アク

不良たちはナイフを空に振った。
そこにはすでにオレはいない。
オレを庇って殴られたボロ雑巾のようになった遊戯が目に入る。
オレの中からどす黒い感情が溢れる。

辺りが光に包まれたかと思うと不良たちは塵になって消えていく。
オレは拳を握り締めた。


「これが……オレの力……」


冷たい汗を掻いていた。
記憶もない、親もいない、それにこの力……一体オレは何なんだ?
本当に人間なのか?


「遊戯……すまない……オレのせいで……」


遊戯を抱えた。
軽くてとても不良に勝てるガタイじゃない。
オレが守らなきゃいけなかったのに……。
遊戯は今日初めて出会ったのに、ずっと一緒にいた気がする。



‡‡



(……味がしない)


魂のまま長年いたのは覚えてる。
だけどこうして身体を持って転生しても、魂の時と変わらないことばかりだった。
そのひとつが味覚だ。

どうやらオレは食べなくても寝なくても平気みたいだった。
遊戯がおいしそうに食べてるのを見れば満足してしまう。

「……アテム、また食べてないんだね」
「あ、ああ。でも大丈夫だぜ」
「そんなのわからないじゃないか。いつ倒れるかもしれない……」
「……実を言うとな……遊戯。味がしないんだ」
「味が? 本当に?」

遊戯はサンドイッチを渡す。オレはひとくちかじって首をふる。
つづいてもらったミートボールを食べさせてもらう。
柔らかい食感なくせに無臭、味なしなのが違和感がある。
遊戯はお弁当のおかずをあらかたオレに食べさせると箸を止めてしまう。


「何でだろう……」

(待てよ……)


ひとつだけ味覚があったものがある。
遊戯と風呂に入った時……手に白いのを……。

オレは遊戯にキスをした。
熱と柔らかさ、そして色んな味覚と甘み。
肉の甘みと遊戯の唾液の味に、つんと身体が痺れる。

(……ミートボールってうまいな)


「な、何やってるんだよ!!」

遊戯は箸で額を叩いてきた。

「味がした」
「え……本当に?」
「もう一回していいか?」
「うん……」

遊戯と味覚を共有する。
吸って舐めて優しく噛んでみる。
オレはゆっくりと食事を堪能すると、腕の中の遊戯は力を無くして惚けていた。

「遊戯……デザートも取っていいか?」
「え……うわぁ! どこ触ってんだよ!」

遊戯は最後に残っていたチーズハンバーグさえオレにさしだした。

「どう? 美味しい?」
「うん、ちゃんと味がするぜ! ありがとな、遊戯!」
「そう、よかった……」


心配をする姿が何だか寂しい。
オレはやっぱり相棒からすると異常なんだ。

「……オレはちゃんと人間に見えるか?」
「え……」
「オレは時々思うんだ。もしかしたらオレは人間じゃないんじゃないかって……。
精霊や魂なんじゃ……」

遊戯の唇がオレのに重なる。
高く心臓は高鳴って脈々と打つ。

「キミはここにいるよ」
「……遊戯」


遊戯といると大事な物を思い出しそうだった。
だけどそれには届かなくて。掴めそうなところで消えてしまう。
大事な物だったはずなのに。
オレはどうして無くしてしまったんだ。
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