藤木兄弟は騒がしい

早く、早くカードをださないと。タイムアウトになってしまう。早く攻撃しないと。
もう体力は限界だ。昨日から何も食べてないし飲んでない。
給水タイムに負けるわけにはいかない。この給水を逃したらまた5時間後だ。

初めて戦うAIだった。サイバースという見慣れない種族を使っていた。


『罠カードを発動』


ああ、ダメだ。こんな時に罠なんて。
もう時間が足りない。
長時間のデュエルのせいで眩暈がする。
視界をばちばちと星が流れる。
サイクロンが引ければ勝ちだったのに。
あたまがおもい。どうして。
どうして引けなかったんだ。

「……さく」
「うぅ……」
「起きて」
「遊作!」
「……う」

目が覚めるとデュエルフィールドがなかった。
重しのようなヘッドセットがない。

金色の目が間近にあった。
綺麗な子だ。まるで機械だ。
どこかで会った気がする。そう、さっきまでぼくと戦っていた……。


「AI……?」
「?!」
「遊作くん、意識が戻ったんだね」


医者と看護婦がそばにいた。
みんな嬉しそうな顔なのに、頭がぼうっとして壁一枚あるみたいだった。
感情をあの部屋に置いてきてしまったようだ。


「いや、よかった……よかった……気分はどうかね」
「……」

ここはどこ。
ぼくはどうなったの?
だけど頭がおいつかないし唇も動かない。
かろうじて指をさす。


「遊作くん、記憶が……」
「あの子は君の弟だよ」
「おと、うと……?」
「ええと……名前は確か……」
「いや……弟……? 誰だね君は」
「名前はなんだ」

急に医師が態度を変えた。
少年は一歩下がる。
怯える姿が何故か自分を見てるようだった。

「Ai」
「……」
「おいで」

Aiは目を見開く。
おそるおそるこっちへやってくる。
ぼくの手を握った。
不思議な感覚だ。置いてきた物が帰ってきたような、何だか懐かしい。
Aiの目は鏡を見るみたいだ。

金色の目から大粒の涙が零れ落ちる。
おかしな感じだった。
無くした感情が帰ってきたみたいだ。
ようやくぼくは戻ってこられたんだと実感できた。
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