2章
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闘技場につくと、すぐにユルゲンスを見つけミラが先程の鐘はなんなのかと聞いた。
この場にミラたちがやって来たことに、ユルゲンスがまず礼を言うと突如委員会が決勝戦をやると決めたということだった。
それだけではなく、相手が死ぬまで戦いを続ける前王時代のルールに従い決勝を執り行うというのだった。
さらに加え、このルールは一人で戦うものだという。
ルールの変更もあり、参加について相談をするがワイバーンは必要なものであるため引くわけにはいかなかった。
「何故前王時代のルールで戦うことに…」
「やめておけよ、こいつはおたくの命を狙ったアルクノアの作戦だぜ」
「アルクノアの?!」
「あっれー?なんでアルヴィン君が知ってるの?」
「いいのか?」
「アル、いいの?」
アルヴィンの発言に皆がそれぞれの驚きを見せた。
名無しとミラ以外は当然の反応だろう。
隠していたことだというのに、それを公にする意味を二人は確認すると、アルヴィンは皆に背中を向けて言う。
「さっきの礼だよ、それにお前のこともあるしな、黙ってんのもそろそろ限界あんだろ」
「アル…」
「どういうことなの?」
ジュードが娘とを知っている素振りをするミラに確認をする。
ミラもアルヴィンの態度からアルヴィンがアルクノアに関係していることを話すと皆の動揺が明らかに見てとれた。
仕事を頼まれたりしていたことを話すと、やはり今回の事件に関わったかどうかを聞かれた。
アルヴィンも、今回の事件に関しては関与していなく食事をとっていたら自分も同じ末路だったと答えた。
アルクノアといっても深入りはしてなく、駒使いなだけだと付け加える。
「なら、アルクノアの仕事はもうしないって約束してくれる?」
「わかった、誓うよ」
「よかった…」
「そんなことできるの…?」
「…」
もうやらない、それで済むようならばアルヴィンもイスラも今頃アルクノアに関わっていないはずだ。
アルヴィンの言葉が腑に落ちない名無しは彼に確認をしたが、アルヴィンは黙ったままだった。
ここにきてからのアルヴィンはカラハ・シャールを発つ前に比べやけに自分の事をミラたちに話している。
カラハ・シャールの時とは違い、なんとなくジュード達への対応に影が見えるのを名無しは感じていた。
仕事だけ、という割りきったたいどがあまり感じられずそれがどこか心配をさせる。
ローエンが、アルクノアの作戦についてなにかしっていないかアルヴィンにたずねた。
アルヴィンは素直にアルクノアの作戦を話す。
アルクノアは大会を利用してミラを殺すつもりだという。
たとえ勝利したとしても、ミラが疲労困憊のところを狙い殺すという二段構えの作戦だそうだ。
「大会をなんだと思ってるんだ!」
アルヴィンから作戦をきいたユルゲンスが声をあらげた。
秩序ある伝統を利用されているのだ、無理もないだろう。
「ふ、なんとも穴だらけの作戦だな、私が代表で出なければ簡単にくじける」
ミラの言葉に、それもそうだとレイアが気がつき口にした。
だが、ミラはそのくだらない作戦にのりやつらを誘き出してやろうと言い出す。
アルヴィンとローエン、そしてレイアがその言葉をききやめた方がいいと強く推した。
「ミラが死んじゃうー」
ティポもその行為には当然反対をしたが、ミラはぎゃくに晴れやかな表情でジュードに目線をうつし、彼はそうではないと言う。
ジュードを見ると、彼は考えるときの癖なのだろうかこめかみに指をあて何か考えているようだった。
考えをまとめるように、ジュードが声を出す。
ミラが戦っている間に客席からそれらしいやつを自分達がみつけ止めてもらうためではないか、とジュードが言うとミラは満足そうに頷いた。
ジュードの発言にレイアが抗議の声をあげたが、普通なら出てこないアルクノアを誘き出すには良い機会だとジュードとミラが口を揃えた。
ユルゲンスがミラの身を案じて本当に出場するつもりなのかを再確認する。
ユルゲンスの部族の誇りも背負っているとミラは力強く言う。
なんとか成功させるしかない。
そう一同に言い聞かせ、皆は大会に参加するため先に進んだ。
「ミラ、絶対アルクノアをやっつけようね」
「ああ、…アルヴィン、もうひとつ確認したいことがある」
「これ以上はなにもならないぜ?」
「名無しのことはどうなっている、作戦が失敗しているのになにもないことないだろう」
「なにも聞いてない、その事に関してだけは」
「名無しも狙われてるんだよね、なにも聞いてないってひっかかるね」
ジュードに言われたあと、ミラが考えローエンと名無しを呼び戻した。
「名無し、ローエン」
「なに、ミラ?」
「御呼びでしょうか?」
「ローエン、名無しから目を離すな。名無しも離れるな、いいな」
「私でよろしいのでしょうか?
「アルヴィンと一緒にいては余計奴等の目につくだろう」
「なるほど、では名無しさん。私にお任せください」
「はい、私も足引っ張らないようにします」
「…爺さん、頼んだぜ」
「お任せください」
ミラとわかれ、それぞれ客席に散り散りになりアルクノアの出現を待つ。
大会がはじまると、試合の相手が詠唱もなく突如精霊術を発動した。
相手は間違いなく黒匣を使用していた。
ジュードとローエンが客席を見渡しアルクノアを探すもそれらしい姿は見当たらなかった。
名無しもローエンについていき辺りを見回したが、名無しの知るアルクノアの印を持つ者はみつけることができない。
対戦者の数が三人になり、ミラが攻撃を避けたあとになにか叫んでいることに名無しは気がついた。
視線の先を見るとアルヴィンが名無しをみたあとに去っていくエリーゼを追うのが見えた。
同時に、ミラを狙っていないというアルヴィン声が聞こえ名無しとジュード達は急いでミラの助けに向かった。
助けに向かうと、レイアしかいなかった為ジュードが何故か聞くと、ミラがティポがアルクノアにさらわれそれを追ったエリーゼをアルヴィンにそれを追わせたという。
事情をきき終わるまもなく、対戦相手が襲いかかってきたためアルクノアに応戦した。
黒匣を目の前にしたミラはとても強く感じた。
残った皆でアルクノアを倒し大会は終り、急いでユルゲンスのもとに向かうとエリーゼとアルヴィンの足取りは掴めてないと言われた。
探しにいこうとしたが、土地勘のないものが動いたところでどうにもならないと言われ、悔しいがもっともな意見に今は連絡を待つことにした。
宿に戻り、皆はユルゲンスからの連絡を待つことにした。
「ずいぶん、経ちますね…」
「ひょっとして、アルヴィン…」
「そんなことない、アルはっ!!」
「名無し!気を立てるな」
「…ミラっ」
「わたし、どうしてエリーゼが席を離れたことに気がつかなかったんだろう、そうすればエリーゼだって」
「レイアのせいじゃないよ」
「でも…」
レイアが涙をこらえながらうつむいたとき、ユルゲンスが二人の足取りがつかめたといって部屋にはいってきた。
二人は王の狩り場という場所に向かったらしい。
二人のいきさきがわかったので、皆は急いでそこに向かうことにする。
王の狩り場で二人を探しているうちに、リーベリー岩孔にたどり着いた。
なにか建物があった形跡があり、その場は廃墟のように不気味な雰囲気を放っていた。
入り口のあたりに、小さな足跡を見付けおそらくエリーゼのものだろうと考察し奥へと進んでいった。
奥へ進むと、アルヴィンとエリーゼをみつけることができた。
アルヴィンが怪我をし、もたれていたが命に別状はなさそうだった。
エリーゼがミラをみると彼女にしがみつき泣き出した。
名無しも急いでアルヴィンにかけより安否を確認する。
「アル!大丈夫?ジュード君お願い、早く治療してあげて」
「今やってるから落ち着いて」
「アル…っ」
「カッコ悪いとこみんなよ…っい、て…っ」
すると、レイアが横でティポを拾い上げるとティポの様子がおかしかった。
アルクノアがティポからなにかを抜き取るとこのようになったのだという。
やはり仕掛けで動いていたのだろう、ジュード
言う。
ミラがアルクノアについてきくと、一人は殺せたがもう一人には逃げられたということだった。
ミラがアルヴィンに礼を言うと、エリーゼから離れ目の前の黒匣を壊した。
エリーゼがティポはどうなるのかと聞くと、ジュードが抜き取られたものを取り返せばどうにかなるのではないかといい、ミラはアルヴィンに再びアルクノアについて質問した。
アルクノアは大分前にいってしまったようで、取り返すのは無理だとミラははっきりいう。
エリーゼが盗まれたものを取り返しにいきたいようだったが、ミラがそれならばお別れだとを切り捨てた。
冷たい言葉ではあるが、いまの状態では当然の判断だろう。
ローエンに促され、皆が外に向かおうと進むと突然ジャオにであう。
ジャオはエリーゼの顔をみるなり、顔を曇らせた。
ここは、どうやらエリーゼが育った研究所の跡だったらしい。
以前アルヴィンに潜り込まれ破棄したこの研究所跡は、増霊極というア・ジュールが開発したマナの増幅機の研究所だそうだ。
ティポがその増霊極の第三世代だとアルヴィンは言った。
ジャオがティポはエリーゼの心に反応し喋るものだと説明するとエリーゼはそれを否定したが、ティポに勘違いといわれ黙る。
ティポはそのままジャオにエリーゼの両親について尋ねた。
「それはの…もうこの世にはおらぬ…」
エリーゼが幼いときにすでに両親は殺されたとジャオは答えた。
ジャオの言葉を聞いてショックをうけたエリーゼはレイアのフォローにたいし私の気持ちがわかるものかとティポでいい放ち走り去ってしまう。
レイアが急いでエリーゼを追った。
エリーゼと似た歳の頃に両親を失った名無しには、その気持ちが痛いほどわかった。
見るに耐えられず、名無しも急いでエリーゼを追った。
入り口あたりでエリーゼとレイアの姿が見えたため、名無しは二人の名前を呼ぼうとした。
「エリー…っ!」
エリーゼの名前をよぼうとしたそのとき、背後から鈍い音がしたと思うと後頭部に強い痛みを感じた。
痛みに気がついたときには遅く、布で鼻と口を覆われると意識はそこで途絶えた。
***
ミラ達は、ジャオからエリーゼはイスラがこの研究所に売ったものだという話をきいたあとエリーゼとレイアのところに向かった。
エリーゼは黙ったままでなにも言おうとしなかったが、無事が確認できたため町に戻ろうと皆はすすんだ時だった。
アルヴィンがその場に立ち止まりあたりを見渡していたのにジュードが気がついた。
「アルヴィン?」
「レイア、名無しのやつどこ行った」
「え、一緒じゃなかったの?」
「なんだってこのタイミングなんだ!くそっ!」
「ちょっとアルヴィン君!」
アルヴィンが一人で再びリーベリー岩孔の奥へと走り出し、ジュードも気がつきミラに言う。
「ミラ!名無しが!」
「なに…っ?!」
「いったいいつの間に」
「先程一人でいたときだろう、あの一瞬でとは…っそんな遠くにはいないはずだ!急いで探せ!」
ミラの言葉を合図に皆は名無しを探しに再び廃墟に戻った。
ーリーベリー岩孔の入り口付近から飛び降りたあたりに名無しは無理矢理押し込まれていた。
コンテナのような箱に無理矢理つめられたため、からだの痛みからすぐに意識を取り戻すことはできた。
「しくじったわね…二回目なんてカッコ悪い…」
箱の中で悔やんだが、そんなことをしている場合ではないので脱出する術を考える。
腕は縄で縛られていたが、ガンダラ要塞の時の腐りに比べればどうということはなかった。
仕込みナイフも奪われていないことを確認し、うまいこと体を捻らせ縄を切ることに成功する。
解放された手で箱を開けようと持ち上げたが、上になにかが乗っかっているようで開けることができない。
幸いにも、名無しが押し込められたコンテナはそれなりに古くわずかな光がさしていた。
その隙間を狙い、名無しは思いきり蹴り混むと存外簡単にそれは壊れすぐに外に出ることができた。
「閉じ込めるならもっとまともなとこにしなさいよ…、っ今のうちに」
名無しが急いで逃げようとすると、アルクノアと思われる男が二人、坑道の入り口に立っていた。
「やっぱあんなんじゃ壊れるじゃねーか」
「だな、ってことでお姉さん。もっぺん倒れてもらうよ?」
「ずいぶん余裕なの…ね!」
男たちが余裕に笑った瞬間、名無しはボウガンを構え撃った。
確実に仕留められるよう頭部を狙ったが、男は黒匣をつかい簡単にそれを防いだ。
そのすぐ次に名無しが弾を装填し打ち込む。
黒匣を使われてはやっかいなので、手っ取り早く腕から狙うことにし、それをあてると男から悲鳴が上がった。
もう一人がその声に頭にちを上らせ名無しにつっこんでくる。
理性を失ったものの戦いなど動作もなく、その攻撃は簡単に避けることができ、名無しはその男の胸元にマナを帯びさせたナイフを抉り込ませた。
ごりごりと男の中で骨の削れる音がしたのを確認すると、男の体温を直に感じた自信の腕をその胸から引きずり出す。
男のからだが歪な噴水に変わり赤い水飛沫をあげて倒れた。
「まずは一人…、逃げるなら今のうちだけど?」
「はっ!女がでしゃばるなよ」
「地面に這いつくばってるくせによくいうわ」
先程腕をやった男が倒れこんだまま威勢よくいった。
口先だけだと、名無しは男の息の根を止めるために踏み込んだ時だった。
地面から電撃が走り名無しの全身を襲った。
「きゃあああああ!」
「ただ這いつくばってると思うなよ!油断したな!」
「く…地面に…埋め込んで…」
地面に埋め込んだ黒匣を自身の体で隠し発動したようだった。
おそらく名無しが一人を殺ったときに仕込んだのだろう。
体が痺れ、名無しは身動きがとれなくな今度は名無しが地面に這いつくばる番になった。
その名無しに男はゆっくりと近づき不適に笑った。
「そういえば…殺さなきゃいいって話しか聞いてねぇんだったな」
「なに、す…っ?!」
「言われなくてもわかってんだろ」
男の手が迷いなく名無しの服に手をかけた。
抵抗しようとしたが先程の黒匣による攻撃で体は完全に痺れいうことを聞かなかった。
なんとか動かそうと声を上げ、腕を振り上げるもあっけなく足で踏み潰されおさつけられてしまった。
無駄無駄、と男が楽しみながら名無しの手からナイフを奪いどうということもなく胸部の服を切った。
抵抗もできなく胸を露にされ名無しが必死に声をあげようとすると刻まれた服をそのまま口に詰め込まれそれを防がれた。
「逃げるのはお前だったんじゃねーの?はははっ」
男は馬乗りになり露になった名無しの胸を強く握りながら笑った。
そして傷つけられた分と言って名無しの腕にナイフを刺し行為にいたろうと名無しの体を触りだす。
気持ちの悪い感覚が全身に這った。
未だに痺れている部分をさわられると痛みに近いものが全身に走り身を跳ねさせた。
その姿が愉快なのか、男はさわるのをやめなかった。
男の手が、名無しの足を持ち上げたのが確かに確認できたと同時に、あまりの恐怖感が名無しを襲った瞬間でもあった。
痛みなど関係なく、例え動いていないとしてもとにかく必死に名無しはその腕から逃れようと暴れる。
当然敵うはずもないのだが、抵抗しようとする意志が男の不快感を煽ったのか一度その手が止まる。
「いい加減諦め…っ」
男の叫び声と同時に、名無しの目の前に赤い華が咲いた。
よくみると、目の前の男の体がまるで銃弾を受けたワイン樽のような姿で血を吹き出していた。
何が起きたのか理解できずにぽかんとしていると、誰かの声が聞こえたが中で銃声が反響したせいで耳鳴りがし、あまりよく聞き取れない。
人の姿が見えた気がしたのだが、その姿はすぐ外へと消えてしまった。
それから間もなくして、レイアが駆け寄ってきて名無しにアルヴィンのコートをかけた。
治癒術を施してもらい、起き上がることができレイアに詫びをいれた。
「ごめん、迷惑かけて…」
「なんで謝るの、それよりも大丈夫?ほかどこ怪我してない?」
「ん、大丈夫」
「よかったぁ…あ、コート、アルヴィン君が着ててって。あとちゃんと前閉めないとね、たてる?」
「うん」
「街についたら着替えないと、行ける?」
「うん、ありがとう」
レイアに手を引かれ外に出ると、皆が待っていた。
「皆ごめん…」
「謝る必要などありませんよ、あの様なタイミングなど誰も想定の範囲外です」
「すまない、私が油断したせいだ」
「二人こそ謝らないで、私の不注意だし」
「それより怪我とかない?」
「ありがとうジュード君、レイアちゃんにやってもらったから…、そうだ、エリーゼは」
「エリーゼならここにいるよ」
「よかった、エリーゼ…」
「よかったじゃないだろ!」
名無しがエリーゼの安否を確認し安堵していると、アルヴィンが名無しを怒鳴った。
「お前自分がどうなってたかわかってんのか!人の心配してる場合じゃないだろ!」
「…ごめん…」
「アルヴィンさん、お気持ちはお察ししますが無事を確認できたいま、早急に立ち去る方が得策かと」
「…ちっ」
「ごめんなさい、そう、ですよね。早く戻りましょう」
シャン・ドゥに戻ると、ミラがジュードの様子を見てなにかひっかかるのかと聞いた。
ジャオからなにか話を聞いてからずっと考え込んでいるようだったらしく、名無しはジャオから聞いた話をジュードから聞いた。
そしてイスラが、タイミングが良いとは言いきれない場面でジュードたちに近づいてきた。
王の狩り場に向かったときき心配をしてくれていたらしく、関係のないものを巻き込んだと頭を下げた。
そんなイスラをみて、ジュードがイスラに質問した。
「イスラさん、それ嘘ですね?」
「な、なに?私が心配したら変かしら?」
「ジュード、どうしたの?」
レイアが何をいっているのか理解せずジュードにきくと、ジュードはイスラが出会ったのは偶然ではなく計画的なものだったと言った。
アルクノアに頼まれたのではないか、とジュードが詰めると、イスラは悔しそうにきつく手を握った。
「あの人たち…バレないから平気だって言ったのに…」
「確認するが、その口ぶりだと名無しをはめたのもお前で間違いないのか?」
「闘技場のことですね、イスラさんあなたはなんてことを…」
「…っ!でも!私だってあの人達に!」
イスラの表情をみてジュードが言葉を続けた。
先程、ジャオから聞いた話をそのままイスラにはなすと、イスラはそれをユルゲンスに言われることを恐れており、それを弱味に利用されたそうだった。
イスラがミラに女ならばわかるだろうと同情を求めたが、マクスウェルであり恋愛の経験もないミラにその言葉は当然届かなかった。
報いがほしいとイスラは土下座をしたが、ミラはそれをエリーゼに託した。
不機嫌そうになぜ自分なのかエリーゼがと文句をいうと、他の誰よりも権利があるだろうとミラは答えたが、エリーゼは知らないと冷たく言い放ち川の方を向いた。
イスラが力なく立ち上がり去ると本当になにもできないのだろうかと、ジュードが虚しく呟いた。
皆は、ユルゲンスを探すために街を歩いていたが、彼はなかなかみつかれなかった。
そこで、ローエンが考え込み口を開くと、ガンダラ要塞で行われていた実験について増霊極のためではなかったのかと言い出した。
あの時ティポを使っていたのは間違いなく、その技術がラ・シュガルに渡ってるのは間違いないとみていい。
その話を聞いて、名無しはローエンの話に妙に納得がいった。
そこで、名無しはぽろっと声を漏らした。
「…もしかして」
「そういえばお前は捕らえられて機材に入れられていたな」
「うん、そうだけど…まだ不鮮明なところが大きすぎる…なんのために…」
「名無し、説明してもらっても大丈夫?」
「アルクノアが、ラ・シュガルに黒匣を伝えただろうっていうのは聞いてるんだよね」
「ああ、話してある」
「私がアルクノアに板ころの話、ミラにはしたんだけど皆にもしたほうがいいみたい」
「名無し、いいのか?」
「うん、それで何かのきっかけになれるなら」
そうして、名無しは自分の両親のことと頭に埋め込まれている黒匣について話をした。
人体実験の基盤を作ったのはおそらく自分でもあること、その唯一の生き残りをサンプリングし何かをしようとしてることを話した。
何故言わなかったのかとジュードに責められたが、アルクノアに関わることであるためミラが秘密りに行っていたことを簡単に言うわけにもいかなかったというとジュードはハッとする。
「でも、もう私一人じゃどうにもできないことってわかったから、ミラもアルもアルクノアのこと話したし」
「うむ、皆がすでに巻き込まれてしまっている、全員の身の安全のためにも大事な話だと言うことだ」
「では、今後は私たちにもその荷を預けさせていただけるということでよろしいですね?」
「ええ、頼りにしてます、ローエンさん」
「私もいるからね!」
「ありがとう、レイアちゃん」
「一応、俺もいるんだけどな」
「ん、頼りにしてる」
「ミラ、名無し、僕も力になるから」
名無しが事情を話したあとに、それが戦争に使われる可能性があるのではと話は発展した 。
そのような力同士が戦争に使われれば、被害はとんでもないものになるだろう。
不吉な話に、その場が沈みこんだところに、ユルゲンスがやってきた。
どうやら戦争の気配が強まっているらしく、ワイバーンを飛ばすのは、名無しに以前話したように王からの許可が必要だと言う。
増霊極のことも伝えたいとジュード達がいい、皆はカンバルクに向かうことにした。
この場にミラたちがやって来たことに、ユルゲンスがまず礼を言うと突如委員会が決勝戦をやると決めたということだった。
それだけではなく、相手が死ぬまで戦いを続ける前王時代のルールに従い決勝を執り行うというのだった。
さらに加え、このルールは一人で戦うものだという。
ルールの変更もあり、参加について相談をするがワイバーンは必要なものであるため引くわけにはいかなかった。
「何故前王時代のルールで戦うことに…」
「やめておけよ、こいつはおたくの命を狙ったアルクノアの作戦だぜ」
「アルクノアの?!」
「あっれー?なんでアルヴィン君が知ってるの?」
「いいのか?」
「アル、いいの?」
アルヴィンの発言に皆がそれぞれの驚きを見せた。
名無しとミラ以外は当然の反応だろう。
隠していたことだというのに、それを公にする意味を二人は確認すると、アルヴィンは皆に背中を向けて言う。
「さっきの礼だよ、それにお前のこともあるしな、黙ってんのもそろそろ限界あんだろ」
「アル…」
「どういうことなの?」
ジュードが娘とを知っている素振りをするミラに確認をする。
ミラもアルヴィンの態度からアルヴィンがアルクノアに関係していることを話すと皆の動揺が明らかに見てとれた。
仕事を頼まれたりしていたことを話すと、やはり今回の事件に関わったかどうかを聞かれた。
アルヴィンも、今回の事件に関しては関与していなく食事をとっていたら自分も同じ末路だったと答えた。
アルクノアといっても深入りはしてなく、駒使いなだけだと付け加える。
「なら、アルクノアの仕事はもうしないって約束してくれる?」
「わかった、誓うよ」
「よかった…」
「そんなことできるの…?」
「…」
もうやらない、それで済むようならばアルヴィンもイスラも今頃アルクノアに関わっていないはずだ。
アルヴィンの言葉が腑に落ちない名無しは彼に確認をしたが、アルヴィンは黙ったままだった。
ここにきてからのアルヴィンはカラハ・シャールを発つ前に比べやけに自分の事をミラたちに話している。
カラハ・シャールの時とは違い、なんとなくジュード達への対応に影が見えるのを名無しは感じていた。
仕事だけ、という割りきったたいどがあまり感じられずそれがどこか心配をさせる。
ローエンが、アルクノアの作戦についてなにかしっていないかアルヴィンにたずねた。
アルヴィンは素直にアルクノアの作戦を話す。
アルクノアは大会を利用してミラを殺すつもりだという。
たとえ勝利したとしても、ミラが疲労困憊のところを狙い殺すという二段構えの作戦だそうだ。
「大会をなんだと思ってるんだ!」
アルヴィンから作戦をきいたユルゲンスが声をあらげた。
秩序ある伝統を利用されているのだ、無理もないだろう。
「ふ、なんとも穴だらけの作戦だな、私が代表で出なければ簡単にくじける」
ミラの言葉に、それもそうだとレイアが気がつき口にした。
だが、ミラはそのくだらない作戦にのりやつらを誘き出してやろうと言い出す。
アルヴィンとローエン、そしてレイアがその言葉をききやめた方がいいと強く推した。
「ミラが死んじゃうー」
ティポもその行為には当然反対をしたが、ミラはぎゃくに晴れやかな表情でジュードに目線をうつし、彼はそうではないと言う。
ジュードを見ると、彼は考えるときの癖なのだろうかこめかみに指をあて何か考えているようだった。
考えをまとめるように、ジュードが声を出す。
ミラが戦っている間に客席からそれらしいやつを自分達がみつけ止めてもらうためではないか、とジュードが言うとミラは満足そうに頷いた。
ジュードの発言にレイアが抗議の声をあげたが、普通なら出てこないアルクノアを誘き出すには良い機会だとジュードとミラが口を揃えた。
ユルゲンスがミラの身を案じて本当に出場するつもりなのかを再確認する。
ユルゲンスの部族の誇りも背負っているとミラは力強く言う。
なんとか成功させるしかない。
そう一同に言い聞かせ、皆は大会に参加するため先に進んだ。
「ミラ、絶対アルクノアをやっつけようね」
「ああ、…アルヴィン、もうひとつ確認したいことがある」
「これ以上はなにもならないぜ?」
「名無しのことはどうなっている、作戦が失敗しているのになにもないことないだろう」
「なにも聞いてない、その事に関してだけは」
「名無しも狙われてるんだよね、なにも聞いてないってひっかかるね」
ジュードに言われたあと、ミラが考えローエンと名無しを呼び戻した。
「名無し、ローエン」
「なに、ミラ?」
「御呼びでしょうか?」
「ローエン、名無しから目を離すな。名無しも離れるな、いいな」
「私でよろしいのでしょうか?
「アルヴィンと一緒にいては余計奴等の目につくだろう」
「なるほど、では名無しさん。私にお任せください」
「はい、私も足引っ張らないようにします」
「…爺さん、頼んだぜ」
「お任せください」
ミラとわかれ、それぞれ客席に散り散りになりアルクノアの出現を待つ。
大会がはじまると、試合の相手が詠唱もなく突如精霊術を発動した。
相手は間違いなく黒匣を使用していた。
ジュードとローエンが客席を見渡しアルクノアを探すもそれらしい姿は見当たらなかった。
名無しもローエンについていき辺りを見回したが、名無しの知るアルクノアの印を持つ者はみつけることができない。
対戦者の数が三人になり、ミラが攻撃を避けたあとになにか叫んでいることに名無しは気がついた。
視線の先を見るとアルヴィンが名無しをみたあとに去っていくエリーゼを追うのが見えた。
同時に、ミラを狙っていないというアルヴィン声が聞こえ名無しとジュード達は急いでミラの助けに向かった。
助けに向かうと、レイアしかいなかった為ジュードが何故か聞くと、ミラがティポがアルクノアにさらわれそれを追ったエリーゼをアルヴィンにそれを追わせたという。
事情をきき終わるまもなく、対戦相手が襲いかかってきたためアルクノアに応戦した。
黒匣を目の前にしたミラはとても強く感じた。
残った皆でアルクノアを倒し大会は終り、急いでユルゲンスのもとに向かうとエリーゼとアルヴィンの足取りは掴めてないと言われた。
探しにいこうとしたが、土地勘のないものが動いたところでどうにもならないと言われ、悔しいがもっともな意見に今は連絡を待つことにした。
宿に戻り、皆はユルゲンスからの連絡を待つことにした。
「ずいぶん、経ちますね…」
「ひょっとして、アルヴィン…」
「そんなことない、アルはっ!!」
「名無し!気を立てるな」
「…ミラっ」
「わたし、どうしてエリーゼが席を離れたことに気がつかなかったんだろう、そうすればエリーゼだって」
「レイアのせいじゃないよ」
「でも…」
レイアが涙をこらえながらうつむいたとき、ユルゲンスが二人の足取りがつかめたといって部屋にはいってきた。
二人は王の狩り場という場所に向かったらしい。
二人のいきさきがわかったので、皆は急いでそこに向かうことにする。
王の狩り場で二人を探しているうちに、リーベリー岩孔にたどり着いた。
なにか建物があった形跡があり、その場は廃墟のように不気味な雰囲気を放っていた。
入り口のあたりに、小さな足跡を見付けおそらくエリーゼのものだろうと考察し奥へと進んでいった。
奥へ進むと、アルヴィンとエリーゼをみつけることができた。
アルヴィンが怪我をし、もたれていたが命に別状はなさそうだった。
エリーゼがミラをみると彼女にしがみつき泣き出した。
名無しも急いでアルヴィンにかけより安否を確認する。
「アル!大丈夫?ジュード君お願い、早く治療してあげて」
「今やってるから落ち着いて」
「アル…っ」
「カッコ悪いとこみんなよ…っい、て…っ」
すると、レイアが横でティポを拾い上げるとティポの様子がおかしかった。
アルクノアがティポからなにかを抜き取るとこのようになったのだという。
やはり仕掛けで動いていたのだろう、ジュード
言う。
ミラがアルクノアについてきくと、一人は殺せたがもう一人には逃げられたということだった。
ミラがアルヴィンに礼を言うと、エリーゼから離れ目の前の黒匣を壊した。
エリーゼがティポはどうなるのかと聞くと、ジュードが抜き取られたものを取り返せばどうにかなるのではないかといい、ミラはアルヴィンに再びアルクノアについて質問した。
アルクノアは大分前にいってしまったようで、取り返すのは無理だとミラははっきりいう。
エリーゼが盗まれたものを取り返しにいきたいようだったが、ミラがそれならばお別れだとを切り捨てた。
冷たい言葉ではあるが、いまの状態では当然の判断だろう。
ローエンに促され、皆が外に向かおうと進むと突然ジャオにであう。
ジャオはエリーゼの顔をみるなり、顔を曇らせた。
ここは、どうやらエリーゼが育った研究所の跡だったらしい。
以前アルヴィンに潜り込まれ破棄したこの研究所跡は、増霊極というア・ジュールが開発したマナの増幅機の研究所だそうだ。
ティポがその増霊極の第三世代だとアルヴィンは言った。
ジャオがティポはエリーゼの心に反応し喋るものだと説明するとエリーゼはそれを否定したが、ティポに勘違いといわれ黙る。
ティポはそのままジャオにエリーゼの両親について尋ねた。
「それはの…もうこの世にはおらぬ…」
エリーゼが幼いときにすでに両親は殺されたとジャオは答えた。
ジャオの言葉を聞いてショックをうけたエリーゼはレイアのフォローにたいし私の気持ちがわかるものかとティポでいい放ち走り去ってしまう。
レイアが急いでエリーゼを追った。
エリーゼと似た歳の頃に両親を失った名無しには、その気持ちが痛いほどわかった。
見るに耐えられず、名無しも急いでエリーゼを追った。
入り口あたりでエリーゼとレイアの姿が見えたため、名無しは二人の名前を呼ぼうとした。
「エリー…っ!」
エリーゼの名前をよぼうとしたそのとき、背後から鈍い音がしたと思うと後頭部に強い痛みを感じた。
痛みに気がついたときには遅く、布で鼻と口を覆われると意識はそこで途絶えた。
***
ミラ達は、ジャオからエリーゼはイスラがこの研究所に売ったものだという話をきいたあとエリーゼとレイアのところに向かった。
エリーゼは黙ったままでなにも言おうとしなかったが、無事が確認できたため町に戻ろうと皆はすすんだ時だった。
アルヴィンがその場に立ち止まりあたりを見渡していたのにジュードが気がついた。
「アルヴィン?」
「レイア、名無しのやつどこ行った」
「え、一緒じゃなかったの?」
「なんだってこのタイミングなんだ!くそっ!」
「ちょっとアルヴィン君!」
アルヴィンが一人で再びリーベリー岩孔の奥へと走り出し、ジュードも気がつきミラに言う。
「ミラ!名無しが!」
「なに…っ?!」
「いったいいつの間に」
「先程一人でいたときだろう、あの一瞬でとは…っそんな遠くにはいないはずだ!急いで探せ!」
ミラの言葉を合図に皆は名無しを探しに再び廃墟に戻った。
ーリーベリー岩孔の入り口付近から飛び降りたあたりに名無しは無理矢理押し込まれていた。
コンテナのような箱に無理矢理つめられたため、からだの痛みからすぐに意識を取り戻すことはできた。
「しくじったわね…二回目なんてカッコ悪い…」
箱の中で悔やんだが、そんなことをしている場合ではないので脱出する術を考える。
腕は縄で縛られていたが、ガンダラ要塞の時の腐りに比べればどうということはなかった。
仕込みナイフも奪われていないことを確認し、うまいこと体を捻らせ縄を切ることに成功する。
解放された手で箱を開けようと持ち上げたが、上になにかが乗っかっているようで開けることができない。
幸いにも、名無しが押し込められたコンテナはそれなりに古くわずかな光がさしていた。
その隙間を狙い、名無しは思いきり蹴り混むと存外簡単にそれは壊れすぐに外に出ることができた。
「閉じ込めるならもっとまともなとこにしなさいよ…、っ今のうちに」
名無しが急いで逃げようとすると、アルクノアと思われる男が二人、坑道の入り口に立っていた。
「やっぱあんなんじゃ壊れるじゃねーか」
「だな、ってことでお姉さん。もっぺん倒れてもらうよ?」
「ずいぶん余裕なの…ね!」
男たちが余裕に笑った瞬間、名無しはボウガンを構え撃った。
確実に仕留められるよう頭部を狙ったが、男は黒匣をつかい簡単にそれを防いだ。
そのすぐ次に名無しが弾を装填し打ち込む。
黒匣を使われてはやっかいなので、手っ取り早く腕から狙うことにし、それをあてると男から悲鳴が上がった。
もう一人がその声に頭にちを上らせ名無しにつっこんでくる。
理性を失ったものの戦いなど動作もなく、その攻撃は簡単に避けることができ、名無しはその男の胸元にマナを帯びさせたナイフを抉り込ませた。
ごりごりと男の中で骨の削れる音がしたのを確認すると、男の体温を直に感じた自信の腕をその胸から引きずり出す。
男のからだが歪な噴水に変わり赤い水飛沫をあげて倒れた。
「まずは一人…、逃げるなら今のうちだけど?」
「はっ!女がでしゃばるなよ」
「地面に這いつくばってるくせによくいうわ」
先程腕をやった男が倒れこんだまま威勢よくいった。
口先だけだと、名無しは男の息の根を止めるために踏み込んだ時だった。
地面から電撃が走り名無しの全身を襲った。
「きゃあああああ!」
「ただ這いつくばってると思うなよ!油断したな!」
「く…地面に…埋め込んで…」
地面に埋め込んだ黒匣を自身の体で隠し発動したようだった。
おそらく名無しが一人を殺ったときに仕込んだのだろう。
体が痺れ、名無しは身動きがとれなくな今度は名無しが地面に這いつくばる番になった。
その名無しに男はゆっくりと近づき不適に笑った。
「そういえば…殺さなきゃいいって話しか聞いてねぇんだったな」
「なに、す…っ?!」
「言われなくてもわかってんだろ」
男の手が迷いなく名無しの服に手をかけた。
抵抗しようとしたが先程の黒匣による攻撃で体は完全に痺れいうことを聞かなかった。
なんとか動かそうと声を上げ、腕を振り上げるもあっけなく足で踏み潰されおさつけられてしまった。
無駄無駄、と男が楽しみながら名無しの手からナイフを奪いどうということもなく胸部の服を切った。
抵抗もできなく胸を露にされ名無しが必死に声をあげようとすると刻まれた服をそのまま口に詰め込まれそれを防がれた。
「逃げるのはお前だったんじゃねーの?はははっ」
男は馬乗りになり露になった名無しの胸を強く握りながら笑った。
そして傷つけられた分と言って名無しの腕にナイフを刺し行為にいたろうと名無しの体を触りだす。
気持ちの悪い感覚が全身に這った。
未だに痺れている部分をさわられると痛みに近いものが全身に走り身を跳ねさせた。
その姿が愉快なのか、男はさわるのをやめなかった。
男の手が、名無しの足を持ち上げたのが確かに確認できたと同時に、あまりの恐怖感が名無しを襲った瞬間でもあった。
痛みなど関係なく、例え動いていないとしてもとにかく必死に名無しはその腕から逃れようと暴れる。
当然敵うはずもないのだが、抵抗しようとする意志が男の不快感を煽ったのか一度その手が止まる。
「いい加減諦め…っ」
男の叫び声と同時に、名無しの目の前に赤い華が咲いた。
よくみると、目の前の男の体がまるで銃弾を受けたワイン樽のような姿で血を吹き出していた。
何が起きたのか理解できずにぽかんとしていると、誰かの声が聞こえたが中で銃声が反響したせいで耳鳴りがし、あまりよく聞き取れない。
人の姿が見えた気がしたのだが、その姿はすぐ外へと消えてしまった。
それから間もなくして、レイアが駆け寄ってきて名無しにアルヴィンのコートをかけた。
治癒術を施してもらい、起き上がることができレイアに詫びをいれた。
「ごめん、迷惑かけて…」
「なんで謝るの、それよりも大丈夫?ほかどこ怪我してない?」
「ん、大丈夫」
「よかったぁ…あ、コート、アルヴィン君が着ててって。あとちゃんと前閉めないとね、たてる?」
「うん」
「街についたら着替えないと、行ける?」
「うん、ありがとう」
レイアに手を引かれ外に出ると、皆が待っていた。
「皆ごめん…」
「謝る必要などありませんよ、あの様なタイミングなど誰も想定の範囲外です」
「すまない、私が油断したせいだ」
「二人こそ謝らないで、私の不注意だし」
「それより怪我とかない?」
「ありがとうジュード君、レイアちゃんにやってもらったから…、そうだ、エリーゼは」
「エリーゼならここにいるよ」
「よかった、エリーゼ…」
「よかったじゃないだろ!」
名無しがエリーゼの安否を確認し安堵していると、アルヴィンが名無しを怒鳴った。
「お前自分がどうなってたかわかってんのか!人の心配してる場合じゃないだろ!」
「…ごめん…」
「アルヴィンさん、お気持ちはお察ししますが無事を確認できたいま、早急に立ち去る方が得策かと」
「…ちっ」
「ごめんなさい、そう、ですよね。早く戻りましょう」
シャン・ドゥに戻ると、ミラがジュードの様子を見てなにかひっかかるのかと聞いた。
ジャオからなにか話を聞いてからずっと考え込んでいるようだったらしく、名無しはジャオから聞いた話をジュードから聞いた。
そしてイスラが、タイミングが良いとは言いきれない場面でジュードたちに近づいてきた。
王の狩り場に向かったときき心配をしてくれていたらしく、関係のないものを巻き込んだと頭を下げた。
そんなイスラをみて、ジュードがイスラに質問した。
「イスラさん、それ嘘ですね?」
「な、なに?私が心配したら変かしら?」
「ジュード、どうしたの?」
レイアが何をいっているのか理解せずジュードにきくと、ジュードはイスラが出会ったのは偶然ではなく計画的なものだったと言った。
アルクノアに頼まれたのではないか、とジュードが詰めると、イスラは悔しそうにきつく手を握った。
「あの人たち…バレないから平気だって言ったのに…」
「確認するが、その口ぶりだと名無しをはめたのもお前で間違いないのか?」
「闘技場のことですね、イスラさんあなたはなんてことを…」
「…っ!でも!私だってあの人達に!」
イスラの表情をみてジュードが言葉を続けた。
先程、ジャオから聞いた話をそのままイスラにはなすと、イスラはそれをユルゲンスに言われることを恐れており、それを弱味に利用されたそうだった。
イスラがミラに女ならばわかるだろうと同情を求めたが、マクスウェルであり恋愛の経験もないミラにその言葉は当然届かなかった。
報いがほしいとイスラは土下座をしたが、ミラはそれをエリーゼに託した。
不機嫌そうになぜ自分なのかエリーゼがと文句をいうと、他の誰よりも権利があるだろうとミラは答えたが、エリーゼは知らないと冷たく言い放ち川の方を向いた。
イスラが力なく立ち上がり去ると本当になにもできないのだろうかと、ジュードが虚しく呟いた。
皆は、ユルゲンスを探すために街を歩いていたが、彼はなかなかみつかれなかった。
そこで、ローエンが考え込み口を開くと、ガンダラ要塞で行われていた実験について増霊極のためではなかったのかと言い出した。
あの時ティポを使っていたのは間違いなく、その技術がラ・シュガルに渡ってるのは間違いないとみていい。
その話を聞いて、名無しはローエンの話に妙に納得がいった。
そこで、名無しはぽろっと声を漏らした。
「…もしかして」
「そういえばお前は捕らえられて機材に入れられていたな」
「うん、そうだけど…まだ不鮮明なところが大きすぎる…なんのために…」
「名無し、説明してもらっても大丈夫?」
「アルクノアが、ラ・シュガルに黒匣を伝えただろうっていうのは聞いてるんだよね」
「ああ、話してある」
「私がアルクノアに板ころの話、ミラにはしたんだけど皆にもしたほうがいいみたい」
「名無し、いいのか?」
「うん、それで何かのきっかけになれるなら」
そうして、名無しは自分の両親のことと頭に埋め込まれている黒匣について話をした。
人体実験の基盤を作ったのはおそらく自分でもあること、その唯一の生き残りをサンプリングし何かをしようとしてることを話した。
何故言わなかったのかとジュードに責められたが、アルクノアに関わることであるためミラが秘密りに行っていたことを簡単に言うわけにもいかなかったというとジュードはハッとする。
「でも、もう私一人じゃどうにもできないことってわかったから、ミラもアルもアルクノアのこと話したし」
「うむ、皆がすでに巻き込まれてしまっている、全員の身の安全のためにも大事な話だと言うことだ」
「では、今後は私たちにもその荷を預けさせていただけるということでよろしいですね?」
「ええ、頼りにしてます、ローエンさん」
「私もいるからね!」
「ありがとう、レイアちゃん」
「一応、俺もいるんだけどな」
「ん、頼りにしてる」
「ミラ、名無し、僕も力になるから」
名無しが事情を話したあとに、それが戦争に使われる可能性があるのではと話は発展した 。
そのような力同士が戦争に使われれば、被害はとんでもないものになるだろう。
不吉な話に、その場が沈みこんだところに、ユルゲンスがやってきた。
どうやら戦争の気配が強まっているらしく、ワイバーンを飛ばすのは、名無しに以前話したように王からの許可が必要だと言う。
増霊極のことも伝えたいとジュード達がいい、皆はカンバルクに向かうことにした。