3章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おい姉ちゃん、なに勝手についてきてんだ殺すぞ」
「それは目的地が違ったときに言ってくれたら納得してあげる」
「あーもー!てめぇ、一々ムカつく言い方するんじゃねーよ!」
「だって貴女達苦手なんだもん、…くしゅんっ」
「はははははっだっせぇ!だっせえ!」
「ふぁー…ホントになんでア・ジュールって寒いのよ…、ねぇ、アグリアちゃんはその格好寒くないの」
名無しがアグリアに服装についてたずねると、アグリアが形相を変え名無しに怒鳴りついた。
「なっ!!ちゃん付けで呼ぶな!気持ちわりぃな!てめぇ、まじでなんなんだよ!ほんと!」
「だってどう呼んでいいかわからないもの、アグリアちゃんしかないかなーって」
「呼ぶなっていってんだろ!」
「あら、アグリアいつのまに仲良くなったのね」
「うっせえぞババア!誰がこんな胸デブなんかと仲良くなるかよ!」
「胸デブって…」
アグリアからでた単語を名無しははじめて聞いたが、その言葉は不思議と名無しの気分を沈ませた。
賑やかなアグリアと、それに頭を抱えながらも対応しているプレザの姿はみていてなかなか面白かった。
歩いている途中、先程の戦いの影響で何度か激しい頭痛が起き立ち止まることがあったが、ガイアス達は名無しを置いていかず容態がおさまるまで待機した。
その行動に、名無しは少し驚きながらも容態が治まり進むことができるようになると感謝と詫びをいれた。
その度にアグリアからの罵声が飛んできたが、普段賑やかなティポの口が悪くなっただけだと思うと、わりとどうでもよくなりさして気になることはなくなった。
歩き進んでいるとやがて教会のような建物に辿り着いた。
ガイアス達が当然のようにその建物の中に入っていったので安全なのだろうと言うことはわかった。
中に入らず外から建物の眺めていると、アグリアにとっとと中にはいれと怒鳴られた。
「風邪でもひかれてマクスウェルから余計な恨みとか面倒なんだよ」
「ふふっ」
「なに笑ってんだよ」
「優しいのね、アグリア」
「な…っ!そんなんじゃねぇよ!つーか気安く呼ぶんじゃ」
「じゃあアグリアちゃん」
「あーもー!アグリア!アグリアでいい!」
「貴女たち、騒いでないで早く入りなさい、やつらに見つかったらどうするつもり」
なかなか戻ってこないアグリアの様子を見にきたのかプレザが騒いでいた二人を怒った。
アグリアと一緒に中に入ると、中には礼拝堂があった。
ガイアスとウィンガルが奥の部屋に入っていき、プレザが対面する部屋に名無しとアグリアと一緒に入った。
人の気配をまるで感じない場所だったが、部屋の様子を見る限り定期的に人の手が入っているのが見受けられた。
「ここは…」
「カン・バルクの横にある教会よ、やつらの戦艦はカン・バルクに向かっていたわ、ここから停泊してるのが見えるはずよ」
プレザに言われた先を見るとそこには空からのやってきたエレンピオスの船がガイアス城の横に堂々と停められていた。
「あの船…いつの型かな…ジルニトラとシステムが同じなら…」
「…、今ウィンガルに偵察にでてもらっているわ、大人しくしてなさい」
「えっと…」
「陛下に貴女を見張るよう言われてるだけよ」
「ガイアス王が…」
用がないなら関係無いとばかりに出発前は言い放たれたが、何が目的なのかは図れないにしろ身の安全は保障されているらしい。
なんだか以外だと名無しは思った。
道中名無しが頭痛を訴えたことをプレザが思い出し、名無しに容態を確認した。
問題ないと答えると、プレザが素っ気なく相槌をうち自分達はガイアスのところにいくから大人しくしていろと言い部屋を去っていった。
「戦場じゃなかったら、四象刃の人と仲良くなれるのかなぁ…」
部屋のなかで一人呆け、ミラたちは今どうしているのだろうと思いを馳せた。
無事ならば良いのたが、アグリアの言っていたジュードのことがなによりも気にかかる。
他の皆もジュードのように霊勢にまに困れていなければ良いのだが。
そして、改めてジランドの行動について名無しは考え出す。
名無しの知っている異界炉計画とジランドの行動は合致していなかったためだ。
名無しの聞いていた話は、 断界殻を無くしリーゼ・マクシアから資源を奪い取るものだった。
故に、マクスウェルの殺害は必要であり、 断界殻を打ち消してエレンピオスに帰るということが、アルクノアにとっての悲願であったはずだ。
しかし、 断界殻を残すということはその悲願は叶わないものになる。
それでは一体なんのために彼らは必死に生き延びたのだろうか。
アルヴィンはなんのために汚れた生き方をし、両親はなんのために命を落とさなければならなかったのか。
ぶつけようのない、怒りとも悲壮感とも区別のできない感情が名無しの中に生まれた。
大人しくしていろと言われたが、モヤモヤとした気持ちを抱えたままじっとしてろというのは無理があるものだ。
しかしここで一人で動きジランドに挑んだところで返り討ちですむわけがないのはさすがにわかっていた。
目の前にあるベッドに飛び込み布団を叩きながら名無しは唸った。
そして一人では寂しくなったので話し相手としてウルをよぶ。
「ねぇ、あのセルシウスも貴方と一緒なの?」
「そうですね、あの方は大精霊様ですが同じように使役されてます」
「へえー…、化石で眠っている間ってどんな気持ちなの?」
「どんな、といいますと」
「何か認識できたりする?」
「いえ、文字どおり眠っていますから特になにも」
「それじゃあ私が起こしちゃったのね、あと、人が死んだら精霊になるって本当?」
「ええ、人もまたマナでてきていますからそれが還りマナとなり存在しますよ」
「そっか、それじゃあ貴方も?」
「それはわかりかねますね」
「なんで?」
「人が精霊になるとき、精霊が人になるときは新たな命として構成されますから、それ以前の記憶は持ち得ないんですよ」
「そうなんだ…、なんか寂しいね」
「そうでしょうか?」
「ん、なんとなくだけど」
その事を聞いたのも、何となくだったため特に会話に意味はなかった。
名無しがベッドでごろごろしていると、ウルが名無しの服が少し破けているのに気がつき伝えた。
言われたところをみると、確かに脇の辺りが少しだけ裂けていた。
何度も吹っ飛んだのだから破けていないほうがおかしいのだが。
気が付かなければきにはしないのだが、やはり見てしまっては気になるものだ。
丁度暇をもて余していたところだったため、名無しは縫ってしまおうと思い服を脱ぐ。
レッグポーチのなかにおさまっていた物は運良く何一つかけていなかったためそこから携帯用の裁縫道具を名無しはとりだした。
すぐにすむ作業なのを把握し、名無しはすぐに作業に取りかかった。
その間、適当にウルと中身のない会話を繰り返しそれなりに名無しはその時間を充実した。
縫い終わったあとに服を着し、ウルに目立たないかを確認して名無しは満足した。
丁度作業を終えた辺りに、プレザ達が戻ってきてカン・バルクの様子を伝えた。
中は完全にエレンピオス兵が占拠しており、民間人の怪我人も多く見受けられたという。
「なんなのかしらね、本当に奴等」
「おい胸デブ」
「やめてよその言い方…なんか傷付く」
「そんなとこ関係ねぇんだよ、あいつらまじでなんなんだよ」
「なにって言われると答えるのが難しいのだけれど」
「待って、その話をするなら陛下がいるべきだわ」
「そうね…ミラが話すべき事以外なら少し話せるかも」
「あら、私たちの事嫌いだから話したくないんじゃなかったのかしら?」
「さっき一人になったときに落ち着いて考えたの、どんな理由であれ無事を確保してもらったんだからお礼ぐらいしなくちゃ」
「まるで偽善者ね」
「ふふ、よく言われるわ」
さぁ、話すから行こうと名無しが先頭をきって礼拝堂に出た。
礼拝堂にはガイアスとウィンガルがおり、ガイアスが出てきた名無しに一瞬目を向けたあとすぐに視線をそらした。
ウィンガルがガイアスの代弁をするように名無しにどういった心情の変化なのかと聞いてきた。
名無しは、プレザに答えたのと同じことをウィンガルにいうと、ガイアスが名無しに質問を始めた。
「と、いうわけで、答えることには答えるわ」
「では、聞こう、槍とはなんだ」
「なに、ねぇ…。まず兵器でないのは確かよ。そしてリーゼ・マクシアの人達にとっては災厄そのもの」
「槍はなにかを破っていたな、あれはなんだ」
「リーゼ・マクシアを形成するもの…かしら、この世界を守っていた物ね、…貴女たちやあの少年が邪魔しなければ止められたかもしれないのに…余計なことしてくれたわ…」
「どちらにしろ、あのジランドという者に阻まれていただろうな、話を戻す、マクスウェルはシェルと言っていたな」
「ん、その通り。断界殻に関してはミラから聞いてもらっていい?私も知らないことの方が多いから」
「では、お前は奴等をなぜ知っている」
「簡単よ、私がその断界殻の外の人間だから」
「では、どうやって外からきたという」
「その件に関しては、後でミラ達が来たら自然と話に出ると思う、もうこれぐらいしか話すことはないと思う」
名無しが一応他にはないか確認をするともう十分だとガイアスが答える。
すると、ウィンガルが何かの気配に気がつき教会の外に出ていくと、外からジランドの演説の声が聞こえてきた。
そしてそれが終わると、あまり間を空けずにウィンガルが戻ってきて、それに続いてミラ達が中に入ってきた。
***
ミラ達の姿を確認すると、名無しは無意識に皆のもとに駆け寄った。
「みんな!」
「名無し!無事だったか、よかった」
「皆も無事?怪我してない?」
「うん、僕達なら大丈夫だよ」
「ジュード君、顔のところなんか腫れてない?
「これぐらい、大したものじゃないから」
「名無しさん、何故ガイアス王と」
「なんか、助けてもらったのかも?」
「なんで疑問系?でも無事ならよかった」
「また、皆一緒、です」
「ん、ありがとうレイア、エリーゼ」
名無しがそれぞれの無事を確認して笑顔になった。
そして一番最後にアルヴィンをみて、まだ皆と一緒にいるのだと確認して名無しは安心した。
だが、安心するのとは裏腹にアルヴィンの表情が優れないのが気になった。
「アル、なにかあったの?」
「いや、それより、名無しが無事でよかったよ」
「私も貴方がまだみんなといて安心した」
「もう裏切らないって決めたからな」
「…やっぱり何かあったでしょ」
「…」
アルヴィンがなにも答えずに黙ると名無しがアルヴィンの額を軽くつついた。
名無しがミラ達に合流しガイアスに主役は揃ったことを言うと、ガイアスはミラに名無しから聞いたことを踏まえて断界殻とはなにかと迫った。
ミラは名無しやジュード達をみて少し悩んだあとに、リーゼ・マクシアの真実を話し出した。
この世界がつくられたことを話され皆は驚きを隠せなかった。
断界殻が人間と精霊を守るためにつくられたことを名無しははじめて知った。
そして槍によって外の世界のもの達、エレンピオス兵がやってきたことも話した。
この件に関して名無しにも当然話がふられ、何故いってくれなかったのかと言われた。
「断界殻のことを話さなきゃならないことは、ミラの使命に関わるもの。私が簡単にその事実を明かしちゃいけないわ、それに今の話を聞く限り私も知らないことの方が多かったし、私が説明したところでミラが話さないき限り信用には繋がらなかったわ」
「名無しは、槍を壊すことに賛同してくれていたのはそういうことだったのだな、すまない、気を遣わせてしまって、だが何故お前はそうだと気がついた?アルクノアにいたことと関係があるのか?」
それと同時に、なぜアルクノアはナハティガルを使い槍を作らせたのかという疑問が話題のなかに上がった。
するとその疑問に、アルクノアはただエレンピオスに帰りたいだけなのだとアルヴィンが答えた。
ミラの殺害や断界殻の破壊をするしか帰る方法はないからだとアルヴィンは説明した。
そして名無しがその目的とジランドの行動が合致しないことを言うと、皆もその矛盾に疑問を抱いた。
アルヴィンが異界炉計画について触れ、名無しもその話題に乗った。
「けれどそれは精霊をとらえて燃料にする計画で、わざわざ断界殻を残す理由には繋がらないと思うのだけれど…ミラを捕らえて精霊の統率を図るつもりなのかしら…」
「けど、向こうもそんなことミラがやるわけないと思ってるんじゃない?」
「それもそうよね」
「もしかして…」
なにかを考えていたジュードが、ジュードはリーゼ・マクシア自体を燃料としてマナを奪うつもりなのではと言い出した。
人間、植物、精霊、リーゼ・マクシアを構築する全てのマナを燃料としようとしているのならそれは合致のいく行動だった。
推測とはいえあまりにも当てはまりすぎるこの答えが、先ほどの名無しの違和感を解消させたと同時に、アルクノアの帰るという目的のために動いてきた者達はジランドに騙されていたということになる。
リーゼ・マクシア内で燃料にされるのはおそらく、名無しやアルヴィンも同じだろう。
初めから、ただ利用されていただけなのだ。名無しの両親も、アルヴィンも。
苛立ちと悔しさをどこかにぶつけたく、名無しが勢いだけでその場にあった長椅子を強く蹴った。
無意識にもう一度蹴ろうと足が動いたとき、ローエンが名無しの腕を掴み、ゆっくりと首をふりその行動を止めた。
蹴ったところでどうしようもない、それが事実であるのは間違いないため、名無しはローエンに侘びを入れる。
ガイアスが明日には乗り込むという話をだし、自分たちの作戦をジュード達に伝えた。
決して友好的というわけではないが、この場はお互いに手を組んだほうが効率的と踏んだためだろう。
作戦は明日決行のため、皆は今日はもう教会の中で休むことにした。
まだ、寝るには日が高すぎるため名無しは一人になりたく、外の教会の裏で座り込んでいた。
ぼーっとしながら白い息を吐き出しそれが消えてはまた吐き出しそれが消えていく様を見つめて時間をつぶしていた。
「何暇そうにしてんだ、こんなところで」
「あ、アル」
「ここいいか?」
「ん、どうぞ」
そういってアルヴィンが名無しの横に座り、少し間を開けてから名無しの肩を抱いた。
名無しはその動きに逆らうことなく、そのまま体をアルヴィンのほうに倒し横にある体温に甘えた。
お互いに無事でよかったと言い、顔を合わせた後に名無しがアルヴィンの頬にキスをした。
そして、お互いさっきまでどう動いていたのかを話、先ほどのミラの話とジランドの話を改めて話し出した。
「完全に出し抜かれたって感じね…、元々頭のいい人だったし本当してやられたって感じ、槍の用途をしっていたからこそ余計に悔しいわ」
「初めから、自分の目的のためにしか動くつもりがなかったんだあいつは…、昔からそうだ」
「昔から、ね…、ねぇアル、ジランドさんに結局嵌められた事になるんだけれど、私少しだけうれしいの」
「何がだ?」
「おかしいよね…、結構大変な状況だっていうのに、…アルが、もうみんなのこと裏切らないっていったのすごく嬉しかった」
「もう、ジランドに従う理由がないからな」
「この状況になってまで従うんだったらいくら叔母様のためとはいっても、流石に疑うわね」
「その必要も、なくなったんだよ」
「ミラ達に頼るってこと?そういえば、ジュード君のお父さんお医者さんなのよね」
「そうだと良かったんだけどな…」
ぽそりとアルヴィンが言った言葉の意味を理解するのにそんなに時間は必要なかった。
しかし、その言葉の意味を飲み込むのに名無しには時間がほしかった。
「うそ、でしょ…」
「いつかはこうなると思ってたんだがな」
「そんな、だって今まで…それじゃあなんで!」
「ばーか、なんでお前が取り乱してんだよ」
「だって、帰らないと…帰してあげないと!」
「帰してあげたところで、母さんの容態がよくなるとも限らなかったんだ、逆に親父のこととか忘れてたまま逝けてよかったのかもしれない」
「やめてよ…そういうの…そうやって自分に言い聞かせるの…」
「もう、癖になっちまってるからな、不思議だよ、腹立ってんのに、泣きてぇのにさ、まだそうしようとしてる自分がいんの」
まったく表に出していないわけでもない、けれどそれを必死に抑え込むようなその表情は、見ていて耐えられないものがあった
可能ならば、彼に泣いてもいいと言ってあげたいが、今はきっとその時ではないのだろう。
彼が耐えているというのに、自分が今それに干渉してはならないと名無しは思った。
今あふれてしまえばきっと、そこが終着地点になってしまうのだろう。
名無しがアルヴィンの手だけを強く握り、遠くをみてアルヴィンに言った。
「アル、私泣かないから」
「なんだよ急に]
「アルが耐えてるんだもの、部外者の私が泣くのはおかしいでしょ」
「部外者じゃねーだろ、名無しは」
「なら、うれしいな…、アル、絶対に止めようね」
「あぁ、当然だ、そうだ名無し」
「ん?」
アルヴィンが名無しが出していた精霊について聞いてた。
ジランドも似たようなものを出していたが、いったいどういったものなのかは名無しもはっきりわかっていないためどう答えるべきか考えた。
そして、とりあえず頭の中にあった精霊の化石と要塞での実験の影響でこのようなことができるようになったのを説明した。
名無しはウルをその場に出し、ウルが精霊だということを説明する。
「なんだ、ってことは余計な心配だったな」
「どういうこと?」
「前にお前に手紙出したろ、ジュードの親父さんのこと」
「あぁ、あれね、なんで送ったきたのかなって思ったけどやっぱり調べたのね」
「ああ、驚いたさ、そんなところで繋がっていたとはな」
「でもなんでわざわざ知らせたのよ」
「お前の頭ん中のもん、入れた奴なら取れるんじゃないかと思ってな」
「その気持ちは嬉しいけど、デメリットはあるけれど結局これに助けられてるのは事実だから」
「無理すんなよ?」
「それはこっちの台詞」
お互い様だと笑うと、名無しが突然少し黙りだした。
いったいどうしたのかとアルヴィンが聞くと、なんだかこうしてゆっくり話せるのが久々な気がすると名無しが言った。
イル・ファンに到着してからは空気が緊迫していたため、こうやって話すことはなかった。
このような時間が取れるまでそんなに日数はなかったのだが、不思議なものであった。
握っていた手に加わる時間が少し強くなると、それに合わせて握り返してくれる力が強くなった。
「だめだなぁ…、本当、そばにいないってだけですぐ不安になるなんて、強くならないとな…」
「それ以上強くなってどうすんだ、ぶっ壊れるんじゃねーの?」
「そんなことないよ、まだまだだもの」
「今ぐらいにしとけよ、じゃないと俺が支えるとこなくなるだろ」
「あ…うん…そう、する…」
「おわっ」
アルヴィンの言葉に甘えるように、名無しがそのままアルヴィンの膝に頭を置いた。
状況的に考えるなら、アルヴィンが名無しの膝を使うのが本来なのだろうが現在それとは逆のことが起きている。
しばらく、名無しがアルヴィンの膝で大人した後名無しが起き上がると次はアルヴィンの番だと言い出した。
「いまので充分だったのか?」
「ん、アルが甘えてくれたらそれで満足する」
「そりゃ好都合だ」
「ふぁ?!」
アルヴィンが名無しを持ち上げ自分の膝に乗せると、真正面から名無しを抱きしめた。
「これはちょっと、恥ずかしいかも…」
「…誰も見てねぇよ」
「だといいんだけど…、…ん、アル、温かい…」
「もうちょいこっち寄せても大丈夫か?」
「ん、お好きにどうぞ」
「そんじゃ遠慮なく」
先ほどよりも強く抱きしめると、触れる部分が先ほどよりも多くなりお互いの体温がさらに感じることができた。
同時に、二人とも緊張をしているのが相手に伝わってしまったが緊張よりも安心感のほうが大きかったため、それほど気にはならなかった。
あまり時間をとってしまうと、皆に見つかってしまうことを懸念して、あまり長い時間くっつくことはやめた代わりに、アルヴィンが名無しの首元に熱を一つ落としていった。
「見えたらどうするのよ、ちょっと」
「髪で隠れるとこだから、バレねぇって」
「う、うー…」
「ってと、そろそろ戻るか、流石に疲れたわ」
「あ、そうだ、私ごはん作れって言われてたんだ…っ」
「そんじゃ急ぐか、腹すかせたミラ様は機嫌悪いからな」
「ん、そうだね」
二人で戻ってはなんだか気まずいので二人は別々のタイミングで戻ることにした。
戻ってきたときに、どうやら普通に部屋の窓から見えていたようでレイアにしつこく聞かれることになってしまった。
***
「それで、どうなってるの?付き合ってるの?」
「ちょっとレイア、あの、だから、ね?外に聞こえるって…」
「いいじゃーん、少しぐらい言ってもー」
「だから、その、違うんだってば、寒かったからちょっと私が我儘いってくっ付いただけなの」
「わー、大胆に出たねー名無し」
「それぐらいしても気が付かない人だっているってこと、もういい?」
「アルヴィン君って本当は鈍感なのかなー?気が付かないなんてもったいないことするなー」
「それでいいのよ、さ、ごはんの支度しないとミラが機嫌悪くしちゃうわ」
「あ、私も手伝う!」
「ありがとう」
なんとか目撃者であるレイアを納得させ、名無しは夕ご飯を作るために教会にある台所へと向かった。
手元に残っていた食材と、適当に皆でザイラの森で収穫した物で作るため、それらを広げて何を作るか考えた。
あるものはとりあえず肉と適当な木の実が揃っているので、寒いということもあり煮込み料理にすることにする。
思っていたよりも食材の量が多く、なにも全部使う必要はないのだが折角なのでガイアス達の分もどうかとレイアが提案した。
「私は反対しないけれど、向こうが食べるとは限らないんじゃない?」
「そうかなー、出せば食べるんじゃない?」
「そんなもんかな、じゃあ作っちゃおうか」
「その必要はないわ」
レイアと名無しがさっきまでそこになかった人物の声が聞こえたため、その声がしたほうを向く。
すると、そこには同じくザイラの森で食糧を集めてきたのであろうガイアスとプレザが立っていた。
手に丸々一匹のイノシシを持ったガイアスがそれを床に置くと、プレザが木の実を机に置く。
自分たちの分はこれであるということなのだろう。
プレザが料理の番をするのだろうか、ガイアスはその場から去りプレザがその場に座り下準備を始める。
火を使うことができるのは一人しかできないキッチンのため、火を使う必要のない作業をプレザは黙々と進める。
そのプレザを見かねて、名無しはプレザに一緒に作ってしまおうと声をかけた。
「冗談じゃないわ、なんで貴方達なんかと一緒に」
「いいじゃない、火だってそのほうが無駄にならないし、、味だって合わせて作れば濃くもでるわ」
「何を入れられるかわかったもんじゃないのに、頼めっていうの?」
「だったら一緒に作れば何をいれてるかわかるでしょ?それで安心できるよ!」
「ん、レイアの言う通りだと思うな、私も。待ってる時間だって無駄になっちゃうし、ね?」
「…好きにすればいいわ、その場合私もやることがあるから料理のほうは任せてしまってもいいかしら」
「よろしく賜りました、任せてちょうだい」
「めっちゃくちゃ美味しいのつくってあげるんだから!」
「そ、そう、期待しないでおくわ…できたら呼んでちょうだい、私たちは外にいるから」
そういってプレザは部屋を後にした。
なにがおかしいのかわからないが、なんとなく今のガイアス達との不思議な関係に二人で笑いをこぼした。
料理をしながら再びレイアにアルヴィンとのことを聞かれた。
レイアが何か協力しようかと、言ってきたが名無しはそれには及ばないといった。
実際に恋人というポジションを与えてもらっているからではなく、そのポジションが与えられていなくとも答えは一緒だった。
名無しは別に、そのポジションがほしくて動いているわけではないからである。
何度も聞いた名無しの答えにレイアは諦めがついたようで、名無しがいいなら、とやわらかくいった。
「レイアこそ、人のことよりも自分のことね」
「う、うー…そうなんだけど…」
「言わなくても言いたいことわかる、正直きついわねあれは」
「辛くないっていったらうそになるんだけどね、でも、ジュード楽しそうな顔してるから…」
「ん、私も、その気持ちわかる」
「名無し?…あぁ、料理早く作っちゃおうか」
「ん、そうだね」
名無しがふと顔を上げた先の視線をレイアが確認すると、名無しができるだけ食事の準備に集中できるよう窓のカーテンを閉め忙しく動いた。
閉められたカーテンの隙間から、アルヴィンとプレザの姿が少し見えると、名無しの目に再び入る前にレイアがその隙間をふさいだ。
食事が出来上がったため、名無しとレイアはガイアス達を含めてみんなを呼びにいった。
一つの食卓を囲むわけではなく、それぞれに食事を配るとア・ジュール組はどこか別の場所で食事をとるようで全員分の礼をウィンガルが言ったあと、建物の奥へと消えた。
ミラ達は礼拝堂の長椅子に座り食事をとろうと、みなで並んでそこで食事をとる。
その際に、別々の間どのようなことをしていたのかを皆で話しながら過ごした。
先ほどから気になっていた、ジュードの後ろにいる女性の形をした精霊についてもここで初めてまともに触れることになった。
ミュゼ、といってミラの姉らしいく、なんだかおっとりとした雰囲気の精霊だった。
ティポがミュゼに噛みついていたが、ミュゼにうまいようにあしらわれていた。
食事をすませ、皆は明日に備えてもう寝ることにした。
皆が寝たのを確認してから、しばらくした時のことだった。
名無しはなかなか眠れず静かに伏せているだけだった、誰かが部屋に入ってきたのを確認した。
起きるべきだろうかと悩んだが、足音がミラのほうに向かっているのを聞いて少し動くのを待った。
ミラがまだ起きていたらしく、入ってきた人物と会話をする。
入ってきたのはアルヴィンのようで、ミラが何かあったのかと彼に聞いていた。
アルヴィンが母親のことをミラに話だしたため、名無しはそのまま寝たふりをした。
話の流れで、ミラがアルヴィンにこのままリーゼ・マクシアで生きないかと聞いたが、アルヴィンがなんともいえない反応をして部屋からでていってしまった。
アルヴィンが部屋から出たのを確認して、名無しが体を起こす。
「起きていたのか」
「ん、ミラこそ。アルもだめね、夜中に女の子の部屋に勝手に入るなんて」
「名無し、お前はリーゼ・マクシアで生きるつもりはないか」
「私?私は構わないけど、それにも条件があるかな」
「アルヴィンのことか」
「ううん、それはちょっと違うわ、私がやってる植物の実験あるでしょ、あれはマナのないエレンピオスでも生きていけるような植物の開発が目的なの、それがいつかエレンピオスで育ってくれるなら、ずっとここにいてもいい」
「ここに居続けて、それは誰が届ける」
「ミラが届けてくるんじゃない?マクスウェルならできることでしょ」
「…そう、だな」
「?どうかしたの?」
「いや、なんでもない、…すまない、なんだか寝付けないから外に行ってくる」
「あんまり遅くならないでね?」
「あぁ」
ミラが部屋を出て行ったのを確認すると、名無しは不安を抑えながら再び目を閉じた。
翌朝、それぞれが準備を済ませ外で落ち合った。
ガイアス達が城の真正面から突入し、搖動をしている間ミラ達は教会の裏から城にあるワイバーンを使い、エレンピオスの戦艦に乗り込んだ。
中には当然たくさんの兵がいたが、倒せない数ではない。
すると、突然イバルがその場に現れジュードには負けないと言い張り、艦船を奪いに行った。
「あの子…本当になんなの…」
「ミラのお世話をしてる巫子なんだって」
「私あの子苦手だわ…なんていうか、本当…空気読めてない…」
「名無しはイバルの邪魔がはいらなきゃ無事だったしな」
「誰がミッコクしたせいだとおもってんだー!」
「!…悪かったよ、もう裏切らねぇって」
「アル…、ってちょっとちょっと!!!」
「イバル!!何をしている!!!」
イバルが中で船の操作をしたようで、突然船の警備システムが起動しこちらを襲ってきた。
イバルという人物が何者なのかは名無しは知らないが、現地点ではっきりとわかっていることはただ一つ、トラブルメーカーということだ。
しかし今はそんなことを考えている場合ではなく、名無しはみんなに続いて襲ってくる兵器を倒すことに集中した。
襲ってきた兵器を倒すと同時に、ガイアス達が甲板にやってくると、その場をあっという間に制圧してしまった。
戦力として、やはりガイアス達は絶対的な力をもっていると改めて実感した。
この後の動きは奪った船でジルニトラに向かうという作戦なのだが、まだそれまでには時間があるということで皆はそれまで休憩をとることにする。
とくにやることのない名無しが場内をうろついていると、偶然アルヴィンとプレザが話しているところに遭遇した。
その場を立ち去るなり話しかけるなりすればいいのだが、名無しはとっさに柱の影にその身を隠してしまう。
聞きたくないわけではなかった。
二人が過去に関係があったのは、話を聞いて理解している。
今でもその関係があるとは思っていないが、なんとなくひっかかってしまうところがあり、我ながら情けないと名無しは思った。
二人の話を聞き終わり、プレザがウィンガルに呼ばれどこかへいってしまったためアルヴィンが名無しが隠れているほうへ歩いてきたのがわかった。
見つかる前にどこかへ行こうと名無しも急いで動こうとしたが、端から気が付かれいたらしく柱を通過する前にアルヴィンに声をかけられてしまった。
「それは目的地が違ったときに言ってくれたら納得してあげる」
「あーもー!てめぇ、一々ムカつく言い方するんじゃねーよ!」
「だって貴女達苦手なんだもん、…くしゅんっ」
「はははははっだっせぇ!だっせえ!」
「ふぁー…ホントになんでア・ジュールって寒いのよ…、ねぇ、アグリアちゃんはその格好寒くないの」
名無しがアグリアに服装についてたずねると、アグリアが形相を変え名無しに怒鳴りついた。
「なっ!!ちゃん付けで呼ぶな!気持ちわりぃな!てめぇ、まじでなんなんだよ!ほんと!」
「だってどう呼んでいいかわからないもの、アグリアちゃんしかないかなーって」
「呼ぶなっていってんだろ!」
「あら、アグリアいつのまに仲良くなったのね」
「うっせえぞババア!誰がこんな胸デブなんかと仲良くなるかよ!」
「胸デブって…」
アグリアからでた単語を名無しははじめて聞いたが、その言葉は不思議と名無しの気分を沈ませた。
賑やかなアグリアと、それに頭を抱えながらも対応しているプレザの姿はみていてなかなか面白かった。
歩いている途中、先程の戦いの影響で何度か激しい頭痛が起き立ち止まることがあったが、ガイアス達は名無しを置いていかず容態がおさまるまで待機した。
その行動に、名無しは少し驚きながらも容態が治まり進むことができるようになると感謝と詫びをいれた。
その度にアグリアからの罵声が飛んできたが、普段賑やかなティポの口が悪くなっただけだと思うと、わりとどうでもよくなりさして気になることはなくなった。
歩き進んでいるとやがて教会のような建物に辿り着いた。
ガイアス達が当然のようにその建物の中に入っていったので安全なのだろうと言うことはわかった。
中に入らず外から建物の眺めていると、アグリアにとっとと中にはいれと怒鳴られた。
「風邪でもひかれてマクスウェルから余計な恨みとか面倒なんだよ」
「ふふっ」
「なに笑ってんだよ」
「優しいのね、アグリア」
「な…っ!そんなんじゃねぇよ!つーか気安く呼ぶんじゃ」
「じゃあアグリアちゃん」
「あーもー!アグリア!アグリアでいい!」
「貴女たち、騒いでないで早く入りなさい、やつらに見つかったらどうするつもり」
なかなか戻ってこないアグリアの様子を見にきたのかプレザが騒いでいた二人を怒った。
アグリアと一緒に中に入ると、中には礼拝堂があった。
ガイアスとウィンガルが奥の部屋に入っていき、プレザが対面する部屋に名無しとアグリアと一緒に入った。
人の気配をまるで感じない場所だったが、部屋の様子を見る限り定期的に人の手が入っているのが見受けられた。
「ここは…」
「カン・バルクの横にある教会よ、やつらの戦艦はカン・バルクに向かっていたわ、ここから停泊してるのが見えるはずよ」
プレザに言われた先を見るとそこには空からのやってきたエレンピオスの船がガイアス城の横に堂々と停められていた。
「あの船…いつの型かな…ジルニトラとシステムが同じなら…」
「…、今ウィンガルに偵察にでてもらっているわ、大人しくしてなさい」
「えっと…」
「陛下に貴女を見張るよう言われてるだけよ」
「ガイアス王が…」
用がないなら関係無いとばかりに出発前は言い放たれたが、何が目的なのかは図れないにしろ身の安全は保障されているらしい。
なんだか以外だと名無しは思った。
道中名無しが頭痛を訴えたことをプレザが思い出し、名無しに容態を確認した。
問題ないと答えると、プレザが素っ気なく相槌をうち自分達はガイアスのところにいくから大人しくしていろと言い部屋を去っていった。
「戦場じゃなかったら、四象刃の人と仲良くなれるのかなぁ…」
部屋のなかで一人呆け、ミラたちは今どうしているのだろうと思いを馳せた。
無事ならば良いのたが、アグリアの言っていたジュードのことがなによりも気にかかる。
他の皆もジュードのように霊勢にまに困れていなければ良いのだが。
そして、改めてジランドの行動について名無しは考え出す。
名無しの知っている異界炉計画とジランドの行動は合致していなかったためだ。
名無しの聞いていた話は、 断界殻を無くしリーゼ・マクシアから資源を奪い取るものだった。
故に、マクスウェルの殺害は必要であり、 断界殻を打ち消してエレンピオスに帰るということが、アルクノアにとっての悲願であったはずだ。
しかし、 断界殻を残すということはその悲願は叶わないものになる。
それでは一体なんのために彼らは必死に生き延びたのだろうか。
アルヴィンはなんのために汚れた生き方をし、両親はなんのために命を落とさなければならなかったのか。
ぶつけようのない、怒りとも悲壮感とも区別のできない感情が名無しの中に生まれた。
大人しくしていろと言われたが、モヤモヤとした気持ちを抱えたままじっとしてろというのは無理があるものだ。
しかしここで一人で動きジランドに挑んだところで返り討ちですむわけがないのはさすがにわかっていた。
目の前にあるベッドに飛び込み布団を叩きながら名無しは唸った。
そして一人では寂しくなったので話し相手としてウルをよぶ。
「ねぇ、あのセルシウスも貴方と一緒なの?」
「そうですね、あの方は大精霊様ですが同じように使役されてます」
「へえー…、化石で眠っている間ってどんな気持ちなの?」
「どんな、といいますと」
「何か認識できたりする?」
「いえ、文字どおり眠っていますから特になにも」
「それじゃあ私が起こしちゃったのね、あと、人が死んだら精霊になるって本当?」
「ええ、人もまたマナでてきていますからそれが還りマナとなり存在しますよ」
「そっか、それじゃあ貴方も?」
「それはわかりかねますね」
「なんで?」
「人が精霊になるとき、精霊が人になるときは新たな命として構成されますから、それ以前の記憶は持ち得ないんですよ」
「そうなんだ…、なんか寂しいね」
「そうでしょうか?」
「ん、なんとなくだけど」
その事を聞いたのも、何となくだったため特に会話に意味はなかった。
名無しがベッドでごろごろしていると、ウルが名無しの服が少し破けているのに気がつき伝えた。
言われたところをみると、確かに脇の辺りが少しだけ裂けていた。
何度も吹っ飛んだのだから破けていないほうがおかしいのだが。
気が付かなければきにはしないのだが、やはり見てしまっては気になるものだ。
丁度暇をもて余していたところだったため、名無しは縫ってしまおうと思い服を脱ぐ。
レッグポーチのなかにおさまっていた物は運良く何一つかけていなかったためそこから携帯用の裁縫道具を名無しはとりだした。
すぐにすむ作業なのを把握し、名無しはすぐに作業に取りかかった。
その間、適当にウルと中身のない会話を繰り返しそれなりに名無しはその時間を充実した。
縫い終わったあとに服を着し、ウルに目立たないかを確認して名無しは満足した。
丁度作業を終えた辺りに、プレザ達が戻ってきてカン・バルクの様子を伝えた。
中は完全にエレンピオス兵が占拠しており、民間人の怪我人も多く見受けられたという。
「なんなのかしらね、本当に奴等」
「おい胸デブ」
「やめてよその言い方…なんか傷付く」
「そんなとこ関係ねぇんだよ、あいつらまじでなんなんだよ」
「なにって言われると答えるのが難しいのだけれど」
「待って、その話をするなら陛下がいるべきだわ」
「そうね…ミラが話すべき事以外なら少し話せるかも」
「あら、私たちの事嫌いだから話したくないんじゃなかったのかしら?」
「さっき一人になったときに落ち着いて考えたの、どんな理由であれ無事を確保してもらったんだからお礼ぐらいしなくちゃ」
「まるで偽善者ね」
「ふふ、よく言われるわ」
さぁ、話すから行こうと名無しが先頭をきって礼拝堂に出た。
礼拝堂にはガイアスとウィンガルがおり、ガイアスが出てきた名無しに一瞬目を向けたあとすぐに視線をそらした。
ウィンガルがガイアスの代弁をするように名無しにどういった心情の変化なのかと聞いてきた。
名無しは、プレザに答えたのと同じことをウィンガルにいうと、ガイアスが名無しに質問を始めた。
「と、いうわけで、答えることには答えるわ」
「では、聞こう、槍とはなんだ」
「なに、ねぇ…。まず兵器でないのは確かよ。そしてリーゼ・マクシアの人達にとっては災厄そのもの」
「槍はなにかを破っていたな、あれはなんだ」
「リーゼ・マクシアを形成するもの…かしら、この世界を守っていた物ね、…貴女たちやあの少年が邪魔しなければ止められたかもしれないのに…余計なことしてくれたわ…」
「どちらにしろ、あのジランドという者に阻まれていただろうな、話を戻す、マクスウェルはシェルと言っていたな」
「ん、その通り。断界殻に関してはミラから聞いてもらっていい?私も知らないことの方が多いから」
「では、お前は奴等をなぜ知っている」
「簡単よ、私がその断界殻の外の人間だから」
「では、どうやって外からきたという」
「その件に関しては、後でミラ達が来たら自然と話に出ると思う、もうこれぐらいしか話すことはないと思う」
名無しが一応他にはないか確認をするともう十分だとガイアスが答える。
すると、ウィンガルが何かの気配に気がつき教会の外に出ていくと、外からジランドの演説の声が聞こえてきた。
そしてそれが終わると、あまり間を空けずにウィンガルが戻ってきて、それに続いてミラ達が中に入ってきた。
***
ミラ達の姿を確認すると、名無しは無意識に皆のもとに駆け寄った。
「みんな!」
「名無し!無事だったか、よかった」
「皆も無事?怪我してない?」
「うん、僕達なら大丈夫だよ」
「ジュード君、顔のところなんか腫れてない?
「これぐらい、大したものじゃないから」
「名無しさん、何故ガイアス王と」
「なんか、助けてもらったのかも?」
「なんで疑問系?でも無事ならよかった」
「また、皆一緒、です」
「ん、ありがとうレイア、エリーゼ」
名無しがそれぞれの無事を確認して笑顔になった。
そして一番最後にアルヴィンをみて、まだ皆と一緒にいるのだと確認して名無しは安心した。
だが、安心するのとは裏腹にアルヴィンの表情が優れないのが気になった。
「アル、なにかあったの?」
「いや、それより、名無しが無事でよかったよ」
「私も貴方がまだみんなといて安心した」
「もう裏切らないって決めたからな」
「…やっぱり何かあったでしょ」
「…」
アルヴィンがなにも答えずに黙ると名無しがアルヴィンの額を軽くつついた。
名無しがミラ達に合流しガイアスに主役は揃ったことを言うと、ガイアスはミラに名無しから聞いたことを踏まえて断界殻とはなにかと迫った。
ミラは名無しやジュード達をみて少し悩んだあとに、リーゼ・マクシアの真実を話し出した。
この世界がつくられたことを話され皆は驚きを隠せなかった。
断界殻が人間と精霊を守るためにつくられたことを名無しははじめて知った。
そして槍によって外の世界のもの達、エレンピオス兵がやってきたことも話した。
この件に関して名無しにも当然話がふられ、何故いってくれなかったのかと言われた。
「断界殻のことを話さなきゃならないことは、ミラの使命に関わるもの。私が簡単にその事実を明かしちゃいけないわ、それに今の話を聞く限り私も知らないことの方が多かったし、私が説明したところでミラが話さないき限り信用には繋がらなかったわ」
「名無しは、槍を壊すことに賛同してくれていたのはそういうことだったのだな、すまない、気を遣わせてしまって、だが何故お前はそうだと気がついた?アルクノアにいたことと関係があるのか?」
それと同時に、なぜアルクノアはナハティガルを使い槍を作らせたのかという疑問が話題のなかに上がった。
するとその疑問に、アルクノアはただエレンピオスに帰りたいだけなのだとアルヴィンが答えた。
ミラの殺害や断界殻の破壊をするしか帰る方法はないからだとアルヴィンは説明した。
そして名無しがその目的とジランドの行動が合致しないことを言うと、皆もその矛盾に疑問を抱いた。
アルヴィンが異界炉計画について触れ、名無しもその話題に乗った。
「けれどそれは精霊をとらえて燃料にする計画で、わざわざ断界殻を残す理由には繋がらないと思うのだけれど…ミラを捕らえて精霊の統率を図るつもりなのかしら…」
「けど、向こうもそんなことミラがやるわけないと思ってるんじゃない?」
「それもそうよね」
「もしかして…」
なにかを考えていたジュードが、ジュードはリーゼ・マクシア自体を燃料としてマナを奪うつもりなのではと言い出した。
人間、植物、精霊、リーゼ・マクシアを構築する全てのマナを燃料としようとしているのならそれは合致のいく行動だった。
推測とはいえあまりにも当てはまりすぎるこの答えが、先ほどの名無しの違和感を解消させたと同時に、アルクノアの帰るという目的のために動いてきた者達はジランドに騙されていたということになる。
リーゼ・マクシア内で燃料にされるのはおそらく、名無しやアルヴィンも同じだろう。
初めから、ただ利用されていただけなのだ。名無しの両親も、アルヴィンも。
苛立ちと悔しさをどこかにぶつけたく、名無しが勢いだけでその場にあった長椅子を強く蹴った。
無意識にもう一度蹴ろうと足が動いたとき、ローエンが名無しの腕を掴み、ゆっくりと首をふりその行動を止めた。
蹴ったところでどうしようもない、それが事実であるのは間違いないため、名無しはローエンに侘びを入れる。
ガイアスが明日には乗り込むという話をだし、自分たちの作戦をジュード達に伝えた。
決して友好的というわけではないが、この場はお互いに手を組んだほうが効率的と踏んだためだろう。
作戦は明日決行のため、皆は今日はもう教会の中で休むことにした。
まだ、寝るには日が高すぎるため名無しは一人になりたく、外の教会の裏で座り込んでいた。
ぼーっとしながら白い息を吐き出しそれが消えてはまた吐き出しそれが消えていく様を見つめて時間をつぶしていた。
「何暇そうにしてんだ、こんなところで」
「あ、アル」
「ここいいか?」
「ん、どうぞ」
そういってアルヴィンが名無しの横に座り、少し間を開けてから名無しの肩を抱いた。
名無しはその動きに逆らうことなく、そのまま体をアルヴィンのほうに倒し横にある体温に甘えた。
お互いに無事でよかったと言い、顔を合わせた後に名無しがアルヴィンの頬にキスをした。
そして、お互いさっきまでどう動いていたのかを話、先ほどのミラの話とジランドの話を改めて話し出した。
「完全に出し抜かれたって感じね…、元々頭のいい人だったし本当してやられたって感じ、槍の用途をしっていたからこそ余計に悔しいわ」
「初めから、自分の目的のためにしか動くつもりがなかったんだあいつは…、昔からそうだ」
「昔から、ね…、ねぇアル、ジランドさんに結局嵌められた事になるんだけれど、私少しだけうれしいの」
「何がだ?」
「おかしいよね…、結構大変な状況だっていうのに、…アルが、もうみんなのこと裏切らないっていったのすごく嬉しかった」
「もう、ジランドに従う理由がないからな」
「この状況になってまで従うんだったらいくら叔母様のためとはいっても、流石に疑うわね」
「その必要も、なくなったんだよ」
「ミラ達に頼るってこと?そういえば、ジュード君のお父さんお医者さんなのよね」
「そうだと良かったんだけどな…」
ぽそりとアルヴィンが言った言葉の意味を理解するのにそんなに時間は必要なかった。
しかし、その言葉の意味を飲み込むのに名無しには時間がほしかった。
「うそ、でしょ…」
「いつかはこうなると思ってたんだがな」
「そんな、だって今まで…それじゃあなんで!」
「ばーか、なんでお前が取り乱してんだよ」
「だって、帰らないと…帰してあげないと!」
「帰してあげたところで、母さんの容態がよくなるとも限らなかったんだ、逆に親父のこととか忘れてたまま逝けてよかったのかもしれない」
「やめてよ…そういうの…そうやって自分に言い聞かせるの…」
「もう、癖になっちまってるからな、不思議だよ、腹立ってんのに、泣きてぇのにさ、まだそうしようとしてる自分がいんの」
まったく表に出していないわけでもない、けれどそれを必死に抑え込むようなその表情は、見ていて耐えられないものがあった
可能ならば、彼に泣いてもいいと言ってあげたいが、今はきっとその時ではないのだろう。
彼が耐えているというのに、自分が今それに干渉してはならないと名無しは思った。
今あふれてしまえばきっと、そこが終着地点になってしまうのだろう。
名無しがアルヴィンの手だけを強く握り、遠くをみてアルヴィンに言った。
「アル、私泣かないから」
「なんだよ急に]
「アルが耐えてるんだもの、部外者の私が泣くのはおかしいでしょ」
「部外者じゃねーだろ、名無しは」
「なら、うれしいな…、アル、絶対に止めようね」
「あぁ、当然だ、そうだ名無し」
「ん?」
アルヴィンが名無しが出していた精霊について聞いてた。
ジランドも似たようなものを出していたが、いったいどういったものなのかは名無しもはっきりわかっていないためどう答えるべきか考えた。
そして、とりあえず頭の中にあった精霊の化石と要塞での実験の影響でこのようなことができるようになったのを説明した。
名無しはウルをその場に出し、ウルが精霊だということを説明する。
「なんだ、ってことは余計な心配だったな」
「どういうこと?」
「前にお前に手紙出したろ、ジュードの親父さんのこと」
「あぁ、あれね、なんで送ったきたのかなって思ったけどやっぱり調べたのね」
「ああ、驚いたさ、そんなところで繋がっていたとはな」
「でもなんでわざわざ知らせたのよ」
「お前の頭ん中のもん、入れた奴なら取れるんじゃないかと思ってな」
「その気持ちは嬉しいけど、デメリットはあるけれど結局これに助けられてるのは事実だから」
「無理すんなよ?」
「それはこっちの台詞」
お互い様だと笑うと、名無しが突然少し黙りだした。
いったいどうしたのかとアルヴィンが聞くと、なんだかこうしてゆっくり話せるのが久々な気がすると名無しが言った。
イル・ファンに到着してからは空気が緊迫していたため、こうやって話すことはなかった。
このような時間が取れるまでそんなに日数はなかったのだが、不思議なものであった。
握っていた手に加わる時間が少し強くなると、それに合わせて握り返してくれる力が強くなった。
「だめだなぁ…、本当、そばにいないってだけですぐ不安になるなんて、強くならないとな…」
「それ以上強くなってどうすんだ、ぶっ壊れるんじゃねーの?」
「そんなことないよ、まだまだだもの」
「今ぐらいにしとけよ、じゃないと俺が支えるとこなくなるだろ」
「あ…うん…そう、する…」
「おわっ」
アルヴィンの言葉に甘えるように、名無しがそのままアルヴィンの膝に頭を置いた。
状況的に考えるなら、アルヴィンが名無しの膝を使うのが本来なのだろうが現在それとは逆のことが起きている。
しばらく、名無しがアルヴィンの膝で大人した後名無しが起き上がると次はアルヴィンの番だと言い出した。
「いまので充分だったのか?」
「ん、アルが甘えてくれたらそれで満足する」
「そりゃ好都合だ」
「ふぁ?!」
アルヴィンが名無しを持ち上げ自分の膝に乗せると、真正面から名無しを抱きしめた。
「これはちょっと、恥ずかしいかも…」
「…誰も見てねぇよ」
「だといいんだけど…、…ん、アル、温かい…」
「もうちょいこっち寄せても大丈夫か?」
「ん、お好きにどうぞ」
「そんじゃ遠慮なく」
先ほどよりも強く抱きしめると、触れる部分が先ほどよりも多くなりお互いの体温がさらに感じることができた。
同時に、二人とも緊張をしているのが相手に伝わってしまったが緊張よりも安心感のほうが大きかったため、それほど気にはならなかった。
あまり時間をとってしまうと、皆に見つかってしまうことを懸念して、あまり長い時間くっつくことはやめた代わりに、アルヴィンが名無しの首元に熱を一つ落としていった。
「見えたらどうするのよ、ちょっと」
「髪で隠れるとこだから、バレねぇって」
「う、うー…」
「ってと、そろそろ戻るか、流石に疲れたわ」
「あ、そうだ、私ごはん作れって言われてたんだ…っ」
「そんじゃ急ぐか、腹すかせたミラ様は機嫌悪いからな」
「ん、そうだね」
二人で戻ってはなんだか気まずいので二人は別々のタイミングで戻ることにした。
戻ってきたときに、どうやら普通に部屋の窓から見えていたようでレイアにしつこく聞かれることになってしまった。
***
「それで、どうなってるの?付き合ってるの?」
「ちょっとレイア、あの、だから、ね?外に聞こえるって…」
「いいじゃーん、少しぐらい言ってもー」
「だから、その、違うんだってば、寒かったからちょっと私が我儘いってくっ付いただけなの」
「わー、大胆に出たねー名無し」
「それぐらいしても気が付かない人だっているってこと、もういい?」
「アルヴィン君って本当は鈍感なのかなー?気が付かないなんてもったいないことするなー」
「それでいいのよ、さ、ごはんの支度しないとミラが機嫌悪くしちゃうわ」
「あ、私も手伝う!」
「ありがとう」
なんとか目撃者であるレイアを納得させ、名無しは夕ご飯を作るために教会にある台所へと向かった。
手元に残っていた食材と、適当に皆でザイラの森で収穫した物で作るため、それらを広げて何を作るか考えた。
あるものはとりあえず肉と適当な木の実が揃っているので、寒いということもあり煮込み料理にすることにする。
思っていたよりも食材の量が多く、なにも全部使う必要はないのだが折角なのでガイアス達の分もどうかとレイアが提案した。
「私は反対しないけれど、向こうが食べるとは限らないんじゃない?」
「そうかなー、出せば食べるんじゃない?」
「そんなもんかな、じゃあ作っちゃおうか」
「その必要はないわ」
レイアと名無しがさっきまでそこになかった人物の声が聞こえたため、その声がしたほうを向く。
すると、そこには同じくザイラの森で食糧を集めてきたのであろうガイアスとプレザが立っていた。
手に丸々一匹のイノシシを持ったガイアスがそれを床に置くと、プレザが木の実を机に置く。
自分たちの分はこれであるということなのだろう。
プレザが料理の番をするのだろうか、ガイアスはその場から去りプレザがその場に座り下準備を始める。
火を使うことができるのは一人しかできないキッチンのため、火を使う必要のない作業をプレザは黙々と進める。
そのプレザを見かねて、名無しはプレザに一緒に作ってしまおうと声をかけた。
「冗談じゃないわ、なんで貴方達なんかと一緒に」
「いいじゃない、火だってそのほうが無駄にならないし、、味だって合わせて作れば濃くもでるわ」
「何を入れられるかわかったもんじゃないのに、頼めっていうの?」
「だったら一緒に作れば何をいれてるかわかるでしょ?それで安心できるよ!」
「ん、レイアの言う通りだと思うな、私も。待ってる時間だって無駄になっちゃうし、ね?」
「…好きにすればいいわ、その場合私もやることがあるから料理のほうは任せてしまってもいいかしら」
「よろしく賜りました、任せてちょうだい」
「めっちゃくちゃ美味しいのつくってあげるんだから!」
「そ、そう、期待しないでおくわ…できたら呼んでちょうだい、私たちは外にいるから」
そういってプレザは部屋を後にした。
なにがおかしいのかわからないが、なんとなく今のガイアス達との不思議な関係に二人で笑いをこぼした。
料理をしながら再びレイアにアルヴィンとのことを聞かれた。
レイアが何か協力しようかと、言ってきたが名無しはそれには及ばないといった。
実際に恋人というポジションを与えてもらっているからではなく、そのポジションが与えられていなくとも答えは一緒だった。
名無しは別に、そのポジションがほしくて動いているわけではないからである。
何度も聞いた名無しの答えにレイアは諦めがついたようで、名無しがいいなら、とやわらかくいった。
「レイアこそ、人のことよりも自分のことね」
「う、うー…そうなんだけど…」
「言わなくても言いたいことわかる、正直きついわねあれは」
「辛くないっていったらうそになるんだけどね、でも、ジュード楽しそうな顔してるから…」
「ん、私も、その気持ちわかる」
「名無し?…あぁ、料理早く作っちゃおうか」
「ん、そうだね」
名無しがふと顔を上げた先の視線をレイアが確認すると、名無しができるだけ食事の準備に集中できるよう窓のカーテンを閉め忙しく動いた。
閉められたカーテンの隙間から、アルヴィンとプレザの姿が少し見えると、名無しの目に再び入る前にレイアがその隙間をふさいだ。
食事が出来上がったため、名無しとレイアはガイアス達を含めてみんなを呼びにいった。
一つの食卓を囲むわけではなく、それぞれに食事を配るとア・ジュール組はどこか別の場所で食事をとるようで全員分の礼をウィンガルが言ったあと、建物の奥へと消えた。
ミラ達は礼拝堂の長椅子に座り食事をとろうと、みなで並んでそこで食事をとる。
その際に、別々の間どのようなことをしていたのかを皆で話しながら過ごした。
先ほどから気になっていた、ジュードの後ろにいる女性の形をした精霊についてもここで初めてまともに触れることになった。
ミュゼ、といってミラの姉らしいく、なんだかおっとりとした雰囲気の精霊だった。
ティポがミュゼに噛みついていたが、ミュゼにうまいようにあしらわれていた。
食事をすませ、皆は明日に備えてもう寝ることにした。
皆が寝たのを確認してから、しばらくした時のことだった。
名無しはなかなか眠れず静かに伏せているだけだった、誰かが部屋に入ってきたのを確認した。
起きるべきだろうかと悩んだが、足音がミラのほうに向かっているのを聞いて少し動くのを待った。
ミラがまだ起きていたらしく、入ってきた人物と会話をする。
入ってきたのはアルヴィンのようで、ミラが何かあったのかと彼に聞いていた。
アルヴィンが母親のことをミラに話だしたため、名無しはそのまま寝たふりをした。
話の流れで、ミラがアルヴィンにこのままリーゼ・マクシアで生きないかと聞いたが、アルヴィンがなんともいえない反応をして部屋からでていってしまった。
アルヴィンが部屋から出たのを確認して、名無しが体を起こす。
「起きていたのか」
「ん、ミラこそ。アルもだめね、夜中に女の子の部屋に勝手に入るなんて」
「名無し、お前はリーゼ・マクシアで生きるつもりはないか」
「私?私は構わないけど、それにも条件があるかな」
「アルヴィンのことか」
「ううん、それはちょっと違うわ、私がやってる植物の実験あるでしょ、あれはマナのないエレンピオスでも生きていけるような植物の開発が目的なの、それがいつかエレンピオスで育ってくれるなら、ずっとここにいてもいい」
「ここに居続けて、それは誰が届ける」
「ミラが届けてくるんじゃない?マクスウェルならできることでしょ」
「…そう、だな」
「?どうかしたの?」
「いや、なんでもない、…すまない、なんだか寝付けないから外に行ってくる」
「あんまり遅くならないでね?」
「あぁ」
ミラが部屋を出て行ったのを確認すると、名無しは不安を抑えながら再び目を閉じた。
翌朝、それぞれが準備を済ませ外で落ち合った。
ガイアス達が城の真正面から突入し、搖動をしている間ミラ達は教会の裏から城にあるワイバーンを使い、エレンピオスの戦艦に乗り込んだ。
中には当然たくさんの兵がいたが、倒せない数ではない。
すると、突然イバルがその場に現れジュードには負けないと言い張り、艦船を奪いに行った。
「あの子…本当になんなの…」
「ミラのお世話をしてる巫子なんだって」
「私あの子苦手だわ…なんていうか、本当…空気読めてない…」
「名無しはイバルの邪魔がはいらなきゃ無事だったしな」
「誰がミッコクしたせいだとおもってんだー!」
「!…悪かったよ、もう裏切らねぇって」
「アル…、ってちょっとちょっと!!!」
「イバル!!何をしている!!!」
イバルが中で船の操作をしたようで、突然船の警備システムが起動しこちらを襲ってきた。
イバルという人物が何者なのかは名無しは知らないが、現地点ではっきりとわかっていることはただ一つ、トラブルメーカーということだ。
しかし今はそんなことを考えている場合ではなく、名無しはみんなに続いて襲ってくる兵器を倒すことに集中した。
襲ってきた兵器を倒すと同時に、ガイアス達が甲板にやってくると、その場をあっという間に制圧してしまった。
戦力として、やはりガイアス達は絶対的な力をもっていると改めて実感した。
この後の動きは奪った船でジルニトラに向かうという作戦なのだが、まだそれまでには時間があるということで皆はそれまで休憩をとることにする。
とくにやることのない名無しが場内をうろついていると、偶然アルヴィンとプレザが話しているところに遭遇した。
その場を立ち去るなり話しかけるなりすればいいのだが、名無しはとっさに柱の影にその身を隠してしまう。
聞きたくないわけではなかった。
二人が過去に関係があったのは、話を聞いて理解している。
今でもその関係があるとは思っていないが、なんとなくひっかかってしまうところがあり、我ながら情けないと名無しは思った。
二人の話を聞き終わり、プレザがウィンガルに呼ばれどこかへいってしまったためアルヴィンが名無しが隠れているほうへ歩いてきたのがわかった。
見つかる前にどこかへ行こうと名無しも急いで動こうとしたが、端から気が付かれいたらしく柱を通過する前にアルヴィンに声をかけられてしまった。