4章
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一行は、初めて訪れたトリグラフに目を奪われていた。
リーゼ・マクシアとは違い、どこか機械的なこの街並みを始めてみるジュード達は、視界にはいるものすべてを認識するのに忙しい様子だった。
一方、名無しとアルヴィンはというと20年前よりも発展している街並みをみて、ただただ記憶と現実を照らし合わせるのに必死であった。
相変わらず黒匣に囲まれた街が自分たちの故郷であるのは間違いないのだが、不思議と帰ってきたという感覚が湧いてこなかった。
従兄弟に会ったこともあってか、アルヴィンは多少なり帰省した感覚があるように見受けられるが、名無しはどうしても、帰省という言葉に違和感を感じざるを得なかった。
「こんな街だったなぁ…そういえば…」
「なんか、帰ってきたって感じしないか?」
「んー…こっちに居た時ほとんど屋敷の中で生活してたせいかしら」
「そういえば名無しもジルニトラに乗ってたんだし、それなりの生活だったってわけだよな、屋敷の中っていうと家庭教師でもきてたのか?」
「まさか、うちはそこまで大層じゃないわよ。20年前でしょ?私5歳だもの、初等部にすら通ってないかったから」
「んじゃ、ほとんど初めてってわけか」
「そうね、外に出る機会なんて殆どなかったから」
思い返せば、実際に過ごした時間はエレンピオスよりもリーゼ・マクシアの方が長い。
本当にここが故郷と呼べるのだろうか、名無しは自分自身に聞いてみるも、当然返事は自分から返ってくることはない。そんな無意味な事を考え、名無しは寂しさを感じた。
ジュード達は街並みについて、疑問に思ったことをアルヴィンに確認したり名無しに聞いたりした。
答えらる範囲の事を二人は答えながら街を見て歩いた。
ある程度進むと、街のいたることに異界炉計画についてのポスターがあることに気が付いた。
燃料は資源豊富な所から持ってくればいい、安直な考えを押し出しているポスターを目にし、名無しはほんの少し、嫌悪感が湧いた。これが故郷の考え方なのか。
街の住人と少しその話をすると、すべての人が賛成派というわけではなく、当然反対派の意見があることもわかった。一概にエレンピオス側のすべての人が賛同しているわけではない事がわかると、嫌悪感を若干和らげることができた。
あちこち回った一同は、トリグラフの港につき、目の前に広がる海を眺めた。
この海の先が、リーゼ・マクシアに繋がっているとは、未だに信じることができない様子でジュードやレイア、リーゼ・マクシアで過ごしてきた者たちは、どこか浮かない顔をしていた。
20年前、同じ海をみて旅立った、そう思い名無しはポツリと言葉を発した。
「ここから船に乗って、あっという間に20年かぁ」
「生きてまたここに来れてんのが信じらんねぇな」
「変わらないなぁ、ここは、目線が上がっただけでさらに広く見えるわね」
「あ、ねぇ、名無し達の家ってここにあるんでしょ?見なくて大丈夫?」
「ん?レイアちゃん見に行きたいの?」
「ジルニトラってお金持ちの人が乗れたんでしょ?そう聞いたら気になるよーっ」
「ちょっとレイア、失礼だよそんなこと言ったら」
「大丈夫だよジュード君、レイアちゃんなりに気使ってくれてるんだもの、ありがと」
「名無しのおうち、おっきいんですか?」
「んー、昔はそれなりみたいだけど、アルフレドに比べたら全然小さいと思うよ」
「なんだお前、家来たことあったのか?」
「ないわよ、無くたってスヴェントの家って聞いただけで大きさぐらい想像できるわ」
「アルヴィン君の家ってそんなにすごいの?」
名無しの言葉を聞いて、全員がアルヴィンを見て信じられないといった顔をした。
今までのアルヴィンの振る舞いからすると驚くのも当然なのだが、アルヴィンが見ればわかるだろ、という態度を取った。
何を言ってるのだが、と名無しが呆れながらもスヴェント家について軽い説明をする。
「すごいも何も、エレンピオスの中じゃ相当有名だよ。使用人でスヴェント家で務められる!なんてことがあれば人生での幸福者って言われるぐらいね」
「それだけの名家だったのだな…それでは…」
「おいおい、ジルニトラの事は事故だ、本家がどうなっても分家がどうにかしてただろ、変な気ぃ遣わなくていいよ」
「うむ、お前がそう言うのならば、そういうことにするか」
「はは、なんだそれ。…っと、俺の家は置いといて、名無しは家ぐらい寄ってもいいんじゃないか?俺はバランと会ったし、お前もなんかそういうのあってもいいなじゃないか?」
「ううん、たぶん行ったところでもう私の家じゃないと思うから大丈夫」
「名無し…その、おじいちゃんとかいるかも、しれないですよ?」
「いいのよ、本当に。あの家には私と両親と使用人しか住んでなかったの覚えているし。今頃他の人の家になってるに決まってるわ」
「名無しさんの言う通り、20年も経ってしまっていればそれが現実でしょう、悲しい話ではありますが」
「それより戻りましょう、バランさんご飯作ってくれてるんだし、私お腹すいちゃったわ」
「本当にいいのか?」
「いいの。今の私の家は、イラートにあるから。それに…。うん。大丈夫だよ。アルに会ってるし」
「なになに?名無しそれってそういうことでいいの!」
レイアが名無しの発言にいち早く反応した。そのかしましい反応に名無しは一瞬
何のことなのかと思ったが自分の発言を思いだしその意味を理解する。
さらっと思わず無意識に言ってしまった言葉ということであったが、よく考えなくてもかなり恥ずかしい発言をした、と名無しは焦る。
本心として思った事を喋ったのだが、レイアの反応も合わさりどこか面倒そうな雰囲気を名無しは察した。誤魔化すのも肯定するにしても、これはレイアの思う男女間の会話となってしまうであろう。なんとかしてそういった雰囲気は避けたいと、名無しはできるだけ、他意がない事を示すために、普段通りに話すよう意識を集中した。
「そういうことって言われても、…そうね、ほら、一応同じ出身地の人に会ってるし。そういう人が故郷に帰ってきたなら、私も帰ってきたんだなーって感覚になれるっていうか。そういうことだけど?」
「うんっうん!で、アルヴィン君!どうするの!返事!返事!」
「囃し立てんなよっ…と、あぁー…レイア、普通に話しかけてくれるんだな」
「え、あ、…えっと」
「あ!アル、貴方そういえばレイアちゃん撃ったんでしょ!聞いてるよ!ちゃんと謝ったの!」
「あぁ~いいよ!名無し!…その、もう、過ぎたことだし私ならほら!大丈夫だから!」
「よくない!それにジュード君とも戦ったんでしょ?バカなことして…っほら、二人に謝るっ!」
「名無し、僕はその…、色々思うことはあるけれど、それがあったからアルヴィンの気持ちを聞けたし」
「ジュードもそういってるし、私もいいかなぁー…?」
「レイア…ジュード…、悪い、ありがとう」
「うわぁ、アルヴィン君にそういわれるとなんかこう」
「はは、調子狂うね」
「なっ!…、まぁいいさ、これからちゃんと行動で示していくつもりだから」
「しおらしいなぁ~、アルフレド」
そういって名無しがアルヴィンの頭を撫でると、その様子を見たミラが思いついたように手を叩いた。
「赤子をあやす時は、たしかその手段が有効だったな」
「アルヴィンくん赤ちゃんだって、ぷぷぷ」
「おい、綿抜くぞ」
「ティポをいじめなでください!」
「今いじめられてる俺はどうでもいいのか!」
「アルヴィンさん!」
「な、なんだよ爺さん」
「これはコミュニケーションです」
「俺はそういうポジションに行った覚えはないんだけど」
「虐められることに喜びを感じる者がいると聞いたことはあるが…」
「と、とりあえずミラっ!本で読んだことのあることは今はおいておこうよっそれよりさっ私おなかすいちゃったなぁって」
「そういえば、バランさんご飯作ってくれてるんだよね、私もお腹すいちゃったー」
「それじゃあ、バランさんの家に戻ろうか」
「そうだな、色々聞きたいこともある」
そうして、一同はバランの家に一度戻ることにした。
マンションのほうに戻ると、エントランスでどこかへ向かおうとするバランとすれ違う。
ジュード達に気が付いたバランが今から仕事でヘリオボーグへ向かうと話す。
食事は出来ているから好きに上がって食べていいということで、食事がとれることにエリーゼが目を輝かせた。
皆にその反応を指摘されたことにエリーゼが恥ずかしがったが、成長期ということその場は笑って収められた。
バランの去り際に、ミラが自分達をどこで発見したのかを聞くと、ヘリオボーグの先の丘にいたということを教えてもらった。
バランの家に向かい、食事を済ませるとジュードがこれからのことについて話をし出した。
バランに教えてもらった丘に行けば、リーゼ・マクシアに帰れるだろうということと、ジュード自身はリーゼ・マクシアに帰るつもりはないということだった。
先ほどトリグラフを歩いていてこのまま黒匣をなくすだけではいけないと強く思ったらしく、両方の世界が救われる答えを見つけなくてはいけないとジュードは言った。
そこで、皆が同じ気持ちならば一緒に残ってもらいたい旨をジュードは語った。
「危険になるし、安全の保証もないことだけれど、皆の意思で決めてほしいんだ」
「それなら私は、黒匣をなくすまでの間精霊が枯渇しないよう新たな精霊の誕生を見守るだけだ」
「俺は、エレンピオスの人間が困るような答えをだすつもりはないぜ」
「ジュード君の言う事ことは、いずれ見つけるべき答えだと思うな。後回しにするより、世界が滅ぶ方が早そうだもの。当然、私は乗るかな。」
名無しもはっきりとした答えを言ったが、残る三人はまだ答えを決めかねている様子だった。
すぐに答えを出すのは難しいだろう、三人の故郷はリーゼ・マクシアにあるのだから、そこに一生帰れない可能性も十分あるのである。
とりあえず、丘へ向かう途中にあるヘリオボーグ基地へ向かうことになり、早急ではあるがそこへ向かうまでの間に三人に答えを出してもらうことになった。
***
ヘリオボーグへ向かおうとマンションから出ると、街中が騒がしいことに直ぐに気が付いた。
何か騒ぎがあったのかと、人の集まっているところに向かい事情をきくと、ヘリオボーグ基地が黒匣を使用せず術を使う奇怪な者に襲われた、と人々が口にしていた。
黒匣を使用せず術を使う者。条件にあてはまる人物と言えば、今いる顔ぶれとガイアスとミュゼしか見当がつかない。
ヘリオボーグ基地にはバランがいる。そうでなくとも基地には多くの人がいるはずである。関係のない人がガイアス達に襲われている可能性を危惧し、皆は急いでヘリオボーグへ向かうことにした。
「くそ、なんだって…」
「大事になるまえにバランさん助けに行かないとね、アル」
「ガイアスは無情に人を殺すような人じゃないのはわかっているけど…」
「ええ、奇襲と考えれば油断はできません、万が一のこともありますから急ぎましょう」
「急ぐぞ、お前達」
ヘリオボーグへとつくと、既に建物手前のコンテナの殆どが破壊されている状態だった。
目の前にある破壊されたコンテナに気がついたジュードが近づき、破壊された黒匣を拾い上げる。
恐らく黒匣を集約していたコンテナだろう。
中の物はすべて破壊され、再起不能の状態であった。
エレンピオスの生活は黒匣が欠かせない。この勢いで建物の動力である黒匣まで破壊されてしまっては施設丸ごとが機能しなくなる。
その様なことになれば、中にいる人も無事では済ませれない。
皆は急いで中に入り、ガイアス達を探すことにした。
すると、進行した先に倒れている兵士を発見したためジュードが急いで回復に当たった。
兵士から事情を聞くと、長刀を持った男と空を飛ぶ女性を中心とした部隊に襲われたという。
この話から、ガイアスとミュゼで間違いないと確信し、話の続きを聞くと、二人の目的は黒匣を破壊であるのが濃厚である、とジュードが呟いた。
「…もしかして、リーゼ・マクシアの人を守るため…・?」
「黒匣は精霊を殺す…、精霊が死ねば、リーゼ・マクシアの人は生活ができなくなる…」
「王故に、守るべきものを守る…ということですね」
「それじゃあ、エレンピオスにある黒匣全部壊すってことだよね」
「そうしたら、バランさんの足はどうなっちゃうんですか…?」
「歩くことはできなくなるだろうな、バランだけじゃない。ほかの奴らの生活も全部壊れちまう」
「こうも話している間に、ガイアスならば簡単にやってのけるだろう。話は無用だ、行くぞお前達」
基地の中にほかに怪我人がいないかを確認しながら、皆はバランを探した。
施設内は広く、いくつもの棟に分かれており探すことに苦戦を強いられた。
途中に遭遇した兵士にバランは研究棟にいるのではというのと聞き皆はそこに向かうことにした。
一部の電力が落ちており、昇降機の使用が不可能だったため、通る部屋すべてをしらみつぶしに足で探していく。
上階に行き、電算室というところにつくと複数の機材が置いてあった。
その中の一つにアルヴィンが触れ、バランの居場所がわからないかを調べ出した。
「アルヴィン君、そういうの得意なんだ」
「まぁこっちの物だしな」
「あ、ごめん、そういうつもりじゃ…」
「気にすんな、事実だしな…っと、名無し、そっちの端末いじれるか?」
「うん、大丈夫、…わ、すごい進化してるけど、まぁ基本は一緒だからいけるかも?」
「んじゃ、そっちでも探索頼むわ」
「了解、あんまり得意じゃないけど、室長の割り当て表ぐらいあれば見当つくかなぁ?」
そうして、二人で端末を触っていると、バランの居場所は解らなかったが別の事実を見つけだすことができた。
どうやらヘリオボーグではアルクノアから受け取った源黒匣のデータを使用しヴォルトの源黒匣の実験を行っていたようだ。
アルクノアから受け取ったということは、それはジランドから受け取った技術である。
ジランドは、本当にエレンピオスを救おうとしていたのだろう。やり方は間違っていたとはいえ彼の想いは本物だということを改めて感じた。
感傷に浸る間はなく、記録を見るとヴォルトは半刻前に強制的に起動されている。
恐らく、黒匣をすべて破壊する前に、この源黒匣の可能性を見るために強制的にガイアスが起動させたのではないかと考察し、ジュードが戦う前に一度ガイアスと話がしたいと言い出した。
「ここまでやった奴が、話を今更聞くと思うか?」
「それができないなら、戦うまでだよ」
「しかし、ジュードさん、貴方はそれでよろしいのですか?」
「…うん、ガイアスの事は尊敬しているけれど、同じ道を僕が歩まないといけないってこいうことは、ないはずだから」
ジュードが静かに言うと、皆は部屋を出て研究棟の屋上に出た。
すると、そこには源黒匣ヴォルトの姿があった。
強制起動されたせいなのか、それとも開発途中なのかはわからないがヴォルトは暴走しているように見受けられる。
使役者が見当たらないが、なんにせよこのまま暴走したヴォルトを放置すると何が起こるかわかったものではない。
ヴォルトを鎮めるには戦闘を行うしかないようで、一同は戦闘態勢に入る。
「レイア、気を付けて!」
「わわっ放電してちゃ近づけないよーっ」
「アルヴィンが避雷針になればっ!」
「そういうティポこそ飛んで俺より高くなりゃ十分なんじゃね?綿だし電気きかねぇだろ」
「ダメです!ティポが焦げちゃう!」
「ならばここは私が、地の精霊術ならば効きますでしょう!」
「それじゃ、ミラとローエンに主力は任せて私たちは援護と隙作りね」
暴走するヴォルトが無作為に放電しないようできるだけ遠距離からの攻撃を繰り返し行う。
隙を見てローエンとミラが術を決めると、ヴォルトを鎮めることができた。
ヴォルトを鎮めると同時に、空間が歪みそこからガイアスとミュゼが現れた。
ジュードがガイアスにヴォルトの事を訊ねる、やはり源黒匣ヴォルトを起動させたのはガイアス達で間違いないようだった。
「異界炉計画など、俺の手で終わらせる」
「けれど、それじゃあエレンピオスの人はどうなるの」
「その者達も俺が導こう、新たな道を指し示すまでだ」
「そんなの押し付けじゃない…貴方の理想が全ての人の幸せとは限らないわ」
「黒匣を破壊した後に、断界殻を解けばこちらにもマナが行渡るだろう、世界が滅びることはない」
「どんな理想も人の気持ちを無視して押し付けたら意味ないよ」
ジュードが言うと、意見は互いに合わないものだと見たのか話はそこまでになった。
ガイアスとミュゼがその場から去った後も、ジュードは意見が折り合わなかったことに関して、諦めがつかない様子だった。
ガイアス達が去ったあと、アルヴィンが隣の建物にある昇降機を指差し、バランや研究員がいることを知らせる。
電力が落ちている状態で、宙に浮いている昇降機に人が乗っているなど、見てわかる通り危険である、
急いで助けに向かおうと、ミラが動こうとするとジュードがヴォルトを使役することによって施設の電力を復旧できないかと提案をし実行に移そうとした。
それをみて、ミラがジュードの行動を止める。
「ジュード、源黒匣を使用すのは危険だ」
「わかってる、けど今はやらなきゃいけなんだ」
「ジュードさん、危険すぎます」
「今からでも降りて助けに行った方が安全だよ、ジュード」
「源黒匣がエレンピオスを救う可能性がわずかにあるなら、僕はそれにかけたい」
「私のここに、一応同じのはまってるんだから大丈夫だよ。だって私、見ての通り元気だもの」
名無しがそういって、自分の頭を指差し、ジュードの選択に結果を委ねた。
私が使えてるんだから大丈夫よ、と一言付け加えると、ジュードは頷いてヴォルトの使役を試みた。
ヴォルトの使役に成功したのか、一瞬施設の電力に復活が見えた。
しかし、ヴォルトの出力不足で電力の復活は完全ではなく、このままでは到底バラン達を助けられるだけの電力を生み出すことはでない。
「あと少しなのに」
「ヴォルト、お願いだ…っくっ」
「ジュード、それは!!」
「ジランドと時と同じだ、源黒匣の反動」
「…一人で無理ならば、力を合わせればいい」
「ミラっ」
「なら、私もっ」
ミラに続いて、皆が使役に力を貸すとジュードにまとわりついた黒い光が弱くなりヴォルトがさらに強い力で機能した。すると、電力が完全復活し昇降機が動く。
急いでバラン達の元に向かと、そこには動物にも似た光を放つ生き物が一緒にいた。
動物を連れている人たちは、黒匣がなければ生きていけない人たちで、この光る動物のようなものは未完成とはいえ、源黒匣だとバランは話し出した。
源黒匣といっても微精霊の源黒匣であって、先ほどのヴォルトやジランドの使用していたセルシウスの様な大精霊クラスのものではない。
バランが、源黒匣とはリーゼ・マクシア人が増霊極を使用し精霊の化石にマナを注ぐことで、化石に宿る精霊の術を具現化させたものなのだという説明をする。にわかには信じられない話に一同は驚いた。
しかし、未完成の技術であるとはいえ、今後のエレンピオスの将来には欠かせないものになることは間違いないだろう。
バランから話を聞いたジュードの目が輝いているのに、誰もが気が付いていた。
世界を救う方法、それが目の前に見つかったのだ、当然だろう。
一件が落ち着いたため、皆は丘に向かうことにした。
丘にたどり着くと、わずかに時空が裂けている部分が目でわかってそこに存在していた。
そして次元の裂け目をみて、ジュードが皆にこれからの事をもう一度ちゃんと考えてほしいと言った。
これからすることは、きっとガイアスとの戦いは避けられないだろう。
戦うにしろ、リーゼ・マクシアに帰るにしろ、決断するまで考えをまとめる時間は必要なはずだ。
皆は一度、トリグラフ戻りその夜は休むことにした。
決意を決めるには短すぎる時間。しかし、大切な決意を決めなければならない時間。
誰もがそう思い、自分の時間を大切に過ごすことにした。
リーゼ・マクシアとは違い、どこか機械的なこの街並みを始めてみるジュード達は、視界にはいるものすべてを認識するのに忙しい様子だった。
一方、名無しとアルヴィンはというと20年前よりも発展している街並みをみて、ただただ記憶と現実を照らし合わせるのに必死であった。
相変わらず黒匣に囲まれた街が自分たちの故郷であるのは間違いないのだが、不思議と帰ってきたという感覚が湧いてこなかった。
従兄弟に会ったこともあってか、アルヴィンは多少なり帰省した感覚があるように見受けられるが、名無しはどうしても、帰省という言葉に違和感を感じざるを得なかった。
「こんな街だったなぁ…そういえば…」
「なんか、帰ってきたって感じしないか?」
「んー…こっちに居た時ほとんど屋敷の中で生活してたせいかしら」
「そういえば名無しもジルニトラに乗ってたんだし、それなりの生活だったってわけだよな、屋敷の中っていうと家庭教師でもきてたのか?」
「まさか、うちはそこまで大層じゃないわよ。20年前でしょ?私5歳だもの、初等部にすら通ってないかったから」
「んじゃ、ほとんど初めてってわけか」
「そうね、外に出る機会なんて殆どなかったから」
思い返せば、実際に過ごした時間はエレンピオスよりもリーゼ・マクシアの方が長い。
本当にここが故郷と呼べるのだろうか、名無しは自分自身に聞いてみるも、当然返事は自分から返ってくることはない。そんな無意味な事を考え、名無しは寂しさを感じた。
ジュード達は街並みについて、疑問に思ったことをアルヴィンに確認したり名無しに聞いたりした。
答えらる範囲の事を二人は答えながら街を見て歩いた。
ある程度進むと、街のいたることに異界炉計画についてのポスターがあることに気が付いた。
燃料は資源豊富な所から持ってくればいい、安直な考えを押し出しているポスターを目にし、名無しはほんの少し、嫌悪感が湧いた。これが故郷の考え方なのか。
街の住人と少しその話をすると、すべての人が賛成派というわけではなく、当然反対派の意見があることもわかった。一概にエレンピオス側のすべての人が賛同しているわけではない事がわかると、嫌悪感を若干和らげることができた。
あちこち回った一同は、トリグラフの港につき、目の前に広がる海を眺めた。
この海の先が、リーゼ・マクシアに繋がっているとは、未だに信じることができない様子でジュードやレイア、リーゼ・マクシアで過ごしてきた者たちは、どこか浮かない顔をしていた。
20年前、同じ海をみて旅立った、そう思い名無しはポツリと言葉を発した。
「ここから船に乗って、あっという間に20年かぁ」
「生きてまたここに来れてんのが信じらんねぇな」
「変わらないなぁ、ここは、目線が上がっただけでさらに広く見えるわね」
「あ、ねぇ、名無し達の家ってここにあるんでしょ?見なくて大丈夫?」
「ん?レイアちゃん見に行きたいの?」
「ジルニトラってお金持ちの人が乗れたんでしょ?そう聞いたら気になるよーっ」
「ちょっとレイア、失礼だよそんなこと言ったら」
「大丈夫だよジュード君、レイアちゃんなりに気使ってくれてるんだもの、ありがと」
「名無しのおうち、おっきいんですか?」
「んー、昔はそれなりみたいだけど、アルフレドに比べたら全然小さいと思うよ」
「なんだお前、家来たことあったのか?」
「ないわよ、無くたってスヴェントの家って聞いただけで大きさぐらい想像できるわ」
「アルヴィン君の家ってそんなにすごいの?」
名無しの言葉を聞いて、全員がアルヴィンを見て信じられないといった顔をした。
今までのアルヴィンの振る舞いからすると驚くのも当然なのだが、アルヴィンが見ればわかるだろ、という態度を取った。
何を言ってるのだが、と名無しが呆れながらもスヴェント家について軽い説明をする。
「すごいも何も、エレンピオスの中じゃ相当有名だよ。使用人でスヴェント家で務められる!なんてことがあれば人生での幸福者って言われるぐらいね」
「それだけの名家だったのだな…それでは…」
「おいおい、ジルニトラの事は事故だ、本家がどうなっても分家がどうにかしてただろ、変な気ぃ遣わなくていいよ」
「うむ、お前がそう言うのならば、そういうことにするか」
「はは、なんだそれ。…っと、俺の家は置いといて、名無しは家ぐらい寄ってもいいんじゃないか?俺はバランと会ったし、お前もなんかそういうのあってもいいなじゃないか?」
「ううん、たぶん行ったところでもう私の家じゃないと思うから大丈夫」
「名無し…その、おじいちゃんとかいるかも、しれないですよ?」
「いいのよ、本当に。あの家には私と両親と使用人しか住んでなかったの覚えているし。今頃他の人の家になってるに決まってるわ」
「名無しさんの言う通り、20年も経ってしまっていればそれが現実でしょう、悲しい話ではありますが」
「それより戻りましょう、バランさんご飯作ってくれてるんだし、私お腹すいちゃったわ」
「本当にいいのか?」
「いいの。今の私の家は、イラートにあるから。それに…。うん。大丈夫だよ。アルに会ってるし」
「なになに?名無しそれってそういうことでいいの!」
レイアが名無しの発言にいち早く反応した。そのかしましい反応に名無しは一瞬
何のことなのかと思ったが自分の発言を思いだしその意味を理解する。
さらっと思わず無意識に言ってしまった言葉ということであったが、よく考えなくてもかなり恥ずかしい発言をした、と名無しは焦る。
本心として思った事を喋ったのだが、レイアの反応も合わさりどこか面倒そうな雰囲気を名無しは察した。誤魔化すのも肯定するにしても、これはレイアの思う男女間の会話となってしまうであろう。なんとかしてそういった雰囲気は避けたいと、名無しはできるだけ、他意がない事を示すために、普段通りに話すよう意識を集中した。
「そういうことって言われても、…そうね、ほら、一応同じ出身地の人に会ってるし。そういう人が故郷に帰ってきたなら、私も帰ってきたんだなーって感覚になれるっていうか。そういうことだけど?」
「うんっうん!で、アルヴィン君!どうするの!返事!返事!」
「囃し立てんなよっ…と、あぁー…レイア、普通に話しかけてくれるんだな」
「え、あ、…えっと」
「あ!アル、貴方そういえばレイアちゃん撃ったんでしょ!聞いてるよ!ちゃんと謝ったの!」
「あぁ~いいよ!名無し!…その、もう、過ぎたことだし私ならほら!大丈夫だから!」
「よくない!それにジュード君とも戦ったんでしょ?バカなことして…っほら、二人に謝るっ!」
「名無し、僕はその…、色々思うことはあるけれど、それがあったからアルヴィンの気持ちを聞けたし」
「ジュードもそういってるし、私もいいかなぁー…?」
「レイア…ジュード…、悪い、ありがとう」
「うわぁ、アルヴィン君にそういわれるとなんかこう」
「はは、調子狂うね」
「なっ!…、まぁいいさ、これからちゃんと行動で示していくつもりだから」
「しおらしいなぁ~、アルフレド」
そういって名無しがアルヴィンの頭を撫でると、その様子を見たミラが思いついたように手を叩いた。
「赤子をあやす時は、たしかその手段が有効だったな」
「アルヴィンくん赤ちゃんだって、ぷぷぷ」
「おい、綿抜くぞ」
「ティポをいじめなでください!」
「今いじめられてる俺はどうでもいいのか!」
「アルヴィンさん!」
「な、なんだよ爺さん」
「これはコミュニケーションです」
「俺はそういうポジションに行った覚えはないんだけど」
「虐められることに喜びを感じる者がいると聞いたことはあるが…」
「と、とりあえずミラっ!本で読んだことのあることは今はおいておこうよっそれよりさっ私おなかすいちゃったなぁって」
「そういえば、バランさんご飯作ってくれてるんだよね、私もお腹すいちゃったー」
「それじゃあ、バランさんの家に戻ろうか」
「そうだな、色々聞きたいこともある」
そうして、一同はバランの家に一度戻ることにした。
マンションのほうに戻ると、エントランスでどこかへ向かおうとするバランとすれ違う。
ジュード達に気が付いたバランが今から仕事でヘリオボーグへ向かうと話す。
食事は出来ているから好きに上がって食べていいということで、食事がとれることにエリーゼが目を輝かせた。
皆にその反応を指摘されたことにエリーゼが恥ずかしがったが、成長期ということその場は笑って収められた。
バランの去り際に、ミラが自分達をどこで発見したのかを聞くと、ヘリオボーグの先の丘にいたということを教えてもらった。
バランの家に向かい、食事を済ませるとジュードがこれからのことについて話をし出した。
バランに教えてもらった丘に行けば、リーゼ・マクシアに帰れるだろうということと、ジュード自身はリーゼ・マクシアに帰るつもりはないということだった。
先ほどトリグラフを歩いていてこのまま黒匣をなくすだけではいけないと強く思ったらしく、両方の世界が救われる答えを見つけなくてはいけないとジュードは言った。
そこで、皆が同じ気持ちならば一緒に残ってもらいたい旨をジュードは語った。
「危険になるし、安全の保証もないことだけれど、皆の意思で決めてほしいんだ」
「それなら私は、黒匣をなくすまでの間精霊が枯渇しないよう新たな精霊の誕生を見守るだけだ」
「俺は、エレンピオスの人間が困るような答えをだすつもりはないぜ」
「ジュード君の言う事ことは、いずれ見つけるべき答えだと思うな。後回しにするより、世界が滅ぶ方が早そうだもの。当然、私は乗るかな。」
名無しもはっきりとした答えを言ったが、残る三人はまだ答えを決めかねている様子だった。
すぐに答えを出すのは難しいだろう、三人の故郷はリーゼ・マクシアにあるのだから、そこに一生帰れない可能性も十分あるのである。
とりあえず、丘へ向かう途中にあるヘリオボーグ基地へ向かうことになり、早急ではあるがそこへ向かうまでの間に三人に答えを出してもらうことになった。
***
ヘリオボーグへ向かおうとマンションから出ると、街中が騒がしいことに直ぐに気が付いた。
何か騒ぎがあったのかと、人の集まっているところに向かい事情をきくと、ヘリオボーグ基地が黒匣を使用せず術を使う奇怪な者に襲われた、と人々が口にしていた。
黒匣を使用せず術を使う者。条件にあてはまる人物と言えば、今いる顔ぶれとガイアスとミュゼしか見当がつかない。
ヘリオボーグ基地にはバランがいる。そうでなくとも基地には多くの人がいるはずである。関係のない人がガイアス達に襲われている可能性を危惧し、皆は急いでヘリオボーグへ向かうことにした。
「くそ、なんだって…」
「大事になるまえにバランさん助けに行かないとね、アル」
「ガイアスは無情に人を殺すような人じゃないのはわかっているけど…」
「ええ、奇襲と考えれば油断はできません、万が一のこともありますから急ぎましょう」
「急ぐぞ、お前達」
ヘリオボーグへとつくと、既に建物手前のコンテナの殆どが破壊されている状態だった。
目の前にある破壊されたコンテナに気がついたジュードが近づき、破壊された黒匣を拾い上げる。
恐らく黒匣を集約していたコンテナだろう。
中の物はすべて破壊され、再起不能の状態であった。
エレンピオスの生活は黒匣が欠かせない。この勢いで建物の動力である黒匣まで破壊されてしまっては施設丸ごとが機能しなくなる。
その様なことになれば、中にいる人も無事では済ませれない。
皆は急いで中に入り、ガイアス達を探すことにした。
すると、進行した先に倒れている兵士を発見したためジュードが急いで回復に当たった。
兵士から事情を聞くと、長刀を持った男と空を飛ぶ女性を中心とした部隊に襲われたという。
この話から、ガイアスとミュゼで間違いないと確信し、話の続きを聞くと、二人の目的は黒匣を破壊であるのが濃厚である、とジュードが呟いた。
「…もしかして、リーゼ・マクシアの人を守るため…・?」
「黒匣は精霊を殺す…、精霊が死ねば、リーゼ・マクシアの人は生活ができなくなる…」
「王故に、守るべきものを守る…ということですね」
「それじゃあ、エレンピオスにある黒匣全部壊すってことだよね」
「そうしたら、バランさんの足はどうなっちゃうんですか…?」
「歩くことはできなくなるだろうな、バランだけじゃない。ほかの奴らの生活も全部壊れちまう」
「こうも話している間に、ガイアスならば簡単にやってのけるだろう。話は無用だ、行くぞお前達」
基地の中にほかに怪我人がいないかを確認しながら、皆はバランを探した。
施設内は広く、いくつもの棟に分かれており探すことに苦戦を強いられた。
途中に遭遇した兵士にバランは研究棟にいるのではというのと聞き皆はそこに向かうことにした。
一部の電力が落ちており、昇降機の使用が不可能だったため、通る部屋すべてをしらみつぶしに足で探していく。
上階に行き、電算室というところにつくと複数の機材が置いてあった。
その中の一つにアルヴィンが触れ、バランの居場所がわからないかを調べ出した。
「アルヴィン君、そういうの得意なんだ」
「まぁこっちの物だしな」
「あ、ごめん、そういうつもりじゃ…」
「気にすんな、事実だしな…っと、名無し、そっちの端末いじれるか?」
「うん、大丈夫、…わ、すごい進化してるけど、まぁ基本は一緒だからいけるかも?」
「んじゃ、そっちでも探索頼むわ」
「了解、あんまり得意じゃないけど、室長の割り当て表ぐらいあれば見当つくかなぁ?」
そうして、二人で端末を触っていると、バランの居場所は解らなかったが別の事実を見つけだすことができた。
どうやらヘリオボーグではアルクノアから受け取った源黒匣のデータを使用しヴォルトの源黒匣の実験を行っていたようだ。
アルクノアから受け取ったということは、それはジランドから受け取った技術である。
ジランドは、本当にエレンピオスを救おうとしていたのだろう。やり方は間違っていたとはいえ彼の想いは本物だということを改めて感じた。
感傷に浸る間はなく、記録を見るとヴォルトは半刻前に強制的に起動されている。
恐らく、黒匣をすべて破壊する前に、この源黒匣の可能性を見るために強制的にガイアスが起動させたのではないかと考察し、ジュードが戦う前に一度ガイアスと話がしたいと言い出した。
「ここまでやった奴が、話を今更聞くと思うか?」
「それができないなら、戦うまでだよ」
「しかし、ジュードさん、貴方はそれでよろしいのですか?」
「…うん、ガイアスの事は尊敬しているけれど、同じ道を僕が歩まないといけないってこいうことは、ないはずだから」
ジュードが静かに言うと、皆は部屋を出て研究棟の屋上に出た。
すると、そこには源黒匣ヴォルトの姿があった。
強制起動されたせいなのか、それとも開発途中なのかはわからないがヴォルトは暴走しているように見受けられる。
使役者が見当たらないが、なんにせよこのまま暴走したヴォルトを放置すると何が起こるかわかったものではない。
ヴォルトを鎮めるには戦闘を行うしかないようで、一同は戦闘態勢に入る。
「レイア、気を付けて!」
「わわっ放電してちゃ近づけないよーっ」
「アルヴィンが避雷針になればっ!」
「そういうティポこそ飛んで俺より高くなりゃ十分なんじゃね?綿だし電気きかねぇだろ」
「ダメです!ティポが焦げちゃう!」
「ならばここは私が、地の精霊術ならば効きますでしょう!」
「それじゃ、ミラとローエンに主力は任せて私たちは援護と隙作りね」
暴走するヴォルトが無作為に放電しないようできるだけ遠距離からの攻撃を繰り返し行う。
隙を見てローエンとミラが術を決めると、ヴォルトを鎮めることができた。
ヴォルトを鎮めると同時に、空間が歪みそこからガイアスとミュゼが現れた。
ジュードがガイアスにヴォルトの事を訊ねる、やはり源黒匣ヴォルトを起動させたのはガイアス達で間違いないようだった。
「異界炉計画など、俺の手で終わらせる」
「けれど、それじゃあエレンピオスの人はどうなるの」
「その者達も俺が導こう、新たな道を指し示すまでだ」
「そんなの押し付けじゃない…貴方の理想が全ての人の幸せとは限らないわ」
「黒匣を破壊した後に、断界殻を解けばこちらにもマナが行渡るだろう、世界が滅びることはない」
「どんな理想も人の気持ちを無視して押し付けたら意味ないよ」
ジュードが言うと、意見は互いに合わないものだと見たのか話はそこまでになった。
ガイアスとミュゼがその場から去った後も、ジュードは意見が折り合わなかったことに関して、諦めがつかない様子だった。
ガイアス達が去ったあと、アルヴィンが隣の建物にある昇降機を指差し、バランや研究員がいることを知らせる。
電力が落ちている状態で、宙に浮いている昇降機に人が乗っているなど、見てわかる通り危険である、
急いで助けに向かおうと、ミラが動こうとするとジュードがヴォルトを使役することによって施設の電力を復旧できないかと提案をし実行に移そうとした。
それをみて、ミラがジュードの行動を止める。
「ジュード、源黒匣を使用すのは危険だ」
「わかってる、けど今はやらなきゃいけなんだ」
「ジュードさん、危険すぎます」
「今からでも降りて助けに行った方が安全だよ、ジュード」
「源黒匣がエレンピオスを救う可能性がわずかにあるなら、僕はそれにかけたい」
「私のここに、一応同じのはまってるんだから大丈夫だよ。だって私、見ての通り元気だもの」
名無しがそういって、自分の頭を指差し、ジュードの選択に結果を委ねた。
私が使えてるんだから大丈夫よ、と一言付け加えると、ジュードは頷いてヴォルトの使役を試みた。
ヴォルトの使役に成功したのか、一瞬施設の電力に復活が見えた。
しかし、ヴォルトの出力不足で電力の復活は完全ではなく、このままでは到底バラン達を助けられるだけの電力を生み出すことはでない。
「あと少しなのに」
「ヴォルト、お願いだ…っくっ」
「ジュード、それは!!」
「ジランドと時と同じだ、源黒匣の反動」
「…一人で無理ならば、力を合わせればいい」
「ミラっ」
「なら、私もっ」
ミラに続いて、皆が使役に力を貸すとジュードにまとわりついた黒い光が弱くなりヴォルトがさらに強い力で機能した。すると、電力が完全復活し昇降機が動く。
急いでバラン達の元に向かと、そこには動物にも似た光を放つ生き物が一緒にいた。
動物を連れている人たちは、黒匣がなければ生きていけない人たちで、この光る動物のようなものは未完成とはいえ、源黒匣だとバランは話し出した。
源黒匣といっても微精霊の源黒匣であって、先ほどのヴォルトやジランドの使用していたセルシウスの様な大精霊クラスのものではない。
バランが、源黒匣とはリーゼ・マクシア人が増霊極を使用し精霊の化石にマナを注ぐことで、化石に宿る精霊の術を具現化させたものなのだという説明をする。にわかには信じられない話に一同は驚いた。
しかし、未完成の技術であるとはいえ、今後のエレンピオスの将来には欠かせないものになることは間違いないだろう。
バランから話を聞いたジュードの目が輝いているのに、誰もが気が付いていた。
世界を救う方法、それが目の前に見つかったのだ、当然だろう。
一件が落ち着いたため、皆は丘に向かうことにした。
丘にたどり着くと、わずかに時空が裂けている部分が目でわかってそこに存在していた。
そして次元の裂け目をみて、ジュードが皆にこれからの事をもう一度ちゃんと考えてほしいと言った。
これからすることは、きっとガイアスとの戦いは避けられないだろう。
戦うにしろ、リーゼ・マクシアに帰るにしろ、決断するまで考えをまとめる時間は必要なはずだ。
皆は一度、トリグラフ戻りその夜は休むことにした。
決意を決めるには短すぎる時間。しかし、大切な決意を決めなければならない時間。
誰もがそう思い、自分の時間を大切に過ごすことにした。
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