3章
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泣く代わりに名無しの膝元に顔を伏せて押し黙るアルヴィンを撫でていると、しばらくの時間が流れた。
少し足が疲れてきたので、それなりの時間こうしているのがわかる。
いつまでこうしているのかという疑問もありつつも、頭を撫でることに落ち着きを感じていた。
軽く手で顔が見えるよう髪をよけると、アルヴィンが寝ていることに気が付いた。
「ますます動けないじゃない…」
このままここで寝かすのがいいのだろうが、流石にこのままだと体が冷えてしまう。
何より、床に直に座っているため名無しの足が痛くて耐えられないのだ。
だからといって、成人男性を背負ってベッドに運ぶということは無理なのでどうしたものかと名無しは頭を抱えた。。
仕方なしに、眠っているアルヴィンの頬をつつき起こすことにする。
名無しに突かれ浅いねむから覚めたアルヴィンがゆっくりを身を起こした。
「わり…寝てた…」
「その事は別に気にしないんだけど、寝るならベッドのほうがいいと思って、私も足痛いし」
「随分と魅力的な誘いだな」の
「傷心のアルフレド君を慰めてあげないとね」
「なんだよそれ、くく…っ」
「ふふ、笑った、少し元気になった?」
「お陰様でな」
それはよかった、と名無しがアルヴィンに抱きつくと、少し脇に腕が当たった時にアルヴィンが苦痛の声を漏らした。
やはり放っておくよりも手元にあるものでなにか軽度の処置でもできればと、名無しはアルヴィンの腕を引っ張り部屋に押し入れる。
そして、先ほどアルヴィンが持っていた荷物の中になにか使えるものがないかとアルヴィンに尋ねると特にそういったものはないという。
応急処置として名無しは手元のタオルを濡らし、アルヴィンの元に持って行った。
アルヴィンに服を脱ぐよう名無しがいうと、アルヴィンはそれを拒否する。
「ちょっと、恥ずかしがってる場合じゃないでしょ」
「そうじゃねえよ、いいってそういうの」
「だめ、痛いんだったらみせなさい」
「あ、おい」
強引にアルヴィンのコートを剥ぎ取りそれを投げると、下のシャツを無理やりまくり上げ患部を確認した。
「追剥みたいなやりかたするな」
「冗談言える余裕できたのね、冷たいけど大人しくしてね」
「うおっ」
「本当体中打撲だらけじゃない…外で何してたのよ…」
「あ、あー…食糧探して木から落ちた」
「うそ、殴られたとじゃないとできないわよこの怪我」
「ジランドとやった時だろ、あとは海泳いだときとか」
「言いたくないなら、それでもいいけど」
脇にある患部にタオルを固定し、名無しはアルヴィンに手を上げるよう言った。
言われた通りに、アルヴィンが手を上げると名無しはするりとシャツをはぎ取る。
追剥というよりも、介護だと思いながら背中にも怪我がないか名無しは無理やり確認した。
背中にもいくつか怪我があったが、表面の怪我に比べると治りかけのものが多いためできた時期が違うのだということがわかる。
本当に何をしてきたのだろう、気にならないというのはうそになるが本人が言いたがらないので追及を名無しは避けた。
冷やす必要のある個所に濡れたタオルをあて固定し終わると、名無しはアルヴィンの叩いた。
ぺちん、といい音がして服がぬれるためしばらくそのままでいろと言った。
「はい、終わり」
「悪ぃな」
「ん、じゃあ怪我人はとっとと寝てちょうだい」
「…なぁ、名無し」
「なに?」
「…いや、なんでもねぇ」
「そう、じゃあおやすみ」
「一緒に寝てくんねえの?」
「…その格好の横で寝る勇気はちょっと…」
「脱がせたのはおまえだろ?」
「い、意味深にいわないでよ!」
「意味深ってどういう意味だよ」
少し調子が戻ってきているのか、アルヴィンが口角を上げながら名無しを茶化し出す。
「ふ、ざける暇があるならとっと寝なさい!おやすみ!」
「まだ明るいぜ?」
「ラコルムはずっと夕暮れです!!」
「ははは、悪かったってって、おい、そこ叩くなって」
「バカじゃないの、バカじゃないの!」
「痛ぇって!悪化させるつもりか!」
アルヴィンの患部を集中的に名無しははたきだした。
行動はたしかに強引だったが、アルヴィンのいう"意味"は全くないのだが改めてその行動について問い詰められると恥ずかしさがこみあげてくる。
どこにぶつけていいのかわからないため、目の前の存在に言葉にならない事を目の前の人物に行動でぶつけた。
何度が叩いていると、名無しの手をアルヴィンが掴み片方の動きを止めた。
まだもう一方が残っていると、名無しは懲りずにアルヴィンをたたき続けると残った手も抑えられてしまった。
気持ちが落ち着かない名無しはどうしたものか少し考え、くっと頭を一度引くと露になっているアルヴィンの胸に思いきり頭突きをした。
腕を塞がれたままなので、起き上がる手段考えていなかったため名無しはそのままアルヴィンの胸に頭を置いたままの状態になった。
「お、まえ…っ!!」
「アルが悪いのよ…しつこいから…」
「だからってお前、いってぇ…まじで…」
「ごめん…。でも、アルしつこい」
「いや、つーか普通に考えたらこの状況でなにも考えない方が異常だろ」
「そ、それは…」
名無しの腕を抑えていたアルヴィンの手が頭に回り、抱きしめられる形になる。
アルヴィンのいうことは最もかもしれないが、この状況でなんの準備もなしにそういったことになるのは当然最良ではない。
その事は、アルヴィンも十分わかっているとは思うのだが名無しは念のためその事をアルヴィンに伝える。
「言ってることはわかるけど…その、応えてはあげたいけど、準備とか、できないし…その…ごめん…」
「あ、あー…俺が言いたかったのは、そっちじゃ…」
「ふぇ…?」
「いや、ただその、行動には気をつけろって言いたかっただけで」
「っ!あ、ご、めん…でもだって、や、やだっ」
自分の勘違いでさらに恥ずかしさがまし、どうしていいのか混乱すると自然と涙が出てきて思わず名無しは泣き出した。
そのため、アルヴィンが笑いながら名無しの頭を撫でてなだめる。
恥ずかしさから顔を上げられないでいる名無しの顔をアルヴィンが上げると、名無しは目線を逸らしたまま頬を膨らました。
名無しの体を起こすと、アルヴィンは起き上がり服を着た。
「俺も悪かったよ、ふざけすぎた…」
「…っ、アル…?」
「俺が謝ったらいけないのか?」
「そうじゃないっ!」
「何か来るっ?!」
すると突如、小屋全体が強力な術式によって襲われた。
その場に発動した術はつい最近みたもので、強襲してきた者を特定することは容易なことだった。
急いで小屋から離れ、上を見るとミュゼがアルヴィンと名無しを冷ややかな目でみている。
「ミュゼ…」
「貴方、あいつらを殺すって言ったのに役立たずっ」
「アル?なんのこと?」
「取引したのよ」
「っ名無し!逃げろ!」
「なぁに?あはは、聞かれたくないの?いいわ、言ってあげる!こいつはね、ジュード達を殺せば返してあげるっていう取引を私としたの!なのにこの男、殺し損ねてるなんて…っ」
「なにそれ…、じゃあその怪我…、何してるの!なんでそんなことしたの!」
「どうしていいか、わかんねぇんだよ!俺は、もう!」
「折角帰る手段を与えてあげたのにね!可哀そうに!可哀そうだから今ここで殺してあげる!」
ミュゼの手元に、術の球体が浮かび上がりそれが過ぎに大きくなりアルヴィンに向けられた。
アルヴィンが名無しが巻き込まれないように名無しを突き飛ばそうとしたが、怪我が痛みその行動を遅らせた。
ミュゼはそのタイミングを見逃さず術を思いきり放った。
確実に間に合わない。
目の前で起きることを避けなければ、守らなければ、約束したから、思うと同時に、名無しの足が動いた。
次に行動に動こうとして、アルヴィンの姿を確認すると彼の姿はしっかりと目の前にあったため名無しは安心した。
しかし、名無しの安心とは真逆にアルヴィンの表情は強張っていた。
「お前…なにして…っ」
「よかった、無事ね」
「何言ってんだお前!!なんで、なにしてっ」
「守るって言ったじゃない?…ゴホッ、笑ってほしいって…」
「なんで…っなんで…っ!!」
アルヴィンを庇った名無しの体の一部が、そこに存在していなかった。
ミュゼの術が当たった時に左肩と、左わき腹の一部が吹き飛びなくなっていた。
目の前で言葉を出そうとし、いえないままでいるアルヴィンを見ながら、名無しは途切れそうな意識を必死に保ち、大丈夫と笑った。
「あはは、なに!貴女が替わりに死んでくれるっていうの!面白い…望みどおりにしてあげるわ!」
「や、やめろ…っ!」
「アル、逃げて」
「何言って…」
「いいから逃げなさいアルフレド!ここで殺されていいはずがない!行くところがあるでしょ!やることがあるでしょ!貴方の場所がまだここにはあるでしょ!」
「あはははは!みっともない!女に庇われて間抜けな男!仲良く一緒に逝ったらどう?!」
ミュゼがもう一度術を発動しアルヴィンに術を投げたが、それを打ち消すように名無しがウルの力を借りた。
「させない、アルは殺させない」
「そんな体で何ができるの!呆気なく消えることね!」
ミュゼが名無しの後ろに回り込み、名無しの背中に直接術を当てた。
直撃、当然よけることなどできなく、自身の体がミュゼの術に包み込まれたことがすぐにわかった。
守るといっても、一瞬にしてその思いは絶対的な力の前におられてしまった。
意識が途絶える寸前、目の前で大切な人が自分の名前を叫ぶことが確認できた。
不安な顔をしている、泣きそうな顔をしている。
そうさせないために動いたつもりだった、無力な自分が悔しかった。
せめて逃げてほしい、生きてほしい。
道を見つけるまで一緒にいるといったのに、いることができない。
約束を、守れない。
ならばせめて、最後ぐらい。
「アル、ごめんね…」
彼を安心させないといけない、その一心で名無しは精一杯の笑顔で笑った。
ミュゼが手を握ると名無しをとらえていた術が名無しを包み込んだまま押しつぶれてその場から消えた。
何を残すこともなく、名無しはその場から姿を消した。
空になった空間をアルヴィンが茫然と見ていると、ミュゼが無表情で口を開いた。
「勝てるわけないじゃない、ただの人間が…」
そしてミュゼは、何かの気配を感じたらしくと、アルヴィンに構っている暇ではないと急いでその場から消え去った。
ラコルムの夕暮れにアルヴィンは一人残された。
どこにいくこともなく、なにをすることもなく、ただただその場に座っていることしかできなかった。
少し足が疲れてきたので、それなりの時間こうしているのがわかる。
いつまでこうしているのかという疑問もありつつも、頭を撫でることに落ち着きを感じていた。
軽く手で顔が見えるよう髪をよけると、アルヴィンが寝ていることに気が付いた。
「ますます動けないじゃない…」
このままここで寝かすのがいいのだろうが、流石にこのままだと体が冷えてしまう。
何より、床に直に座っているため名無しの足が痛くて耐えられないのだ。
だからといって、成人男性を背負ってベッドに運ぶということは無理なのでどうしたものかと名無しは頭を抱えた。。
仕方なしに、眠っているアルヴィンの頬をつつき起こすことにする。
名無しに突かれ浅いねむから覚めたアルヴィンがゆっくりを身を起こした。
「わり…寝てた…」
「その事は別に気にしないんだけど、寝るならベッドのほうがいいと思って、私も足痛いし」
「随分と魅力的な誘いだな」の
「傷心のアルフレド君を慰めてあげないとね」
「なんだよそれ、くく…っ」
「ふふ、笑った、少し元気になった?」
「お陰様でな」
それはよかった、と名無しがアルヴィンに抱きつくと、少し脇に腕が当たった時にアルヴィンが苦痛の声を漏らした。
やはり放っておくよりも手元にあるものでなにか軽度の処置でもできればと、名無しはアルヴィンの腕を引っ張り部屋に押し入れる。
そして、先ほどアルヴィンが持っていた荷物の中になにか使えるものがないかとアルヴィンに尋ねると特にそういったものはないという。
応急処置として名無しは手元のタオルを濡らし、アルヴィンの元に持って行った。
アルヴィンに服を脱ぐよう名無しがいうと、アルヴィンはそれを拒否する。
「ちょっと、恥ずかしがってる場合じゃないでしょ」
「そうじゃねえよ、いいってそういうの」
「だめ、痛いんだったらみせなさい」
「あ、おい」
強引にアルヴィンのコートを剥ぎ取りそれを投げると、下のシャツを無理やりまくり上げ患部を確認した。
「追剥みたいなやりかたするな」
「冗談言える余裕できたのね、冷たいけど大人しくしてね」
「うおっ」
「本当体中打撲だらけじゃない…外で何してたのよ…」
「あ、あー…食糧探して木から落ちた」
「うそ、殴られたとじゃないとできないわよこの怪我」
「ジランドとやった時だろ、あとは海泳いだときとか」
「言いたくないなら、それでもいいけど」
脇にある患部にタオルを固定し、名無しはアルヴィンに手を上げるよう言った。
言われた通りに、アルヴィンが手を上げると名無しはするりとシャツをはぎ取る。
追剥というよりも、介護だと思いながら背中にも怪我がないか名無しは無理やり確認した。
背中にもいくつか怪我があったが、表面の怪我に比べると治りかけのものが多いためできた時期が違うのだということがわかる。
本当に何をしてきたのだろう、気にならないというのはうそになるが本人が言いたがらないので追及を名無しは避けた。
冷やす必要のある個所に濡れたタオルをあて固定し終わると、名無しはアルヴィンの叩いた。
ぺちん、といい音がして服がぬれるためしばらくそのままでいろと言った。
「はい、終わり」
「悪ぃな」
「ん、じゃあ怪我人はとっとと寝てちょうだい」
「…なぁ、名無し」
「なに?」
「…いや、なんでもねぇ」
「そう、じゃあおやすみ」
「一緒に寝てくんねえの?」
「…その格好の横で寝る勇気はちょっと…」
「脱がせたのはおまえだろ?」
「い、意味深にいわないでよ!」
「意味深ってどういう意味だよ」
少し調子が戻ってきているのか、アルヴィンが口角を上げながら名無しを茶化し出す。
「ふ、ざける暇があるならとっと寝なさい!おやすみ!」
「まだ明るいぜ?」
「ラコルムはずっと夕暮れです!!」
「ははは、悪かったってって、おい、そこ叩くなって」
「バカじゃないの、バカじゃないの!」
「痛ぇって!悪化させるつもりか!」
アルヴィンの患部を集中的に名無しははたきだした。
行動はたしかに強引だったが、アルヴィンのいう"意味"は全くないのだが改めてその行動について問い詰められると恥ずかしさがこみあげてくる。
どこにぶつけていいのかわからないため、目の前の存在に言葉にならない事を目の前の人物に行動でぶつけた。
何度が叩いていると、名無しの手をアルヴィンが掴み片方の動きを止めた。
まだもう一方が残っていると、名無しは懲りずにアルヴィンをたたき続けると残った手も抑えられてしまった。
気持ちが落ち着かない名無しはどうしたものか少し考え、くっと頭を一度引くと露になっているアルヴィンの胸に思いきり頭突きをした。
腕を塞がれたままなので、起き上がる手段考えていなかったため名無しはそのままアルヴィンの胸に頭を置いたままの状態になった。
「お、まえ…っ!!」
「アルが悪いのよ…しつこいから…」
「だからってお前、いってぇ…まじで…」
「ごめん…。でも、アルしつこい」
「いや、つーか普通に考えたらこの状況でなにも考えない方が異常だろ」
「そ、それは…」
名無しの腕を抑えていたアルヴィンの手が頭に回り、抱きしめられる形になる。
アルヴィンのいうことは最もかもしれないが、この状況でなんの準備もなしにそういったことになるのは当然最良ではない。
その事は、アルヴィンも十分わかっているとは思うのだが名無しは念のためその事をアルヴィンに伝える。
「言ってることはわかるけど…その、応えてはあげたいけど、準備とか、できないし…その…ごめん…」
「あ、あー…俺が言いたかったのは、そっちじゃ…」
「ふぇ…?」
「いや、ただその、行動には気をつけろって言いたかっただけで」
「っ!あ、ご、めん…でもだって、や、やだっ」
自分の勘違いでさらに恥ずかしさがまし、どうしていいのか混乱すると自然と涙が出てきて思わず名無しは泣き出した。
そのため、アルヴィンが笑いながら名無しの頭を撫でてなだめる。
恥ずかしさから顔を上げられないでいる名無しの顔をアルヴィンが上げると、名無しは目線を逸らしたまま頬を膨らました。
名無しの体を起こすと、アルヴィンは起き上がり服を着た。
「俺も悪かったよ、ふざけすぎた…」
「…っ、アル…?」
「俺が謝ったらいけないのか?」
「そうじゃないっ!」
「何か来るっ?!」
すると突如、小屋全体が強力な術式によって襲われた。
その場に発動した術はつい最近みたもので、強襲してきた者を特定することは容易なことだった。
急いで小屋から離れ、上を見るとミュゼがアルヴィンと名無しを冷ややかな目でみている。
「ミュゼ…」
「貴方、あいつらを殺すって言ったのに役立たずっ」
「アル?なんのこと?」
「取引したのよ」
「っ名無し!逃げろ!」
「なぁに?あはは、聞かれたくないの?いいわ、言ってあげる!こいつはね、ジュード達を殺せば返してあげるっていう取引を私としたの!なのにこの男、殺し損ねてるなんて…っ」
「なにそれ…、じゃあその怪我…、何してるの!なんでそんなことしたの!」
「どうしていいか、わかんねぇんだよ!俺は、もう!」
「折角帰る手段を与えてあげたのにね!可哀そうに!可哀そうだから今ここで殺してあげる!」
ミュゼの手元に、術の球体が浮かび上がりそれが過ぎに大きくなりアルヴィンに向けられた。
アルヴィンが名無しが巻き込まれないように名無しを突き飛ばそうとしたが、怪我が痛みその行動を遅らせた。
ミュゼはそのタイミングを見逃さず術を思いきり放った。
確実に間に合わない。
目の前で起きることを避けなければ、守らなければ、約束したから、思うと同時に、名無しの足が動いた。
次に行動に動こうとして、アルヴィンの姿を確認すると彼の姿はしっかりと目の前にあったため名無しは安心した。
しかし、名無しの安心とは真逆にアルヴィンの表情は強張っていた。
「お前…なにして…っ」
「よかった、無事ね」
「何言ってんだお前!!なんで、なにしてっ」
「守るって言ったじゃない?…ゴホッ、笑ってほしいって…」
「なんで…っなんで…っ!!」
アルヴィンを庇った名無しの体の一部が、そこに存在していなかった。
ミュゼの術が当たった時に左肩と、左わき腹の一部が吹き飛びなくなっていた。
目の前で言葉を出そうとし、いえないままでいるアルヴィンを見ながら、名無しは途切れそうな意識を必死に保ち、大丈夫と笑った。
「あはは、なに!貴女が替わりに死んでくれるっていうの!面白い…望みどおりにしてあげるわ!」
「や、やめろ…っ!」
「アル、逃げて」
「何言って…」
「いいから逃げなさいアルフレド!ここで殺されていいはずがない!行くところがあるでしょ!やることがあるでしょ!貴方の場所がまだここにはあるでしょ!」
「あはははは!みっともない!女に庇われて間抜けな男!仲良く一緒に逝ったらどう?!」
ミュゼがもう一度術を発動しアルヴィンに術を投げたが、それを打ち消すように名無しがウルの力を借りた。
「させない、アルは殺させない」
「そんな体で何ができるの!呆気なく消えることね!」
ミュゼが名無しの後ろに回り込み、名無しの背中に直接術を当てた。
直撃、当然よけることなどできなく、自身の体がミュゼの術に包み込まれたことがすぐにわかった。
守るといっても、一瞬にしてその思いは絶対的な力の前におられてしまった。
意識が途絶える寸前、目の前で大切な人が自分の名前を叫ぶことが確認できた。
不安な顔をしている、泣きそうな顔をしている。
そうさせないために動いたつもりだった、無力な自分が悔しかった。
せめて逃げてほしい、生きてほしい。
道を見つけるまで一緒にいるといったのに、いることができない。
約束を、守れない。
ならばせめて、最後ぐらい。
「アル、ごめんね…」
彼を安心させないといけない、その一心で名無しは精一杯の笑顔で笑った。
ミュゼが手を握ると名無しをとらえていた術が名無しを包み込んだまま押しつぶれてその場から消えた。
何を残すこともなく、名無しはその場から姿を消した。
空になった空間をアルヴィンが茫然と見ていると、ミュゼが無表情で口を開いた。
「勝てるわけないじゃない、ただの人間が…」
そしてミュゼは、何かの気配を感じたらしくと、アルヴィンに構っている暇ではないと急いでその場から消え去った。
ラコルムの夕暮れにアルヴィンは一人残された。
どこにいくこともなく、なにをすることもなく、ただただその場に座っていることしかできなかった。