1章
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早朝4時。
日が昇り始めるこの時間に起きるのが名無しの一日の始まりである。
この時間に起床し、朝食を作り外に散歩に行き仕事までに戻ってくる。宿屋の仕事に就いてからはほぼ毎日の日課である。
イラート海停からハ・ミルへと続く道が名無しの散歩コースになっており、当然魔物が出現するのだが名無しなりに最低限の護身術は身に付けているのでよっぽどのことがない限りは特に困ることはなかった。。
朝食用のサンドイッチ、護身用ナイフ、手帳とペンをその他諸々をポーチに入るだけ詰め、名無しは今日もその日課をこなすために出発をした。
間道に出ると朝露を含んだ土や草の匂いが名無しを迎え入れた。
一度立ち止まり、ゆっくり深呼吸をしてその空気を体全部で感じるように名無しは大きく伸びをした。
ハ・ミルへ向かう道を少し外れた所に、イラート海停からハ・ミルまでを見渡せる小高い高台がある。
名無しは其処を最も気に入っており、日課をこなす場所として決めていた。
殆ど人が立ち寄らないこの高台には普段魔物がいるのだが、朝方のこの時間に来ると魔物の姿は殆どなく、最も安全に訪れることができるのだ。
手頃に座れそうな岩をみつけ名無しは手帳とペンを取り出した。手帳には高台に群生している植物の観察記録のようなものがたくさん書かれており、そこに今日みた様子を名無しは書き足す。
「んー、この様子なら育ちそうかも…んし、サンプルにしようかな」
そういうと名無しは鞄から朝食にと作ったサンドイッチを取り出す。包みを開けるとハムとレタスのシンプルなサンドイッチが入っており、名無しはそれを器用に半分にすると、後ろに向かい声を発した。
「良かったら食べますか?この時間じゃまだどこのお店も開いてないでしょ?」
「…気づいてたのか、参ったね」
名無しの後方の木の影からアルヴィンが姿を現した。
「はい、どーぞ。小腹の足しにしかなりませんけど。」
「さんきゅ、…ん、うまいな。」
「どういたしまして」
「で、おたく何時からつけられてんのに気がついてたわけ」
サンドイッチを頬張りながらアルヴィンが聞く。質問に対しお茶を注ぎながら名無しは答えた。
「高台に上ったあたりから、かな?なんか気になるなーって。はい、お茶もどーぞ」
「ふーん、なんとなくねぇ」
アルヴィンが会釈をしてお茶を受けとる。ちょうど二三口で飲みきれる量だったので直ぐに飲み干し、名無しにコップを返した。話を続けながら名無しはコップを受けとり自らが飲む分をそれに注いだ。
「それで、何か用でも?」
「用って言う用でもないだが、…名無しさん、初対面じゃないよな?」
「はい?」
アルヴィンの問いかけに思わず名無しは一瞬なんのことかと固まった。
「私生まれてはじめてナンパされました…、驚いた驚いた」
「真面目にいってるんだけどねー俺、…おたく、エレンピオスの人間だろ?名無しってそんなに珍しい名前じゃないが最初に聞いた時に聞き覚えがあったと思てな。まさかとは思ったけど、目の色見れば殆ど一発だ」
「そこまで自信満々に言われてしまうと、嬉しいような嬉しくないような」
「どういう意味だよ」
「問題です、私にはとある友達がいます、その友達には10年以上会っていないのですが、彼にもし会えたのなら、個人的な判断材料が一つあります、それはなんでしょう」
「面白いこというな、で、判断材料って?」
「私が質問してるんですけど…まぁ、いいか。長引かせる意味のない会話だもの。答えはそれ、オレンジ色」
「嫌な認識のしかたするな、けどまぁ、それで正解ってやつか」
少し気難しく茶色の瞳を細めながら名無しは笑いながらいった。それに対になるように、どこか影を含んだように同じ茶色の瞳をアルヴィンはふせて笑った。しばらく沈黙が続いたが名無しから口を開き言葉を発した。
「…ふふ、じゃあ改めまして、久しぶり、アル」
「15年ぶりぐらいか?名無し」
「ふふ、そんなに経ってるんだねぇ」
懐かしい時間が少しの間流れ出した。
***
「でもびっくりした、15年ってこんなに変わるのね、私、貴方だってわからなかったわ」
「名無しは比較的にわかりやすいけどな」
「やだ…子供っぽいって言いたいの?」
「昔と変わらず可愛いっていってんだけど」
「ちょっと、なにそのキャラ…。調子狂うわね。昔の可愛いアルはどこにいったの?」
「そうか?昔通りの可愛い俺に、格好良さが増したと思うんだけど」
「……そうね、本当に久しぶりだしこれだけ経ってれば人も変わるのは当然ね」
「おい、今の間は何だよ」
名無しの言葉に少しアルヴィンが眉を寄せる。
当然か…、ぼそりと自分にしか聞こえない声でアルヴィンが呟いた。
何か言ったのに名無しは気がついたが、その表情をみて何を言ったのか問いただすのをやめた。
そして、名無しはアルヴィンの付けているオレンジ色について触れた。
「その仕事、まだしてるんだ」
「まだもなにも、そうするしかねえのよ、俺も」
「あれから私は関わらないようにしてきてるから想像で言うけれど、まともな手段じゃないと思うわよ?」
「寧ろ誉めてくれてもいいと思うぜ?そういう難しい仕事を立派にこなす男になってんだって」
「そうね、出来れば違う仕事であってほしかったけど」
名無しの言葉にアルヴィンから次の言葉は返ってこなかった。名無しも、そこから会話を続けようとは思えなかった。
懐かしい時間が重い空気にかわる。しばらくすると、突然溜まっていた息を吐き出すようにゆっくりとアルヴィンが喋り出す。
「俺は、間違っているとは思わない」
「そうかしら」
「こうするしか、この世界で生きていくなんて俺達には無理なんだよ」
「けど、私は宿屋で働けているわ」
「お前は、な」
「なんか意味深な言い方するのね…。」
アルヴィンからの言葉に少し棘を感じた名無しは、会話をの方向性を逸らそうと話題を必死に探すことにした。
仕事の話はやめよう。過去の暗い部分に触れる話もやめよう。
彼が好きだった話はなんだったか、とにかくこの場を良い雰囲気にしようと名無しは話題の焦点を彼の母親に絞った。
「ねえ、それよりも、おば様元気?」
「なんだよいきなり」
「いいじゃない、再会らしい話しましょ」
「…元気、だよ。驚くぐらいな。」
「じゃあ身体良くなったのね。今度会いにいきたいなー、ね、いい?」
「あぁ、母さんに伝えとくよ」
「ん、よろしくね、…と、大事なことだからこれもお願いしていい?」
「できる男アルヴィン、よろしく賜るぜ?」
「なにそれ変なの。…あのね、アルクノアの人達に、私に会った事は言わないでほしいの」
「へぇ…俺が誰かに言うと思ったわけ?」
「一緒にいた人たち、ミラさんとジュード君、違うの?」
「違う違う、あいつらはちょっとな」
「仕事…ね、とにかくお願い、貴方に会えたのは嬉しいけど、私今の生活が好きなの、だから」
「関わりたくないって事か?俺達に」
「そうじゃなくて、えっと…何も聞いてないの?」
「何っていうとお前の両親の事か?別にその事でお前に今更なにをしようとかないと思うけど」
「…そっか。けど、とにかくお願い。誰にも言わないで」
「わかった、わかったって。誰にも言わねぇよ」
「ほんと?じゃあ、約束、はい!」
そう言って、名無しは右手の小指をアルヴィンに差し出した。
きょとんとした顔をしたアルヴィンに名無しが指切り、と笑顔で言う。昔子供の頃、よくだれかと約束するときに使う決まったまじない。大人になってもやりたがる人もどうやらいるようで、目の前の光景が、いつしかの記憶とあまりにも重なるためアルヴィンは少しだけ胸に痛みを感じた。そして、アルヴィンも指をだし指切りをする。
「ゆーびきーりげんまん、うそついたら針万本とーばすっ指切った」
「おい、最後おかしいだろ。飲ますんじゃなくて飛ばすのか?」
「ふふ、もう大人なんだから確実なこと言わないと」
「怖い事言うねぇ…」
「例えよ例えっ飲ますより飛ばしたほうがいざって時にできるでしょ?…って、あっ!」
「どうした?」
「どうしよ、もうこんな時間、急いで戻らなきゃ」
「送ってくよ、魔物もそろそろ動き出す時間だしな」
「ふふ、ありがと」
名無しは立ち上がり、サンドイッチに使った包みを使って植物を一株とった。それを鞄にしまうと急いで海停に繋がる道へと振り返った。
そうして、二人は高台を後にし、イラート海停に戻った。
海停では人が動き出しており、一日の始まりを告げている。
今日もまた、一日がはじまる。
日が昇り始めるこの時間に起きるのが名無しの一日の始まりである。
この時間に起床し、朝食を作り外に散歩に行き仕事までに戻ってくる。宿屋の仕事に就いてからはほぼ毎日の日課である。
イラート海停からハ・ミルへと続く道が名無しの散歩コースになっており、当然魔物が出現するのだが名無しなりに最低限の護身術は身に付けているのでよっぽどのことがない限りは特に困ることはなかった。。
朝食用のサンドイッチ、護身用ナイフ、手帳とペンをその他諸々をポーチに入るだけ詰め、名無しは今日もその日課をこなすために出発をした。
間道に出ると朝露を含んだ土や草の匂いが名無しを迎え入れた。
一度立ち止まり、ゆっくり深呼吸をしてその空気を体全部で感じるように名無しは大きく伸びをした。
ハ・ミルへ向かう道を少し外れた所に、イラート海停からハ・ミルまでを見渡せる小高い高台がある。
名無しは其処を最も気に入っており、日課をこなす場所として決めていた。
殆ど人が立ち寄らないこの高台には普段魔物がいるのだが、朝方のこの時間に来ると魔物の姿は殆どなく、最も安全に訪れることができるのだ。
手頃に座れそうな岩をみつけ名無しは手帳とペンを取り出した。手帳には高台に群生している植物の観察記録のようなものがたくさん書かれており、そこに今日みた様子を名無しは書き足す。
「んー、この様子なら育ちそうかも…んし、サンプルにしようかな」
そういうと名無しは鞄から朝食にと作ったサンドイッチを取り出す。包みを開けるとハムとレタスのシンプルなサンドイッチが入っており、名無しはそれを器用に半分にすると、後ろに向かい声を発した。
「良かったら食べますか?この時間じゃまだどこのお店も開いてないでしょ?」
「…気づいてたのか、参ったね」
名無しの後方の木の影からアルヴィンが姿を現した。
「はい、どーぞ。小腹の足しにしかなりませんけど。」
「さんきゅ、…ん、うまいな。」
「どういたしまして」
「で、おたく何時からつけられてんのに気がついてたわけ」
サンドイッチを頬張りながらアルヴィンが聞く。質問に対しお茶を注ぎながら名無しは答えた。
「高台に上ったあたりから、かな?なんか気になるなーって。はい、お茶もどーぞ」
「ふーん、なんとなくねぇ」
アルヴィンが会釈をしてお茶を受けとる。ちょうど二三口で飲みきれる量だったので直ぐに飲み干し、名無しにコップを返した。話を続けながら名無しはコップを受けとり自らが飲む分をそれに注いだ。
「それで、何か用でも?」
「用って言う用でもないだが、…名無しさん、初対面じゃないよな?」
「はい?」
アルヴィンの問いかけに思わず名無しは一瞬なんのことかと固まった。
「私生まれてはじめてナンパされました…、驚いた驚いた」
「真面目にいってるんだけどねー俺、…おたく、エレンピオスの人間だろ?名無しってそんなに珍しい名前じゃないが最初に聞いた時に聞き覚えがあったと思てな。まさかとは思ったけど、目の色見れば殆ど一発だ」
「そこまで自信満々に言われてしまうと、嬉しいような嬉しくないような」
「どういう意味だよ」
「問題です、私にはとある友達がいます、その友達には10年以上会っていないのですが、彼にもし会えたのなら、個人的な判断材料が一つあります、それはなんでしょう」
「面白いこというな、で、判断材料って?」
「私が質問してるんですけど…まぁ、いいか。長引かせる意味のない会話だもの。答えはそれ、オレンジ色」
「嫌な認識のしかたするな、けどまぁ、それで正解ってやつか」
少し気難しく茶色の瞳を細めながら名無しは笑いながらいった。それに対になるように、どこか影を含んだように同じ茶色の瞳をアルヴィンはふせて笑った。しばらく沈黙が続いたが名無しから口を開き言葉を発した。
「…ふふ、じゃあ改めまして、久しぶり、アル」
「15年ぶりぐらいか?名無し」
「ふふ、そんなに経ってるんだねぇ」
懐かしい時間が少しの間流れ出した。
***
「でもびっくりした、15年ってこんなに変わるのね、私、貴方だってわからなかったわ」
「名無しは比較的にわかりやすいけどな」
「やだ…子供っぽいって言いたいの?」
「昔と変わらず可愛いっていってんだけど」
「ちょっと、なにそのキャラ…。調子狂うわね。昔の可愛いアルはどこにいったの?」
「そうか?昔通りの可愛い俺に、格好良さが増したと思うんだけど」
「……そうね、本当に久しぶりだしこれだけ経ってれば人も変わるのは当然ね」
「おい、今の間は何だよ」
名無しの言葉に少しアルヴィンが眉を寄せる。
当然か…、ぼそりと自分にしか聞こえない声でアルヴィンが呟いた。
何か言ったのに名無しは気がついたが、その表情をみて何を言ったのか問いただすのをやめた。
そして、名無しはアルヴィンの付けているオレンジ色について触れた。
「その仕事、まだしてるんだ」
「まだもなにも、そうするしかねえのよ、俺も」
「あれから私は関わらないようにしてきてるから想像で言うけれど、まともな手段じゃないと思うわよ?」
「寧ろ誉めてくれてもいいと思うぜ?そういう難しい仕事を立派にこなす男になってんだって」
「そうね、出来れば違う仕事であってほしかったけど」
名無しの言葉にアルヴィンから次の言葉は返ってこなかった。名無しも、そこから会話を続けようとは思えなかった。
懐かしい時間が重い空気にかわる。しばらくすると、突然溜まっていた息を吐き出すようにゆっくりとアルヴィンが喋り出す。
「俺は、間違っているとは思わない」
「そうかしら」
「こうするしか、この世界で生きていくなんて俺達には無理なんだよ」
「けど、私は宿屋で働けているわ」
「お前は、な」
「なんか意味深な言い方するのね…。」
アルヴィンからの言葉に少し棘を感じた名無しは、会話をの方向性を逸らそうと話題を必死に探すことにした。
仕事の話はやめよう。過去の暗い部分に触れる話もやめよう。
彼が好きだった話はなんだったか、とにかくこの場を良い雰囲気にしようと名無しは話題の焦点を彼の母親に絞った。
「ねえ、それよりも、おば様元気?」
「なんだよいきなり」
「いいじゃない、再会らしい話しましょ」
「…元気、だよ。驚くぐらいな。」
「じゃあ身体良くなったのね。今度会いにいきたいなー、ね、いい?」
「あぁ、母さんに伝えとくよ」
「ん、よろしくね、…と、大事なことだからこれもお願いしていい?」
「できる男アルヴィン、よろしく賜るぜ?」
「なにそれ変なの。…あのね、アルクノアの人達に、私に会った事は言わないでほしいの」
「へぇ…俺が誰かに言うと思ったわけ?」
「一緒にいた人たち、ミラさんとジュード君、違うの?」
「違う違う、あいつらはちょっとな」
「仕事…ね、とにかくお願い、貴方に会えたのは嬉しいけど、私今の生活が好きなの、だから」
「関わりたくないって事か?俺達に」
「そうじゃなくて、えっと…何も聞いてないの?」
「何っていうとお前の両親の事か?別にその事でお前に今更なにをしようとかないと思うけど」
「…そっか。けど、とにかくお願い。誰にも言わないで」
「わかった、わかったって。誰にも言わねぇよ」
「ほんと?じゃあ、約束、はい!」
そう言って、名無しは右手の小指をアルヴィンに差し出した。
きょとんとした顔をしたアルヴィンに名無しが指切り、と笑顔で言う。昔子供の頃、よくだれかと約束するときに使う決まったまじない。大人になってもやりたがる人もどうやらいるようで、目の前の光景が、いつしかの記憶とあまりにも重なるためアルヴィンは少しだけ胸に痛みを感じた。そして、アルヴィンも指をだし指切りをする。
「ゆーびきーりげんまん、うそついたら針万本とーばすっ指切った」
「おい、最後おかしいだろ。飲ますんじゃなくて飛ばすのか?」
「ふふ、もう大人なんだから確実なこと言わないと」
「怖い事言うねぇ…」
「例えよ例えっ飲ますより飛ばしたほうがいざって時にできるでしょ?…って、あっ!」
「どうした?」
「どうしよ、もうこんな時間、急いで戻らなきゃ」
「送ってくよ、魔物もそろそろ動き出す時間だしな」
「ふふ、ありがと」
名無しは立ち上がり、サンドイッチに使った包みを使って植物を一株とった。それを鞄にしまうと急いで海停に繋がる道へと振り返った。
そうして、二人は高台を後にし、イラート海停に戻った。
海停では人が動き出しており、一日の始まりを告げている。
今日もまた、一日がはじまる。