2章
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「ねぇ、名無しってやっぱりアルヴィン君のこと好きなの?」
「ふぇ?」
部屋にはいるなりレイアなんの前置きもなく名無しに質問をした。
まったく読めないタイミングで言われたため、名無しは答えが出ずに思わずその場に固まる。
頭のなかでもう一度レイアの質問を復唱し聞かれたことを把握すると、焦りながらその場にあった椅子に焦りながら座った。
「突然何を…っ」
「別に突然でもないよー、ほら、手紙の相手の話したじゃない?その続き!なんかこう、名無しってみててそういうのわかりやすいなーって」
「そう、なのかな、自分達じゃよくわからないけど」
「だって、ずっとアルヴィン君の心配してるもん」
「それなら、レイアだってジュード君にずっと心配されてるじゃない」
「ジュードのはお節介なんだよ!」
「じゃあそれと一緒ってことで」
「あ、ずるい!誤魔化したー!」
自分のことを掛け合いにだされレイアが膨れているのか照れているのかわからない飯能をしたのをみて、微笑ましく思い名無しは日記を書くことにした。
当然のようにレイアが興味をもち、何を書いているのか聞かれたため、実際に皆のことを書いているので冗談だんではないのだが 、なんとなくレイアの反応がみたくあえて冗談めいていうと、変なことを書かないようにと念を押された。
先程まで重い空気だったが二人でこういう話をしていると大分軽くなる。
一人一人のことや、自分のことを書くと以前よりも一日に使うページ数が段々と増えていっているのがわかった。
それだけ色んなことが一日に起きているのだと思うと、宿屋にいた頃の環境がいかに閉鎖的なものだったのかと思ってしまった。
イラートの宿屋はいったい今どうなっているのだろう。
ハ・ミルが襲われたとなればラ・シュガル兵がイラートを通っていてもなんら疑問はない。
レイアとの話を思いだし、手紙を出そうと思いそれに使えそうな紙を名無しは探した。
そういえば、旅立ってから一度も連絡を取っていなかったのだと名無しは申し訳ない気持ちになった。
日記の一枚が使えないかめくると、ページが残り少ないことに気がつき声がもれた。
「あ…」
「どうしたの?」
「うん、日記もうページないなぁって思って」
「殆ど毎日書いてるもんね、新しいのないの?」
「うん、うーん…朝にはイル・ファンだし買っておこうかな、向こうついたらそれどころじゃないのは見えてるし、まだお店やってるかな…」
「それじゃあさ、私、晩御飯食べにいきたいから一緒に行かない?朝、食べる暇無さそうだから」
「ん、そうだねすぐ出れる?」
「もっちろん、そうだ皆にも声かけてみよう」
「ん、じゃあジュード君たちはよろしくね、私ミラとエリーゼ呼んでくる」
部屋をあとにして、名無しはミラの部屋を訪ねた。
部屋にはいるとミラと同室のエリーゼはすでに眠ってしまっていたが、ミラはまだ起きていて何か考えていた様子だった。
何用のようかミラにきかれ、名無しが晩御飯に誘う。
エリーゼを見て、ミラがこの通りだと答えた。
エリーゼ一人を宿に置いていくわけにもいかないと、ミラが名無しに何か二人の分を買ってもらえたらということで、名無しはそれを承諾して部屋をあとにした。
レイアと合流すると、そこにはジュードの姿が見当たらなかった。
ミラの体調を見たいためだといってここに残るらしい。
ミラとエリーゼのことを名無しは皆に伝え、ローエン、アルヴィン、レイア名無しの四人で食事をとることにした。
先に名無しの用事を済ませ店につくと時間短縮のため四人は同じものを頼んで席につく。
「なんか最後のご飯になるかもって思うと緊張するなぁ」
「ちょっと名無し縁起でもないこと言わないでよ」
「あ、ごめん」
「しかし、間違いでもないでしょう。これからやるべき事が事ですから」
「そーそー、ちゃんと食って気合いいれないとな」
アルヴィンが口を開くと名無しが間を空け、アルヴィンの存在に口を挟む。
「それよりも、アルが居るのが意外なんだけれども、てっきり何処か行ったのかと思ってた」
「だよねー!私も呼びにいった時にびっくりしちゃったよ」
「おいおい、酷い言われようだな」
「言われて当然のことをしているのですから仕方ありませんね」
「そーだよー、名無しだって流石に怒るって」
「え?私そういう意味で言ったわけじゃ」
「気遣わなくていいんだよ、名無し、思いっきりいっちゃって良いんだから」
「言いたいことは言いませんと、毒にしかなりませんぞ」
ローエンとレイアに言われたが、名無しはアルヴィンがてっきりレティシャの家によって居るものだと思って言ったため、はっきり言いたくても言えないことでありどうしていいのわからなくなっていた。
そして、そのタイミングで食事が運ばれてきたためうまいこと話題を逸らすことができた。
食事を済ませ帰り際に二人分のサンドイッチを購入し宿に戻り、名無しはミラにお茶と一緒にそれをだした。
「すまない、助かる」
「いいえ、朝までもつ物だから、エリーゼが起きたらよろしくね」
「ああ、…名無し」
「ん?なに?」
「アルヴィンのことだが、おまえはどこまで信じている」
「どこまで、か…そうね、信じてくれって言われたところ全部かな」
「それで、裏切られたらどうする」
「それでも、信じたいと思うよ。ウソだって言われるまで。信じなくていいって言われるまで。当然今日のことだって全く疑わなかったわけじゃないし、本当に裏切られたのかなって思ったし、それでも確かめるまで認めたくなかったから、都合良いように考えたいだけなのかも」
「なんとも根拠に欠ける答えだな」
「けど、人間らしくて良いと思わない?」
「ふ、そうだな、何かあればすぐにいってくれ。力になれることは手をかそう」
「ありがとう、それじゃあ私もう寝るね、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ミラの部屋から出て少し歩いた時、名無しは、後ろの方からわずかに床が擦れる音がしたため誰かがいることがわかった。
誰なのかも大体想像できたが、当人が話し掛けてこないため名無しはあえて触れずに部屋に戻った。
部屋に戻ると、レイアが先程アルヴィンが訪ねてきた事を名無しに伝えた。
名無しは、レイアに伝えてくれたことに例を言うと寝る準備を始める。
「あれ、いかなくて良いの?アルヴィン君、もしかしたら謝りに来たんじゃないかな」
「さっきすれ違ったけど何も言ってこなかったから、いいかなって」
「ふーん、ならいいんだけど、それじゃ私も寝ようかな、おやすみー」
「ん、おやすみ」
布団にもぐると名無しは小さくアルヴィンに文句を呟いて眠りについた。
翌朝、いつものように名無しは日が昇る前に目をさました。
横で寝ているレイアを起こさないように支度を済ませ、レティシャの様子を見るために外に出ようとへやをあとにすると、昨晩はなしをすることのなかったアルヴィンが階段のしたから名無しをみていた。
なんでいるのかと思いながら溜め息をつくと、適当に挨拶をして名無しは外に出た。
名無しの後をアルヴィンが急いで追ってきたのがわかったが待てといわれないのでそのまま名無しは進む。
橋を渡る辺りになり、やっとアルヴィンから静止の声が掛かったため名無しは足を止める。
「なんで行こうとすんだよ」
「だって話し掛けてこないし…」
「昨日のこと、悪かったよ」
「その事は怒ってないから、それにプレザさんのことも昔のひとだって思ってるし大丈夫」
「昨日ジュード達に言ったことで全部だ、ウソじゃない」
「誰も信じないなんて言ってないでしょ?バカね」
くすりと笑って名無しはアルヴィンの頭を撫でた。
「けどお前昨日」
「立ち聞き、趣味悪いと思う…」
「…悪かった」
「聞かれてたってわかったら、はずかしいじゃない…面と向かえないでしょ」
「悪ぃ」
「で、起きるの待ってたってこと?」
「そしたら話せると思ったからな、まさかそのまま行くとは思わなかったよ」
「ふふ、ごめんごめん」
「…」
「アル?」
名無しが笑って謝るとアルヴィンが背を向け急に黙ってしまった。
怒らせてしまったんじゃないかと、名無しが不安になりアルヴィンに声をかけるもアルヴィンは依然として背中を向けたままなんでもないと言った。
その声を聞いて、名無しはまさかと思った。
「やだ、ちょっと、泣いてるの…?」
「まだ泣いてねぇよ」
「まだって、なによそれ」
「…嫌われたかと思った」
「バカね、昨日の話聞いてたんでしょ?嫌いになるわけないわ、ほら、こっち向いて」
「…」
名無しに言われアルヴィンが名無しの方向に向き直るも、目を合わせづらいのか視線を地面にむけたままだった。
周りから疎まれる行為を割りきってし続けているというわりには、目の前のその姿は幼い頃となんら変わっていないままなのが可笑しくも愛しかった。
うつ向いたままのアルヴィンの手を名無しは両手でぎゅっと包んだ。
それに応えるように、僅かながらアルヴィが力をいれて握り返してくる。
「ん、貴方が握り返してくれるなら、私はそれで良い…それだけで、また好きになれる…、ほら暗い顔しない」
「…あぁ」
「信じて、もらえないかな? 」
「いや、そうじゃなくて」
「…まったくもう…えいっ!」
「な…っ?!」
突如、アルヴィンの視界がぐるりと動き、首に少し痛みが生じた。
スカーフを引っ張られたのだということを首の痛みが知らせた。
そして、真横から名無しの声がして抱き締められているのがわかった。
本来なら街中で名無しはこういったことを嫌がるので今起きている状況が不思議て仕方なかった。
「な、名無し…?」
「私、みないから」
「…っ」
「こうすれば、見ないから 」
だから、泣いていい。
言葉にこそ出さなかったがあとに続く言葉がアルヴィンの中に響いた。
日の出に照らされた街並みの在る場所で一人の弱虫が小さく声をあげた。
ほんの数分の間、自分の横で聞こえる僅かなすすり泣く声を名無しは黙って聞いていた。
その声がやんだ頃、名無しがアルヴィンから離れアルヴィンの顔を確認してから満足そうに微笑むと、アルヴィンが応えるようにいつもの調子で笑顔を作る。
「どうせなら、その胸で慰めてくれた方が元気出たんだけどな」
「それだけの口が叩けるなら十分でしょ…、それじゃあ私、ちょっと行くから」
「母さんのとこなら先に俺が行ったよ」
「じゃあ、私はついでだったのかしら」
「どっちもメインだよ、で、早く戻らないと面倒くさそうだな」
「ふふ、特に貴方がね」
宿り戻りみんなが起きるまで待ち、全員の支度ができたのを確認すると、皆は足早にユルゲンスの元に向かった。
ユルゲンスに基本的なワイバーンの扱いを聞き、ワイバーンは二人乗りの為二人組を作った。
人数的に誰かが一人にならなければならなかったため名無しが自主的にそれをかって出た。
「お一人で大丈夫なのですか?」
「むしろ、大歓迎よ、だってワイバーン一人占めなんて夢みたいじゃない!」
「お前真面目にかわいいと思ってたのか?」
「真面目も大真面目よ!普通に考えて可愛いじゃない、眼だって三白眼だし、こんなにからだ大きいのに手小さいし、枷で見えないけど牙だって…」
「あー、はいはいわかった、わかったからもう止まれって」
「お前たち、準備ができたなのなら行くぞ」
「了解!」
元気よくワイバーンに乗ると、言われた通り手綱をとった。
手綱を扱うとワイバーンは勢いよく空へと飛び立った。
なかなか操作が難しく皆まっすぐ飛ぶことができずにいたが、ワイバーンも興奮しているのがみてとれた。
海にこのまま突っ込むのではないかというところまで行くと、こんどは一気に雲の上までワイバーンは翔け上がる。
雲から出たのを確認して眩しい日差しに気がつき目を開けると、そこには見事な雲海が広がっていた。
***
「すごい…綺麗…」
「…っ?!なにか来るぞ!」
皆が同じように景色にみとれしばらくの間のんひりとした雰囲気で進んでいたが、突然アルヴィンがなにかが来ていると叫んだ。
すると、皆がその姿を確認しようとすると同時に雲の中からプテラブロンクが勢いよく飛び出してきた。
空中のため剣を抜くわけにもいかず、逃れる手段を取ろうとしたがプテラブロンクはワイバーンを獲物とみているのか攻撃を仕掛けてくる。
なんとか避けてはいたが、それでもジュードとミラの乗っていたワイバーンに当たってしまい、二人の乗っていたワイバーンが落下してしまう。
急いで二人を追いかけると、どこかの街に降りた。
ジュードが起き上がると同時に後ろから魔物が襲いかかり回避が間に合わないと思ったがアルヴィンがそれをなんとか防いだのをみて、ジュードがアルヴィンを心配したがそんな余裕はないとすぐに魔物との戦闘体勢を皆は取った。
「ちょっと大きすぎるんじゃないかな?!」
「でかい的だから当てやすいだろ!」
「その分いつへたってくれる…かな!!」
目の前の大きな的に名無しとアルヴィンが同じ位置に撃ち込んだ。
やはり大きいだけありそれなりの硬さがあり二人分の弾でもそこまでの致命傷は与えられなかった。
撃ち込まれたことにより、プテラブロンクが余計に殺気立ち火の玉を吐く。
翼を使って竜巻をおこしたりと、動き速い上に遠距離攻撃もできるとなれば面倒である。
なにか策はないかとジュードが考えながら戦っているのがわかり、そのサポートにまわれる者はそれにあたった。
ローエンが水の精霊術をあてたとき、怯む時間が
長いことに当人とジュードが気がつき皆にそれを伝えた。
「体が大きい分、隙を見て懐に潜り込んで叩き込めば…っ」
「精霊術は私とローエンにまかせろ」
「ええ、決めてみせますよ」
「サポートなら任せな、ガードされたら壊すからっ」
「それじゃ、私とエリーゼは隙作りかな?」
「はい、頑張りますっ!」
「うん、頼んだよ!レイア!決めるよ!」
「おっけージュード!」
プテラブロンクが名無しがボウガンを構えたのを確認し、弾を撃たないよう突進をしてきたところにエリーゼが精霊術を当てる。
当然魔物は怯まなかったが、精霊術を防ぐために魔物が守りの体勢を取った。
その直後に名無しが弾を打ち込み魔物の意識を名無しに向け、その隙にアルヴィンが後ろから攻撃をあてると真後ろからの攻撃は流石に聞いたらしく一瞬の隙ができた。
そこを見逃さず、レイアとジュードが懐に術技共鳴でダメージを与えた。
こちら側が攻められる流れができたのを確認して、ジュードとレイアがミラとローエンの動きをみてプテラブロンクから素早く離れると、ミラとローエンが放った精霊術がプテラブロンクの真正面に入った、流石に脳を揺らせれてはまともではいられないらしくプテラブロンクは重力に逆らうことなくその巨体を地面に叩きつけ、起き上がろうと何度か動いたがミラがそうはさせまいと息の根を止めた。
完全に魔物が動かなくなったのを確認し、レイアが喜びの声をあげた。
「いやったー!これからは空の王者ってよんでよね!」
「はい、空の王者!」
「でも女の子だから女帝とかじゃない?」
「女王サマー!」
「ほ、ほんとに呼ばれると恥ずかしい…」
「皆さん落ち着いて!」
「?この声って…」
プテラブロンクを倒したと思うと、どこからか聞いたことの在る声が聞こえてきた。
皆に向かって女性が戦闘の姿勢を取ったが、エリーゼの顔を確認すると、呆気にとられた様子でその場に固まった。
エリーゼが嬉しそうにその人に近づき笑顔でただいまというと、続いてローエンが主君の名前をよんだ。
ドロッセルはみんなの顔をみて驚いていた。
ジュードが久しぶりだと挨拶をすると、皆が久しぶりの知人のもとに集まった。
しかし、アルヴィンだけが近づこうとしなかったので名無しがどうしたのかと聞くとなんでもないと彼は答えたが少し様子がおかしいのは明らかだった。
初対面であるレイアが挨拶をし、ミラにどうしたと問われたドロッセルがア・ジュールに攻めこまれたのだと勘違いしたとかで急いで駆けつけたということだった。
皆がドロッセルと話している中、名無しはやはりアルヴィンの様子が気になっており、ふとそちら目をやると、倒れそうになっていたのがすぐにわかった。
「アルっ」
「アルヴィン?」
名無しが駆け寄ったためアルヴィンの様子にジュードも気付き、名無しの後に続いた。
ジュードが自分を庇った時にけがをしたのではというと、強がってなのか減らず口をたたきながらもキツいとアルヴィンは言葉を漏らした。
すぐにドロッセルが医者を呼ぶといい、アルヴィンを運ぶのに人手を呼ぶと同時に、ワイバーンを看てもらうための医者も手配するよう指示をした。
すぐに医者を宿屋に手配し、皆はそこにむかった。
診察が終わるまでロビーでまっていると、ドロッセルと話をしていたローエンが戻り、話は屋敷でしようということになったのを伝える。
アルヴィンに言付けするよう受け付けに頼み屋敷にむかおうとしたとき、ミラが名無しを呼び止めた。
「名無し」
「なに?ミラ」
「お前はアルヴィンについていろ」
「え、なんで…」
「奴が一人で何をするかわかないからだ、お目付け役にはお前が適任だと思ってな」
「でも、皆は」
「ふ、心配なのだろ?私たちといて上の空でいられてもな」
「…ありがとう、ミラ」
「何かあったらすぐに屋敷にこい、わかったな?」
「うん」
ミラの配慮で、名無しは宿屋でアルヴィンの治療が終わるのを待っていると医者と一緒にアルヴィンが部屋から出てきて名無しのほうにやってきた。
医者から治療は終わったことを伝えられると、名無しは医者に礼をいい医者が去るのを見送った。
「アル、大丈夫?」
「まあな」
「全く…無理しちゃって」
「たまには活躍しないとな」
「ふふ」
「何がおかしいんだよ」
「んーん、ただジュード君たちのことほんとに大好きなんだなって思って」
「おいおい、なんだよその言い方」
「だって、最初は仕事って言ってたくせに。…アル、ジュード君たちといるとだんだん表情変わってきてたから。よかった、ちゃんと仲間だって思ってるんだね」
名無しの言葉に、アルヴィンが軽く頭を触りながら答えた。
「そんなんじゃねーよ」
「嘘、じゃなきゃジュード君庇ったりしないものの」
「勝手に動いたんだよ、自分でもよくわかってないしな…」
「そう、でも答えでてると私は思うけど」
「どうだろうな、わり、…ちょっと外で風当ってくるわ」
「戻ってくる…?」
「当たり前だろ、珈琲でものんで待ってろって」
「ん、まってる」
アルヴィンが出ていくのを見て、名無しは久しぶりにカラハ・シャールの珈琲を注文した。
ものが届くと、やはりここの珈琲は名無しの中でもお気に入りに間違いなかった。
その珈琲を飲みながら、もう一度再開当初のアルヴィンと今のアルヴィンについて名無しは考えた。
以前は、ミラ達といてもどこか薄っぺらい印象が見受けられ、軽い調子のキャラだったイメージがとても強かった。
だからこそ、シャン・ドゥでミラに母親の話をしたときは本当に驚いた。
どういった心境の変化なのかはわからないが、少しアルヴィンが自分を出したことが嬉しく思えた。
それから、闘技場の一件を経てミラに信用されてからだろうか。
カン・バルクで裏切りこそしたものの、それがフェイクという真偽は置いておき、聞かれた事情には答えてもいた。
そしてつい先程ジュードを庇ったこと。
アルヴィンは、皆との環境に落ち着きだしているのではと名無しは思っていた。
はじめに仕事きりの関係と冷たく言っていたことが寂しく思えたので、もしそれが本当なら名無しはとても嬉しかった。
プレザの話を聞いた限り、彼女に心を許した時期があったのだろうがそれでも、プレザがあのように言うだけの事をきっとしたのだろう。
そうやってきっと、最後は誰にも頼れずやって来たのだと思うと、ジュード達への態度の変化はもしかしたら彼が変わった証拠なのかもしれない。
そんなことを考えながら珈琲をのみほし、名無しは少し外の様子を確認するために窓からアルヴィンの姿をみると、アルヴィンと一緒にミラがいるのが目についた。
「ミラ?なにはなしてるんだろう」
こちらから見てもわかるようにあまりいい話してるとは思えなかった。
立ち聞きはよくないと罪悪感を感じながらも、名無しはこっそりと二人の話を聞ける場所まで近づいていった。
話を聞いていると、アルヴィンが何か言ったのに対して ミラがなにも答えない状況だというのがわかった。
しばらくしてミラが、殺されては困るという言葉を口にした。
ああ、アルクノアの話を持ちかけたのだとすぐにわかった。
ミラが世界を守るために死ぬわけにはいかないと話すと、アルヴィンが殺されないよう目の前から消えてくれとミラを見ずに言う。
もし、皆と仲間でいることが今の彼の幸せのひとつならば、きっとそれは殺したくないという本心の現れなのだろう。
ミラがアルヴィンの言葉に答えることもなく、しばらく黙った後にその場を去った。
ミラの後ろ姿めがけ、アルヴィンが一度銃を構え撃つふりをした。
「お前、紛れもなくマクスウェルなんだな…」
その言葉の意味が、戸惑いなのか覚悟なのかは口調からはうまく読み取れなかった。
けれど、名無しにはその言葉が悲痛なものに聞こえて仕方がなかった。
神様どうか、彼にこれ以上傷を与えないでください。
生きていくうえで、そんな祈りは無駄だとわかっていても、祈らずにはいられなかった。
胸が締め付けられる想いになり、自然と涙が溢れそうになったが、アルヴィンが宿に戻ろうとしていたため名無しも急いで立ち上がり彼が戻る前に中に入ろうと走ろうとしたとき、誰かにぶつかってしまったため、名無しが急いで謝った。
「ご、ごめんなさい、余所見してて…て、あ…」
「盗み聞きとはいい趣味してるんじゃねぇの?」
「ごめん…アル…」
「ま、べつにいいけど、ってお前、なんで泣いて…」
「ただのドライアイ、気にしないで」
名無しが目を擦りながら言うと、やれやれといった態度をアルヴィンがとりその場そういうことで捉えてくれた。
「ま、いいけどよ、ワイバーンの治療にまだ時間がかかるんだとよ、それまで休んどけだってさ」
「ミラにしては意外な選択ね」
「メインイベント前なんだ、大精霊様でも緊張するんじゃねえか?」
「んー…そうなのかな」
「とにかく、休めるうちに休んどこうぜ」
手で宿屋の方を指しアルヴィンが先に中に入っていったが、名無しはミラに何を話していたのか聞きに行こうか悩みそこで動かないでいた。
名無しがこなかったのを不思議そうにしながら、アルヴィンが名無しにどうかしたのかと聞く。
ミラの命に関係してる話をしていたということは 、アルクノアの話で間違いないだろう。
このあとイル・ファンに向かうとするなら、恐らくジランドがそこにいるとみて間違いない。
ならば、イル・ファンにつけば答えは自然と出るだろうと思い名無しはアルヴィンになんでもないと言い彼の後について宿屋で休むことにした。
「ふぇ?」
部屋にはいるなりレイアなんの前置きもなく名無しに質問をした。
まったく読めないタイミングで言われたため、名無しは答えが出ずに思わずその場に固まる。
頭のなかでもう一度レイアの質問を復唱し聞かれたことを把握すると、焦りながらその場にあった椅子に焦りながら座った。
「突然何を…っ」
「別に突然でもないよー、ほら、手紙の相手の話したじゃない?その続き!なんかこう、名無しってみててそういうのわかりやすいなーって」
「そう、なのかな、自分達じゃよくわからないけど」
「だって、ずっとアルヴィン君の心配してるもん」
「それなら、レイアだってジュード君にずっと心配されてるじゃない」
「ジュードのはお節介なんだよ!」
「じゃあそれと一緒ってことで」
「あ、ずるい!誤魔化したー!」
自分のことを掛け合いにだされレイアが膨れているのか照れているのかわからない飯能をしたのをみて、微笑ましく思い名無しは日記を書くことにした。
当然のようにレイアが興味をもち、何を書いているのか聞かれたため、実際に皆のことを書いているので冗談だんではないのだが 、なんとなくレイアの反応がみたくあえて冗談めいていうと、変なことを書かないようにと念を押された。
先程まで重い空気だったが二人でこういう話をしていると大分軽くなる。
一人一人のことや、自分のことを書くと以前よりも一日に使うページ数が段々と増えていっているのがわかった。
それだけ色んなことが一日に起きているのだと思うと、宿屋にいた頃の環境がいかに閉鎖的なものだったのかと思ってしまった。
イラートの宿屋はいったい今どうなっているのだろう。
ハ・ミルが襲われたとなればラ・シュガル兵がイラートを通っていてもなんら疑問はない。
レイアとの話を思いだし、手紙を出そうと思いそれに使えそうな紙を名無しは探した。
そういえば、旅立ってから一度も連絡を取っていなかったのだと名無しは申し訳ない気持ちになった。
日記の一枚が使えないかめくると、ページが残り少ないことに気がつき声がもれた。
「あ…」
「どうしたの?」
「うん、日記もうページないなぁって思って」
「殆ど毎日書いてるもんね、新しいのないの?」
「うん、うーん…朝にはイル・ファンだし買っておこうかな、向こうついたらそれどころじゃないのは見えてるし、まだお店やってるかな…」
「それじゃあさ、私、晩御飯食べにいきたいから一緒に行かない?朝、食べる暇無さそうだから」
「ん、そうだねすぐ出れる?」
「もっちろん、そうだ皆にも声かけてみよう」
「ん、じゃあジュード君たちはよろしくね、私ミラとエリーゼ呼んでくる」
部屋をあとにして、名無しはミラの部屋を訪ねた。
部屋にはいるとミラと同室のエリーゼはすでに眠ってしまっていたが、ミラはまだ起きていて何か考えていた様子だった。
何用のようかミラにきかれ、名無しが晩御飯に誘う。
エリーゼを見て、ミラがこの通りだと答えた。
エリーゼ一人を宿に置いていくわけにもいかないと、ミラが名無しに何か二人の分を買ってもらえたらということで、名無しはそれを承諾して部屋をあとにした。
レイアと合流すると、そこにはジュードの姿が見当たらなかった。
ミラの体調を見たいためだといってここに残るらしい。
ミラとエリーゼのことを名無しは皆に伝え、ローエン、アルヴィン、レイア名無しの四人で食事をとることにした。
先に名無しの用事を済ませ店につくと時間短縮のため四人は同じものを頼んで席につく。
「なんか最後のご飯になるかもって思うと緊張するなぁ」
「ちょっと名無し縁起でもないこと言わないでよ」
「あ、ごめん」
「しかし、間違いでもないでしょう。これからやるべき事が事ですから」
「そーそー、ちゃんと食って気合いいれないとな」
アルヴィンが口を開くと名無しが間を空け、アルヴィンの存在に口を挟む。
「それよりも、アルが居るのが意外なんだけれども、てっきり何処か行ったのかと思ってた」
「だよねー!私も呼びにいった時にびっくりしちゃったよ」
「おいおい、酷い言われようだな」
「言われて当然のことをしているのですから仕方ありませんね」
「そーだよー、名無しだって流石に怒るって」
「え?私そういう意味で言ったわけじゃ」
「気遣わなくていいんだよ、名無し、思いっきりいっちゃって良いんだから」
「言いたいことは言いませんと、毒にしかなりませんぞ」
ローエンとレイアに言われたが、名無しはアルヴィンがてっきりレティシャの家によって居るものだと思って言ったため、はっきり言いたくても言えないことでありどうしていいのわからなくなっていた。
そして、そのタイミングで食事が運ばれてきたためうまいこと話題を逸らすことができた。
食事を済ませ帰り際に二人分のサンドイッチを購入し宿に戻り、名無しはミラにお茶と一緒にそれをだした。
「すまない、助かる」
「いいえ、朝までもつ物だから、エリーゼが起きたらよろしくね」
「ああ、…名無し」
「ん?なに?」
「アルヴィンのことだが、おまえはどこまで信じている」
「どこまで、か…そうね、信じてくれって言われたところ全部かな」
「それで、裏切られたらどうする」
「それでも、信じたいと思うよ。ウソだって言われるまで。信じなくていいって言われるまで。当然今日のことだって全く疑わなかったわけじゃないし、本当に裏切られたのかなって思ったし、それでも確かめるまで認めたくなかったから、都合良いように考えたいだけなのかも」
「なんとも根拠に欠ける答えだな」
「けど、人間らしくて良いと思わない?」
「ふ、そうだな、何かあればすぐにいってくれ。力になれることは手をかそう」
「ありがとう、それじゃあ私もう寝るね、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ミラの部屋から出て少し歩いた時、名無しは、後ろの方からわずかに床が擦れる音がしたため誰かがいることがわかった。
誰なのかも大体想像できたが、当人が話し掛けてこないため名無しはあえて触れずに部屋に戻った。
部屋に戻ると、レイアが先程アルヴィンが訪ねてきた事を名無しに伝えた。
名無しは、レイアに伝えてくれたことに例を言うと寝る準備を始める。
「あれ、いかなくて良いの?アルヴィン君、もしかしたら謝りに来たんじゃないかな」
「さっきすれ違ったけど何も言ってこなかったから、いいかなって」
「ふーん、ならいいんだけど、それじゃ私も寝ようかな、おやすみー」
「ん、おやすみ」
布団にもぐると名無しは小さくアルヴィンに文句を呟いて眠りについた。
翌朝、いつものように名無しは日が昇る前に目をさました。
横で寝ているレイアを起こさないように支度を済ませ、レティシャの様子を見るために外に出ようとへやをあとにすると、昨晩はなしをすることのなかったアルヴィンが階段のしたから名無しをみていた。
なんでいるのかと思いながら溜め息をつくと、適当に挨拶をして名無しは外に出た。
名無しの後をアルヴィンが急いで追ってきたのがわかったが待てといわれないのでそのまま名無しは進む。
橋を渡る辺りになり、やっとアルヴィンから静止の声が掛かったため名無しは足を止める。
「なんで行こうとすんだよ」
「だって話し掛けてこないし…」
「昨日のこと、悪かったよ」
「その事は怒ってないから、それにプレザさんのことも昔のひとだって思ってるし大丈夫」
「昨日ジュード達に言ったことで全部だ、ウソじゃない」
「誰も信じないなんて言ってないでしょ?バカね」
くすりと笑って名無しはアルヴィンの頭を撫でた。
「けどお前昨日」
「立ち聞き、趣味悪いと思う…」
「…悪かった」
「聞かれてたってわかったら、はずかしいじゃない…面と向かえないでしょ」
「悪ぃ」
「で、起きるの待ってたってこと?」
「そしたら話せると思ったからな、まさかそのまま行くとは思わなかったよ」
「ふふ、ごめんごめん」
「…」
「アル?」
名無しが笑って謝るとアルヴィンが背を向け急に黙ってしまった。
怒らせてしまったんじゃないかと、名無しが不安になりアルヴィンに声をかけるもアルヴィンは依然として背中を向けたままなんでもないと言った。
その声を聞いて、名無しはまさかと思った。
「やだ、ちょっと、泣いてるの…?」
「まだ泣いてねぇよ」
「まだって、なによそれ」
「…嫌われたかと思った」
「バカね、昨日の話聞いてたんでしょ?嫌いになるわけないわ、ほら、こっち向いて」
「…」
名無しに言われアルヴィンが名無しの方向に向き直るも、目を合わせづらいのか視線を地面にむけたままだった。
周りから疎まれる行為を割りきってし続けているというわりには、目の前のその姿は幼い頃となんら変わっていないままなのが可笑しくも愛しかった。
うつ向いたままのアルヴィンの手を名無しは両手でぎゅっと包んだ。
それに応えるように、僅かながらアルヴィが力をいれて握り返してくる。
「ん、貴方が握り返してくれるなら、私はそれで良い…それだけで、また好きになれる…、ほら暗い顔しない」
「…あぁ」
「信じて、もらえないかな? 」
「いや、そうじゃなくて」
「…まったくもう…えいっ!」
「な…っ?!」
突如、アルヴィンの視界がぐるりと動き、首に少し痛みが生じた。
スカーフを引っ張られたのだということを首の痛みが知らせた。
そして、真横から名無しの声がして抱き締められているのがわかった。
本来なら街中で名無しはこういったことを嫌がるので今起きている状況が不思議て仕方なかった。
「な、名無し…?」
「私、みないから」
「…っ」
「こうすれば、見ないから 」
だから、泣いていい。
言葉にこそ出さなかったがあとに続く言葉がアルヴィンの中に響いた。
日の出に照らされた街並みの在る場所で一人の弱虫が小さく声をあげた。
ほんの数分の間、自分の横で聞こえる僅かなすすり泣く声を名無しは黙って聞いていた。
その声がやんだ頃、名無しがアルヴィンから離れアルヴィンの顔を確認してから満足そうに微笑むと、アルヴィンが応えるようにいつもの調子で笑顔を作る。
「どうせなら、その胸で慰めてくれた方が元気出たんだけどな」
「それだけの口が叩けるなら十分でしょ…、それじゃあ私、ちょっと行くから」
「母さんのとこなら先に俺が行ったよ」
「じゃあ、私はついでだったのかしら」
「どっちもメインだよ、で、早く戻らないと面倒くさそうだな」
「ふふ、特に貴方がね」
宿り戻りみんなが起きるまで待ち、全員の支度ができたのを確認すると、皆は足早にユルゲンスの元に向かった。
ユルゲンスに基本的なワイバーンの扱いを聞き、ワイバーンは二人乗りの為二人組を作った。
人数的に誰かが一人にならなければならなかったため名無しが自主的にそれをかって出た。
「お一人で大丈夫なのですか?」
「むしろ、大歓迎よ、だってワイバーン一人占めなんて夢みたいじゃない!」
「お前真面目にかわいいと思ってたのか?」
「真面目も大真面目よ!普通に考えて可愛いじゃない、眼だって三白眼だし、こんなにからだ大きいのに手小さいし、枷で見えないけど牙だって…」
「あー、はいはいわかった、わかったからもう止まれって」
「お前たち、準備ができたなのなら行くぞ」
「了解!」
元気よくワイバーンに乗ると、言われた通り手綱をとった。
手綱を扱うとワイバーンは勢いよく空へと飛び立った。
なかなか操作が難しく皆まっすぐ飛ぶことができずにいたが、ワイバーンも興奮しているのがみてとれた。
海にこのまま突っ込むのではないかというところまで行くと、こんどは一気に雲の上までワイバーンは翔け上がる。
雲から出たのを確認して眩しい日差しに気がつき目を開けると、そこには見事な雲海が広がっていた。
***
「すごい…綺麗…」
「…っ?!なにか来るぞ!」
皆が同じように景色にみとれしばらくの間のんひりとした雰囲気で進んでいたが、突然アルヴィンがなにかが来ていると叫んだ。
すると、皆がその姿を確認しようとすると同時に雲の中からプテラブロンクが勢いよく飛び出してきた。
空中のため剣を抜くわけにもいかず、逃れる手段を取ろうとしたがプテラブロンクはワイバーンを獲物とみているのか攻撃を仕掛けてくる。
なんとか避けてはいたが、それでもジュードとミラの乗っていたワイバーンに当たってしまい、二人の乗っていたワイバーンが落下してしまう。
急いで二人を追いかけると、どこかの街に降りた。
ジュードが起き上がると同時に後ろから魔物が襲いかかり回避が間に合わないと思ったがアルヴィンがそれをなんとか防いだのをみて、ジュードがアルヴィンを心配したがそんな余裕はないとすぐに魔物との戦闘体勢を皆は取った。
「ちょっと大きすぎるんじゃないかな?!」
「でかい的だから当てやすいだろ!」
「その分いつへたってくれる…かな!!」
目の前の大きな的に名無しとアルヴィンが同じ位置に撃ち込んだ。
やはり大きいだけありそれなりの硬さがあり二人分の弾でもそこまでの致命傷は与えられなかった。
撃ち込まれたことにより、プテラブロンクが余計に殺気立ち火の玉を吐く。
翼を使って竜巻をおこしたりと、動き速い上に遠距離攻撃もできるとなれば面倒である。
なにか策はないかとジュードが考えながら戦っているのがわかり、そのサポートにまわれる者はそれにあたった。
ローエンが水の精霊術をあてたとき、怯む時間が
長いことに当人とジュードが気がつき皆にそれを伝えた。
「体が大きい分、隙を見て懐に潜り込んで叩き込めば…っ」
「精霊術は私とローエンにまかせろ」
「ええ、決めてみせますよ」
「サポートなら任せな、ガードされたら壊すからっ」
「それじゃ、私とエリーゼは隙作りかな?」
「はい、頑張りますっ!」
「うん、頼んだよ!レイア!決めるよ!」
「おっけージュード!」
プテラブロンクが名無しがボウガンを構えたのを確認し、弾を撃たないよう突進をしてきたところにエリーゼが精霊術を当てる。
当然魔物は怯まなかったが、精霊術を防ぐために魔物が守りの体勢を取った。
その直後に名無しが弾を打ち込み魔物の意識を名無しに向け、その隙にアルヴィンが後ろから攻撃をあてると真後ろからの攻撃は流石に聞いたらしく一瞬の隙ができた。
そこを見逃さず、レイアとジュードが懐に術技共鳴でダメージを与えた。
こちら側が攻められる流れができたのを確認して、ジュードとレイアがミラとローエンの動きをみてプテラブロンクから素早く離れると、ミラとローエンが放った精霊術がプテラブロンクの真正面に入った、流石に脳を揺らせれてはまともではいられないらしくプテラブロンクは重力に逆らうことなくその巨体を地面に叩きつけ、起き上がろうと何度か動いたがミラがそうはさせまいと息の根を止めた。
完全に魔物が動かなくなったのを確認し、レイアが喜びの声をあげた。
「いやったー!これからは空の王者ってよんでよね!」
「はい、空の王者!」
「でも女の子だから女帝とかじゃない?」
「女王サマー!」
「ほ、ほんとに呼ばれると恥ずかしい…」
「皆さん落ち着いて!」
「?この声って…」
プテラブロンクを倒したと思うと、どこからか聞いたことの在る声が聞こえてきた。
皆に向かって女性が戦闘の姿勢を取ったが、エリーゼの顔を確認すると、呆気にとられた様子でその場に固まった。
エリーゼが嬉しそうにその人に近づき笑顔でただいまというと、続いてローエンが主君の名前をよんだ。
ドロッセルはみんなの顔をみて驚いていた。
ジュードが久しぶりだと挨拶をすると、皆が久しぶりの知人のもとに集まった。
しかし、アルヴィンだけが近づこうとしなかったので名無しがどうしたのかと聞くとなんでもないと彼は答えたが少し様子がおかしいのは明らかだった。
初対面であるレイアが挨拶をし、ミラにどうしたと問われたドロッセルがア・ジュールに攻めこまれたのだと勘違いしたとかで急いで駆けつけたということだった。
皆がドロッセルと話している中、名無しはやはりアルヴィンの様子が気になっており、ふとそちら目をやると、倒れそうになっていたのがすぐにわかった。
「アルっ」
「アルヴィン?」
名無しが駆け寄ったためアルヴィンの様子にジュードも気付き、名無しの後に続いた。
ジュードが自分を庇った時にけがをしたのではというと、強がってなのか減らず口をたたきながらもキツいとアルヴィンは言葉を漏らした。
すぐにドロッセルが医者を呼ぶといい、アルヴィンを運ぶのに人手を呼ぶと同時に、ワイバーンを看てもらうための医者も手配するよう指示をした。
すぐに医者を宿屋に手配し、皆はそこにむかった。
診察が終わるまでロビーでまっていると、ドロッセルと話をしていたローエンが戻り、話は屋敷でしようということになったのを伝える。
アルヴィンに言付けするよう受け付けに頼み屋敷にむかおうとしたとき、ミラが名無しを呼び止めた。
「名無し」
「なに?ミラ」
「お前はアルヴィンについていろ」
「え、なんで…」
「奴が一人で何をするかわかないからだ、お目付け役にはお前が適任だと思ってな」
「でも、皆は」
「ふ、心配なのだろ?私たちといて上の空でいられてもな」
「…ありがとう、ミラ」
「何かあったらすぐに屋敷にこい、わかったな?」
「うん」
ミラの配慮で、名無しは宿屋でアルヴィンの治療が終わるのを待っていると医者と一緒にアルヴィンが部屋から出てきて名無しのほうにやってきた。
医者から治療は終わったことを伝えられると、名無しは医者に礼をいい医者が去るのを見送った。
「アル、大丈夫?」
「まあな」
「全く…無理しちゃって」
「たまには活躍しないとな」
「ふふ」
「何がおかしいんだよ」
「んーん、ただジュード君たちのことほんとに大好きなんだなって思って」
「おいおい、なんだよその言い方」
「だって、最初は仕事って言ってたくせに。…アル、ジュード君たちといるとだんだん表情変わってきてたから。よかった、ちゃんと仲間だって思ってるんだね」
名無しの言葉に、アルヴィンが軽く頭を触りながら答えた。
「そんなんじゃねーよ」
「嘘、じゃなきゃジュード君庇ったりしないものの」
「勝手に動いたんだよ、自分でもよくわかってないしな…」
「そう、でも答えでてると私は思うけど」
「どうだろうな、わり、…ちょっと外で風当ってくるわ」
「戻ってくる…?」
「当たり前だろ、珈琲でものんで待ってろって」
「ん、まってる」
アルヴィンが出ていくのを見て、名無しは久しぶりにカラハ・シャールの珈琲を注文した。
ものが届くと、やはりここの珈琲は名無しの中でもお気に入りに間違いなかった。
その珈琲を飲みながら、もう一度再開当初のアルヴィンと今のアルヴィンについて名無しは考えた。
以前は、ミラ達といてもどこか薄っぺらい印象が見受けられ、軽い調子のキャラだったイメージがとても強かった。
だからこそ、シャン・ドゥでミラに母親の話をしたときは本当に驚いた。
どういった心境の変化なのかはわからないが、少しアルヴィンが自分を出したことが嬉しく思えた。
それから、闘技場の一件を経てミラに信用されてからだろうか。
カン・バルクで裏切りこそしたものの、それがフェイクという真偽は置いておき、聞かれた事情には答えてもいた。
そしてつい先程ジュードを庇ったこと。
アルヴィンは、皆との環境に落ち着きだしているのではと名無しは思っていた。
はじめに仕事きりの関係と冷たく言っていたことが寂しく思えたので、もしそれが本当なら名無しはとても嬉しかった。
プレザの話を聞いた限り、彼女に心を許した時期があったのだろうがそれでも、プレザがあのように言うだけの事をきっとしたのだろう。
そうやってきっと、最後は誰にも頼れずやって来たのだと思うと、ジュード達への態度の変化はもしかしたら彼が変わった証拠なのかもしれない。
そんなことを考えながら珈琲をのみほし、名無しは少し外の様子を確認するために窓からアルヴィンの姿をみると、アルヴィンと一緒にミラがいるのが目についた。
「ミラ?なにはなしてるんだろう」
こちらから見てもわかるようにあまりいい話してるとは思えなかった。
立ち聞きはよくないと罪悪感を感じながらも、名無しはこっそりと二人の話を聞ける場所まで近づいていった。
話を聞いていると、アルヴィンが何か言ったのに対して ミラがなにも答えない状況だというのがわかった。
しばらくしてミラが、殺されては困るという言葉を口にした。
ああ、アルクノアの話を持ちかけたのだとすぐにわかった。
ミラが世界を守るために死ぬわけにはいかないと話すと、アルヴィンが殺されないよう目の前から消えてくれとミラを見ずに言う。
もし、皆と仲間でいることが今の彼の幸せのひとつならば、きっとそれは殺したくないという本心の現れなのだろう。
ミラがアルヴィンの言葉に答えることもなく、しばらく黙った後にその場を去った。
ミラの後ろ姿めがけ、アルヴィンが一度銃を構え撃つふりをした。
「お前、紛れもなくマクスウェルなんだな…」
その言葉の意味が、戸惑いなのか覚悟なのかは口調からはうまく読み取れなかった。
けれど、名無しにはその言葉が悲痛なものに聞こえて仕方がなかった。
神様どうか、彼にこれ以上傷を与えないでください。
生きていくうえで、そんな祈りは無駄だとわかっていても、祈らずにはいられなかった。
胸が締め付けられる想いになり、自然と涙が溢れそうになったが、アルヴィンが宿に戻ろうとしていたため名無しも急いで立ち上がり彼が戻る前に中に入ろうと走ろうとしたとき、誰かにぶつかってしまったため、名無しが急いで謝った。
「ご、ごめんなさい、余所見してて…て、あ…」
「盗み聞きとはいい趣味してるんじゃねぇの?」
「ごめん…アル…」
「ま、べつにいいけど、ってお前、なんで泣いて…」
「ただのドライアイ、気にしないで」
名無しが目を擦りながら言うと、やれやれといった態度をアルヴィンがとりその場そういうことで捉えてくれた。
「ま、いいけどよ、ワイバーンの治療にまだ時間がかかるんだとよ、それまで休んどけだってさ」
「ミラにしては意外な選択ね」
「メインイベント前なんだ、大精霊様でも緊張するんじゃねえか?」
「んー…そうなのかな」
「とにかく、休めるうちに休んどこうぜ」
手で宿屋の方を指しアルヴィンが先に中に入っていったが、名無しはミラに何を話していたのか聞きに行こうか悩みそこで動かないでいた。
名無しがこなかったのを不思議そうにしながら、アルヴィンが名無しにどうかしたのかと聞く。
ミラの命に関係してる話をしていたということは 、アルクノアの話で間違いないだろう。
このあとイル・ファンに向かうとするなら、恐らくジランドがそこにいるとみて間違いない。
ならば、イル・ファンにつけば答えは自然と出るだろうと思い名無しはアルヴィンになんでもないと言い彼の後について宿屋で休むことにした。