王者の憂鬱 十表

その日は世界大会の予選最終日だった。
ついさっき予選は終了して、終わってみれば自分のアカウントには一位の文字がついていた。



(どうしよう……)
(デュエルリンクスのプログラマーの僕が一位だなんて。八百長って思われるに決まってるよ!)


遊戯はタブレットを前に頭を深く垂れた。
ついついやってしまった。
休暇と予選が重なってつい。
デュエルが楽しすぎてつい。

(海馬君も世界大会に来るのに、バレたらクビになっちゃう!)

(今からアカウントを消せば……)

タブレットを触る指が震える。
画面にはさっきの試合のリプレイが流れていた。
日本二位のプレイヤーとのデュエルだ。

(さっきの……楽しかったな)
(こんなに強いプレイヤーがいるなんて)
(……また彼と戦いたいな)


チャイムが鳴って飛び上がった。汗で塗れたタブレットをそのままクッションの下に押し込む。

「遊戯さーん」
「じ、十代くん」

どうしてこんなタイミングで来るのかな。
表情も足も固まったまま玄関に向かった。

「遊びに来ちゃいました!」
「……よく来たね」

「今お茶淹れるね……」
「いやぁ~やっぱ遊戯さんってすごいっすよね」
「世界一位になっちゃうなんて」
「?!」

急須が茶葉と一緒に床に転がる。

「な、何のことかなぁ」
「デュエルリンクス世界大会予選ですよ、やってますよね?」
「や、やってないよー。全然知らなかった。はは」
「……」
「結果が発表されたけど」
「プレイヤー名がちょっと似てるだけで、ボク本人じゃないから」
「……」

じ、十代くんの眼が冷たい。
怖いよ……。助けてアテム。

「何だ、そっかぁ。俺の気のせいかぁ」
「う、うんうん。気のせいだよ」

後はいつも通りデュエルの流れになる。
なぜか十代くんはこちらを見たまま黙ったままだ。
唇が軽くほほえむ。

「?!」

手札を見て息をのむ。
一枚多いだけでさっきの試合と全く同じ手札だった。
そして相手のターン。

気づいたら3ターンめで制圧されていた。
この盤面、さっきと全く同じ流れだ。

(さっきと同じ動きをしないと、勝てない)

震える手で盤面を返していく。
最後のモンスターを攻撃する。十代のライフは0だ。

「やっぱり、遊戯さんだった」

ライフは0なのにすごく嬉しそうだった。
長年探していた恋人を見つけたように、眼は熱く潤んでいた。
腕を引かれて胸の中に連れ込まれた。
蒼金の目はきらきらと輝いてる。


「オレより強い人が遊戯さん以外にいるわけない」
「じ、十代くん……?」
「嬉しかったんです、オレ……。一手一手返された時……こんな強い人は遊戯さんしかいないと思った」

シャツのボタンに指かかる。冷たい指が肌を撫でられて背筋が震えた。

「遊戯さんだって、会社にバレたらまずいことになりますね」
「じ、十代くん……言わないで……」
「どうしよっかなぁ」
「あっ」

指がからかうように体をかする。
身を捩って逃げようとすると上着から縄を出してきた。

「言うこと聞いてください、遊戯さん」


薄々感じていた。
HEROというデッキと逃がさないような制圧する動き。
これは十代だと。

「可愛い……」

その一言だけで遊戯は溢れてしまう。十代の視線や声、手にはどんな手札でも勝てない。
かろうじて抵抗しようと、いやいや首を振っても力はでない。


「世界大会、遊戯さんは出ないんですよね?」
「脅したのはキミでしょ」
「遊戯さんがいない大会なんてつまんないなぁ……。そうだ、俺が遊戯さんのアカウントで世界大会にでるっていうのは?!」
「え……」
「遊戯さんのデッキが丸見え! 隠してた秘蔵デッキとカードが俺の手の中に! くぅうー興奮するぜ!」
「却下……」
「ぇえ~」
「ボクだって、世界の舞台でキミと戦ってみたかったよ……」
「遊戯さん……」
「大好きです!」
「うわぁ、く、苦しいよ~!」



後日KC社長室。
海馬は見るからにイライラしていた。
呼びつけた遊戯と十代を雷のようににらむ。

「貴様、遊戯! なにをしたかわかってるのか!!」
「か、海馬くん」
「ひぇえーこえー」

「プログラマーの貴様がデュエルリンクスの世界大会に参戦するなど……!!」
「?!」

まさかすでにバレてたなんて。
胸ぐらを掴まれ、遊戯の足は床を離れる。

「貴様が出るなら、この俺も出る!!」
「へ」
「磯野!」
「は、海馬様」
「ただいまよりデュエルリンクス社内世界大会の開始を宣言をしろ!!」
「デュエル開始イ!!」
「えええ?!」
「お、俺も出たいです! KCに入社希望!!」

「フハハハ次に追加するパックは青眼強化だ!!」
「あははは……」
「遊戯さん! 早速デュエルしてください!」

1/1ページ