2章
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カンバルクに向かうために、ローエンとレイアがエリーゼをひっぱり宿に荷物を取りに行った。
アルヴィンも用事があると言い母親の家がある方へと歩いていく、名無しはとりあえず着替えたかったのだが、大きな荷物があるのはイスラの家のためどうしようか悩んでいた。
だが、よく考えれば名無しはアルヴィンに任せると約束をしたのでどちらにしろここに残る立場になる。
ならばいずれにせよイスラの家には戻らねばならない。
ここで悩んだところで必然的にやってくることなので、名無しはイスラの家に向かおうとするとミラに単独行動を咎められ動けずにいた。
「ミラ、あの…私着替えたいなーって…」
「少し待っていろ、ローエンが戻ってきたら共に行かせる」
「じゃ、じゃあミラ一緒に来…」
「いまだれかを一人にするわけにもいくまい」
「アルは一人でいってたのに…」
「奴は常に単独行動が目立っていたからな、今更どういうつもりもない」
「じゃあジュード君っっっ」
「ジュード、お前もここにいろ、いいな」
「う、うん、わかってるよ」
「もー!なんでよー!!」
はじめは、前が隠れるならばと安心した格好なのだが、町中に入ると時々他人からの視線が気になり出してきていた。
ブカブカなコートを一枚閉じた状態で歩いていると、まるでその一枚しか羽織っていない見た目になっており、その姿を先程水面越しに見たため、恥ずかしくてたまらないのであった。
だからといって脱ぐわけにもいかない。
せめてジュードのコートならば大丈夫なのでは、という考えが頭に浮かんだが一度脱がねばならないことに変わりはないので諦めるのとにした。
しかし、それ以外にも名無しはイスラとアルクノアに関しての話がしたく急ぎたかったものがあった。
「早くいかないと会えなくなっちゃうのに…」
「やはりそうか」
「ミラ…っ聞こえてたの…」
「名無し、聞こえてたっていうよりはね、アルヴィンがどうせ行くだろうから絶対に行かせるなって、アルヴィンにはいうなって言われたんだけど」
「言ったところで、お前は聞きそうもないんだがな」
「む…っむぅ…、余計なことしてくれたなぁ…」
「アルヴィンは名無しのこと心配なんだよ、それにミラも僕も心配だから」
「名無しは、アルクノアにとって貴重な人間だ、それをて中に納めておかねば」
「ミラ、そんな言い方しなくても」
「んむ?言い方が悪かったか?とにかくお前が余計なことを考えているうちには動けん、名無しは私にとって必要な存在だ」
「名無し、ああい ってるけどミラ心配って言いたいだけだから」
「ふふ、ん、ありがとう。でもこの格好が恥ずかしいのはほんとなんだけどなー」
袖のなかで出口を失っている手をぶらつかせ、名無しは言った。
そして、出来るだけ人目につかないようミラとジュードの影になるように座り込む。
ローエンとエリーゼとレイアが戻ってくるのがみえたため、名無しはローエンをみるなりローエンに駆け寄った。
「やっと戻ってきたー!」
「おや、私の帰りをお待ちでしたか?」
「待ってました、すっごく待ってました」
「ほっほっほっ、私もまだまだいけますね」
「と、いうことでミラ、いいよね?」
「ダメだ」
「なーんーでー…っ!!」
「ミラさん、私、名無しを受け入れる準備はできておりますが」
「え、名無しってそういう趣味だったの?!」
「レイアさん、そういう趣味とは一体…」
「ご、ごめんローエン、そういう意味じゃなくって」
「たしかに、名無しは物好きなところあるからな」
レイアがローエンに弁解をしているとアルヴィンが戻ってきて横やりをいれた。
物好きと言われ名無しがどういう意味かとアルヴィンにたいして怒る。
「物好きっていうところなんかないと思うんだけど…」
「普通だったらワイバーンみて可愛いとか言わないと思うけどな、サマンガン樹海の時みりゃ一発だろ」
「はは、確かにサマンガン樹海の時は驚いたよね」
「なになに、ジュード、教えて!」
「あのね、レイア」
「ちょっとジュード君!変な言い方しないでよ?」
「じゃれんのもいいけど、名無し。ほら、荷物」
そういうと、アルヴィンはイスラの家にあったはずの名無しの荷物を差し出した。
いつのまに持ってきたのかしっかり全部揃っている。
どうしたのかと聞くと、ユルゲンスが取りに来るようイスラに言われたからとのことだった。
先程のことがあっただけに、イスラはできるだけ皆を避けたい気持ちなのだろう。
早く出ていってほしい、そんな無言の訴えも届けられた気がした。
荷物を受け取った名無しは、着替えるために急いで宿屋に向かった。
皆を待っていた時にミラに言われた通り、ローエンが名無しに同行していた。
ローエンはロビーで待っているとのことで、出来るだけ急いで名無しは着替えはじめる。
思い返せば、周りにめいわくをかけていることしかしていないと名無し は痛感する。
これで何回目だろうか。ブルータルの時を入れてしまえば三度目になるだろう。
自分でやると決めたはずだったのに、その想いを遂げるだけの力を持っていないことがなによりも悔しかった。
今まで、実戦経験がなかったから仕方がないといわれてしまえばそれまでである。
だが、名無しと同じくして戦いを始めたエリーゼという比較対象がある。
考えるなと言われてしまうほうが、無理なものがあった。
じわりと、涙が出てきそうになり、こんなことで泣いている場合ではない名無しは涙を堪え、ことを済ませると直ぐにローエンのもとにもどった。
「ごめんなさい、待たせて」
「いえ、それではまいりましょうか」
ミラ達のところに戻ると、皆が二人を待っていた。
ユルゲンスも荷物をまとめ終わり、いつでも出発できるということで、名無しは見送くろうとすると、皆が不思議な顔をしている。
アルヴィンとの話があったので名無しはシャン・ドゥに残りレティシャの世話に集中しようと思っていた。
そのことを皆には言っていないので、不思議がられても仕方がないことだと気が付き、それを説明しようと思ったが、名無しが説明する前にアルヴィンが名無しの荷物を奪ったあと、皆を急かし街を出ることになった。
ダーク地下道を歩きながら、名無しはアルヴィンにレティシャのことについて聞いた。
「イスラさんに、わたしにみせるって話したんじゃないの?」
「臨機応変だよ、ミラ様たちといた方が安全だろ」
「そういうことじゃなくて」
「それに、お前一人残ると怪しまれるだろ、色々とな」
「ミラは知ってるじゃない…」
「だったら、尚更そっちに頼っとけ」
そのまま、アルヴィンはその件については触れても答えようとしなかった。
レティシャのことが気にかかったままダーク地下道を抜けると、ひんやりとした空間に投げ出された。
あたりを見渡すと、そこには雪が積もっており一面が白銀の世界となっていた。
雪を見るのは初めてではないが、雪原というかたちで雪を見るのが名無しは初めてだった。
同時に、初めての寒所に耐性のない名無しは身を縮めた。
ユルゲンスに事前に防寒具を渡されていたのを思いだしそれを羽織るもやはり寒くてたまらない。
他のみんなは防寒具があることによってそうでもないようだったが、名無しにはそれでもまだ寒く、小さく震えているとレイアが心配をしてきた。
「ううう…寒い…」
「名無し寒がりなの?」
「たぶん、これだけ寒いところが初めてだからかな、うー」
「じゃあさ、アルヴィン君の借りようよ!あのコートだけでも十分暖かいだろうし」
「おい、どういう扱いだよ俺」
「いいじゃーん、アルヴィン君の一枚や二枚ー!」
「では、私のを使うといい」
「ミラ駄目だよ、ミラの格好でそのままだったら風邪引くよ?」
「うむ、それもいい体験だ。四大たちがいた頃にはできなかって体験だからな」
「ミラさん、嬉しそうですね」
「ああ、寒い、というのはこういう感覚なのだな、これをしのぐための工夫を考え…」
ミラが名無しに防寒具をおしつけ、薄着のまま人間の素晴らしさについて語りだした。
人間らしい体験、というのができるのがミラはとても嬉しいらしくみていてなかなかおかしなものがあった。
こういったところが、とてもマクスウェルだとは思えずどこか抜けているというか、子供っぽさがあり普段の毅然とした態度とのギャップで可愛らしい部分である。
ティポがエリーゼに話しかけ、エリーゼをエリーとは呼んではいなかった。
エリーゼはそのことが悲しく、言ったところで無駄だとはわかっているだろうがティポにそのことを呟いた。
依然として元気のないエリーゼを見ながら、皆はモン高原を進んだ。
***
途中魔物がでてきたため、何度か戦闘になった。
その際に、ミラが改めてアルヴィンが両手で武器を扱うことに関して興味を持ち話題をふる。
昔は左利きだったということだったが、必要に応じて両利きにしたという。
エリーゼがその話を聞いて、アルヴィンの努力に関して尊敬をした。
元気はないが、話をすればそれなりに反応をするまでに落ち着いてくれたのだと端からみて名無しは安心する。
ミラが戦うためにか、と触れるとアルヴィンはそれを否定してミラとエリーゼの肩を抱くと、エリーゼとティポは怪訝してそこから離れる。
そしてミラはミラで片手で扱えるものと思ってもらっては困ると凛々しくいった。
その通りだ、と名無しは心のなかで呟きつつも、両手に収まらなかったこと若干の寂しさを持った。
羨ましく思いながら見ていると、横からローエンに話しかけられた。
「余計な世話と思っていただいて構わないのですが、お伝えしたほうがよいのでは?」
「へ?な、…えっと?」
「差し出がましいですが、見ていてこう、娘が男に取られる気持ちとはこうなのか、といった感情が先程からありまして」
「大、丈夫ですよ、なんか楽しそうだし、それについさっきのこともありますから、それで気が紛れるならそうさせたいし」
「見守る恋…ですか、しかしそれこそ我儘になっても」
「恋って、そんな、そういうのじゃ!」
「ほほほ、ですが名無しさん、後悔してしまってからでは遅いものですよ、手に届くうちに」
「ローエンさんは、そうだったんですか…?」
「さぁ、何分爺ですから」
まるで自分の経験のようにローエンに言われ、どうだったのかをきくと適当にはぐらかされてしまった。
すると、ローエンが足元の雪をすくい器用に固めて名無しにそれを差し出し、心底楽しそうに言った。
「それよりも、どうでしょう?あの罪作りにちょっとしたことでも」
「え、えと、これは…」
「おや、では私な投げてもよろしいでしょうか?」
「ど、どうぞ」
「ではっ」
ローエンが満面の笑みを浮かべて豪速球の雪玉をアルヴィンに投げつけた。
見事にアルヴィンに雪玉があたり、アルヴィンの頭で砕けた雪が彼の肩につもった。
若干、鈍い音がしたため当たった瞬間に思わずなまえがあっと声をあげたが、その声の通りに、それなりにアルヴィンにダメージが入ったようだった。
アルヴィンが振り返る前にローエンが新しい雪玉をつくって名無しに渡しその直後に、アルヴィンがこちら側を向いた。
睨んでいる先はローエンではなく、雪玉を持っている名無しのほうだった。
「ってーな!なにすんだいきなり!」
「え?!ちょっちょっと、ローエンさん!」
「ほほほ、アルヴィンさん、名無しさんを責めてはいけませんよ?名無しさん、今です」
「へ?え?」
「あの顔に当てるならいまのうちですよ?」
「……そっか、えいっ!」
ローエンに耳打ちされ名無しも雪玉をアルヴィンの顔面に投げる。
真正面だというのに、避けられることもなく見事に顔面にそれがあたる。
顔で砕けた雪を払いながらアルヴィンが名無しの方にやってきたため、名無しがローエンの後ろに隠れる。
「おい爺さん、なに余計なこと吹き込んだんだ」
「いえ、私は名無しさんの代弁をしたまでです、ご自身の振る舞いを振り返ってみては?」
「名無し、言いたいことあんならそこからまずでてこい」
「む…っ、なんでそんな高圧的なのよ」
「あたりまえだろ、いきなり雪ぶん投げられて怒らない奴がいるなら聞きたいぜ」
「う、ごめん…」
「謝ることはありませんよ、ガツンといって構いません!」
「名無し、ローエンになにいったんだよ」
「な、…なんでも!ない!!」
「あっ!おい…」
「逃げてしまわれましたか、少し荒療治だったようですね」
「で、おたく。あいつからなに言われたわけ?」
「名無しさんのことですから、私から申し上げるわけにはいきませんな、ほほほ」
「…ほんと、いい性格してるわあんた」
ローエンに一言投げると、アルヴィンは名無しのところに向かった。
何が言いたいのかと再び聞かれたが、ローエンの言葉を思いだし少し自分の気持ちを優先させたくなった名無しは自分で考えてみて、と言いそっぽを向いた。
納得のいかないアルヴィンがもう一度聞いてきた。
「なに怒ってんだよお前」
「怒ってないって…、それより雪大丈夫?」
「大丈夫じゃねーよ、最初なにぶん投げられたかと思ったわ、投げたの爺さんだろ」
「そうだけど、ごめん」
「んで、 その理由が聞きたいんだけど」
「そ、それは…な、なんでもない」
「さっきは考えろって言ったろ、なんでもなくないだろ」
「ふぇ、し、しらない!」
それから、名無しはアルヴィンと口を利くのをやめた。
周りにどうしたのかと聞かれたが、ローエンがそれにたいして答えていたため、余計に不思議がられたが、その姿勢は崩さないままカン・バルクに到着した。
カン・バルクにつくと街並みをみてシャン・ドゥ同様、雰囲気がほかとは違うという話が出た。
ア・ジュールは精霊信仰がまだ強く残っているためその影響だろうと説明を受けた。
ユルゲンスが王に謁見するため一行から別れた。
その際に、たくさんの人が王への謁見を希望しているため時間がかかるということで先に宿をとるようにと伝えて去っていった。
ミラがなにか考え出したのをジュードが察し、ユルゲンスに迷惑のかかることはしないようにと釘を指した。
宿をとり、それぞれが部屋でリラックスをしていた。
名無しも、適当に座りながら鞄から、いつの間にか採取をしていた植物をいれた瓶をとりだし様子を見ていた。
どうやら一人でシャン・ドゥに居るときでも続けていたようだった。
ジュードがそれに興味を深くしめし、何をしているのかを聞いてきた。
「ああ、これね、この液体が内外部マナの遮断をしてるの。濃度で違うんだけど、どれぐらいまで耐えられるのかっていうのと、耐えられないものがどうすれば生命を維持できるのかって観察してるの」
「それたしか、似たことを書いてあった書籍があったよね、その本だとたしか」
「あ、あれでしょ、種の遺伝子分解の」
「うん、やっぱり読んでたんだ、あれって…」
「うわー、ジュードが難しい話してるよぉ…」
「レイアもどう?名無し結構面白いことしてるけど」
「遠慮しとくー…聞いてて頭いたくなっちゃう」
「そう?ねぇ、名無しそれでさ」
そのまま、ジュードど名無しがずっと植物のマナ生成と生命維持について話していると、ジュードもその実験に興味を持ち手伝うと言い出した。
いままでずっと一人でやって来たため、なかなか空回りしていたことだったが強い協力者に名無しはとても喜びこの話にさらに花を咲かせた。
しばらく話していると、アルヴィンが名無しを呼び話があるといって外にいこうとした、ここではだめなのかとミラに聞かれ、母親のことだとアルヴィンが伝えると納得しふたりを出した。
「おばさま、なにかあったの?」
「いや、なんも変わりはねぇよ」
「それじゃあなんで?」
「見て…らんねぇからだよ、その、お前、ジュードと楽しそうだったろ」
「っ?!そ、それは…その…アルのいえたことではないと思うけども…」
その言葉に少しアルヴィンは考え、思い当たることに行き当たりあれか、と小さく呟いた。
「あのときか…」
「皆といるときの調子ってああなのは、わかってるんだけど…その…ボディタッチってなると」
「あ、あー…」
「あの後だから…その…抱き締めてもらいたかったなぁ…って思ってたから…」
「できるならしたさ、したかったけど、したら多分俺我慢しねぇから」
「!!それは、とても困ります、ね」
「…とにかく、悪かったよ」
「だ、抱き締めてくれたら、無しにするから」
「はいよ、お姫さま」
そういうと、アルヴィンは腕を広げてた。
名無しのためにあけられたその胸に、名無しは遠慮なく飛び込むと思いきり力を込めてアルヴィンに抱きついた。
アルヴィンが名無しを抱き締め返すと、どこからか安心感が沸いてきて、未だ残っていた岩孔の恐怖が少しずつ消えていくような感覚だった。
十分に抱きついたあと、照れながら名無しはアルヴィンから離れる。
「ん、やっと充電できたって感じ」
「さらっというな、俺としてはまだ足りないんだけど」
「さらっといわないでよ、ほら、戻らないと」
「はいはい」
部屋に戻ると、ミラがレティシャについて戻る必要があるのかと尋ねてきたが指して問題はないとアルヴィンが答えた。
名無しを呼んだ理由は少し世話を任せていたことがあったからだと付け加えアルヴィンはベッドに横になりリラックスをする。
名無しもその横に座り、ユルゲンスが戻ってくるのを待った。
レイアが待ちきれず、この時間を利用して観光にいかないかとエリーゼを誘ったが、エリーゼは黙ったままそれを無視した。
モン高原では話をしてくれたのだが、こうみるとエリーゼはレイアが励まそうとしてくれているときにこういったふてくされた態度をとっているのが見てわかる。
無視をされてしまったため、レイアがティポが静かだと自分が五月蝿いみたいだとふてくされると、ジュードが前からだと横から突っ込みをいれる。
レイアがジュードに文句をいうと、そのあとにまたエリーゼに話しかけた。
エリーゼの言葉でエリーゼのことをしりたいと言うと、黙っていたティポが口を開いた。
「レイアはうるさいなー、皆の足をいっつもひっぱってるくせにー」
「え…」
「エリーゼ、言い過ぎじゃないか?謝った方がいい」
「ミラがいうんだから、相当だぞ」
「エリーゼ?八つ当たりしたい気持ちはわかるけどいまのは…」
「また名無しのおせっかいか、弱いくせにいっつもでしゃばって」
「あ…」
ティポの言葉で、その場の雰囲気がいっきに凍りつく。
ミラがエリーゼに謝るよういうと、エリーゼへ立ち上がりそのまま走り去ってしまう。
レイアが今のはきいたなーと明るく振る舞うも、その表情には無理がはっきりと見えていた。
ローエンが二人を心配すると、自分の事はいいからとエリーゼを連れ戻しにいこうと皆を外につれていった。
ティポの言葉が、名無しの耳にやけに残った。
アルヴィンも用事があると言い母親の家がある方へと歩いていく、名無しはとりあえず着替えたかったのだが、大きな荷物があるのはイスラの家のためどうしようか悩んでいた。
だが、よく考えれば名無しはアルヴィンに任せると約束をしたのでどちらにしろここに残る立場になる。
ならばいずれにせよイスラの家には戻らねばならない。
ここで悩んだところで必然的にやってくることなので、名無しはイスラの家に向かおうとするとミラに単独行動を咎められ動けずにいた。
「ミラ、あの…私着替えたいなーって…」
「少し待っていろ、ローエンが戻ってきたら共に行かせる」
「じゃ、じゃあミラ一緒に来…」
「いまだれかを一人にするわけにもいくまい」
「アルは一人でいってたのに…」
「奴は常に単独行動が目立っていたからな、今更どういうつもりもない」
「じゃあジュード君っっっ」
「ジュード、お前もここにいろ、いいな」
「う、うん、わかってるよ」
「もー!なんでよー!!」
はじめは、前が隠れるならばと安心した格好なのだが、町中に入ると時々他人からの視線が気になり出してきていた。
ブカブカなコートを一枚閉じた状態で歩いていると、まるでその一枚しか羽織っていない見た目になっており、その姿を先程水面越しに見たため、恥ずかしくてたまらないのであった。
だからといって脱ぐわけにもいかない。
せめてジュードのコートならば大丈夫なのでは、という考えが頭に浮かんだが一度脱がねばならないことに変わりはないので諦めるのとにした。
しかし、それ以外にも名無しはイスラとアルクノアに関しての話がしたく急ぎたかったものがあった。
「早くいかないと会えなくなっちゃうのに…」
「やはりそうか」
「ミラ…っ聞こえてたの…」
「名無し、聞こえてたっていうよりはね、アルヴィンがどうせ行くだろうから絶対に行かせるなって、アルヴィンにはいうなって言われたんだけど」
「言ったところで、お前は聞きそうもないんだがな」
「む…っむぅ…、余計なことしてくれたなぁ…」
「アルヴィンは名無しのこと心配なんだよ、それにミラも僕も心配だから」
「名無しは、アルクノアにとって貴重な人間だ、それをて中に納めておかねば」
「ミラ、そんな言い方しなくても」
「んむ?言い方が悪かったか?とにかくお前が余計なことを考えているうちには動けん、名無しは私にとって必要な存在だ」
「名無し、ああい ってるけどミラ心配って言いたいだけだから」
「ふふ、ん、ありがとう。でもこの格好が恥ずかしいのはほんとなんだけどなー」
袖のなかで出口を失っている手をぶらつかせ、名無しは言った。
そして、出来るだけ人目につかないようミラとジュードの影になるように座り込む。
ローエンとエリーゼとレイアが戻ってくるのがみえたため、名無しはローエンをみるなりローエンに駆け寄った。
「やっと戻ってきたー!」
「おや、私の帰りをお待ちでしたか?」
「待ってました、すっごく待ってました」
「ほっほっほっ、私もまだまだいけますね」
「と、いうことでミラ、いいよね?」
「ダメだ」
「なーんーでー…っ!!」
「ミラさん、私、名無しを受け入れる準備はできておりますが」
「え、名無しってそういう趣味だったの?!」
「レイアさん、そういう趣味とは一体…」
「ご、ごめんローエン、そういう意味じゃなくって」
「たしかに、名無しは物好きなところあるからな」
レイアがローエンに弁解をしているとアルヴィンが戻ってきて横やりをいれた。
物好きと言われ名無しがどういう意味かとアルヴィンにたいして怒る。
「物好きっていうところなんかないと思うんだけど…」
「普通だったらワイバーンみて可愛いとか言わないと思うけどな、サマンガン樹海の時みりゃ一発だろ」
「はは、確かにサマンガン樹海の時は驚いたよね」
「なになに、ジュード、教えて!」
「あのね、レイア」
「ちょっとジュード君!変な言い方しないでよ?」
「じゃれんのもいいけど、名無し。ほら、荷物」
そういうと、アルヴィンはイスラの家にあったはずの名無しの荷物を差し出した。
いつのまに持ってきたのかしっかり全部揃っている。
どうしたのかと聞くと、ユルゲンスが取りに来るようイスラに言われたからとのことだった。
先程のことがあっただけに、イスラはできるだけ皆を避けたい気持ちなのだろう。
早く出ていってほしい、そんな無言の訴えも届けられた気がした。
荷物を受け取った名無しは、着替えるために急いで宿屋に向かった。
皆を待っていた時にミラに言われた通り、ローエンが名無しに同行していた。
ローエンはロビーで待っているとのことで、出来るだけ急いで名無しは着替えはじめる。
思い返せば、周りにめいわくをかけていることしかしていないと名無し は痛感する。
これで何回目だろうか。ブルータルの時を入れてしまえば三度目になるだろう。
自分でやると決めたはずだったのに、その想いを遂げるだけの力を持っていないことがなによりも悔しかった。
今まで、実戦経験がなかったから仕方がないといわれてしまえばそれまでである。
だが、名無しと同じくして戦いを始めたエリーゼという比較対象がある。
考えるなと言われてしまうほうが、無理なものがあった。
じわりと、涙が出てきそうになり、こんなことで泣いている場合ではない名無しは涙を堪え、ことを済ませると直ぐにローエンのもとにもどった。
「ごめんなさい、待たせて」
「いえ、それではまいりましょうか」
ミラ達のところに戻ると、皆が二人を待っていた。
ユルゲンスも荷物をまとめ終わり、いつでも出発できるということで、名無しは見送くろうとすると、皆が不思議な顔をしている。
アルヴィンとの話があったので名無しはシャン・ドゥに残りレティシャの世話に集中しようと思っていた。
そのことを皆には言っていないので、不思議がられても仕方がないことだと気が付き、それを説明しようと思ったが、名無しが説明する前にアルヴィンが名無しの荷物を奪ったあと、皆を急かし街を出ることになった。
ダーク地下道を歩きながら、名無しはアルヴィンにレティシャのことについて聞いた。
「イスラさんに、わたしにみせるって話したんじゃないの?」
「臨機応変だよ、ミラ様たちといた方が安全だろ」
「そういうことじゃなくて」
「それに、お前一人残ると怪しまれるだろ、色々とな」
「ミラは知ってるじゃない…」
「だったら、尚更そっちに頼っとけ」
そのまま、アルヴィンはその件については触れても答えようとしなかった。
レティシャのことが気にかかったままダーク地下道を抜けると、ひんやりとした空間に投げ出された。
あたりを見渡すと、そこには雪が積もっており一面が白銀の世界となっていた。
雪を見るのは初めてではないが、雪原というかたちで雪を見るのが名無しは初めてだった。
同時に、初めての寒所に耐性のない名無しは身を縮めた。
ユルゲンスに事前に防寒具を渡されていたのを思いだしそれを羽織るもやはり寒くてたまらない。
他のみんなは防寒具があることによってそうでもないようだったが、名無しにはそれでもまだ寒く、小さく震えているとレイアが心配をしてきた。
「ううう…寒い…」
「名無し寒がりなの?」
「たぶん、これだけ寒いところが初めてだからかな、うー」
「じゃあさ、アルヴィン君の借りようよ!あのコートだけでも十分暖かいだろうし」
「おい、どういう扱いだよ俺」
「いいじゃーん、アルヴィン君の一枚や二枚ー!」
「では、私のを使うといい」
「ミラ駄目だよ、ミラの格好でそのままだったら風邪引くよ?」
「うむ、それもいい体験だ。四大たちがいた頃にはできなかって体験だからな」
「ミラさん、嬉しそうですね」
「ああ、寒い、というのはこういう感覚なのだな、これをしのぐための工夫を考え…」
ミラが名無しに防寒具をおしつけ、薄着のまま人間の素晴らしさについて語りだした。
人間らしい体験、というのができるのがミラはとても嬉しいらしくみていてなかなかおかしなものがあった。
こういったところが、とてもマクスウェルだとは思えずどこか抜けているというか、子供っぽさがあり普段の毅然とした態度とのギャップで可愛らしい部分である。
ティポがエリーゼに話しかけ、エリーゼをエリーとは呼んではいなかった。
エリーゼはそのことが悲しく、言ったところで無駄だとはわかっているだろうがティポにそのことを呟いた。
依然として元気のないエリーゼを見ながら、皆はモン高原を進んだ。
***
途中魔物がでてきたため、何度か戦闘になった。
その際に、ミラが改めてアルヴィンが両手で武器を扱うことに関して興味を持ち話題をふる。
昔は左利きだったということだったが、必要に応じて両利きにしたという。
エリーゼがその話を聞いて、アルヴィンの努力に関して尊敬をした。
元気はないが、話をすればそれなりに反応をするまでに落ち着いてくれたのだと端からみて名無しは安心する。
ミラが戦うためにか、と触れるとアルヴィンはそれを否定してミラとエリーゼの肩を抱くと、エリーゼとティポは怪訝してそこから離れる。
そしてミラはミラで片手で扱えるものと思ってもらっては困ると凛々しくいった。
その通りだ、と名無しは心のなかで呟きつつも、両手に収まらなかったこと若干の寂しさを持った。
羨ましく思いながら見ていると、横からローエンに話しかけられた。
「余計な世話と思っていただいて構わないのですが、お伝えしたほうがよいのでは?」
「へ?な、…えっと?」
「差し出がましいですが、見ていてこう、娘が男に取られる気持ちとはこうなのか、といった感情が先程からありまして」
「大、丈夫ですよ、なんか楽しそうだし、それについさっきのこともありますから、それで気が紛れるならそうさせたいし」
「見守る恋…ですか、しかしそれこそ我儘になっても」
「恋って、そんな、そういうのじゃ!」
「ほほほ、ですが名無しさん、後悔してしまってからでは遅いものですよ、手に届くうちに」
「ローエンさんは、そうだったんですか…?」
「さぁ、何分爺ですから」
まるで自分の経験のようにローエンに言われ、どうだったのかをきくと適当にはぐらかされてしまった。
すると、ローエンが足元の雪をすくい器用に固めて名無しにそれを差し出し、心底楽しそうに言った。
「それよりも、どうでしょう?あの罪作りにちょっとしたことでも」
「え、えと、これは…」
「おや、では私な投げてもよろしいでしょうか?」
「ど、どうぞ」
「ではっ」
ローエンが満面の笑みを浮かべて豪速球の雪玉をアルヴィンに投げつけた。
見事にアルヴィンに雪玉があたり、アルヴィンの頭で砕けた雪が彼の肩につもった。
若干、鈍い音がしたため当たった瞬間に思わずなまえがあっと声をあげたが、その声の通りに、それなりにアルヴィンにダメージが入ったようだった。
アルヴィンが振り返る前にローエンが新しい雪玉をつくって名無しに渡しその直後に、アルヴィンがこちら側を向いた。
睨んでいる先はローエンではなく、雪玉を持っている名無しのほうだった。
「ってーな!なにすんだいきなり!」
「え?!ちょっちょっと、ローエンさん!」
「ほほほ、アルヴィンさん、名無しさんを責めてはいけませんよ?名無しさん、今です」
「へ?え?」
「あの顔に当てるならいまのうちですよ?」
「……そっか、えいっ!」
ローエンに耳打ちされ名無しも雪玉をアルヴィンの顔面に投げる。
真正面だというのに、避けられることもなく見事に顔面にそれがあたる。
顔で砕けた雪を払いながらアルヴィンが名無しの方にやってきたため、名無しがローエンの後ろに隠れる。
「おい爺さん、なに余計なこと吹き込んだんだ」
「いえ、私は名無しさんの代弁をしたまでです、ご自身の振る舞いを振り返ってみては?」
「名無し、言いたいことあんならそこからまずでてこい」
「む…っ、なんでそんな高圧的なのよ」
「あたりまえだろ、いきなり雪ぶん投げられて怒らない奴がいるなら聞きたいぜ」
「う、ごめん…」
「謝ることはありませんよ、ガツンといって構いません!」
「名無し、ローエンになにいったんだよ」
「な、…なんでも!ない!!」
「あっ!おい…」
「逃げてしまわれましたか、少し荒療治だったようですね」
「で、おたく。あいつからなに言われたわけ?」
「名無しさんのことですから、私から申し上げるわけにはいきませんな、ほほほ」
「…ほんと、いい性格してるわあんた」
ローエンに一言投げると、アルヴィンは名無しのところに向かった。
何が言いたいのかと再び聞かれたが、ローエンの言葉を思いだし少し自分の気持ちを優先させたくなった名無しは自分で考えてみて、と言いそっぽを向いた。
納得のいかないアルヴィンがもう一度聞いてきた。
「なに怒ってんだよお前」
「怒ってないって…、それより雪大丈夫?」
「大丈夫じゃねーよ、最初なにぶん投げられたかと思ったわ、投げたの爺さんだろ」
「そうだけど、ごめん」
「んで、 その理由が聞きたいんだけど」
「そ、それは…な、なんでもない」
「さっきは考えろって言ったろ、なんでもなくないだろ」
「ふぇ、し、しらない!」
それから、名無しはアルヴィンと口を利くのをやめた。
周りにどうしたのかと聞かれたが、ローエンがそれにたいして答えていたため、余計に不思議がられたが、その姿勢は崩さないままカン・バルクに到着した。
カン・バルクにつくと街並みをみてシャン・ドゥ同様、雰囲気がほかとは違うという話が出た。
ア・ジュールは精霊信仰がまだ強く残っているためその影響だろうと説明を受けた。
ユルゲンスが王に謁見するため一行から別れた。
その際に、たくさんの人が王への謁見を希望しているため時間がかかるということで先に宿をとるようにと伝えて去っていった。
ミラがなにか考え出したのをジュードが察し、ユルゲンスに迷惑のかかることはしないようにと釘を指した。
宿をとり、それぞれが部屋でリラックスをしていた。
名無しも、適当に座りながら鞄から、いつの間にか採取をしていた植物をいれた瓶をとりだし様子を見ていた。
どうやら一人でシャン・ドゥに居るときでも続けていたようだった。
ジュードがそれに興味を深くしめし、何をしているのかを聞いてきた。
「ああ、これね、この液体が内外部マナの遮断をしてるの。濃度で違うんだけど、どれぐらいまで耐えられるのかっていうのと、耐えられないものがどうすれば生命を維持できるのかって観察してるの」
「それたしか、似たことを書いてあった書籍があったよね、その本だとたしか」
「あ、あれでしょ、種の遺伝子分解の」
「うん、やっぱり読んでたんだ、あれって…」
「うわー、ジュードが難しい話してるよぉ…」
「レイアもどう?名無し結構面白いことしてるけど」
「遠慮しとくー…聞いてて頭いたくなっちゃう」
「そう?ねぇ、名無しそれでさ」
そのまま、ジュードど名無しがずっと植物のマナ生成と生命維持について話していると、ジュードもその実験に興味を持ち手伝うと言い出した。
いままでずっと一人でやって来たため、なかなか空回りしていたことだったが強い協力者に名無しはとても喜びこの話にさらに花を咲かせた。
しばらく話していると、アルヴィンが名無しを呼び話があるといって外にいこうとした、ここではだめなのかとミラに聞かれ、母親のことだとアルヴィンが伝えると納得しふたりを出した。
「おばさま、なにかあったの?」
「いや、なんも変わりはねぇよ」
「それじゃあなんで?」
「見て…らんねぇからだよ、その、お前、ジュードと楽しそうだったろ」
「っ?!そ、それは…その…アルのいえたことではないと思うけども…」
その言葉に少しアルヴィンは考え、思い当たることに行き当たりあれか、と小さく呟いた。
「あのときか…」
「皆といるときの調子ってああなのは、わかってるんだけど…その…ボディタッチってなると」
「あ、あー…」
「あの後だから…その…抱き締めてもらいたかったなぁ…って思ってたから…」
「できるならしたさ、したかったけど、したら多分俺我慢しねぇから」
「!!それは、とても困ります、ね」
「…とにかく、悪かったよ」
「だ、抱き締めてくれたら、無しにするから」
「はいよ、お姫さま」
そういうと、アルヴィンは腕を広げてた。
名無しのためにあけられたその胸に、名無しは遠慮なく飛び込むと思いきり力を込めてアルヴィンに抱きついた。
アルヴィンが名無しを抱き締め返すと、どこからか安心感が沸いてきて、未だ残っていた岩孔の恐怖が少しずつ消えていくような感覚だった。
十分に抱きついたあと、照れながら名無しはアルヴィンから離れる。
「ん、やっと充電できたって感じ」
「さらっというな、俺としてはまだ足りないんだけど」
「さらっといわないでよ、ほら、戻らないと」
「はいはい」
部屋に戻ると、ミラがレティシャについて戻る必要があるのかと尋ねてきたが指して問題はないとアルヴィンが答えた。
名無しを呼んだ理由は少し世話を任せていたことがあったからだと付け加えアルヴィンはベッドに横になりリラックスをする。
名無しもその横に座り、ユルゲンスが戻ってくるのを待った。
レイアが待ちきれず、この時間を利用して観光にいかないかとエリーゼを誘ったが、エリーゼは黙ったままそれを無視した。
モン高原では話をしてくれたのだが、こうみるとエリーゼはレイアが励まそうとしてくれているときにこういったふてくされた態度をとっているのが見てわかる。
無視をされてしまったため、レイアがティポが静かだと自分が五月蝿いみたいだとふてくされると、ジュードが前からだと横から突っ込みをいれる。
レイアがジュードに文句をいうと、そのあとにまたエリーゼに話しかけた。
エリーゼの言葉でエリーゼのことをしりたいと言うと、黙っていたティポが口を開いた。
「レイアはうるさいなー、皆の足をいっつもひっぱってるくせにー」
「え…」
「エリーゼ、言い過ぎじゃないか?謝った方がいい」
「ミラがいうんだから、相当だぞ」
「エリーゼ?八つ当たりしたい気持ちはわかるけどいまのは…」
「また名無しのおせっかいか、弱いくせにいっつもでしゃばって」
「あ…」
ティポの言葉で、その場の雰囲気がいっきに凍りつく。
ミラがエリーゼに謝るよういうと、エリーゼへ立ち上がりそのまま走り去ってしまう。
レイアが今のはきいたなーと明るく振る舞うも、その表情には無理がはっきりと見えていた。
ローエンが二人を心配すると、自分の事はいいからとエリーゼを連れ戻しにいこうと皆を外につれていった。
ティポの言葉が、名無しの耳にやけに残った。