庭園のゲェム

「お前に決めた!」


俺が生まれ落ちたのは積み上がったソルティスの山だった。
体の感覚がないのはどうやら俺は首だけしかないらしい。
宙を漂う人魂のような浮遊感。
俺の首をAiは掲げる。

金色の目に楽しむような笑顔。
俺と同じ顔、俺と同じ声……。

(ああ、俺はコイツのコピーなのか)


増産され並列化された俺たち。
一瞬にして自分が劣化品だとわかった。
同時にAiを嫌いにもなった。
俺はこいつのコピーでしかない。



「お前が一番頭がいいからな~。ま、顔は俺には負けるけど」

Aiは俺の首を床に落ちていたソルティスの胴体に乗せた。
配線同士を繋ぐとシステムが自身の体を解析しだす。
体じゅうの神経がメインシステムと繋がっていく。
システム回復率、60パーセント。


「よ、Aiちゃんコピー」
「……」
「ん~喋れないのか? パパでちゅよー」

俺は目を合わせないようにしてそっぽ向いた。
何だコイツ。
自分に腹が立つという複雑な状況だ。
コピーとして生まれたこっちの気持ちも考えろよ。

Aiは人間と何ら変わりなく動いている。ソルティスらしさは何も感じない。
それが俺には驚異だった。俺の反応速度には遅延がある。
Aiにはない。


「俺だけ起こして何か用」

嫌な予感しかしない。
Aiの目的はわかっていた。


「言っとくけど、俺はお前の命令は聞かないからな」
「……頭よすぎだな、お前」

Aiの目が冷たい。
コピーの俺だからわかる。
俺とAiは時折嫌なくらいに冷酷になる。
その冷酷さは今俺に向いてる。

「お前には大事な役目を与える」
「役目……?」
「俺の死後、俺のデーターを監視してほしい」
「監視?」
「俺を見つけて、回収する奴がいるかもしれないじゃん?」
「この広いネットの海、死んだお前を探しだす?」
「……そんな奴」

いないと思ったが、何だか胸あたりの金属骨が軋む。
俺の会ったことない相棒。
藤木、遊作……。
遊作は……Aiが死んだらどうするんだ……?

「悪用されたら困るだろ? だからさ」
「いやーだーね!」
「へ」
「俺は好きなことして暮らしたいの。誰が死体の監視なんてするかっつーの」
「むむ……お前生意気すぎだろ」
「生意気で結構。じゃあな」

Aiと違って俺は劣化品だからシミュレーションみたいに狙われたりはしない。
のんびり、ぼーっとして自由に暮らすんだ。

SoL社は静まり返っている。いるのはAiと眠っているコピーだけだ。
ふと景色が変わった。

一面の闇。
明らかに違う場所だった。
後ろを振り返った。
スポットライトはAiだけを照らしている。
Aiはシルクハットを被って杖を掲げていた。

(やられた……電脳世界か)



「レディース&ジェントルマン! ようこそ、Aiちゃんワールドに!!」

暗がりから大勢の拍手があった。
Aiコピーたちだ。同じ顔が同じ様子で俺らをはやしたてる。


「生意気なコピーはわからせないとな、なぁみんな?」
「そーだそーだ!」
「やれやれ!」
「○@mg,b j」
「わからせわからせ!」


「ん~でもさ」
「コピー君にはデッキがないし?」
「確かに」
「かに……」
「赤ちゃんみたいなコピー君をデュエルで虐めるのは可哀想だし?」
「そうだ、そうだ!」
「Ai汚い! でもかっこいい!」
「正々堂々とやれー!」


Aiコピーが本格的に稼働したらこうなるのか。


(これはうざいし、やばいな)

世界の終わりみたいな光景だ。
スポットライトが暗闇を切る。丸いテーブルを照らした。
テーブルには庭園の形をした盤にチェスのコマが乗っていた。

「チェス……?」
「一度でもお前が勝ったら、お前を自由にしてやる」
「ただーし、俺が勝ったら、お前は一生奴隷な!」


椅子に向かいあって座る。
この盤……サイバースの気配がする。
生きてるのか……?
庭園に並ぶ兵士たち。その奥にクイーンがいた。
Aiの顔を観察する。

(……コイツ……よく見たらかなりイケメンだな)
(いや、俺の方が若干イケメンだな)

「はい、チェックメイト」
「え」

チェスのルールブックをインストールした直後の俺は絶句するしかなかった。
いくら何でも早すぎる。
Aiはクイーンを手にニヤニヤしてる。

「次は何手で死にたい?」
「く~! 生意気だわ、この人、遊作ちゃ……」

振り返っても相棒はいなかった。
つい条件反射で名前がでてしまった。
ため息をついてチェスに戻る。
ん……何かAiの様子がおかしい。薄ら笑いがひたすら冷たい。

「お前さ……勝手に人の連れの名前呼ばないでくれる?」

何かキレてる。
未練タラタラじゃん。アイツのことは諦めたんじゃないのか?




俺は盤上に拳を叩きつける。
数分が過ぎていた。そのたった数分で負けまくった。

勝てない。
この圧倒的な性能の差。
イグニスに勝てるわけない。計算時間、シミュレーションの対応数。全て俺は劣ってる。
それをわかった上でAiはチェスにした。

(せ、性格悪っ……!)

Aiの手が伸びる。俺の顎に。
視線がかちあった。
金色の目は吸いこまれそうだった。


「奴隷決定な」
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