3章
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ファイザバード沼野につくと、ラ・シュガル軍の拠点に向かった。
怪しまれたが、ローエンが素性を明かすとすんなりと通してもらえた。
軍人の事は詳しくはないが、聞いた話と目の当たりにしている光景で、イルベルトと言う名はリーゼ・マクシアでは知らない方がおかしいようだった。
キャンプに向かいどの様な作戦で向かうのかをローエンが兵士に確認した。
地図を使い行き先をシミュレートし兵士から説明を受ける。
小高いところに固定のマナの印がありこれがおそらく槍で間違いないだろう。
どの様に沼野の霊勢を抜けるつもりかと聞くと、増霊極を使い足元に術を展開し進むのだと言う。
幸か不孝かラ・シュガルに増霊極がわかった事が手助けとなった。
地の精霊術を用いるため、使用はローエンが役をかってでた。
エリーゼが役に立ちたく挙手したが、地の精霊術はあまり使用しないためその役にはなれなかった。
では向かおうと言うときに、アルヴィンの姿が無いことに気がついた。
「アル?」
「また、いない…」
「嘘つく準備です…」
「遠くにはいってないと思うんだけど、ジュード君、 ちょっと見てくるね」
「ううん、名無しはここでまってて、僕見てくる」
ジュードにいわれその場に残りその間、足におった傷の手当てをエリーゼとレイアにしてもらった。
ジュードがアルヴィンをつれて戻ると、今の状況で一人では動くなとアルヴィンが皆から渇を入れられた。
人員も揃い、ローエンが皆が進めるように精霊術を展開した。
槍を破壊するために沼野を渡るが、やはり戦地と言うこともあり両国の兵士の戦いに何度か巻き込まれた。
すると、途中からラ・シュガル兵も容赦なくこちらがわに襲いかかってくるのが見てとれた。
「まって、僕たちは味方だよ!」
「イルベルト殿は裏切ったとジランド参謀副長より伝令をうけてる!」
「ジランドさん、どこまでもやるつもりね…ぜったいに間に合って見せる」
「お前たち、怯まず行くぞ!」
兵士と何度も戦闘になり皆の体力も大きく削られていった。
疲弊しても休むわけにはいかないため、お互いを気遣いながらまっすぐに目的地へと進んだ。
「大丈夫?アルヴィン君!」
「お嬢さんに心配されるほどヤワじゃないよ」
「本当に、大丈夫ですか?」
「嘘つきだから心配してくれてんの?」
「…違います!」
「もうすぐそれも無しだ」
「それも嘘だね!」
「こればっかりはマジかもよ!」
「…え?」
「二人とも!話し込んでるとやられちゃうよ!」
沼野を半分ほど進むと、見覚えのある姿を見つけ皆は思わず足を止めた。
そこにいたのはウィンガル、ジャオ、プレザでラ・シュガル兵と交戦をしている最中だった。
人数はラ・シュガル兵の方が優勢に見えたが、流石は四象刃といったところだろう、三人は兵士を手玉で遊ぶように難なく倒してしまった。
「ウィンガル達は敗れたか」
「貴様はなぜ槍をてにいれようとする」
「民を守るためだ、力は俺に集約させ管理する」
「それはただの独占にすぎない」
「貴様とて人の子だ、いつかは必ず死ぬ。導くといっているがそのあとはどうなる」
「ならば俺が新たな道を標そう!」
ミラたちに気がつきウィンガルが口を開いた。
プレザがアルヴィンに嘘の情報を流されたお礼を皮肉り、アルヴィンが適当な相づちをうつ。
ミラがウィンガルにジランドを既に討ったのか確認すると、答える義理はないと言われてしまう。
これ以上話すのも時間の無駄と悟ったミラが道を開けるよう強くいうとプレザがバカを言うなと笑った。
名無し達は槍のもとに急がなければならない、ここで足止めを食らうわけには行かないが退かぬのなら力付くで行くしかないとお互いに武器を抜き行動に移った。
「こんなことしてる場合じゃないのに…っ」
「向こうが退かぬのならば仕方あるまい!」
「ガイアス王が槍をてにいれても無駄でしかない!彼には使う理由がないわ!」
「陛下は王よ、力をてにいれててに納める権利がある!その力で導く任があるわ!」
「槍は兵器なんかじゃない!あんなものあってはいけないのよ!」
「っ?!名無し今なんと言った!」
「ミラ、槍を使わせてはダメ!ミラの使命が!貴女が二千年守ったものが失われてしまう!」
「わけのわからんことを言う奴だのう!叫んでる余裕があるか!」
「く…っ」
二千年も守ってきたのだ。
それを無駄にしないようにと皆にはできるだけ真実は伝えたくはなかった。
だか、今は焦らなければならない。リーゼ・マクシアがリーゼ・マクシアであるために。
いまここにいる、ジュードたち守るためにも。
名無しが槍の事を話そうとすると、アルヴィンが名無しにむけて銃を向けた。
「なんのつもりだ…っ」
「アル、貴方本当にそれでいいの、本当にそれだけでいいの?」
「ちょっと二人とも何してるの!仲間割れしてる場合じゃ」
「(余所見している暇あるか!)」
「仲間れしてる場合とか戦ってる場合でもないのはわかってるわよ!!」
名無しが叫び、先程ジランドとの闘いで出した精霊をその場に出現させた。
「名無しさん、いつの間にそのような」
「名無し、今いったい何を」
「詮索はあと、えーと名前がないと呼びづらいな…えーと…っ!」
「ウルと申します、マスター」
「ウル…良い名前ね、それじゃあウルお願い、急ぎたいの」
「お力になりますよ」
ウルが名無しの横に寄り添うよう構えると、名無しは頭のなかに入ってくる詠唱を唱え術技を発動した。
直接人には当てずに、カン・バルクで戦ったようにプレザの本をどうにかするためにまずは地面にそれをあてた。
泥が巻き上げプレザの頭に泥を被せた。
本など集中するための道具のひとつにすぎないので、実際それがなくなったからといって彼女が精霊術が使えなくなるわけではない。
しかし、集中を切らすというのは精霊術を使う上では致命的なものになる。
「くっ!やってくれたわね!」
「ボクだって相手なんだぞームシすんなー!」
プレザの集中が切れたのを見計らってエリーゼが精霊術をプレザの急所にあて、まずは一人一掃した。
敵の頭数が減ったため、敵の動きが見やすくなり先程よりも断然早く動くことができた。
ジュードがジャオの後ろに回り込み彼の足元を狙い転倒に成功したところにミラが剣をふるい、レイアがウィンガルを殴り込んだ隙を狙ってローエンがとどめをさした。
四象刃の倒れた姿を見下ろしながら、皆は乱れた呼吸を整える。
倒れこみ動かないウィンガルをエリーゼが心配したが、気を失っているだけだとジャオが言う。
目の前の障害を排除したのにのんびりとこの場にとどまるわけにはいかない。
槍のもとにはおそらくガイアスもいるだろう。
最悪の場合はジランドとガイアス二人を相手にすることになるだろうがここまできて今さら怖じ気づくなどおかしな話である。
進んでいくと、行き止まりのようなところに行き着いた。
そこにはガイアスがただ一人で襲ってくるラ・シュガルと戦っている姿があった。
流石四象刃から慕われているだけあり、その姿からでも相当な実力があるのを見てとれた。
ガイアスは最後まで引こうとはしなかった。
連戦の疲れと、先程の戦いで疲弊しているが槍のものに行くにはガイアスと戦うことは避けられなかった。
ガイアスの剣が赤く光り、閃光が沼野に走る。
人一人でこれだけの力を使えるなど想像できただろうか。
ナハティガルも王と言うだけあり戦闘能力はとても高いものだったが、ガイアスの場合は格が違うと感じられる。
「強い…っ」
「せめてミラだけでも槍にたどり着ければ、ミラ!」
「行かせん!」
「くそ、早いっ」
ミラだけでも向かえるよう道を作ろうとしたがその手段は一太刀で簡単に断たれてしまった。
何か策はないだろうかと考えようにも、疲れから頭の回転が鈍っていた。
目の前にあるというのに、また逃してしまう。
名無しの中で焦りが生まれだしていた。
せめて、まっすぐあそこに飛び込めれば。
「飛ぶ…その手が…」
ガイアスは恐らくこちら側の主力に集中しているだろう。
いくら動きが早いとはいえ相手は人間であり、どこかに隙が生まれるはずだ。
そのタイミングさえ狙えば倒すことは不可能でも出し抜くことはできるかもしれない。
名無しは後援に回りその隙を探すことにした。
初めから前線で戦っていたわけではなかったためその動きを怪しまれることはなかった
「ウル、できるかわからないけどお願いしたいことがあるの」
「精霊の術は術者の想いに応えます、コントロールには難があるでしょうが不可能ではないでしょう」
「良い答えね、…あのね」
名無しがなにをしたいのかをウルに話す。
決して不可能なことではないと彼はそれを認証したが、名無しの身体への影響は保証はしないと言った。
名無しは上等だと笑い、改めてボウガンを構え直した。
名無しが体制を建て直したのをみて、ガイアスが名無しの動きに目をつけた。
「貴様、先程から後ろでなにをしている」
「やっぱり気づかれてるのね…、貴方には何をする気もないわ」
「では何をしようと言う」
名無しに動かれる前にとガイアスが名無しに切りかかってきたが、名無しは低い姿勢でガイアスの横をかけ追い抜いた。
槍を背にする形で立ち上がると、ガイアスの次の手がもう目の前に来ていた。
思っていたよりも早い切り返しだったが、想定していた動きに名無しは思惑通りと笑うと、ガイアスが苦い顔をした。
「何を企んでいようとも切り捨てるまでだっ」
「その考えのお陰で目的達成よ」
ガイアスの攻撃を防ぐも重い攻撃は名無しの体を簡単に撥ね飛ばした。
しかしこれが名無しの狙いのひとつでもあった。
撥ね飛ばされた勢いを利用し名無しは自分の足元にグレネードを投げ込む。爆風に術を上乗せしてさらに上へと飛んだ。
名無しの狙いに気がついたガイアスが名無しにむけ一閃放った。
ウルを使役し着地点を調節するので必死だった名無しは、攻撃を直に受けることとなったが逆に衝撃によって槍の元へと名無しを飛ばす良い機動力となった。
***
「いったぁー…っ」
「お怪我は?」
「たてるから大丈夫、とっととやっちゃわないと」
起き上がると名無しは急いで槍の操作に向かった。
ナハティガルが槍のマナを使えたのだ、鍵がなくとも最低限の操作は可能なのは間違いないだろ。
自分の持ち得る限りの能力で名無しはシステムに潜り込んだ。
「ん、昔から使い方は変わってない、これならパスコードさえ解析すれば…」
「…様!そこをどけぇ!!」
「っ!!」
名無しが解析に集中していると、空から銀髪褐色の少年が突如降ってきて名無しのほぼ真上に着地しようとしたためとっさに名無しはその場から離れた。
アルクノアに邪魔にはいられたと思い、名無しは少年に思いきりグレネードを投げた。
「ち…っ空からも警戒してたのね、油断したわ」
急いで槍のもとに戻って解析の続きをすると、ミラたちが自分ともう一人、イバルと言う名前を叫んでいるがわかった。
皆が、名無しは味方だとイバルに、名無しにイバルは知人であると叫んでいた。
ならば味方と言うことになるはずなのだが、名無しのことを敵とでも勘違いしたのだろうか。
その話はあとで聞こう、今は槍が最優先である。
名無しが作業に再び集中しようとすると、起き上がったイバルが名無しに文句を言い出す。
「おい娘!俺は今から四大様を解放しミラ様のお力添えにする!そこをどけ!」
「馬鹿いわないで!今解析してるけど、これ鍵をはめた瞬間に起動するようになってるわ!解放なんてしたらどうなるかっ」
「えーい黙れ!いいからどくのだ!」
「貴方空気ってものが読めないの!!これが動けば貴方たち…いえ、リーゼ・マクシアは滅ぶわ!」
「なに…? 」
名無しに怒鳴られてもイバルはそれを無視し勢いよく走って、名無しを思いきり突き飛ばしその場から退く。
名無しが叫んだ言葉にミラが眉を寄せた。
「きゃ…っ!ちょっと!!」
「甦れ!偉大なる四大様の力!」
イバルが鍵をはめ、誇らしげに格好をつける。
すると、槍が起動し辺りマナを容赦なく吸収しどした。
急いで名無しが鍵をはずそうとしたが、マナが吸いとられ動くことができない。
力ずくでも動き、その手を伸ばした瞬間、槍が天に向け閃光を放った。
空がまるで何かが割れたような姿になりそこに大きな穴をあけた。
破られてしまった、ミラが落胆した表情をしているのが名無しの位置からでもはっきりとわかった。
やがて空から複数の戦艦がやってきた。
戦艦はファイザバード沼野に火柱を上げながらリーゼ・マクシアの空を駆けていた。
そして、戦艦のいくつかが突如消え去り空の穴が塞がれる。
為す統べもなく空を眺めていると、名無しの見ていた視界が突如上に視点を動かした。
自身の頭を掴み上げた不愉快な高笑いの声の主を確認し、名無しはその者をきつくにらんだ。
「ジランドール!!」
「はははははっ喜べよ!帰れる手段が出来たんだぜ?ああ、それと…」
嫌な笑みを浮かべたジランドが名無しの頭を手放し、名無しのからだが垂れた瞬間を狙って思いきり蹴った。
「かは…っ!!!」
「ジランドール様、だ、覚えておけ」
「誰が…呼ぶものですか…っ」
「ふん」
名無しの体を無理矢理引きずりジランドがミラたちの前に姿を表した。
皆がその場に現れたジランドの姿に、初めはジランドだと認識していなかったが、アルヴィンがジランドの名を叫ぶとそれが本人なのたと認識した。
アルヴィンがジランドを撃とうとすると、ジランドはそれをセルシウスの攻撃で阻止した。
黒い鎧の兵士がジランドに近づき話し掛ける。
何十年ぶりにみるエレンピオス兵の鎧が目の前にあることが、こんなにも嬉しくないものだとは名無しは思いたくなかった。
ジランドがエレンピオス兵にミラを殺さないよういうと、名無しを兵の一人に押し付けた。
「例のシュテイン家のガキだ、そいつも殺すなよ」
「この人があのシュテインの…丁重に扱います」
エレンピオス兵に名無しを預けると、ジランドが一斉攻撃の命を兵に出しミラたちを襲った。
指示をしたジランドは何処かへ消え去った。
それとは違う戦艦に連れていかれるのだろうか、名無しを取り押さえている兵士も動こうとした。
「つれて、いかれるもんですか!!」
「なに…っ!」
「ウル!!!」
「御意」
ウルを召喚して名無しがその場に手持ちのグレネードをすべて撒き散らし、そこにボウガンの弾を放った。
爆風が起き兵士と共に名無しの体が崖のしたに投げ出されたが、名無しの体を風が覆い地面との直撃をふせいだ。
ミラたちのもとに向かおうと起き上がると、エリーゼが気絶しておりエレンピオス兵に連れ去られそうになっていたところにミラが駆けつけようとしていた。
しかし、ミラの行動をガイアスがとめるとミラはそのまま気を失ってしまった。
ガイアスからジュード、ジュードからローエンとレイアにミラが預けられるのをみたが距離があるため会話は聞こえなかった。
遠くからみてジャオがエリーゼのことを守っているのが目についた。
「よかった、エリーゼは大丈夫みたいね、私もみんなのところにいかなきゃ」
「貴様!逃がすか!」
「もう起き上がったのね、タフだこと!」
ここで応戦して捕まれば洒落にならないため、名無しは逃げることに専念した。
しかし、ここはファイザバード沼野。
沼、と名前がついているだけあり足場が不安定で思ったよりも走ることが困難だった。
ジュード達の背中を追いかけながら走っていると、突如背後で爆発が起きた。
一体何事かと思わず振り返ると、名無しとジュード達との空いた道に、空から砲撃が放たれた。
爆煙と閃光でジュード達の姿を見失ったと同時に、名無しはそのままどこかに身を投げられ気を失った。
名無しの記憶の中に、爆煙に包まれた二人の姿があった。
酷い火傷を負った手が四本、自分の顔めがけて伸びてきたのを今でもよく覚えいる。
もう顔とは呼べない、筋が黒こげた二つの顔は名無しをまっすぐみていた。
皮膚が焼け爛れ表情が読み取れなくなった二つの顔は、名無しになにかを叫んでいた。
その言葉がなんだったのか、名無しは知ることはできなかった。
けれどなぜだか、お前のせいだと叫ぶと愛しい両親の声が、その記憶と一緒に名無しの脳内を駆け巡っていた。
「っ!!!」
焼けるような熱さを感じ名無しは飛び起きた。
飛び起きると同時に体に痛みが走り自分がまだ生きているということを知らせてくれた。
先ほどの熱さの感覚は夢によるものだと理解し、逆に汗をかいているのを自覚したため呼吸を整えようとすると少し肌寒く感じた。
落ち着いた頃に、名無しは辺りを見渡しここが何処なのかを確認した。
立ち上がろうとすると被さっていたであろう布が落ち、誰かがいたことが伺えた。
誰がいるのかも探すため名無しは寝ていた洞穴から出た。
「雪…、モン高原かな」
「いいえ、ここはザイラの森よ」
「あなたは、プレザさんっ」
「残念だったわねぇ、マクスウェルの仲間じゃなくて」
目の前にいるプレザを確認したあとに、周囲を見渡すと他にもアグリアとウィンガルの姿がそこにはあった。
ミラ達はどこかと聞くと、全く別の行動をとっているため知るわけがないとアグリアが悪態をついた。
アグリアに続いてウィンガルがなぜ名無しがここにいるのかをざっくりと説明した。
あの時去り際にあったエレンピオス兵の攻撃によって吹き飛ばされた名無しとジュードが、ガイアス達の近くに倒れていたためガイアスの命令で名無しを捕らえたのだという。
「でもジュード君は」
「あのつり目のガキなら今ごろ土の中じゃん?見事に落ちてったぜー!」
「そんな…っ!」
「マクスウェルなんかと一緒にいる坊やよ、生きてるとは思うけれどね」
「そう、ですか」
「おいおい、姉ちゃん。捕まってるってのに落ち着いてんじゃねーぞ?」
「なんで保護されているのかぐらい、今の説明聞けば想像できるもの。ていうか、一つしかないでしょうね」
「察しがいいのだな、娘。先程の出来事、知っていること全て話してもらうぞ」
先程までいなかったガイアスがやってきて、名無しに直球の言葉を投げた。
名無しはガイアスが苦手だと第一印象から思っていた。
槍の力を求めることにしても、民を思う気持ちにしても王とすれば立派なことなのかもしれないが、どこか行き過ぎた考え方を持つ人だと感じたからだ。
彼は人の話を聞きその者を幸福へと導く素質をもっているのかもしれないが、どこか弱いものを弱いとはっきりと位置付けし、見下しているようのも感じられていたからだ。
「貴方に、話したくありません」
「貴様、ならば切ってでも吐いてもらう」
「待てウィンガル、娘、その理由を言え」
「貴方が嫌いだから、大体、あなたはア・ジュールの王でも私の王じゃない、人にものを訪ねるのに命令でしか指示できない人にいうことなんかありません」
「おいてめぇ!黙って聞いてりゃ」
「アグリア」
「う…っ」
ガイアスが嫌い、その理由だけで話すことを拒んだ名無しにウィンガルとアグリアが機嫌を損ねたがその行為をガイアスが抑止した。
プレザも我慢しているのだろうか、尻尾の様なものが視界の中で少しうるさく動いている。
「お前が答えないのなら、マクスウェルに聞くまでだ」
「その方が懸命だと思うわ…、私だけの知識でそんな簡単にミラの使命を話すわけにはいかないもの」
「ならばお前に用はない」
「でも私には用があるわ」
「ほう?」
「ミラのところにガイアスさんが向かうなら、方向は同じになるもの」
「…」
ガイアス達との行動は正直気分の良いものではなかった。
しかし、目指す先が同じならば安全なところにいるのが得策だろう。
彼らが名無しに襲いかからないという確信はないが、同時に用のない者を襲う必要性もそこには感じれない。
無言で歩きだしたガイアスに、三人しかみあたらない四象刃が続いて歩きだした。
その四人の後ろをアグリアに暴言を吐かれながら名無しは勝手についていった。
怪しまれたが、ローエンが素性を明かすとすんなりと通してもらえた。
軍人の事は詳しくはないが、聞いた話と目の当たりにしている光景で、イルベルトと言う名はリーゼ・マクシアでは知らない方がおかしいようだった。
キャンプに向かいどの様な作戦で向かうのかをローエンが兵士に確認した。
地図を使い行き先をシミュレートし兵士から説明を受ける。
小高いところに固定のマナの印がありこれがおそらく槍で間違いないだろう。
どの様に沼野の霊勢を抜けるつもりかと聞くと、増霊極を使い足元に術を展開し進むのだと言う。
幸か不孝かラ・シュガルに増霊極がわかった事が手助けとなった。
地の精霊術を用いるため、使用はローエンが役をかってでた。
エリーゼが役に立ちたく挙手したが、地の精霊術はあまり使用しないためその役にはなれなかった。
では向かおうと言うときに、アルヴィンの姿が無いことに気がついた。
「アル?」
「また、いない…」
「嘘つく準備です…」
「遠くにはいってないと思うんだけど、ジュード君、 ちょっと見てくるね」
「ううん、名無しはここでまってて、僕見てくる」
ジュードにいわれその場に残りその間、足におった傷の手当てをエリーゼとレイアにしてもらった。
ジュードがアルヴィンをつれて戻ると、今の状況で一人では動くなとアルヴィンが皆から渇を入れられた。
人員も揃い、ローエンが皆が進めるように精霊術を展開した。
槍を破壊するために沼野を渡るが、やはり戦地と言うこともあり両国の兵士の戦いに何度か巻き込まれた。
すると、途中からラ・シュガル兵も容赦なくこちらがわに襲いかかってくるのが見てとれた。
「まって、僕たちは味方だよ!」
「イルベルト殿は裏切ったとジランド参謀副長より伝令をうけてる!」
「ジランドさん、どこまでもやるつもりね…ぜったいに間に合って見せる」
「お前たち、怯まず行くぞ!」
兵士と何度も戦闘になり皆の体力も大きく削られていった。
疲弊しても休むわけにはいかないため、お互いを気遣いながらまっすぐに目的地へと進んだ。
「大丈夫?アルヴィン君!」
「お嬢さんに心配されるほどヤワじゃないよ」
「本当に、大丈夫ですか?」
「嘘つきだから心配してくれてんの?」
「…違います!」
「もうすぐそれも無しだ」
「それも嘘だね!」
「こればっかりはマジかもよ!」
「…え?」
「二人とも!話し込んでるとやられちゃうよ!」
沼野を半分ほど進むと、見覚えのある姿を見つけ皆は思わず足を止めた。
そこにいたのはウィンガル、ジャオ、プレザでラ・シュガル兵と交戦をしている最中だった。
人数はラ・シュガル兵の方が優勢に見えたが、流石は四象刃といったところだろう、三人は兵士を手玉で遊ぶように難なく倒してしまった。
「ウィンガル達は敗れたか」
「貴様はなぜ槍をてにいれようとする」
「民を守るためだ、力は俺に集約させ管理する」
「それはただの独占にすぎない」
「貴様とて人の子だ、いつかは必ず死ぬ。導くといっているがそのあとはどうなる」
「ならば俺が新たな道を標そう!」
ミラたちに気がつきウィンガルが口を開いた。
プレザがアルヴィンに嘘の情報を流されたお礼を皮肉り、アルヴィンが適当な相づちをうつ。
ミラがウィンガルにジランドを既に討ったのか確認すると、答える義理はないと言われてしまう。
これ以上話すのも時間の無駄と悟ったミラが道を開けるよう強くいうとプレザがバカを言うなと笑った。
名無し達は槍のもとに急がなければならない、ここで足止めを食らうわけには行かないが退かぬのなら力付くで行くしかないとお互いに武器を抜き行動に移った。
「こんなことしてる場合じゃないのに…っ」
「向こうが退かぬのならば仕方あるまい!」
「ガイアス王が槍をてにいれても無駄でしかない!彼には使う理由がないわ!」
「陛下は王よ、力をてにいれててに納める権利がある!その力で導く任があるわ!」
「槍は兵器なんかじゃない!あんなものあってはいけないのよ!」
「っ?!名無し今なんと言った!」
「ミラ、槍を使わせてはダメ!ミラの使命が!貴女が二千年守ったものが失われてしまう!」
「わけのわからんことを言う奴だのう!叫んでる余裕があるか!」
「く…っ」
二千年も守ってきたのだ。
それを無駄にしないようにと皆にはできるだけ真実は伝えたくはなかった。
だか、今は焦らなければならない。リーゼ・マクシアがリーゼ・マクシアであるために。
いまここにいる、ジュードたち守るためにも。
名無しが槍の事を話そうとすると、アルヴィンが名無しにむけて銃を向けた。
「なんのつもりだ…っ」
「アル、貴方本当にそれでいいの、本当にそれだけでいいの?」
「ちょっと二人とも何してるの!仲間割れしてる場合じゃ」
「(余所見している暇あるか!)」
「仲間れしてる場合とか戦ってる場合でもないのはわかってるわよ!!」
名無しが叫び、先程ジランドとの闘いで出した精霊をその場に出現させた。
「名無しさん、いつの間にそのような」
「名無し、今いったい何を」
「詮索はあと、えーと名前がないと呼びづらいな…えーと…っ!」
「ウルと申します、マスター」
「ウル…良い名前ね、それじゃあウルお願い、急ぎたいの」
「お力になりますよ」
ウルが名無しの横に寄り添うよう構えると、名無しは頭のなかに入ってくる詠唱を唱え術技を発動した。
直接人には当てずに、カン・バルクで戦ったようにプレザの本をどうにかするためにまずは地面にそれをあてた。
泥が巻き上げプレザの頭に泥を被せた。
本など集中するための道具のひとつにすぎないので、実際それがなくなったからといって彼女が精霊術が使えなくなるわけではない。
しかし、集中を切らすというのは精霊術を使う上では致命的なものになる。
「くっ!やってくれたわね!」
「ボクだって相手なんだぞームシすんなー!」
プレザの集中が切れたのを見計らってエリーゼが精霊術をプレザの急所にあて、まずは一人一掃した。
敵の頭数が減ったため、敵の動きが見やすくなり先程よりも断然早く動くことができた。
ジュードがジャオの後ろに回り込み彼の足元を狙い転倒に成功したところにミラが剣をふるい、レイアがウィンガルを殴り込んだ隙を狙ってローエンがとどめをさした。
四象刃の倒れた姿を見下ろしながら、皆は乱れた呼吸を整える。
倒れこみ動かないウィンガルをエリーゼが心配したが、気を失っているだけだとジャオが言う。
目の前の障害を排除したのにのんびりとこの場にとどまるわけにはいかない。
槍のもとにはおそらくガイアスもいるだろう。
最悪の場合はジランドとガイアス二人を相手にすることになるだろうがここまできて今さら怖じ気づくなどおかしな話である。
進んでいくと、行き止まりのようなところに行き着いた。
そこにはガイアスがただ一人で襲ってくるラ・シュガルと戦っている姿があった。
流石四象刃から慕われているだけあり、その姿からでも相当な実力があるのを見てとれた。
ガイアスは最後まで引こうとはしなかった。
連戦の疲れと、先程の戦いで疲弊しているが槍のものに行くにはガイアスと戦うことは避けられなかった。
ガイアスの剣が赤く光り、閃光が沼野に走る。
人一人でこれだけの力を使えるなど想像できただろうか。
ナハティガルも王と言うだけあり戦闘能力はとても高いものだったが、ガイアスの場合は格が違うと感じられる。
「強い…っ」
「せめてミラだけでも槍にたどり着ければ、ミラ!」
「行かせん!」
「くそ、早いっ」
ミラだけでも向かえるよう道を作ろうとしたがその手段は一太刀で簡単に断たれてしまった。
何か策はないだろうかと考えようにも、疲れから頭の回転が鈍っていた。
目の前にあるというのに、また逃してしまう。
名無しの中で焦りが生まれだしていた。
せめて、まっすぐあそこに飛び込めれば。
「飛ぶ…その手が…」
ガイアスは恐らくこちら側の主力に集中しているだろう。
いくら動きが早いとはいえ相手は人間であり、どこかに隙が生まれるはずだ。
そのタイミングさえ狙えば倒すことは不可能でも出し抜くことはできるかもしれない。
名無しは後援に回りその隙を探すことにした。
初めから前線で戦っていたわけではなかったためその動きを怪しまれることはなかった
「ウル、できるかわからないけどお願いしたいことがあるの」
「精霊の術は術者の想いに応えます、コントロールには難があるでしょうが不可能ではないでしょう」
「良い答えね、…あのね」
名無しがなにをしたいのかをウルに話す。
決して不可能なことではないと彼はそれを認証したが、名無しの身体への影響は保証はしないと言った。
名無しは上等だと笑い、改めてボウガンを構え直した。
名無しが体制を建て直したのをみて、ガイアスが名無しの動きに目をつけた。
「貴様、先程から後ろでなにをしている」
「やっぱり気づかれてるのね…、貴方には何をする気もないわ」
「では何をしようと言う」
名無しに動かれる前にとガイアスが名無しに切りかかってきたが、名無しは低い姿勢でガイアスの横をかけ追い抜いた。
槍を背にする形で立ち上がると、ガイアスの次の手がもう目の前に来ていた。
思っていたよりも早い切り返しだったが、想定していた動きに名無しは思惑通りと笑うと、ガイアスが苦い顔をした。
「何を企んでいようとも切り捨てるまでだっ」
「その考えのお陰で目的達成よ」
ガイアスの攻撃を防ぐも重い攻撃は名無しの体を簡単に撥ね飛ばした。
しかしこれが名無しの狙いのひとつでもあった。
撥ね飛ばされた勢いを利用し名無しは自分の足元にグレネードを投げ込む。爆風に術を上乗せしてさらに上へと飛んだ。
名無しの狙いに気がついたガイアスが名無しにむけ一閃放った。
ウルを使役し着地点を調節するので必死だった名無しは、攻撃を直に受けることとなったが逆に衝撃によって槍の元へと名無しを飛ばす良い機動力となった。
***
「いったぁー…っ」
「お怪我は?」
「たてるから大丈夫、とっととやっちゃわないと」
起き上がると名無しは急いで槍の操作に向かった。
ナハティガルが槍のマナを使えたのだ、鍵がなくとも最低限の操作は可能なのは間違いないだろ。
自分の持ち得る限りの能力で名無しはシステムに潜り込んだ。
「ん、昔から使い方は変わってない、これならパスコードさえ解析すれば…」
「…様!そこをどけぇ!!」
「っ!!」
名無しが解析に集中していると、空から銀髪褐色の少年が突如降ってきて名無しのほぼ真上に着地しようとしたためとっさに名無しはその場から離れた。
アルクノアに邪魔にはいられたと思い、名無しは少年に思いきりグレネードを投げた。
「ち…っ空からも警戒してたのね、油断したわ」
急いで槍のもとに戻って解析の続きをすると、ミラたちが自分ともう一人、イバルと言う名前を叫んでいるがわかった。
皆が、名無しは味方だとイバルに、名無しにイバルは知人であると叫んでいた。
ならば味方と言うことになるはずなのだが、名無しのことを敵とでも勘違いしたのだろうか。
その話はあとで聞こう、今は槍が最優先である。
名無しが作業に再び集中しようとすると、起き上がったイバルが名無しに文句を言い出す。
「おい娘!俺は今から四大様を解放しミラ様のお力添えにする!そこをどけ!」
「馬鹿いわないで!今解析してるけど、これ鍵をはめた瞬間に起動するようになってるわ!解放なんてしたらどうなるかっ」
「えーい黙れ!いいからどくのだ!」
「貴方空気ってものが読めないの!!これが動けば貴方たち…いえ、リーゼ・マクシアは滅ぶわ!」
「なに…? 」
名無しに怒鳴られてもイバルはそれを無視し勢いよく走って、名無しを思いきり突き飛ばしその場から退く。
名無しが叫んだ言葉にミラが眉を寄せた。
「きゃ…っ!ちょっと!!」
「甦れ!偉大なる四大様の力!」
イバルが鍵をはめ、誇らしげに格好をつける。
すると、槍が起動し辺りマナを容赦なく吸収しどした。
急いで名無しが鍵をはずそうとしたが、マナが吸いとられ動くことができない。
力ずくでも動き、その手を伸ばした瞬間、槍が天に向け閃光を放った。
空がまるで何かが割れたような姿になりそこに大きな穴をあけた。
破られてしまった、ミラが落胆した表情をしているのが名無しの位置からでもはっきりとわかった。
やがて空から複数の戦艦がやってきた。
戦艦はファイザバード沼野に火柱を上げながらリーゼ・マクシアの空を駆けていた。
そして、戦艦のいくつかが突如消え去り空の穴が塞がれる。
為す統べもなく空を眺めていると、名無しの見ていた視界が突如上に視点を動かした。
自身の頭を掴み上げた不愉快な高笑いの声の主を確認し、名無しはその者をきつくにらんだ。
「ジランドール!!」
「はははははっ喜べよ!帰れる手段が出来たんだぜ?ああ、それと…」
嫌な笑みを浮かべたジランドが名無しの頭を手放し、名無しのからだが垂れた瞬間を狙って思いきり蹴った。
「かは…っ!!!」
「ジランドール様、だ、覚えておけ」
「誰が…呼ぶものですか…っ」
「ふん」
名無しの体を無理矢理引きずりジランドがミラたちの前に姿を表した。
皆がその場に現れたジランドの姿に、初めはジランドだと認識していなかったが、アルヴィンがジランドの名を叫ぶとそれが本人なのたと認識した。
アルヴィンがジランドを撃とうとすると、ジランドはそれをセルシウスの攻撃で阻止した。
黒い鎧の兵士がジランドに近づき話し掛ける。
何十年ぶりにみるエレンピオス兵の鎧が目の前にあることが、こんなにも嬉しくないものだとは名無しは思いたくなかった。
ジランドがエレンピオス兵にミラを殺さないよういうと、名無しを兵の一人に押し付けた。
「例のシュテイン家のガキだ、そいつも殺すなよ」
「この人があのシュテインの…丁重に扱います」
エレンピオス兵に名無しを預けると、ジランドが一斉攻撃の命を兵に出しミラたちを襲った。
指示をしたジランドは何処かへ消え去った。
それとは違う戦艦に連れていかれるのだろうか、名無しを取り押さえている兵士も動こうとした。
「つれて、いかれるもんですか!!」
「なに…っ!」
「ウル!!!」
「御意」
ウルを召喚して名無しがその場に手持ちのグレネードをすべて撒き散らし、そこにボウガンの弾を放った。
爆風が起き兵士と共に名無しの体が崖のしたに投げ出されたが、名無しの体を風が覆い地面との直撃をふせいだ。
ミラたちのもとに向かおうと起き上がると、エリーゼが気絶しておりエレンピオス兵に連れ去られそうになっていたところにミラが駆けつけようとしていた。
しかし、ミラの行動をガイアスがとめるとミラはそのまま気を失ってしまった。
ガイアスからジュード、ジュードからローエンとレイアにミラが預けられるのをみたが距離があるため会話は聞こえなかった。
遠くからみてジャオがエリーゼのことを守っているのが目についた。
「よかった、エリーゼは大丈夫みたいね、私もみんなのところにいかなきゃ」
「貴様!逃がすか!」
「もう起き上がったのね、タフだこと!」
ここで応戦して捕まれば洒落にならないため、名無しは逃げることに専念した。
しかし、ここはファイザバード沼野。
沼、と名前がついているだけあり足場が不安定で思ったよりも走ることが困難だった。
ジュード達の背中を追いかけながら走っていると、突如背後で爆発が起きた。
一体何事かと思わず振り返ると、名無しとジュード達との空いた道に、空から砲撃が放たれた。
爆煙と閃光でジュード達の姿を見失ったと同時に、名無しはそのままどこかに身を投げられ気を失った。
名無しの記憶の中に、爆煙に包まれた二人の姿があった。
酷い火傷を負った手が四本、自分の顔めがけて伸びてきたのを今でもよく覚えいる。
もう顔とは呼べない、筋が黒こげた二つの顔は名無しをまっすぐみていた。
皮膚が焼け爛れ表情が読み取れなくなった二つの顔は、名無しになにかを叫んでいた。
その言葉がなんだったのか、名無しは知ることはできなかった。
けれどなぜだか、お前のせいだと叫ぶと愛しい両親の声が、その記憶と一緒に名無しの脳内を駆け巡っていた。
「っ!!!」
焼けるような熱さを感じ名無しは飛び起きた。
飛び起きると同時に体に痛みが走り自分がまだ生きているということを知らせてくれた。
先ほどの熱さの感覚は夢によるものだと理解し、逆に汗をかいているのを自覚したため呼吸を整えようとすると少し肌寒く感じた。
落ち着いた頃に、名無しは辺りを見渡しここが何処なのかを確認した。
立ち上がろうとすると被さっていたであろう布が落ち、誰かがいたことが伺えた。
誰がいるのかも探すため名無しは寝ていた洞穴から出た。
「雪…、モン高原かな」
「いいえ、ここはザイラの森よ」
「あなたは、プレザさんっ」
「残念だったわねぇ、マクスウェルの仲間じゃなくて」
目の前にいるプレザを確認したあとに、周囲を見渡すと他にもアグリアとウィンガルの姿がそこにはあった。
ミラ達はどこかと聞くと、全く別の行動をとっているため知るわけがないとアグリアが悪態をついた。
アグリアに続いてウィンガルがなぜ名無しがここにいるのかをざっくりと説明した。
あの時去り際にあったエレンピオス兵の攻撃によって吹き飛ばされた名無しとジュードが、ガイアス達の近くに倒れていたためガイアスの命令で名無しを捕らえたのだという。
「でもジュード君は」
「あのつり目のガキなら今ごろ土の中じゃん?見事に落ちてったぜー!」
「そんな…っ!」
「マクスウェルなんかと一緒にいる坊やよ、生きてるとは思うけれどね」
「そう、ですか」
「おいおい、姉ちゃん。捕まってるってのに落ち着いてんじゃねーぞ?」
「なんで保護されているのかぐらい、今の説明聞けば想像できるもの。ていうか、一つしかないでしょうね」
「察しがいいのだな、娘。先程の出来事、知っていること全て話してもらうぞ」
先程までいなかったガイアスがやってきて、名無しに直球の言葉を投げた。
名無しはガイアスが苦手だと第一印象から思っていた。
槍の力を求めることにしても、民を思う気持ちにしても王とすれば立派なことなのかもしれないが、どこか行き過ぎた考え方を持つ人だと感じたからだ。
彼は人の話を聞きその者を幸福へと導く素質をもっているのかもしれないが、どこか弱いものを弱いとはっきりと位置付けし、見下しているようのも感じられていたからだ。
「貴方に、話したくありません」
「貴様、ならば切ってでも吐いてもらう」
「待てウィンガル、娘、その理由を言え」
「貴方が嫌いだから、大体、あなたはア・ジュールの王でも私の王じゃない、人にものを訪ねるのに命令でしか指示できない人にいうことなんかありません」
「おいてめぇ!黙って聞いてりゃ」
「アグリア」
「う…っ」
ガイアスが嫌い、その理由だけで話すことを拒んだ名無しにウィンガルとアグリアが機嫌を損ねたがその行為をガイアスが抑止した。
プレザも我慢しているのだろうか、尻尾の様なものが視界の中で少しうるさく動いている。
「お前が答えないのなら、マクスウェルに聞くまでだ」
「その方が懸命だと思うわ…、私だけの知識でそんな簡単にミラの使命を話すわけにはいかないもの」
「ならばお前に用はない」
「でも私には用があるわ」
「ほう?」
「ミラのところにガイアスさんが向かうなら、方向は同じになるもの」
「…」
ガイアス達との行動は正直気分の良いものではなかった。
しかし、目指す先が同じならば安全なところにいるのが得策だろう。
彼らが名無しに襲いかからないという確信はないが、同時に用のない者を襲う必要性もそこには感じれない。
無言で歩きだしたガイアスに、三人しかみあたらない四象刃が続いて歩きだした。
その四人の後ろをアグリアに暴言を吐かれながら名無しは勝手についていった。
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