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Little Fairytale -Ritsu-
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盟約を結んだ『promiser』は、任務の有無に関わらず基本的に『idol』と行動を共にし、公私共に行動の補佐をする。
と、盟約書には書いてある。とはいえ公私共にの『私』の部分が、こんなにも大きな割合を占めているとは思わなかった。
防音対策が十分に施されていそうな、やや重めのドアをノックする。三回。
反応がないので、合鍵を使って中に入った。奥を見やれば、予想通り、ベッドの上に毛布の塊がある。
「……朝ですよ」
言ってはみるが、返事がない未来は把握済みだ。
『idol』である朔間凛月の担当Pとなって数日。
日中の調子が悪いとは聞いていたが、こんなにも寝起きが悪いということは予想していなかった。朝起こして、会議や『調律』—と呼ばれる『idol』特有の医療行為—がある時は支度して送り出して、昼休みもあれこれと世話を焼いて。あんまり仕事がないとは一体どのような基準だったのか。
流石に、公私の『私』が多すぎる——いや、『promiser』の役割を考えれば、寧ろこれも『公』なのか? という疑問自体、彼の担当でなければ浮かべることすらない気もするが。
……とはいえ、初日から何かと頼られるのは、さほど警戒されていない証拠のようで、悪い気はしない。たぁくんとかいうあだ名も勝手につけられてしまったし。俺はと言えば、苗字は呼ばれたくないしさん付けは他人行儀だ、と言われて彼の名前を呼び捨てしている。
ベッドの脇にしゃがむと、相変わらず血色の薄い目蓋が帳を落としている。無防備な寝顔に、胸の奥にまた微風が吹きかけて、
「凛月」
「んぅ〜」
名前を呼んだところでようやく、起きているのか否か、半々くらいの反応があった。ふにゃふにゃとした声で「あとごふん」と言いながら、器用に毛布に埋まっていく。
五分か。紅茶を淹れながら、床に放られている隊服の皺をどうにかしておくくらいはできそうだ。
律儀にタイマーをセットして、隊員の私室にしてはやたらと精巧な装飾の施された食器棚に手をかける。
次に起きなかったら、とりあえず毛布を捲ってソファに運ぼう。そこまで考えて、要人の護衛じゃなくて、子守り……? なんて思いが浮かんだが、今は気付かなかったふりをする。
それにしても、自分も朝には弱い方だが、ここまで来ると病的だ。どうにか、医療的な方面から改善してやれないものか。起こすのはいいけど、毎度しんどそうな様子を見ていると、こっちも寝てていいよと言いたくなる。
というか、こんなに生きづらさを抱えていて、よく今まで団の一員としてやってこられたなとも思う。本人の努力も勿論あるだろうけど、この環境になってからは他のメンバーが世話を焼いてくれるにしても、それまでは一体誰が彼を支えていたのだろう。なんてことも考えつつ。
……なんだかんだ、ちゃんと任務をやってるな。
不真面目で左遷されたと受け取って、割と不服だった筈なのだが。
文句のひとつも浮かばない自分自身の呑気さに呆れる。
まあ、立場的にも、腐っているよりはまだ役割があるだけいいのだろう。日々は平和であればあるほどいいし、今日のような日が続くのなら、存外、悪くはないかもしれないな。
……なんて、この頃は、気楽にもそんなふうに考えていた。
彼の持つ、明けない夜のような悩みは知らずに。