イヴ 闇表

「転校生のアテムくんだ」

キミは黒板の前でボクだけを見つめてる。
ボクはというと、ただドキドキしてた。
胸がいっぱいで嬉しくて涙が止まらなくて。

「はじめまして」
「ボクのこと……覚えてないの?」


キミがボクの隣に座ると、違和感があった。
いつもボクから目を離さなかったキミじゃない。
まるで他人をみるような……ううんもっと冷たい目だった。

「何を言ってるんだ?」
「……な、何でもないよ」

ボクは平静を装ってキミに教科書を見せる。
やっぱりそっくりだった。肌の浅黒さは違うけど、紫水晶の目は同じ。
女子は早くもキミの容姿にざわざわしてる。


(ボクのこと……覚えてない)


また涙が浮かんできたけど慌てて顔を振る。
そんなボクにキミは怪訝そうだった。

「もうひとりの遊戯ー!!」

城之内くんと本田くんが泣きながらキミにタックルしようとする。
キミは涼しい顔でそれを避けた。

「誰だアンタらは」
「な、なにぃ」
「遊戯! 忘れたっていうのかよ! 俺たち親友だろ!」
「城之内くん! 止めてよ! 彼は転生……転校してきたばっかりなんだから!」
「遊戯……」
「俺は遊戯じゃない。ちゃんとした名前がある」
「……」
「そう、だよ。アテム……くんだよ。彼は、ボクじゃないんだ」
「ケンカなら受けてたつぜ」
「おっ、やるか? 勝手に死んじまいやがって、お前は!! 遊戯がどんだけ悲しんだかわかってんのか!」
「城之内くん!」
「けっ……行こうぜ本田」
「ごめん、アテムくん……」
「何なんだアイツら」
「キミはボクらの友達に似てるんだ……だから」
「どうして泣いてるんだ?」


涙を拭われて心臓がはねた。
キミがボクに触れることなんてできなかったから、ショックは大きかった。

「お前ら気持ち悪いぜ」

ガーン。
そ、そうだよね。初対面で泣いたり抱きついたり。
それでもボクはキミともう一度仲良くなりたかった。

「あ……アテムくんってさ、DMするの?」
「ああ……」

お互いのデッキを交換すると、キミの顔色が変わった。
キミのデッキは見慣れたものだった。ボクと一緒に作った大切なデッキ。
何だか嬉しくなる。

「おいアテム」
「……」
「ちょっとツラかせや」

早速不良グループが絡んできた。向井くんに山田くん。
ボクは立ち上がるキミの制服をつかんだ。

「行くことなんかないぜ」
「用事があるんだろ?」
「キミって天然だよね……。校舎裏に呼び出されるなんてボコられるよ」
「お前には関係ないぜ」
「……そうかも、しれないけど」

何でキミはボクに冷たくするんだろう。
前はこんなことなかった。
他人じゃなかったキミにそんなことを言われると、どうしても泣いちゃうよ。

「……武藤」

キミは立ち上がって校舎裏に向かっていった。

「止めなよ!」

絡まれてるキミを助けに制止に入った。
向井がターゲットを変える。右手にはナイフ。
体格も上背も倍だしナイフも持ってる。

ボクは案の定ボコボコにされて吹っ飛んだ。
ボクの意識は遠くなっていった。



目がさめるとボクは保健室のベッドにいた。
しかも裸で。


「?!」
「起きたか遊戯」
「あ、アテムくん?!」
「ナイフ相手に立ち向かうなんて、勇気あるぜお前」
「それは夢中だったから……。向井くんたちは?」
「知らない。脅したら勝手に逃げていったぜ」
「よかった……」
「って、何でボク裸なの?!」

キミの目はボクの身体を凝視する。
男らしいキミの身体とは大違いで気後れする。

「手当てしてた……」
「?!」

乳首をキミはつまんできた。
指には軟膏がついてて冷たくてぬるぬるしてる。

「く、くすぐったいよ……アテムくん」
「気持ちいいだろ? 少し我慢しろ」
「気持ちよくなんかないよ!」
「どうかな」

からかうような目は昔と一緒だ。

「少し眠れよ、遊戯。俺がそばにいてやるから」


ボクは久しぶりに安眠できた。
キミがいることは普通のことだったから。いなくなってから、ずっと孤独だった。
横に気配がして、ボクはそれにしがみついた。


つづく
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