなかった。
心臓がバクバクうるさい。
いつもと違って優しいだけのアカギの手に、無意識にすがりついてしまいそうだった。
「ほら……カイジさん。もっと恋人らしくしないと……」
「これ以上どうしろって言うんだよ……」
「例えばカイジさんからキスするとかさ……」
「……ぇえっ! き、ききすって」
「そんな小学生みたいな反応するなよ。いつもやってるだろ……?」
からかうように囁く声に、益々顔が熱くなる。
最近はことあるごとにアカギがキスしてくる。
噛みつかれるよりだいぶマシと思ってても、されるとしばらく動けなくなるし、アカギのことばかり思った。
言わば呪いだ。
これは仕事なんだ。特別な意味なんてない。
美心を騙すための物で……。
そう唱えて深呼吸して、アカギの顔に近寄る。
あらためてアカギの通った鼻梁や、長いまつげを至近距離で見てしまい、益々挙動不審さに磨きがかかる。
(ええい……ままよ……!!)
触れて離れるだけのつもりだった。が、触れた瞬間服を掴まれ引っ張られて、深く唇が合わさった。
温い舌に唇の外周を沿うように舐められ、体がぶるぶる震えた。
これは演技で……アカギはオレのことなんか好きじゃなくて……。
背景がじわりと歪んでいく。
肩を抱いていたアカギの体が離れて、不思議に思って顔を上げる。
「お母さん、ホモップル!」
「こらっ、静かになさい!」
「母ちゃん、あれってどっちが攻?」
「あんたには十年早いの!」
「あらら、おばさん年甲斐もなく萌えるわ……」
「……………」
何だよこの人だかり。オレたちは上野のパンダか……?
これじゃあ監視すらままならない。
アカギの手を握ったまま、公園を出て車に戻った。
「………」
ドアを閉めて助手席に乗ると、ホッと息をつく。
二人っきりの空間が心地よい。オレと、アカギしかいない空間。
こちらもなかなか仕事に戻らないでいる、アカギの手を取った。
不思議そうに見るアカギに、何とか言葉を押し出した。
「まだ……恋人のフリしてたい……」
「………いいよ」
喜んでアカギの膝に乗った。
抱きついて鼻をうずめて、十二分にアカギの感触や匂いを堪能する。
こっちの額を撫でるアカギは、仕方ないと言った具合に苦笑する。
「また、班長にサボってるって怒られるだろうな……」
だが離れたくないのはアカギも一緒だった。
あれほど追いつめたのに、無条件に好いてくるカイジを放置できるわけがない。
壊すか愛でるか、どちらにしろ、することは同じだ。
終
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