3章
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―気が付けばそこは、見知らぬ世界だった
―20年前―
「気が付いたか、名無し」
「…父様?」
「よかった、目が覚めたのね」
「母様…」
名無しが気が付き身を起こすと、そこには名無しを心配してみていた両親の姿があった。
先ほどまで名無し達は、トリグラフより出港した客船ジルニトラで旅をしていたはずだった。
それが突如、大きな衝撃に船が襲われたと思うとそこで名無しの意識は途絶えていた。
今目を覚ますと、あたりは海水が船内に入ってきていたのか濡れており衝撃で船体が大きく揺れたのがはっきりわかるように名無しのいた室内の物品は乱暴に床に投げ出されていた。
衝撃と同時に頭をどこかに打ち付け気を失っていたようで、名無しの頭には包帯が巻かれていた。
意識を取り戻した名無しを改めて確認すると、名無しの母親がその場から離れ医者を呼びにいった。
「父様、何があったの?」
「今はそれより寝てなさい、頭を打っている、痛くないか?」
「大丈夫、父様は怪我してない?」
「あぁ、大丈夫だ。名無し、今母さんが医者を呼んでくるからな」
「うん」
慌ただしく船内にいた医者が名無しのところにやってきて名無しの容態を確認すると、名無しの母に応急に必要なものを適当に渡しすぐにその場から立ち去った。
事態が飲み込めていない名無しは、流されるままに母の治療を受けた後にすぐに両親に手を引かれエントランスへと向かった。
エントランスに行くと、乗客の人たちがたくさん集まっており、怪我をしている人も中には見受けられた。
苛立ちと不安が溢れかえった場所に、名無しは恐怖を感じ父の足にしがみついた。
しばらくすると、船の警備に当たっていた兵士たちが集まりだしその場に集まった乗客たちに状況をしらせた。
何かの衝撃で、別の世界にきてしまい今エレンピオスへ帰還のために通信をしているということだった。
難しい話をほかにもいくつかしていたが、幼い名無しには理解することができなかったためただ一つ、ここはエレンピオスではないということだけが名無しの頭に残った。
それから数日、船に残っている食糧や物資を乗客で分け合って生活をしていたが、何度か正体のわからない力によって船は襲撃された。
襲撃があっては何人もの乗客が死んでいく、未知の世界で名無しは目に見えない敵におびえて生活する日々を送っていた。
残り300人強程、当初は2000人近くいた乗客がわずかになった頃船はある島に停泊することとなった。
降り立ったその場所は、エレンピオスでは見たことのない自然に溢れていた島で名無しは初めて見る世界に目を丸くし心を少し躍らせたいた。
全員が降りたのを確認して、大人たちだけが集まって何かを話し合いを始めた。
それが終わると、それぞれがどこかへ行ってしまいこの世界、リーゼ・マクシアでの生活を始めることになった。
名無しの両親はエレンピオスで黒匣の研究員であったため、ジルニトラに残るということになった。
両親と一緒に船に戻ると、名無しは両親に一人の部屋でも生活できるかと突如母親から言われる。
「どうして?父様と母様は一緒じゃないの?」
「ごめんね、名無し。私達お仕事が忙しくなっちゃうから名無しと一緒にいる時間が少なくなっちゃうの」
「いいか、名無し?私達は仕事なんだ、だから一人でも頑張れるよな?」
「や、やだっ一緒にいたい!」
「名無し、いい?これから大切なお仕事が始まるの、できるだけ会えるように時間は作るわ、だからね?」
「…皆もいなくなっちゃったのよ?私さびしいよ…」
「名無し、それじゃあおまじない教えてあげる」
「おまじない?」
「そう、こうやってね…、自分の小指をぎゅってするの、指切りするときみたいに」
「こう?」
「ん、それを胸に当てて大丈夫って三回お願いするのよ」
「大丈夫、大丈夫、大丈夫…」
「ん、よくできたわね、これで名無しは強い子よ?自分が強くなれるおまじないよ」
「…私強い子?」
「ええ!強い子よ!名無し!」
「…うん、私、一人で大丈夫よ、父様と母様、お仕事頑張って!」
「あぁ、いい子だ名無し。それじゃあ今日はもう寝なさい、何かあったら隣にスヴェント家の人がいるからそこにいくといい」
「わかった、いってらっしゃい!」
昔から両親が仕事でいないことはしょっちゅうだった。
今回もそれと同じものだと思い、名無しは寂しい気持ちを我慢して両親が会いにきてくれる時を待つことにしたがその日両親が会いに来ることはなかった。
仕事だから仕方がない、名無しは不安を抑えながら両親の帰りを待つ日を数日過ごした。
何日経ったのか数えるごとに寂しさが増す名無しは、両親の言っていたことを思い出しある日隣の部屋を訪ねることにした。
二回、ドアをノックしたが返事はなく誰もいないものだと名無しはすぐに諦め自分の部屋に戻ろうと体を回転させた。
すると、一人の男性が名無しを不審な目で睨んでいることに気が付いた。
その視線に思わず怯え、逃げるように名無しは部屋に戻ろうと足を速めると、男性は名無しが訪ねようとした部屋に無言で入っていった。
自分の部屋に戻り名無しは弱音を吐いた。
「さっきの人がスヴェントの人なのかな…怖い人…父様、母様…会いたいよ…」
その日も、名無しは両親に会うこともなく夜を過ごした。
翌朝、やはり室内に両親は戻っていなく名無しはため息をついた。
そしていつも通り、今日の分の支給品をエントランスに受け取りにいき、何もしないまま部屋で大人しく過ごしていた。
やがて、トイレに行こうと部屋からでると隣の部屋のドアが開いていることに気が付いた。
昨日怖い人がいた部屋だ、名無しはそう思いながら無意識にそっとその隙間に視線を向けていた。
わずかに見えた室内には、大人の女性と一人の男の子の姿があるのがわかった。
そこに昨日の男性の姿はなく、きっと奥さんと子供なのだろうと名無しは横目にしてその場から立ち去った。
用を済ませた名無しは、ふと外に目を向けてみた。
ずっと部屋にこもっていたが、よく考えたら見たこともない世界に来ているのだ。
両親はいつ戻ってくるかわからない。
ならば、ジルニトラからあまり離れないようなところぐらいで歩いてもいいのではないか、と名無しは思った。
外を見れば、何人かの大人たちと自分と同じぐらいの子供もそこにはいる。
ここまま部屋にいるのもつまらない、名無しはその日からジルニトラの外で一人の時間を過ごすことが増えた。
その際に、隣で暮らしているスヴェント家の人とすれ違う機会も増えていった。
男の子はどうやら恐らく父親にあたるであろう人の手伝いをしているらしく、時々仕事に出ていることがわかった。
両親が戻ってきたら、自分も何か手伝うことがないか聞いてみようと、名無しはその姿を見るたびに思った。
そして数日後、名無しは外に出て初めて見る植物を観察することが日課になっていた。
「これも初めて見る、エレンピオスにもあるのかな、これ」
今日も初めて見つけた植物に心を躍らせ、手元にある手帳にそれを押し花にするために挟み込んだ。
他のページを開くと外に出てから見つけた名無しのお気に入りの押し花がたくさんはさんであった。
それを眺めながら名無しはいつ両親に見せる日が来るのかと寂しさ半分に、その事を楽しみとした。
好きなだけ林の中を歩き回り、疲れたころ名無しは船に戻ろうと帰路についていた。
そんな名無しの視線に、ふと一人の少年の後ろ姿が見えた。
あまり人目につかない名無しが探索フィールドとしてる林の入り口の、少年は俯いて座っていた。
どうしたのだろうと気になったが、隠れるように身を縮めている少年の姿を見ているととても話しかける雰囲気ではなかった。
名無しは少年のいるところを避け、ジルニトラに戻った。
この日、部屋に戻ると名無しは一か月ぶりぐらいに両親に会うことができた。
「父様!母様!」
「名無し、いい子にしてたか?」
「えぇ!お仕事お疲れ様、ねえみて!これね、外でたくさん見つけたの!」
「あら、この世界の植物ね…きれいに作れてるわね、名無しは上手ね」
「えへへ…、これね父様と母様に一個ずつあげるっお仕事上手にできますようにってお守りなのよ」
名無しが笑顔で二人に押し花を渡すと、両親は快くそれを受け取った。
そして、母親が続けて名無しにこれから仕事の手伝いをしないかと切り出してきた。
何をするのかはわかっていないが、母親の真剣な目線と自分の願いが叶うということから名無しは間髪入れずにその事を承諾した。
名無しの返事に対して、両親の表情が優れていなかったが名無しはその事に気がつかなかった。
翌日、名無しは両親に連れられ治療の際に着用する服を着せられある部屋に入っていた。
たくさんの機材が置いてあることに少し恐怖心があったが、隣で父親が手を握ってくれたので勇気がもてた。
マティス先生というトリグラフで有名な先生に何か検査をされその日はことを終え、部屋に戻るように言われたため名無しは大人しく部屋にもどった。
そして残った時間で林に行き、部屋に戻るときに再び少年の姿をみることになったが今日も少年を避けることにした。
検査を受け、林に行き、少年を見かけ翌朝を迎える。
そんなサイクルを続けて名無しは二週間ほど時間を過ごした。
「またいる…」
二週間ほど、ほとんど毎日に近いほど名無しは少年の姿を見かけていた。
一体何をそんなにふさぎ込んでいるのだろうと名無しは気になりだしてきていた。
最近は両親に一日ほんの数時間でも会えるため、名無しは寂しさは和らいでいるがもしかしたら彼は両親を失っているのかもしれない。
寂しさが紛れているとはいえ、名無しも遊び盛りの子供である。
同じぐらいの年の子であれば、友達になれればと名無しは考えていた。
そして今日、そんな少年に名無しは話しかけることにした。
「なんで泣いてるの?」
「泣いてないよ」
名無しが話しかけると、少年は急いで顔を拭き名無しの言ったことを否定した。
顔を上げた少年は、名無しとあまり年齢の変わらない少年だった。
そして、隣の部屋にいた少年だと名無しはすぐにわかった。
「うそよ、だって目が真っ赤だもの」
「これはゴミが入ったから!」
泣いていたことを否定している少年に名無しがどうしたのかと問い詰めたら彼の母親の調子が悪いのだという。
そしてこの前見かけた男の人は父親ではなく叔父さんにあたる人なのだそうだ。
母親のことで悩み泣いている少年の顔を見て、名無しは思いきり自分の頬を引っ張って少年に笑い掛けた。
「ぷ…っ!なんだよそれ、変な顔だなっ」
「笑うの、そしたらみんな笑顔になるわ!今君も笑ってくれたもの!」
そして少年は笑顔になり母親のところに戻ると笑顔でいい、名無しの名前を呼ぼうとしお互いを知らないことに気が付いた。
名無しは自分の名前をいい、少年の名前もその時に聞くことができた。
アルフレドと名乗った少年と友達になり、明日も会う約束を名無しはした。
部屋に戻るなり、手帳を開き友達ができたと名無しは日記をつけた。
初めはジルニトラの旅を友達に自慢することを忘れないようにと持ってきた手帳だったのだが、気が付けば寂しさを紛らわすために書く日記となっていた。
ここにきてからずっと早く帰りたい思いを書き続けており、つい最近になって両親の手伝いをできる喜びを書いていた。
その中に今日友達ができたという喜びを名無しは加え、それを眺めていると自然と笑みがこぼれてきた。
明日の同じ時間、外にある赤いテントで友達と待ち合わせ。
大きく手帳に書いた文字を何度も何度も見直して、名無しは眠りについた。
***
「今日は泣いてないんだ」
昨日と同じ時間の赤いテントのある場所に、名無しよりも早くアルフレドが来ていた。
「昨日も泣いてないっ!」
「ゴミがはいっていたのよね、今日は大丈夫?」
「バカにするなよ、そんなドジじゃないっあ、そうだ、昨日母さんが笑ってくれたんだ!」
「でしょ?笑顔は幸せの元なの」
「名無しのおかげだよ、ありがとう!」
「うん、よかった!」
「えっと、名無しって隣にいるんだよね?昨日母さんに話したらそうだって」
「うん、父様と母様と三人でいるの、でも父様も母様も忙しいからあまりいないの」
「さびしくないの?」
「最近はね!お仕事のお手伝いできてるから毎日少し会えるの!だから大丈夫!」
「そう、なんだ…」
名無しの笑顔に対して、アルフレドは表情を曇らせた。
そういえば、父親がいなくなったと初め話しかけた時に聞いたのを名無しは思いだした。
アルフレドの表情をうかがいながら、名無しはアルフレドに謝ると、気にしなくていいとアルフレドは笑っていった。
「それより、明日部屋に来ない?母さんがあってみたいって」
「いいの?」
「うん、美味しいお茶があるんだ、一緒にお話ししながら飲もうって」
「それじゃあ明日絶対いくわ!そうだ、私の宝物をごあいさつに持っていくから!」
「本当に?なんだろうなーっ」
名無しは、アルフレドとエレンピオスでなにをやっていたのかという話をしているだけでその日は過ごした。
向こうにいる友達の話、習い事の話、好きな食べ物の話などをたくさん話すことが名無しにはあったが話す機会はこれからまだたくさんある。
名無しは明日、アルフレドの部屋に行ったときに何を話そうかということで頭の中をいっぱいにしその時が来るのを待った。
その日、たくさんの事を名無しは日記に書き、大切にそれを枕のそばに置き眠りについた。
「あら、あなたが名無しちゃんなのね、アルフレドと仲良くしてくれてありがとう」
「は、はじめまして…名無しです」
「ふふ、緊張しなくていいのよ?アルフレド?お友達が来たわよ?」
「ちょっとまって!今お茶持っていくから…っ」
「あらあら、私がやるっていったのに、ふふ、きっと友達が来てくれて嬉しいのね」
体のサイズには似つかないトレーにお茶とお菓子を乗せゆっくりと歩くアルフレドの姿を見ながらアルフレドの母は笑った。
思わず転びそうになったアルフレドを見るなり、アルフレドの母は笑いながらトレーをアルフレドから優しく取るとそれをそのまま机に並べた。
とても香りのいい紅茶に名無しが酔っていると紅茶は好きなのか、とアルフレドの母が聞いてくる。
紅茶はあまり飲んだことはないが、よく両親が飲んでいたためその香りが懐かしく思えた旨を名無しは説明した。
アルフレドの母は、名無しを一度撫でると一緒に用意されたクッキーを名無しに薦めた。
「美味しい…っ」
「そう?よかったわ、アルフレドが大好きなのよこのクッキー」
「わかりますっ美味しいもの!」
「あら、固い言葉使わないでいいわ、普通にしてちょうだい」
「は、はい、じゃなくて、うん!アルフレドのお母さん!」
「元気な子ね、見てると元気になるわ」
「母さん、本当?」
「えぇ、アルフレドが言ってた通りの可愛い子ね」
「っ!そんなこと言ってないよ!元気な子だって言ったんだ!」
「ふふふ、そうねそう言ったわね、ほら泣かないの」
「あはは!泣き虫なのね、アルフレドは」
「泣いてないって言ってるだろ!」
そういってまた泣き出したアルフレドを慰めているアルフレドの母を見ながら、名無しは楽しい時間を過ごした。
「そうだ、今日はね、ごあいさつに私の宝物を持ってきたの!」
「あら、何かしら?」
「そうだ、宝物ってなに?」
「これよ!」
名無しはポケットから、押し花のしおりを出して二人に見せた。
エレンピオスには今いる世界のように綺麗な草花がみれることはめったにない。
そして、ここにある植物を見かけることもほとんどないのだ。
ただの花と思われるかもしれないが、名無しにとっては大切なものなのである。
「あら、綺麗なしおりね」
「あそこの林でみつけたの、向こうじゃなかったから特別なものよ!」
「名無しいっぱい持ってるの?」
「たくさん持ってる!明日全部持ってくるね、全部綺麗なのよ!」
「本当?じゃあ楽しみにしてるね!」
「ねぇ、名無しちゃん、よかったら今日はここで寝ていかない?」
「いいの?」
「えぇ、娘ができたみたいで楽しいわ」
それからは、隣の部屋に泊まったり、両親に呼ばれ先生の検査を受けたりして名無しは子供なりに楽しい日々を過ごしていた。
同じサイクルで生活しているうちに名無しはすっかりスヴェント家の二人と仲良くなった。
こちらにきてから、両親と過ごす時間よりも比較的にアルフレド達と過ごす時間のほうが長くなり、両親の手伝いがない時はほとんどスヴェント家の部屋で過ごすことが当たり前になっていた。
ジルニトラでの生活にもその間に変化が表れていた。
アルフレドは叔父にあたるジランドールの手伝いを良くするようになっていた。
名無しも、両親の手伝いということでこの世界にエレンピオスの人が生活するうえでの影響がどのように起こっているかという検査を受けながら、より適正に生きてくためのマナの不可実験を手伝うようになっていた。
そしてジルニトラに縛られいた生活から、生活を陸地に移した皆はギルヴァートとという人を筆頭に帰るための手段を探す生活を始めた。
あの日知らない世界に紛れ込んでから4年が過ぎた時。
名無しは今日も、両親の手伝いをするために実験場にいた。
陸地に設けられた実験場は、依然この世界の人たちが使っていた施設を再利用してるものらしく、それなりの設備が揃っていた。
唯一、窓を塞ぐように打ち付けられた木の板が名無しにとっては恐怖心を持たせるものだった。
「名無し、今日から大事なことをお前に任せるんだが、大丈夫か?」
「ええ、父様!私頑張れるわっ」
「きっとすごくつらい事になるけれど、名無し本当にいい?」
「何言ってるの?みんなの役に立てるんでしょ?父様と母様のお手伝いなら私なんでも頑張れるから!」
「そう、その言葉を聞いて安心したわ…、それじゃあディラックさん、お願いできるかしら?」
「貴方達は本当にそれでいいのか?実の娘だぞ」
「子供の前でする話じゃない、ディラックさん、名無しの言葉を聞いただろ?」
「…どうなっても知らんぞ」
「…?」
苦しい顔をしているディラックが名無しを台に寝るよう誘導すると、曇った表情のまま名無しに麻酔を登用した。
麻酔がきき意識が途絶えた次に、名無しは激しい頭痛とともに目を覚ますことになる。
「痛い!!痛い!!!父様!!母様!!!痛い!助けて!」
名無しがベッドから身を起こして両親を呼びながら頭に爪を立てて痛みを訴えた。
名無しが起きたのを把握した両親が名無しの元に駆け付けると、すぐにどのような痛みがあるのかを名無しに聞いていた。
痛い、ただそのことしか頭にない名無しはひたすら痛みを両親に訴えた。
とにかく痛いということが両親に伝わったらしく、すぐにディラックのところに連れていかれると痛み止めを処方されるよりも先に今の症状を細かく調べることからまず始められた。
「先生!頭が痛いの!お願い助けて!!」
名無しの言葉を無視して、両親をディラック、そして他の大人たちはただ機械の画面をずっと見ているだけだった。
どうして助けてくれないのか名無しは困惑したが、しばらく画面を見た後に、ディラックがやってきて痛み止めを処方してくれた。
そして名無しの元に両親はよることもなく、画面を見ながらほかの人と何かを話すことに集中していた。
痛み止めによって痛みが治まったころ、名無しの元に両親がやってきて次はいつお手伝いができるのか、と何事もないように聞いてきた。
「名無し、次はいつお手伝いできる?明日にでもできればお願いしたいんだけど」
「母様、私頭が痛いの、お願い痛くなくなるまで待って、頑張って治すから」
「…しゃべるだけの元気があるなら、問題ないな、名無し」
「そうね、じゃあ名無し、明日に備えてもう今日は寝なさいね?頑張るのよ?」
「え、無理だよ、無理よ、だってこんなにも痛いの…っ」
「あら、頑張れる子でしょ?名無しは?」
そういった母の顔は、今まで見たことがないぐらいに冷静なものだった。
父も同様に、今まで見たことのない静かな顔をしていて名無しは両親の顔に寒気を感じた。
言葉に詰まっていると、何年かぶりに父親が名無しの頭を撫でた。
ゆっくりと、優しく昔と同じように名無しの頭を撫でながら、昔とは違う表情でゆっくりと言葉をつないだ。
「名無しはいい子だからな、名無し、これはパパとママのお仕事に役に立つことなんだ。だから頑張ってくれるよな?」
父親の行動に、名無しの恐怖心に少しの余裕ができた。
役に立ちたい、役に立つんだ。
きっとあんな顔をしたのは自分が我儘をいってしまったから迷惑なことがおきたからで。
昔から二人は忙しい、自分が役に立てばきっと笑顔になってくれる。
名無しは精一杯の笑顔を作って両親に言った。
「うん、私、頑張るわ」
名無しの言葉に、両親は昔と同じ明るい笑顔を見せた。