2章
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「はい、お疲れ様でした。」
「ありがとうございます」
カラハ・シャールの宿屋の一室で、髪を整えてもらった名無しが理髪師に例を言った。名無しが言ったように、ざっくり切るようなものではなかったため、か、事は直ぐに終わった。
用が済んだため、理髪師と名無しは部屋をあとにしロビーで別れる。
髪をきるようしつこかった当人を探すため名無しは周囲を見渡すと、アルヴィンとジュードの姿を見かけた。
直ぐに声をかけようとしたが、ジュードの表情が暗かったため一瞬躊躇しているとアルヴィンが先に宿を去ってしまった、しばらくしジュードのほうから名無しに気がつき声をかけた。
「名無し、髪の毛、整えてもらってたんだってね」
「ん、切れたところ馴染ませてもらっただけだから、代わり映えしてないけど…、それより、どうしたの?元気ない顔してるけど、ミラ、なんかあった?」
「ううん、ミラはもう大丈夫だって」
「そっか、よかったぁー」
「それじゃあ、僕、いくね」
「?うん、私もあとでいくから」
そういうと、ジュードは宿屋を後にした。しかしなぜ、ミラが無事だったというのに彼は元気がなかったのだろう。あんなにもミラを心配していたのだ、もっと喜んでいてもおかしくないはずなのだが。疑問に思いながら名無しも宿からでると、後ろからアルヴィンに話しかけられたので驚く。何もないように話しかけてくる彼にたいして名無しが問いかけた。
「何かしたの?」
「見てたのか?ミラ様にはついていけないって言っただけだ、新しい依頼が入ったからな」
「大丈夫じゃなかったってことね、やっぱり…」
「なにが」
「ジュード君よ、アル。あなたいつかこういうときが来ても彼ならわかってるだろう、って言ったじゃない」
「さあ、言ったかな」
「じゃあわたしの夢の中の話だったのかも、で、もう次にいくの?」
「まあな」
「それじゃあ、ここまでかしら?」
「名無し、まだ付いていくつもりなのか?」
「ミラの目的がイル・ファンなら必然的にそうなるかな」
「どういう意味だ」
「なにそんなに苛ついてるのよ」
当初、ミラが名無しを守ると言う理由で同行するのとは違う意味を含んだ言葉にアルヴィンが顔をしかめた。しかし、名無しはアルヴィンの質問に適当に笑うだけで答えることはない。
それじゃあ、と一言だけ告げ、後方から聞こえる自分を呼ぶ声を無視し名無しはそのままドロッセルの屋敷に向かった。
屋敷につくとはいると、広間にみんなが集まっていた。皆の表情は少し重いものだった。無事だったときいたのだがこれはいったいどういう事か名無しが聞くと、ミラの足が動かないとのことだった。感覚もないようで、完全に彼女足が逝ったようだった。
その話を聞き終えるとジュードが急いでミラの部屋へと駆けていった。
「…ジュード君には、つらいだろうね…」
「ミラ、もう歩けないんですか?」
「残念ですが、それは私たちにはわかりかねません、なにか方法があればよいのですが」
「それじゃあ、イル・ファンには当然いけないわよね」
「そうなりますね、それがどうかさないましたか?名無しさん。」
「ん、個人的な用事がイル・ファンに出来たから、ミラに話そうと思ったんだけど」
「もしや、一人で向かうおつもりで?」
「そうなりますね、この状況だと」
「名無し行っちゃうの?やだよーそんなのー」
名無しは名無しで、やるべき事を見つけたため一人でもイル・ファンに向かおうと思っている旨を伝えた。エリーゼとティポが寂しがり名無しに抱きつき、ローエンが一体何をしにいくのかとしんぱいをしてきたが、名無しはちょっと野暮用と笑ってごまかした。
すると、ミラのいた部屋からジュードが飛び出してきた。
一体何があったのか聞いても、頭に血がのぼっているらしく答えは返ってこなく、広間の奥に一人座り込んでしまった。
聞いても無駄だと思った名無しは屋敷を出ようとしたが、エリーゼに止められる。
「名無し、どこ行くんですか?」
「ん?ちょっと買い出しにいこうと思って。まだお店屋ってると思うし。」
「なら、私が共に参りましょうか。その手では荷物を持つのは辛いでしょう」
「大丈夫ですよ、軽いものしか買わないですから、それじゃあ」
夜には戻るといい、名無しは屋敷を後にした。
商店に向かう途中に先程アルヴィンの質問を適当に誤魔化したのを思い出す。まださっきの場所にいるならちゃんと答えようと思い、あまり期待はせず宿屋前の広間場あたりを適当にうろついてみたが、やはりそれらしき姿はなかった。当然だ、と小さくため息をつき物資を調達するため商店街へと足を運んだ。
それほどの量を買う予定もなかったため、買い出しは直ぐに終わった。グミ類とコンパクトなテント、地図、その他一人旅に必要そうな自分の持てる限りのものを手に入れた名無しは早くても明日には発つつもりなので、最後に宿屋のコーヒーの味が恋しくなり、今のうちに飲んでおこうと休憩がてら寄ることにした。
宿屋につくなり、名無しは宿内のカフェに直行した。
ふんわりとしたコーヒーの薫りがすでに店内には漂っており名無しの心を踊らせる。
席につくと直ぐに店員が駆けつけ注文を聞く。既に何を頼むか決まっているためメニューを開くことなく、名無しは目的のものを1つ注文した。
名無しはコーヒーがくるまでの間に今後どうするかを具体的に練るため地図とメモ帳を広げる。買い出しをしている時に言われて知ったのだが、カラハ・シャールは始まりと終わりの街と言われているらしく、旅人の出入りがとても激しいという、なので今名無しのとっている行動は、別段不思議なことでもないためその作業をするのにはうってつけの場所であった。
イラートに籠りきりだった名無しはとにかくまず地図を把握しなければならない。
ここから目的に向かう為のルートは果たしてどこなのか、地図とにらめっこをしていると、卓上にコーヒーが置かれたのが視界の端に入った。例を言おうと名無しは顔をあげた。
「ありがとうございま…」
「お前ほんと気に入ったのな、これ」
「アル、なんでいるのよ」
「いちゃ悪かったか?」
「誰もそんなこと言ってないわ」
「ここ座るぜ」
相変わらず皮肉じみた口調を飛ばすとアルヴィンは名無しの目の前の空席に座った。
ジロジロと名無しの持つ地図とあしもとにおかれた荷物を見ている。その視線に落ち着かなく、しびれを切らした名無しがコーヒーを口にしたあとに喋り出す。
「明日には、カラハ・シャールから発とうと思ってるから」
「ガンダラ要塞は通過できないぜ、どうやって行くつもりだ」
「だから地図を見てるのよ、アル、どこかしらない?」
「知ってたら教えると思うか?」
「質問を質問で返すのね…、ふー…、そうね、無理には聞かないわ」
「名無し、もう一度いうがイル・ファンにいく意味わかってるのか」
「ええ、だから行くのよ。あそこには、知りたいこととやるべき事が出来てしまったから」
「あのな…っ」
「心配してくれてるの?なら、貴方も1つ仕事を達成できるし、一緒にイル・ファンに行くって手もあるけど…あ、でも新しい依頼あるのよね…んー…」
ちょっとそこまで散歩に行きましょうと言わんばかりののりで名無しが口にした言葉にアルヴィンの表情が固まった。
そんなアルヴィンに気付いているのか気づいていないのか、名無しはペンで地図をなぞる作業に一人戻った。あそこでもない、ここでもないとブツブツ呟く名無しの腕を突如アルヴィンが掴んだ。
「場所、変えようぜ」
「怖い顔するのね」
名無しは笑顔を崩さず答えながら、アルヴィンの手を払った。
場所を変えようという彼の提案を無視しそのまま作業を再開しようとすると、アルヴィンが立ち上がり名無しの荷物を持つと何処かへ行こうとする。
どうしても場所を変えたいのか、と半ば諦めて名無しはアルヴィンに黙ってついていくことにした。アルヴィンの向かった先は宿屋の一室で鍵を持っている辺り、彼の今日の部屋なのだろうとなんとなく察せた。
アルヴィンが先に部屋に入ったのを確認して名無しも静かにそのなかに入る。
ドアの閉まった音からしばらく沈黙があったあと、後ろ姿のままのアルヴィンの低い声が部屋に響いた。
「なんのつもりだ」
「突然それだけいわれても答えようがないわ」
「…っ!手柄ってなんだよ、どこまでしってんだ。それとも初めから知ってたのか!」
「ガンダラ要塞でジランドさんが喋ってたのよ、私の捕獲も仕事だったって」
「それで、俺に手柄とらせてどうする気だっていうだ、哀れみか、情か?同情だってんならふざけんなよ」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあなんなんだよ」
「まず勘違いしないで、はいそうですかって簡単に捕まる様なことはもうしないってこと。例えアルが、本当にイル・ファンで私を売っても死ぬ気で逃げ出すわ」
「だから、なんなんだよ」
「貴方が仕事で私を売る気があるのかが知りたかった、私の思い込みでいいから、やりたいことをやる前に答えがほしかったの」
「随分自分勝手なことだな、で、その答えってのはでたのかよ」
「ん、アルは私を売らない。」
「なんで言い切れる」
「信じたい、からかな。アルを。ううん、私の中の貴方を、かな。」
「どうするよ、仲良くなって油断した隙にとか俺が考えてたら」
「その時はその時に考えるわ」
「……だぁ…っ」
名無しの受け答えにアルヴィンが苛立ちを隠さないまま頭を思いきり掻いた。窓からの僅かな明かりがその姿だけを照らしている。
頭をかくのをやめると同時に大きく短いため息をつくとアルヴィンは名無しの方を向く。
彼の表情は険しいものだったが、名無しは驚くことはなかった。口調から察すれば当然の光景である。
「お前も!ジュードも!なんなんだ、ミラの真似か?憧れか?やりたいこと?やるべきこと?なんだよそれ、大体、ついこないだまでイラートで平和に暮らしてたお前が何いってんだ、思いつきみたいな使命だろ、そんなんのために自ら危険に晒されます、だ?」
「アル」
「馬鹿馬鹿しいだろ、なんだよ、そんなに格好いいのかよ命かけてまでって、そんなんするまでのこともってるって、なあ?!」
「アル、落ち着いて」
「だったらなんなんだよ、名無しの!そこまでする理由!使命って!やりたいことってよ!」
名無しの声も聞かずに、一気に吐き出されたアルヴィンの問い掛けに、名無しは一度、目をつむって深呼吸をした。息を吐き終えると、真っ直ぐにアルヴィンを見て穏やかな表情で答えた。
「あなたに、そんな顔させたくないからよ」
「…、は?」
「今、私がさせてしまってる地点で矛盾してるけど、それでも、これからできるなら、ううん、これからやってみせるから」
「…なん、だよそれ」
「私のエゴよ、荷物いいかしら?私明日にそなえたいの。貴方の気持ち少しでも聞けてよかった。なんかスッキリしちゃった。それじゃあ、無理しないでね?おやすみなさい」
適当に放られた自分の荷物を返答の来る前に拾い上げ、アルヴィンがポカンとしている間に名無しは逃げるように部屋から立ち去った。
実際、逃げたのだ。怒鳴られて少し怖かったのもあったが、自分の思っていることを言うことも名無しは怖かったのだ。
言ってしまった後の、表現しきれない感情に耐えられなくなり早くあの場から逃げたかったのだ。
名無しは宿から出るなり、歩く速度を速めた。その速度は屋敷が近づくなり速くなり屋敷につく頃には息がきれるほどの勢いで走っていた。
屋敷の玄関の前で一度止まり、息を整えてから名無しは屋敷に入った。
「お戻りが遅いので心配いたしましたよ、名無しさん」
「!ローエンさん、わざわざまっててくれたんですか…」
「さすがにこんな時間まで戻られないとなると、私でなくとも心配いたします、エリーぜさんは先にお休みになられましたよ」
「あ、う…、ごめんなさい」
「いえ、それよりなにかございましたか?お疲れのようですが、もしや」
「大丈夫です、ただ遅くなっちゃったから走ったら、つかれ、ちゃっ、て」
まだ整っていない呼吸を整えようとすると、逆に疲労感が名無しを襲ってきた。
もうお休みになるといい、ローエンの一言に暖かみを感じ名無しはローエンに例を言うと、ローエンの言葉に従い用意された部屋で休むことにした。
部屋に入るなり全身を布団に沈めるといつしかのことを思い出した。ローエンに精霊術を教わったあの日もこうやってベッドに伏していた。
あの時は頭痛が煩わしかったが、今は先程最後に見たアルヴィンの表情が脳裏に浮かび煩わしく感じた。
なんと呼んだらいいのかわからない感情が沸き上がり涙が出てくる。
「アル…」
そこにいない人物に名無しは呼び掛けた。返ってくるはずのない呟きに虚しさを覚え、全てを遮断するように名無しは眠りについた。
***
翌朝、名無しは目を覚ますとしばらく何をするわけでもなくベッドの上で呆けていた。
ぼーっとどこに焦点を合わせるわけでもなく部屋を眺めていると
もぞもぞと布団の中に名無しは戻っていった。
布団の中で朝だというのを再確認し、今度はしっかりと体を起こし身支度をしだした。
昨日買った荷物を改めてまとめていると、アルヴィンの事を思い出したが
昨晩の寂しさとは逆の感情が不思議と名無しの中にわいてきた。
言ってしまったものは仕方ない、言った言葉に嘘もなかったのだ。
下らない動悸かもしれないが、名無しがあることをしたい理由には十分すぎるのにかわりはないのだ。
名無しは荷物をまとめると、ミラの部屋へと向かった。
昨日、あれから顔を見る事が出来なかったので少しだけミラに会うことに緊張する。
部屋の前まで来てノックをすると、普段聞きなれたミラの落ちついた声が返ってきた。
返事を確認すると名無しは部屋へとはいる。
「おはよう、ミラ。」
「あぁ、おはよう名無し。どうした、荷物なんて抱えて。」
「それを今から話そうと思ってきたの、その前に…足、大丈夫?」
「ジュードから聞いているのであろう、この通り動く事もなければ痛みもない。」
自分の足を軽く小突いてミラは笑った。
けれど、その笑顔は悲しいものではなくむしろ前向きな笑顔だった。
「こんな事じゃミラ様は止まらないって顔してる?」
「ジュードの両親が医者をやっているそうなんだ、これからこの足を治してもらう」
「本当に?!じゃあ、治るんだね、足」
「可能性が少しでもあるというのなら、それに賭けるしかない。しかし、動かないところで止まるつもりは…
「当然、ないでしょうね。命関係なしに突っ込むぐらいだもの」
「いや、私は死ぬわけにはいかない。当然死ぬつもりもない」
「ふふ、ミラらしいね」
「それで、お前の話とはなんだ、名無し」
「ん?あぁ、そうだったわね、ここ座ってもいい?」
「ああ、構わん」
話を進めるために、一度名無しはミラのベッドの上に座った。
「私は一人でイル・ファンに向かおうと思ってるの」
「何…?」
「前に、槍の話にアルクノアが関わっているだろうって話ししたの覚えてる?」
「あぁ、黒匣を知っているのは奴らだけだからな、そういえばあの時名無しの両親がどう関係しているのかをしっかりと聞いていなかったな」
「…えっとね、黒匣って精霊の化石からマナを放出して使うのは知ってるよね?」
「当然だ、そのせいでマナの循環が乱され精霊は命を奪われているのだからな」
「ん、マナが無くなれば化石は不要。黒匣に使うことはできなくなってしまう…、そこで私の父様が精霊術に目をつけたの」
合致しない話しにミラが首をかしげると名無しは一度間をおいて言う事を整理する。
ミラの手を握り、真っ直ぐと何かを懇願するような目でミラの赤い瞳をみた。
強い不安も感じるその目線に、ミラは握られた手を強く握り返してあげると、名無しは小さくうなずいて話しの続きをする。
「霊力野は、マナを生み出すでしょう?もし同じ事を化石でできたら、マナを生み出す事ができたらって
そうすればマナは尽きない、黒匣は永久機関として最高のものになるじゃないかって考えたの」
「まさか、霊力野の黒匣をっ」
「あくまで疑似的なものをつくったの、生命力となってるマナを吸い出して化石に充填するって考えでね。
生命力は食事で補えるでしょ?安易な考えだけれども…、けれどこれ。似ていると思わない?マナの強制搾取の実験に」
名無しの言葉にミラはハッとする。
「!!…名無しの父親の実験がベースになっている」
「そういうこと、こんな風に簡単に人を殺すものに使われるなら、娘としては見過ごせないでしょ、それに一人でいっても一人でやり遂げるつもりはないわ。ミラの足が治るっていうならなおさらね、…ミラ、貴女の使命に私も使命も託していいかな。貴女が治療に励んでる間、私は都市とアルクノアの情報をできるだけ集めようと思ってる。」
「しかしイル・ファンへどう向かうつもりだ」
「そのルート確保も含めて、動くつもりよ」
「なるほどな、それは頼もしいな、名無し」
「お互いよろしく頼まれていいかしら?」
「名無し、気をつけてな」
「ん、ミラもお大事に。それじゃ、私行こうかな」
ベッドから立ち上がると名無しは荷物を持ちミラに向かい挨拶をする。
ミラもこの後準備ができ次第ジュードと発つということなので、そのぐらいの時に宿屋のあたりでもう一度会おうと約束をした。
部屋をでると、ミラの準備を手伝うのかドロッセルとエリーゼが部屋の前にいた。
2人は名無しの抱えた荷物をみて、ミラのものか確認をしたが名無しの物だとわかると
彼女も発つという事に寂しさを表した。ミラの休養の間に水面下で彼女の役に立てるよう情報を集めていきたいという旨を伝える。
その際、余計な心配はかけたくなたったため、両親の話は一切ださずに説明をした。
名無しの話を聞いて、心配はされたが決めた事ならばということで、ドロッセルとエリーゼは快く見送ってくれると言ってくれた。
ミラに伝えたのと同じように、また別れる際に宿屋の前で会おうと伝えて名無しは屋敷を出ていこうとした。
すると、階段の下でローエンに会った。先ほどの話を聞いていたらしく今後の心配をされる。
「名無しさん、あまりご無理はなさらないでくださいね」
「ありがとうございます、無茶はしないつもりですから」
「本当にお一人で向かわれるのですか?」
「?ええ、そのつもりですけど、どうして?」
「いえ、アルヴィンさんと仲がよろしいように見えたのでご一緒に行くのかと」
「あー…それはぁ…ないと思いますねぇ」
「おや、その口ぶりは喧嘩でも?」
「喧嘩とかじゃないですよ、ただ、アルはアルで仕事があるって言ってたから、ないんじゃないかなって」
「なるほど、御忙しい方なのですねアルヴィンさんは」
「良い意味でならいいんだけど…」
「と、いいますと?」
名無しが思わずぽろりと言った一言にローエンが問いかけるも、名無しはなんでもないとその話を流した。
流したついでに、イル・ファンへ向かうのに何か方法を知らないか尋ねてみるも、やはりガンダラ要塞を抜けないとなると難しいとのことだった。
旅をしていく中で探していくしかないか、と諦めローエンに例を言って今度こそ名無しは屋敷を後にした。
ミラと約束をしたのは宿屋の方なのでそれまでの間、バーミア峡谷の様子を見に行こうと思い足を運ぶ。
あの時、自分だけあの場にいなかったためどのような施設があったのか全く把握していない。
イル・ファンで行われている実験を調べるならば例え破棄された場所であっても何かしらの痕跡を探すのにはうってつけの場所である。
名無しは峡谷に入ると、初めて見る景色に息をのんだ。
霊勢の影響でこんなにも層のはっきりとみえる複雑な谷ができるものなのか、とあっけにとられたが今は目的を達成させることが最優先である。
あたりを警戒するも、敵の気配はなく安全だと分かると施設の中へと入っていった。
「メインシステムっぽいのがあればいいんだけど…こっちの技術で作られてたらいじれないか…」
「残念だが、目当てのものはなにもないぜ」
「っ!」
中を探索している際に漏れた言葉に返事が返ってきた。
直ぐに警戒し武器を構えるとそこにはなぜかアルヴィンの姿があった。
知った顔だと安心すると同時に、なぜいるのかという疑問が同時に浮かび言葉を詰まらせる。
どう動いたらいいのか戸惑う名無しの様子をみてアルヴィンが少し困ったように頭を掻いた。
「とりあえず、それ、しまってくんね?」
「え、あ、・・・そうね。」
「どーも、言っておくが此処に来たところで何も収獲は無いぜ。なんでメインシステム探してるのかしらねぇけどよ」
「丁寧にありがとう、なら…無駄足になっちゃったのかしら、残念」
「ここであった事調べてどうするつもりだ」
「それを聞いてどうするつもり?」
質問を質問で返した名無しに、少しアルヴィンが苛立つ。
昨日からずっとこんな調子だったため、今回はあまり名無しは怯えなかった。
「…茶化してんのか?」
「アル、昨日の事、なんだけれど、上手く言えなかったからもう一度言わせて」
「っ!なんだよ急に
「ここを調べてる理由ききたいんでしょ?だったら、言わせて…。アルにあんな顔してほしくないって言ったのは本心だよ。もしも、まだアルクノアの仕事をしていることがそれに繋がっているなら私はそれが嫌なの。」
「・・・」
「小さい頃からおばさまのためだからってやりたくない仕事まで、ずっとやってきてたの、見てるから。今でもそうなら、無理してるんだったら私はアルを助けたい」
「無理なんかしてねぇよ、寧ろ気に入ってるぐらいだ」
「私には、そうは見えなかったから。」
「そんなの、おたくの思い込みだろ。迷惑なんだよ、そういうの」
「迷惑でもいいわ。どっちにしろそれ以外も目的でもアルクノアの動きは止めたいもの、なにがなんでもね」
「別の目的?」
「それこそ、アルには関係の無い事だから…それより、どうしてここにいるの」
「なんでだと思う」
「心配してくれてるのかしら?・・・アル、ねぇ。お願いだから、言いたい事言って、私はあなたじゃないもの。教えてくれないとわからないわ」
名無しが、アルヴィンとあった距離を詰めながら言った。
一歩一歩、彼の様子をうかがいながら名無しは近づき、遠慮がちにアルヴィンのコートの裾を掴んだ。
絞り出すように、名無しがどうしてと呟くと、溜まっていた息を吐き出しアルヴィンが口を開いた。
「再開したとき、お前、アルクノアには関わりたくないっていっただろ」
「うん」
「だったら、関わらなくていいんだ。自分からいく必要もないんだ」
「うん」
「なのになんで行くんだ、行こうとするんだよ」
「アル…」
「嫌なんだよ、なんかわかんねぇけど、俺の知らない所で名無しがあいつらになにされんのが」
「?どういうこと」
「俺は、本当にお前をつれて来いって命令しか聞かされてない、なんで連れて行くのかなんて一切しらない。」
「アル、ちょっと落ちついて」
「そんなわけわかんないもんのせいで、また名無しが死ぬかもしれないとか、馬鹿げてるだろ」
「アル…」
「15年前と一緒はいやなんだ、同じ目にあわせたくないんだ」
「…ありがとう」
「だったら!」
アルヴィンが何か続きを言おうとした時、名無しがアルヴィンの胸元に頭をうずめた。
突然の出来事にアルヴィンの動きがとまり、行き場の無い手が宙を舞った。
そんなアルヴィンの様子をわかっていてか、名無しは言葉を続ける。
「同じになんかならないよ、大丈夫だから」
「…名無し?」
「私、強くなるから。あの時みたいには絶対にならないから」
「なんでそんな事言えるんだよ」
「だから、そうならないように、アルが一緒にいれば、私強くいれるから」
「…っ」
「依頼、してもいいかな。イル・ファンへの道案内」
「…、高くつくぞ」
「ん」
「本当にいいのか」
「ん、後払いになるけれど…」
「…後悔してもしらねぇぞ」
「ん、ありがと。それじゃあ、私カラハ・シャールに戻らないと。ミラとジュードくんの見送りしないと」
「そんじゃ、それが終わったらここでまた落ちあうでいいか?」
「見送り、していかないの?」
「…」
「わかった、それじゃあ。またあとでここで会いましょう。」
「ああ。」
アルヴィンと別れ名無しは宿屋の前までミラ達の見送りに向かった。
名無しが到着するころには、ミラは馬にまたがっておりジュードがそれをリードしていた。
既に全員そろっており皆で2人を見送る準備は整っていた。
名無しとアルヴィンが見送りに現れるのを待っていたらしい。
しかし、その場にアルヴィンはおらず、先ほどのアルヴィンの反応を思い出した名無しも彼の居所を知らないふりをした。
峡谷で別れたため明確な居場所をしらないのは事実に変わりはない。
見送りに現れない、アルヴィンを探しているのかジュードがあたりをきょろきょろしていたが
その姿を確認できなかったためか、諦めた様子で別れの挨拶を言いその場をあとにした。
「皆薄情だなー、一緒にいればいいのにー」
「ジュード…ミラ…」
ティポとエリーゼの言葉が寂しくその場に響いた。
その空気をそのままひっぱってしまう形になるのに心が少し痛んだが
名無しもそろそろ発ちたいと思ったため皆に別れを告げた。
「それじゃあ、私もこれで」
「なんで皆いなくなっちゃうのー!一緒にいようよー!」
「ティポ、だめです…皆、やることが、・・・あるんだからっ」
「ごめんね、エリーゼ。時間ができたら絶対に会いに行くから」
「嘘ついたら針千本なんだぞー!」
「ふふふ、ん、わかったわかった。約束ね」
大きく手を振ると名無しは峡谷のある出口へと向かった。
当初の約束通り、そこにはアルヴィンがおりおまたせと一言告げるとアルヴィンは手を挙げて返事をした。
「それじゃ、いこっか」
「だな、・・・で、どこから向かうつもりなんだ?」
「とりあえず、ア・ジュールから大きく周ろうと思うの。ここのファイザバード沼野ってところ…ここを通ればいけそうな気がするから」
「いや、あそこは無理だ。霊勢がひどくて通れないで有名だからな」
「個人で船を手に入れて向かう事は不可能なのかしら?」
「無理だろうな、それができたらミラ達も向かってただろ」
「うー…じゃあどうやって向かえば…」
「心当たりがある、とりあえずラコルム海停に向かうけどいいか?」
「ん、ナビお願いします」
「ナビって・・・じゃあ準備に問題が無いなら向かうか」
名無しから荷物をアルヴィンがひったくった。
取り返そうと思ったがさくさくとアルヴィンが進むためそれを追いかける形で名無しも船に乗るためにまず、サマンガン海停へと向かった。
目指す先は夕日に包まれた黄昏の港、ラコルム海停。
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