1章
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お茶のお湯が沸くのをまっていた、名無しにヤカンの汽笛ではなくドロッセルの賑やかな声と慌ただしい足音が届いた。
「名無し…っ名無し!!」
「ドロッセル…っごめん、勝手にキッチン借りちゃって…っ」
「いいのよ、そんなことは、それより早く!」
「どうしたの当然…っもしかして?!」
名無しの腕を強引にドロッセルが笑顔で引っ張り玄関へと催促する。
「お兄様が、お兄様達が窓から見えたの!」
ドロッセルの言葉をききドロッセルの力ではなく、自分の葦で名無しも玄関へと急いだ。
勢いよく屋敷からでると、カラハ・シャールの人たちと、クレイン、そしてミラたちが屋敷の前に戻ってきていた。住人の何人かは自力で歩くことができていないようで、人の手を借りなくては立つのも難しいようだったが心配よりも、生きて戻ってきてくれたことの嬉しさの方が勝っていた、ドロッセルと名無しは急いで皆にかけよった。
駆け寄ってきたドロッセルにたいし、クレインは自分のことよりも民を医者に見せるよう兵士につたえた。
名無しも、ミラたちに駆け寄り無事を確認して安心をする。顔を合わせるなり、エリーゼが名無しに抱きついた。
「よかった、みんな無事で…」
「名無し~僕とエリーで、いっぱいジュード君たち助けたんだよ!それでね、ローエン君がねエリーのてを握ってくれたの!」
「ローエン、友達、です…っ」
「そう、お疲れさま、エリーゼ、ティポ」
「名無しは特に変わったことはなかったか」
当初より、名無しの護衛をかってでていたミラが名無しの身を案ずる。名無しは見ての通りと腕を広げ無事をアピールする。屋敷にいたのだ、何もおきてなくて当然だと少し寂しさが起こった。
ここでの立ち話を長くしていても仕方なく、クレインを早く休ませるためにも一同は屋敷に入り休息をとることにする。
屋敷に入ると、名無しがすぐに厨房へ向かい先程まで暖めていたお茶を持ってきた。それは自分の仕事だとローエンが手をかそうとするも名無しはローエンの好意を拒否した。
「私一人なにもしてないんだもの、これぐらいさせてください、ね?」
「しかし、私の仕事は執事ですから」
「いいんですよ、私も職業柄やらないと落ち着かないんです、それに、クレインさんのそばにいる方がローエンさんの仕事な気もしますし」
「ほほほ、お嬢さんに気を使われてしまうとは、爺もまだまだですな」
「そんなんじゃないですよ、大切な人とは、傍にいれる間はできるだけいてあげた方がって思ってるだけですから」
「それでは、ミラさん達の方はお願いします」
「はい、任されます」
ローエンを見送り、ミラたちにお茶を用意すると名無しは皆から峡谷での出来事を聞いた。
ナハティガル王は峡谷におらず、クレイン達は誘き寄せられた形になり、マナを吸い出す実験体としてとらえられてしまったらしい。戻ってきた民とクレインの消耗が激しかった理由はその実験によりマナを大きく吸い出されたためでたあるという。一連の話を聞き終えてメンバーは個々に話しをしてクレインの治療を待つ。
名無しはエリーゼと話したあとミラと話をしていた。
「ねぇ、ミラ。峡谷には、あの人達っていたのかな」
「あの人達というと?」
ミラがピンと来ないようなので耳打ちで答える、峡谷にアルクノアの者がいなかったか、といった質問だった。
「それらしい者は見当たらなかったな…もっとも。奴等が紛れていたところでそう簡単に判断ができたかは怪しいがな」
「それもそうだね…ふぅ…。」
「気になるのか?」
「ん、私ね、ミラがいった槍って言うのに聞き覚えがあるの。」
「本当か!」
名無しの発言にミラが驚く、カギのことを聞いてきたのだから彼女ならば想像の範囲だろうと考えていたため、ミラの反応に逆に名無しが驚く。
「やだ、そんなに驚くことじゃないんじゃない、カギのこと聞いたのに」
「それは、名無しの両親が関わっていたというならば、僅かでも情報があればとおもって聞いただけだ、確証性どころか、基より期待など持たないで聞いたのだからな」
「ふぁ、その言い方はちょっと悲しいかも、…えっと、その槍は黒匣で間違いないと思うし、あの人達から伝わってるのも間違いないと思う」
「間違いないというわりには、自信がなさそうだな」
「ん…、あの人達がラ・シュガル関わってるっていうのは自信もって言うよ、向こうにしかないものだし、なにより、そうでなきゃ私を狙わないと思うし…」
「どういう意味だ?」
「あのね、私の…」
「皆さん、ご心配お掛けしました」
名無しが屋敷にいる間、自身の日記帳を読んで思い出したことを話そうとした時、治療を終えたクレインと、付き添っていたドロッセルとローエンがミラ達のもとへやって来た。
どうやら、クレイン含め徴収された民達は皆命に別状はないということだった。皆の無事が判明すると、ミラは出発しようと言い出す。ミラの発言で、ローエン達が初めてジュード達の向かおうとしてる場所がイル・ファンだとしる。
しかし、そこへ向かうにはガンダラ要塞と言うところを通らねばならないらしく、どのように通るかクレインが尋ねるとミラは当然のように実力行使だと口にした。
ミラの言葉に一同が流石といった反応と度肝を抜かれた反応が混ざった反応をみせたが、クレインがはっきりとそれは難しいと公言した。クレインが世話になったお礼にと、なんとか通れるよう手配をしてくれることになった、準備には時間がかかるようなので今晩はクレインの屋敷に泊まることになった。
街からナハティガル王より配属させられたラ・シュガル兵は既に退去させたということで、自由に町を歩いてももう問題ないとのことだった。
個々でやりたいことをするため、完全な個人行動になった。
名無しはずっと屋敷にいたため、外に出たく一人商店の並びへと向かった。
広場を通り過ぎた辺りで、名無しは突如人通りとない道に走り出した。
すると、何者かが名無しの後を追って走る、名無しはその者に気がつき巻こうとしたのだろう。
小道の曲がり角で着けていた者が止まり辺りを見回すが名無しの姿はなかった。諦めて広場にその者が戻ろうとしたとき、名無しがその者の後ろから声をかける。
「用があるなら、普通に話しかければ良いじゃない」
「いつから気がついた」
「宿屋辺りからかな?なんとなくだけど」
「良い勘してるじゃん、名無し」
「それほどでもないよ、アルヴィン」
名前を呼ばれ、やれやれといった様子でアルヴィンは振り返り名無しと顔をあわせた。
「で、なんの用なの?」
「お前こそ、どこいこうとしてたわけ?」
「やだ、質問に質問で答えないでよ」
「いいだろべつに、気になんだから」
「どこにいくと思った?」
「質問に質問でかえしてほしくないっていったやつがなに言ってんの…」
「ふふ、仕返し」
「…ふっ、立ち話もなんだ、折角町歩けるんだからどっかで話そうぜ」
「ん、そうだね」
アルヴィンに提案され名無しはそれにのる。
どこという場所を特に知らないため、二人は宿屋の中にある喫茶店に入りコーヒーを2つ注文した。
民が強制徴収され救出された直後だった為店内はその噂で持ちきりで、大分賑やかな雰囲気である。
若干忙しそうに見えたが注文の品が直ぐに届いた、コーヒーの良い香りに名無しから自然と笑みがこぼれた。
「んー、ここのコーヒー美味しい、どこの豆使ってるんだろ…今度うちの店にもいれよっと」
「ここまできて、まだ仕事のこと考えてんのか、物好きだなお前も」
「マスターは半分家族みたいなものだからね、仕事っていうよりはマスターのため、かな?」
「ふーん、で、俺の質問まだ答えてもらってないんだけど」
「えーと、どこいこうとしてたかって話よね、ただの買い物よ買い物。私リリアルオーブ持ってないから買おうとおもって」
「それだけか?」
「わ、悪いかしら…」
「別に悪かねぇけど、拍子抜けだな」
「だから、アルヴィンこそわたしがどこにいくと思ったのよ」
名無しの答に呆れたようにアルヴィンが笑うため名無しが怒ると、アルヴィンはコーヒー飲みながら手をヒラヒラとさせて笑うだけだった。
「なによそれ、もうっ!…ていうか、アルこそそんな事聞くためにつけてたわけ?」
「まあな、幼馴染みの心配ってやつ?」
軽い調子でアルヴィンが答える。幼馴染みの心配だけならば、わざわざ気配を殺してまでつけてくる必要はない。出来るだけ冗談じみて聞こえるよう名無しは軽い調子でかえした。
「てっきり仕事で見張られてるのかと思って怖かったんだから、そうなら先に言ってよ?」
「悪かったな、つーかお前、リリアルオーブ無しで今まで戦ってたのか?」
「ん、だから今後のために買っておこうとおもって」
「今後って…、名無し、どこまでミラ様についていく気なんだ?正直、ありゃしんどいぜ」
「でもアルは行くんでしょ?仕事だから」
ぴくりと、ほんの一瞬アルヴィンの眉が跳ねた。仕事だから、その言葉の意味はミラからの仕事をさしているのか、それともアルクノアとして疑われているのか。名無しは、アルヴィンがアルクノアとしてどのような仕事を承けたのか全く知らない。故に、真意を探られているとアルヴィンは直ぐに察したがその事は口にせず、どちらともとれない淡泊な返事をした。
「まあな」
「仲、良いみたいだもんね、ジュード君達と」
「どういう意味だ?」
「峡谷の話、大活躍だったみたいじゃない、ジュード君が嬉しそうに話してたから」
「ジュードねぇ…、ま、旅の間だ、そんぐらいは仕事するさ」
「ジュード君そんな言い方されたら傷つくと思うけど」
「そんぐらいわかってんだろ、向こうも、ずっと一緒にいましょうなんて言ったわけじゃないんだ」
「クールな事言うのね、まぁ…貴方がいいならそれでいいんだけど」
ぽそりと、名無しの言った言葉にアルヴィンが不満そうな反応を見せた。 意外な反応ね、と名無しが一言つけくわえコーヒーを飲み干した。ここのコーヒーを気に入ったのか、名無しは店員をよびおかわりを頼んだ。少しの沈黙のあと、アルヴィンがいつものふざけた調子で口を開く。
「それって、俺が寂しがるんじゃないかって心配してくれてんの?」
「ん、そうだけど」
「そんなキャラに見えるか?」
おかしなことをいうと言わんばかりに小さく笑いながらアルヴィン言った。彼の調子に対し、名無しは自分のぺーすをくずさず答えた。
「キャラとかそんなんじゃなくて、ただ私が貴方を心配なだけなのよ、再会した情かしら?ただのおせっかいみたいなものだから、そんなに掘り下げる話でもないからこれまでにしましょ、…と、こんな時間なのね、それじゃ私行くから」
そういって立ち上がると名無しは先程頼んだコーヒーをテイクアウトに出来ないか店員にたずね、ものを受けとるとアルヴィンに手を振り店を後にした。
一人取り残されたアルヴィンが、残ったコーヒーを飲みながら呟いた。
「ただのおせっかいか…どいつもこいつも…くそったれが…」
苦い後味はきっとコーヒーのせいだろう。アルヴィンは立ち上がると名無しとは別の方向へとどこか去っていった。飲み干されることのなかったコーヒーだけがその場に残った。
***
アルヴィンと別れたあと、一人買い物を終えた名無しはローエンと一緒にいた。リリアルオーブを手に入れ今後の振る舞いの為にもローエンに使い方を教えてもらうためであった。色々と説明を受けたが要は所持していれば成長に繋がるという単純なことで、場数を踏まなければただの綺麗な備品でしかないということである。
「ありがとうございます、ローエンさん」
「いえいえ、女性からの頼みを断るなどとんでもございません、私でよろしければお役立てください」
「それじゃあ…、あの精霊術って教えて貰えませんか?」
名無しの言葉に思わずローエンが驚いた。
「おや、では名無しさんも感覚で精霊術を?皆様才能に溢れておりますね」
「いえ、あの…実はですね…」
段々と説明する名無しの声が小さくなっていき完全に聞き取れなくなる、もう一度いってはもらえないか控えめにローエンが頼み、なんとか聴こえるであろう声を名無しが絞り出し、もう一度答えた。しっかりと聞き取ったのだがローエンは思わずもう一度疑問の声をあげてた。
「すみませんが、私の聞き間違いでは…」
「いえ、その、間違ってないです…」
「これは、流石に驚きましたね、まさか精霊術を使ったことがない方がいらっしゃるとは…、失礼かと思いますがいったいどうやって生活を?」
「あ、でもあれです!部屋の灯りをつける程度ならできます!正しくはそれしかできないです…」
自分の言葉に落ち込む名無しをみてローエンはどうしたものかと髭を撫でながら考えた。
「名無しさんは、きっと稀にみる霊力野の極端に小さい方なのでしょう、故にマナの生成量が少なくやれることが限られてしまっている、そうですね、でしたまず、安定したマナの生成からやってみましょうか?」
「!ありがとうございます!」
精霊術の基本理論をローエンから聞き、マナの排出のしかたを聞く。皆当然のようにできてしまうことなので、こればかりは理論というよりは生成されたときの感覚を覚え、それを身に染み込ませるしかないという。名無しはローエンの指導に従って、その感覚に集中をした。
名無しがローエンに指導をしてもらっていると、ミラがローエンに用があるらしく話しかけてくる。
ミラは完全に感覚で精霊術を使っているため理論的に理解をし、自らの力にしたいということだった。名無しの邪魔にならないかとミラは気を使ったが名無しのやっていることの延長線上になることなので、寧ろ名無しはみたいぐらいだと答える。
こうして、ミラと名無しは夜になるまでローエンに指導してもらうのだった。
「うむ、大分感じがつかめたぞ、ローエン感謝する」
「いえいえ、ミラさんは素晴らしい素質をお持ちのようですね」
素質もなにも彼女はマクスウェルなのだ、ちゃんと研ぎ澄ませばこの世界を呼吸するのと同じ感覚で壊すことも出来るだろう、なんといっても想像主なのだから、と名無しは思ったがわざわざ言う必要もないので、黙っていることにした。
「名無しさんのほうはいかがでしょう?大分安定したのでは?」
「んー、どうなんでしょう…」
「やってみせていただいてもよろしいですかな?」
「はい、ん…」
目を閉じて静かにマナが生まれる感覚をイメージする。霊力野のある頭から暖かいものを産み出す感覚。それを腕に伝わせ小さな光の球をイメージし、留まる様子を連想する。
名無しは穏やかな気持ちになり、ゆっくりと目を開ける。
すると、名無しの手の回りにほんのわずかに蒼白い小さな マナの粒子が舞っていた。
直ぐに歓喜はせず、心を落ち着かせ一定時間その状態を保たせる。
ミラのようには当然いかないが、初めてできたことに感情が溢れ名無しは声をあげた。
「できた…、初めてできた…っ!」
「良い感じですね、マナの生成は霊力野の大きさで決まってしまいます、残念ですが名無しさんはその量が限界でしょう、しかし、自身の身体サポートには十分のはずです」
「はい!」
「ほほほ、あとはその状態をいつでもできるようトレーニングしていただければ問題ないでしょう、きっと朝にはなにかひとつ習得できると思います」
「私が…使えるようになるだ…精霊術、嘘みたい…」
「しかし今日はもうお疲れでしょう、お休みになると良い、休息も成長には必要です」
「ありがとうございます、でももうちょっとだけ、今の感覚忘れないようにしたいから」
「では、私も付き合うか」
「ほほほ、皆様元気ですな、爺も負けてられませんね」
先程の感覚を甦らせるようイメージし名無しがもう一度マナの生成を行う。
何回かに一回、それは成功し段々と成功する間隔も短くなっていき安定性がでてきた。恐らくゼロから成長させるリリアルオーブを持っていたため、リリアルオーブの初めの成長でなにか助けになるものがあったのだろう。
大体一時間ぐらいだろうか、流石にずっと同じことをしていたためか若干の目眩が名無しの集中を切らしていた。そろそろ休んだほうがよいだろうと名無しも疲れを自覚し、先に休もうと思い、二人に断りを入れ屋敷へと戻っていった。
用意された客室に入るなり、目眩は激しくなっていき、名無しはそのまま倒れ込むようにベッドへと体を沈める。精霊術とはこんなにも疲れるものなのか、普段から使っているエリーゼは子供なのに本当にすごいものだと名無しはエリーゼを賞賛した。
今日はもう寝よう、そうして目を閉じると先程の嬉しさがまた込み上げてきて、思わずもう一度マナを生成した。
二三粒のわずかな光が名無しの心を満たした。
「私、できたんだ…よかった…」
気持ちよく夢のなかに落ちる感覚が名無しを支配したその時。
突如名無しの頭に激痛が走った。その痛みが名無しを襲ったのは走ったと言う表現が適切すぎるほど一瞬の出来事だった。
あまりにも突然かつ一瞬の出来事に、名無しの呼吸が荒くなる。なにが起きたのか理解できないまま、僅かに残った鈍痛に恐怖を感じた。激しく脈打つ鼓動と乱れた自身の呼吸が耳障りで仕方がない。とにかく落ち着こうと深呼吸をし、呼吸が安定するまで繰り返した。
少し落ち着いたのをみて、枕元にある水をのむと大分冷静を取り戻せた。
「はぁ…はぁ…っ今のは…一体…。」
自分の頭を押さえ考える。
今後またこういった事が起きるかもしれない、そう思い今起きたことを名無しは日記に納めることにした。
「日記…そうだ、今の痛みかたってあのときの…、もしかして…」
一つの不安が名無しの脳裏に浮かび、その事を確かめようと名無しは動きたかったが、痛みが引いていくと同時に眠気が名無しを襲い、そのまま名無しの意識は夢の中へと落ちていった。
ーーーーーー
ーーーーー痛むのか?
すごくいたい!おねがいだからもうやめて!
ーーーーー我慢してくれ、これさえうまくいけば私たちは
ーーーーーそうだ、俺たちは、だから名無し
ーーーーーもっと頑張って?
わたし、がんばってるよ
いたいのいっぱい、がまんして、がんばってるよ
ーーーーーどうして頑張れないの?もっともっと我慢しなさい、あなたが我慢しないから
ーーーーーお前が頑張らないから
やめて、怒らないで!いたいのがまんするからだから!
ーーーーー見つかった!まだだというのに!
ーーーーーああ、あなたがしっかりしないから!私たちは!
ーーーーーお前がもっとちゃんとしていたら!こんなことに!
ごめんなさい、ごめんなさい!ごめんなさい!
もっとがんばるから!だから!おねがい!おこらないで!おねがいだからいかないで!
ーーーーーくそ、こんなところで、くそ!!う、うわぁああああ!!!
いやあああああああ!
ーーーーーー
「っっっっっっっ!!」
気持ちの悪い感覚に襲われ、名無しは身を起こした。夢、それはとても気持ちの悪い夢だったのに気がつくのに時間は掛からなかった。辺りを見渡すと、そこは間違いなくクレインの屋敷の客室で、ここが現実なのだと言うのを主張していた。ベッドから降り、乱れた呼吸のまま窓際にたちカーテンを開けると差し込んでいた朝日が部屋一面に広がり部屋に温かみを帯びさせた。
どうして、今になってあの夢を見たのだろう。嫌な胸騒ぎが名無しに不快感を与えた。
いや気分を抱えたまま部屋をあとにし屋敷の広間にいくと、すでに皆が起きていてクレインに状況を聞いているところだった。急いで階段をかけ降り名無しもそこに加わる。まだ要塞に潜り込んだ兵士からの連絡は来ていないらしく、これからローエンを向かわせると言う話をしているところだった。
「ごめんなさい、大切な話をしたいたのに寝坊してしまったみたいね…」
「気にしなくて大丈夫だよ、みんな気持ちが急いてて早く起きちゃっただけだから」
「どちらにしろ、出発はこのままだと早くて明日になる、どうと言うことはない」
「お姉さんなのに寝坊なんておかしいねー!エリーは年下だけど早起きできてるからえらいんだぞー」
「言うねえ、ティポ、…っ!」
昨晩の頭痛がまだのこっていたのか、名無しが頭を押さえた。ジュードがすぐに反応を示し大丈夫か訪ね少しだけ診てもらうことになった。どうやら霊力野付近で血液の流れが異常に活発になっているらしく、それによって頭痛が起きているとのことだった。リーゼ・マクシア人でも霊力野周辺に集中して発熱するというのはよっぽどの精霊術を使ったときでもないとないらしく、昨日の無理が響いたのだろうと話を聞いていたローエンが答えた。
その話を聞いて、アルヴィンが異常に反応をし名無しに小声で話しかける。
「お前、マナの生成なんかできたのか?」
「ちゃんとしたのは昨日がはじめてだけどね」
「…けどお前…」
「自分でも驚いてるわ、こっちにきて初めて私の持ってるのが霊力野だってわかったときぐらい、ね。でも、こっちじゃ無いのと同じようなものだものね…ほんと、びっくりしてる」
「気軽にいうな、名無し」
「そうね、でもかなり、驚いてる方よ」
どこがだよ、とあきれ気味にアルヴィンが首を降った。
すると、こちらの話が終るのをまっていたようにドロッセルが早くて明日にたつのなら一緒に買い物にいこうと誘ってきた。エリーゼとティポがそれを断るはずもなく、名無しも誘われるがままに賛同する。ミラも言ってくるといいと他人事のように答えたが、エリーゼとドロッセルが彼女を楽しそうに強制連行の手段をとる。ミラは戸惑うも、そのまま二人に引きずられ商店街へと姿を消していった。
商店街につくと、一同はアクセサリ店であしをとめていた。
友達にはアクセサリを贈る、と以前ドロッセルがいっていたためお互いに送りあうアクセサリを選ぶためだった。アクセサリを手に取るエリーゼとドロッセルの姿をみて、ミラが自分もにたようなものを持っているとガラス玉をとりだした。そのガラス玉をティポがただのガラス玉だと楽しそうに言った。相変わらず突っ込みどころしかないコメントをするぬいぐるみである。そのガラス玉をどうやら
店主がペンダントに、加工してくれるらし、待っている間ミラが名無しに話しかけてきた。
「名無しも、誰かに信頼の証を渡すのか?」
「へ?んー、そう、だなー…どうしよ、誰にあげようかな」
「なんだ、決まっていないのか。」
「ん、ミラこそ、ペンダントできたら誰にあげるの?やっぱりジュード君?」
「私か?…そうだな、ジュードには世話になったからな!悪くないだろう」
「ふふ、ジュード君、喜びそうだね」
ミラの会話に名無しが微笑んだその時だった。
「きゃああ!」
「なんなんだ!突然!」
町の入り口から突如、住民たちの悲鳴が聞こえてきた。何事かとミラたちは急いで声のした方へ走ると、そこにはラ・シュガル兵が町中で暴挙を振るっている姿があり、ミラは止めに向かう。エリーゼもミラのサポートに回ろうと参戦するも、戦うことのできないドロッセルは戸惑いどうしてよいのかわからなくなる。ドロッセルの様子を見て、彼女を守ろうと名無しが武器を構えた。
「構えるだけ無駄ですよ、どうせすぐに眠るんですから」
後ろから声が聞こえ、名無しは構えた武器をすぐに声の方向に向けたがそこから次のアクションに移ろうとする行動を取ることが名無しはできなかった。
ボーガンの照準の先にいた男、ジランド参謀副長に思わず思考が停止する。
「あなた、は…?!」
「ほほう…その反応どうやら色々と察しがついてると思って間違いなさそうだな、なら話しは早い」
ジランドが右手をあげると、兵がドロッセル目掛けて襲ってきた。彼女を守っている名無しの動きを乱すのが目的だろう。
ミラとエリーゼがそれに気がつき護衛に回ろうとするが、そのミラとエリーゼを狙って別の兵士が攻撃を仕掛ける。
二人がドロッセルの護衛に回ったお陰で手の空いた名無しがミラたちを狙った兵士目掛けて引き金を引く。
弾は兵士の頭部にあたり、兜を飛ばすとそのまま続けて発射された弾が兵士の頭蓋を貫いた。目の前で人の頭部から大量の血が溢れるのを見てドロッセルが怯える。その隙をついて再び彼女に狙いが移り、彼女をかばったミラがまともな攻撃を受け気を失ってしまった。
「ミラ!!!!…ぐっ……っ」
ミラが倒れたのを目の当たりにして気をとられた瞬間、名無しの腹部に衝撃が走った。痛みと腹部への攻撃から吐き気が一気に込み上げてきて直ぐに動きがとれないところに、鼻と口を薬品を染み込ませた布が覆った。ああ、自分の役立たず。
名無しは今朝の夢と今が重なり、段々と遠退く意識の中、無力な自分を攻め続け、うっすらとした視界にジュードたちをとらえたところで、名無しの意識は完全に途絶えた。