コードクワイン

「偽プレイメーカー?」


VRAINSではプレイメーカーは人気のアバターだ。
ファンがごっこ遊びをするのは珍しいことじゃない。
Aiはタブレットのネット記事を見せた。

「お手柄!ハッカーデュエリスト、10人抜き! だと」
「……」
「いやーん、プレイメーカー様、かっこいい」

画像のプレイメーカーはサイバース族を使っていた。
遊作は考えこむ。

「なぜサイバースを……」
「今までの偽物と違って、まるでお前みたいだな」

自分の物まねをされて気持ちいいわけがない。
だがAiは何だか嬉しそうだ。

「Ai、行くぞ」
「会いにいくの?」
「ああ」




ログインすると空の上だった。
この前ログアウトした場所と違う。座標がズレてる。
Aiは両手をバタつかせて落ちていく。

「うわああ!」
「Ai!」

遊作は手をのばす。
ふとのばした腕に違和感があった。プレイメーカーではなく見慣れた遊作の腕だ。

「うわっ?!」

Aiは誰かに抱えられていた。
翡翠の目に黄色い髪。
自分を抱き抱える所作と目には優しさが溢れていた。
Aiは顔が熱くなる。

「Ai、大丈夫か!」

遊作はボードを操ってAiに近寄る。
Aiを抱きかかえたアバターを見て言葉をのみこむ。

「オレ……?!」
「Ai、大丈夫か」
「あ、ああ……プレイメーカー。大丈夫だ」

こうやって心配して顔を触るのも本人と同じだった。
あまりにも優しい目で思わず目をそらしてしまう。


「お前がプレイメーカーのなりすましか」
「……相棒すら守れないのか」
「何……」
「ゆ、遊作?! その格好どうしたんだ、アバターは?」
「わからない」
「ちょっと待て。今解析してみるから。プレイメーカー様、ちょっと離して」
「嫌だ」
「はい?」
「Ai、そいつから離れろ!」
「そうしたいんだけど」
「それは、プレイメーカーの偽物なんかじゃない」
「?」
「オレ自身だ」
「な、」

(確かに姿も雰囲気も同じだけど)

Aiはイグニス体の触手をのばす。解析すれば中身が同じかわかるはずだ。
プレイメーカーの体をさぐる。

「Ai」
「うーん、データは遊作、アカウントも遊作だな……ってことは」
「遊作じゃん!」
「Ai、苦しい」
「ご、ごめん」
「どういうことだ……オレがふたりだなんて」
「バグじゃないの? 一度ログアウトしてみる?」
「……」

確かにそれが一番早いだろう。
だがAiは今プレイメーカーの胸の中だ。
あれは自分自身なのに、嫌な気分になる。
Aiに対しての思いは、自分が思ってたよりも暗くて深い。

「Ai、新しいカードを見にいかないか」
「行く行くー!」
「じゃあ、遊作は一度ログアウトして」
「嫌だ」
「そいつから離れるんだ、Ai」
「遊作……?」

「遊作、大丈夫だって。これは本当にお前だよ。わかるだろ? バグでデータが二重になったとか、対したこと」

Aiの体が傾く。
意識が遠のく。プレイメーカーがAiの体を抱き止めた。

「Ai!」
「Aiはお前には任せられない」
「何言ってる! お前は何なんだ!」
「オレはお前だ」
「Aiはオレが守る。お前は消えろ」
「ふざけるな!」


『おぉーっと?! 謎の少年とプレイメーカーが激しく言い争っています! 一体彼は何者なのか!?』
「?!」

ビルの屋上には報道陣とギャラリーが詰めかけていた。
みんなプレイメーカーのデュエルを見にきたようだった。
ブルーエンジェルとブレイブマックスこと島、草薙はフェンスから体を乗り出す。


「藤木……? アイツ何やって」
「プレイメーカーがふたり?」
「遊作?!」

遊作はデュエルディスクを確かめる。
中にあるのはサイバースじゃなかった。リアルでのダミーデッキだ。


「お前のデッキはサイバース以外はダミーデッキしかない」
「デュエルでは勝てない」
「く……待て!」


見慣れたサイバースの戦士が立ちふさがった。
冷たい電子の眼が遊作をにらむ。
大刀を遊作めがけて振りかぶった。
衝撃と痛み。
遊作はボードから投げ出され宙に舞った。
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