太陽とはかいの竜 闇表←海&獏
中庭にはパピルスやヤシに混じって色とりどりの花が咲いていた。
ここが砂漠の真ん中とは思えないような緑陰と豊富な水は誰もが心を許す中庭だった。
そこに珍しくセトの姿があった。
神官セトは花でも処刑するような審問官である。
時刻は深夜だった。
セトは寝付けずに宮殿を見回っていると、ふと中庭から水音がした。
長く伸びた蓮の茎の合間になにか見えた。
月は泉に落ちて人型を浮き上がらす。
少年が泉で水浴びをしていた。
白い裸体に目が吸い寄せられる。
はっとしてセトは首を振って錫杖を握りしめた。
「貴様!! 夜中に神聖な泉で何をしてる!!」
「うわっ?! セト様……?!」
少年は足を滑らせて泉の中に落ちる。
咄嗟に手を伸ばした。少年の腕を取って抱き上げた。
少年は砂岩のように白い肌をしていた。
宮殿では見ない顔だ。
しかし泉の脇に置いてあった服と装飾品は奴隷や使用人の物ではなかった。
どこかの愛妾でもまぎれこんだか。
「セト様、びしょぬれでどうされたのですか?」
「どうもせん。人払いを」
「は……」
部屋の見張り番をのけて部屋に入った。
濡れた少年を寝台に横たえる。
濡れた少年の身体を布で拭いていく。
身体は小さく、顔は少女のようで何故だか拭く手がぎこちなかった。
少年が目を開けると真っ先にセトが目に入る。
恐怖の神官の青眼に睨まれおびえる。
「恐れるな」
そうは言っても顔が恐ろしい。
黙るのも無理はなかった。
「貴様、名は」
「ユウギ……」
「どこから来た」
「…………」
「何故言わぬ。まさか忍び込んだか」
「違うよ……! ただ……」
「罪人でもあるまい。口を訊かぬと言うなら、拘束せねばならぬ」
「そんな! ボク悪いことなんかしてないよ」
「ならばどこに飼われてるか言え」
「言えない……。彼に迷惑がかかるから」
「泉で何をしていた」
「探し物を……」
「それは真か」
「はい」
(刺客のようには見えぬ……だが)
セトは精霊を召喚した。召喚した精霊はユウギの中に入っていく。
「な、なにこれ……」
「それは永続的な呪いだ。貴様が真実を語らぬかぎり、私の支配からは逃げられぬ」
「そんな……! 呪いをといてよ!」
「ならば真実を語れ」
「ふん、絶対言わないんだから!」
「強情な砂鼠め」
「鼠じゃないよ!」
「全く……先の墓荒らしといいこの宮殿はどうなってる」
「墓荒らし……?」
「貴様、知らぬのか。宮殿に侵入した墓荒らしとファラオが闘ったのだ」
「ボク……そんなの訊いてない」
「……珍しいことではない。ファラオは絶えず刺客に狙われている」
「……」
ユウギはさっきと違って黙り込んだ。
ファラオが襲われたのがよほど衝撃だったようだ。
「セト様は六神官の中でも、随一の精霊使いと訊いております」
「何だ急に……」
「お願いです! ボクを弟子にしてください!」
「なに……」
「ふん、貴様如きが精霊を使役できるはずがなかろう」
「……ボクの精霊を見てください」
ユウギが目を閉じて心に喚びかける。
大気が震えた。やがてユウギを包むほどの巨大な黒い翼があらわれた。
竜だった。
禍々しい黒竜は真紅の宝玉が無数についていた。
(なんという力……ファラオにも負けず劣らぬ)
破壊竜はすうっと消えてしまった。
ユウギは葉のように倒れてしまう。
ここが砂漠の真ん中とは思えないような緑陰と豊富な水は誰もが心を許す中庭だった。
そこに珍しくセトの姿があった。
神官セトは花でも処刑するような審問官である。
時刻は深夜だった。
セトは寝付けずに宮殿を見回っていると、ふと中庭から水音がした。
長く伸びた蓮の茎の合間になにか見えた。
月は泉に落ちて人型を浮き上がらす。
少年が泉で水浴びをしていた。
白い裸体に目が吸い寄せられる。
はっとしてセトは首を振って錫杖を握りしめた。
「貴様!! 夜中に神聖な泉で何をしてる!!」
「うわっ?! セト様……?!」
少年は足を滑らせて泉の中に落ちる。
咄嗟に手を伸ばした。少年の腕を取って抱き上げた。
少年は砂岩のように白い肌をしていた。
宮殿では見ない顔だ。
しかし泉の脇に置いてあった服と装飾品は奴隷や使用人の物ではなかった。
どこかの愛妾でもまぎれこんだか。
「セト様、びしょぬれでどうされたのですか?」
「どうもせん。人払いを」
「は……」
部屋の見張り番をのけて部屋に入った。
濡れた少年を寝台に横たえる。
濡れた少年の身体を布で拭いていく。
身体は小さく、顔は少女のようで何故だか拭く手がぎこちなかった。
少年が目を開けると真っ先にセトが目に入る。
恐怖の神官の青眼に睨まれおびえる。
「恐れるな」
そうは言っても顔が恐ろしい。
黙るのも無理はなかった。
「貴様、名は」
「ユウギ……」
「どこから来た」
「…………」
「何故言わぬ。まさか忍び込んだか」
「違うよ……! ただ……」
「罪人でもあるまい。口を訊かぬと言うなら、拘束せねばならぬ」
「そんな! ボク悪いことなんかしてないよ」
「ならばどこに飼われてるか言え」
「言えない……。彼に迷惑がかかるから」
「泉で何をしていた」
「探し物を……」
「それは真か」
「はい」
(刺客のようには見えぬ……だが)
セトは精霊を召喚した。召喚した精霊はユウギの中に入っていく。
「な、なにこれ……」
「それは永続的な呪いだ。貴様が真実を語らぬかぎり、私の支配からは逃げられぬ」
「そんな……! 呪いをといてよ!」
「ならば真実を語れ」
「ふん、絶対言わないんだから!」
「強情な砂鼠め」
「鼠じゃないよ!」
「全く……先の墓荒らしといいこの宮殿はどうなってる」
「墓荒らし……?」
「貴様、知らぬのか。宮殿に侵入した墓荒らしとファラオが闘ったのだ」
「ボク……そんなの訊いてない」
「……珍しいことではない。ファラオは絶えず刺客に狙われている」
「……」
ユウギはさっきと違って黙り込んだ。
ファラオが襲われたのがよほど衝撃だったようだ。
「セト様は六神官の中でも、随一の精霊使いと訊いております」
「何だ急に……」
「お願いです! ボクを弟子にしてください!」
「なに……」
「ふん、貴様如きが精霊を使役できるはずがなかろう」
「……ボクの精霊を見てください」
ユウギが目を閉じて心に喚びかける。
大気が震えた。やがてユウギを包むほどの巨大な黒い翼があらわれた。
竜だった。
禍々しい黒竜は真紅の宝玉が無数についていた。
(なんという力……ファラオにも負けず劣らぬ)
破壊竜はすうっと消えてしまった。
ユウギは葉のように倒れてしまう。
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