1章
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巨大な風車を目印に間道を進むと、カラハ・シャールにたどり着くのはとても簡単な道だった。
カラハ・シャールに到着するなり、名無しにとっては目に付くもの全てが新しいものであったため、あちこちに視線を奪われていた。
カラハ・シャールは名無し想像していたよりもずっと大きな街であった。とても賑やかでどこを見ても人にあふれている。
海停でみる人の賑わいとは違う形式に、キョロキョロと見回してしているとエリーゼと目があった。どうやらエリーゼもこれだけの人がいる場に来るのは初めての様だった。お互いにあちこちを見てはぐれないようにと手を繋いだ。
街を眺める流れで、ふと名無しが横を見るとアルヴィンがなにやら難しい顔をしていた。その表情に名無しが思わず止め、どうかしたのかと質問をした。
「アル?どうかした?」
「いや、なんか物騒だと思ってね」
「あ…」
アルヴィンの視線の先を確認すると、ラ・シュガル兵の姿がそこにはあった。その存在に気がつき周囲を見渡すと、街中にラ・シュガル兵がいるのがわかる。これだけの大きさの街なのだ。手配書が配られているのだからそれなりの数の兵士はいて当然だろう。兵士を気にしつつ街を進むと、アルヴィンが目の前の骨董屋に話しかけ、なぜラ・シュガル兵が目に付くほどいるのか情報を集めだす。店主曰く、イル・ファンにスパイがのりこみ何かを盗んだとの事で軍が犯人を追っているとの事だ。話をした直後、骨董屋の店主がジュードとミラを見比べ手配書の者ではないかと疑いをかけて来たため、怪しまれないよう出来るだけ自然のその場を離れた。
恐らく店主の言った犯人というのがミラたちなのだろう、と名無しは考えを巡らせた。
犯人がミラかジュードだとすれば、何故彼らはイル・ファンに向かう必要があるのだろうか。強奪が目的ならば既に帝都に用はないはずだ。いったい何が目的なのだろう。
そして、アルヴィンは同行を仕事だと言っていた。ミラ達が盗んだものが関係している仕事だとすれば、アルヴィンははラ・シュガル兵と恐らく繋がっている。つまりはアルクノアとラ・シュガル兵が繋がっているだろうという可能性が名無しの中で高くなるわけだ。
だとすれば、名無しの元にラ・シュガル兵が来た後に、アルクノアが名無しを襲い来たのに多少納得がいく。
何故襲われたのかという核心を解いていない現状、半ば強引だが名無しの中で合点がいった。考えに耽っていると、聞きなれない声が耳に届き名無しはハッとする。
声のした先を見ると、10代半ば頃の少女と年配の男性がミラと何か話をしていた。少女はご機嫌にカップを手にしておりミラにお礼をいっている。
名無しが考え事をしている間に何かがあったらようだが、問題ごとではない様子なので、名無しは詳細については特に聞こうとは思わなかった。
ここでは店の邪魔になるとだろうという男性が一言いうと、大きな風車の見える広場に移動する。少女が楽しそうに自己紹介をしそれに続き男性が控えめに名を名乗った。
少女の名はドロッセル、男性の名はローエン。ドロッセルが手に取っていたカップはミラのお陰で安く買うことができたそうだ。
そして、ドロッセルはお礼にお茶に誘いたいとミラ達に言う。ドロッセルの誘いになぜかアルヴィンが答えると、ドロッセルは嬉しそうにまた後でと挨拶をしどこかへいってしまった。
アルヴィンが勝手な回答をしたことが不服なのか、ミラがアルヴィンに話しかける。
「その様な暇はないのだが…」
「まぁ、この街にいる間利用させてもらったほうが都合いいだろ?」
「確かに、こんなに厳重だと宿に泊まれなさそうだし」
あたりのラ・シュガル兵を確認した後に、ミラが少し考えて答える。
「んむ…では、少し街の様子を見てからお茶会とやらに向かうとしよう」
「暇がないっていうわりには、なんかミラ、行く気満々って感じね?」
「名無しもそう思った?」
「ふふ、ミラってなんか可愛いよね、ちょっとずれてるっていうか、格好いいのにどこか抜けてるっていうの?ね、ジュード君」
「え、僕は…その…」
「ははは、照れちゃって、若いなぁ~」
「名無しもたいして変わらないだろ」
「変わるわよ、どうみても!25歳っていうのは大きな壁なの!次の壁は28で次が30、つぎの壁は…数えたくないわね…」
「思ったより壁の数あるな」
「アルヴィンだってあと数年で30の壁に当たればこの悩みがわかるわよ。っとそういえばジュード君っていくつ?学生さんだって言ってたけど」
「僕?15だよ」
「15歳…、若いなー…」
話していて名無しは自分が年齢を重ねた事に突然空しくなり、思わず空を見上げた。
雑談をしつつもラ・シュガル兵に気を付け、一行は街の中を見て回った。初めての町並みに名無しとエリーゼは到着当初同様、若干興奮気味にあちこちをみて回る。綺麗なアクセサリーのある商店、お洒落なケーキの展示された喫茶店、謎の羽根を集めている商人など、目新しいもの全てが名無しの好奇心を刺激した。恐らくイ・ラートにもこういったものはあったのだが、人の活気や品揃え等、規模が格段に違うのだ。
まるでお祭りに来たかのような人の賑わいに、名無しは不謹慎とはわかっていても浮き足立たずにはいられなかったのだ。
村に監禁されていたというエリーゼも、同様に今まで触れることなかった真新しいものに夢中の様子で、名無しと合わせて姉妹のように仲良く街中を探索をした。
商店を眺めていると、あるものが名無しの視線を釘付けにし足を止めさせた。それにつられるようにエリーゼ達の足も止まり、なにか気になるのか?とミラが話しかけると、名無しは商品に夢中なのか適当な答えで反応とした。ミラは名無しに、あまり一箇所に長くいないほうがいい、と言おうとしたが、街中を見て回ると提案したのは自分でもある。そして、名無しが真剣に商品をみていたため、ミラはできるだけ名無しから離れないよう、兵士の警戒も兼ねて辺りを見て回ることにした。
名無しが止まったのはどうということのないアクセサリー店である。先程から多くの店を見ていたがこの様に立ち止まるほどの行為は見せなかったのだが、この店に止まると名無しの視線は真っ直ぐ店頭に並んだアンクレットに集中していた。魅了されたように見続けていると、突如名無しの視界からアンクレットが消える。アンクレットを反射的に目線で追うとそれはアルヴィンの手の中におさまっていた。無意識に凝視していると名無しの視界ににアルヴィンの顔が飛び込んできた。
「なんだ、欲しいのか?」
「え、そういうわけじゃないけど」
「ああ、これ花の形してるもんな。植物マニアの心が騒いだか?」
「む…っ失礼ね植物マニアって!そんなんじゃないわよ」
アルヴィンにからかわれ名無しは膨れる。アルヴィンから奪うようにアンクレットを取り上げるとそれを元の場所に戻す。店の人に一言詫びを入れ、名無しはジュードを見つけると、ジュードを指差しながらアルヴィンにそろそろ行こうと声を掛けた。ジュードに声を掛けると、ドロッセルのところに向かうには良い頃合いだとジュードも言い、近くでそれぞれ店を見ていた皆を集め街の南に向かうことにした。街の南に向かう中で、アルヴィンが再びからかう様に名無しに声をかける。
「名無し、買わなくてよかったのか?」
「だから、そんなんじゃないんだってば。単純に綺麗だなって思っただけよ。あと、好きな花の形に似てたから目に付いただけで」
「ふーん」
名無しの返答に、アルヴィンはつまらなさそうな反応をすると両手を頭の後ろで組み少し体を揺らした。旅に同行してからこの行動を何回か見るが、癖なのだろうか。癖だとすればなんとも大胆な行動の癖である。
南に向かう途中、なんだかミラが嬉しそうな様子でいるのにジュードが気が付いた。どうかしたのかを聞くと、お茶会に誘われるのが初めてだそうで、誘われた時からミラが心中そわそわしていたことがわかった。
ならば、ミラの楽しみを奪うわけにもいかないため、寄り道をせずまっすぐに街の南を一同は目指した。
***
街の南に進むと、一目でどのような人物が住んでいるのかがわかるほど、大きな屋敷がミラたちの目の前に現れた。まさかと思い、一同は辺りを見渡してみて、もう一度屋敷に視線を戻す。間違いなくドロッセルとローエンが、屋敷の前におりミラ達を待っていた。
「お待ちしておりましたわ」
嬉しそうにドロッセルは微笑んだ。間違えようもないのだが、念のために名無しが目の前にある屋敷の主をドロッセルに尋ねると、やはりそこはドロッセルの住居であった。ドロッセルと側に仕えるローエンの身のふり方からそれなりの身分であろうとは思ってはいたが、これだけの屋敷だ、それなりの身分というよりもずっと良い身分であろう。果たして関わっていい人物であったのだろうか、と名無しは少し不安を覚えた。
ふと、屋敷の中から誰かが出てくるのが一行の視界に入る。
「おや、お客様のお帰りのようですね」
どうやら先客がいたらしくローエンが呟いた。
屋敷から出てきたのは、ラ・シュガル兵だった。ミラが直ぐに構えるもアルヴィンが制止に入った。
兵に続き数名の貴族らしい男性が屋敷から出ていく。何も考えずに反射的に出て行く人たちを目で追っていると、名無しはイ・ラートの宿で会った参謀副長と呼ばれた男の姿がその中にあるのに気が付いた。その瞬間、名無しの呼吸が浅くなったのを側にいたエリーゼが気が付いた。
「名無し…どうしたんですか?」
変化に気がついたエリーゼが名無しに声をかけるも、エリーゼの声は名無しには届いていないようで、名無しはただひたすら自らの手を強く握り、何かに耐えている様子だった。力を入れすぎているのか、それとも何かに怯えているのかはエリーゼにはわからなかったが、名無しが不安そうな様子で小さく震えている様にエリーゼには見えた。声を掛けても返事をしない名無しを見て、エリーゼが少し強い力で名無しの手を握ると、名無しは我に返ったような様子で目を丸くし、目の前のエリーゼを見た。
やっと存在に気が付いてくれた名無しを、エリーゼは心配そうに見上げどうしたのかと声をかける。
その姿をみて、先程まで自分がどういった状態であったのかを理解した名無しが、エリーゼを安心させるためエリーゼを撫でた。
名無しは視線を目の前に一度戻し、周囲をみてラ・シュガル兵達は馬車で去っていっていたのを確認すると、エリーゼをもう一度撫で、大丈夫だと答えた。その言葉を聞いてエリーゼは安心した表情を見せた。
ラ・シュガル兵が去った屋敷の門には、一人の青年が残っていた。ドロッセルが彼に近づき、親しげに会話をする。彼は、ドロッセルの兄・クレイン・K・シャール。この街の領主だという。つまり、ドロッセルは領主の妹にあたる。それなりどころかとんでもない身分に一考は驚きを隠せなかった。
そのような一同の反応など気にも留めないかのように、クレインはミラ達を屋敷内に案内した。案内された屋敷内では、早速ドロッセルのいう文字通りのお茶会が催される。
他愛のない世間話をしている中で、時折ティポが問題発言をし、誰も突っ込まないことに名無しは疑問を抱く。といった不思議な雰囲気ではあったが、ミラ同様"お茶会"というちゃんとした場に参加するのが初めてな名無しはしばしこの時間を楽しく過ごした。
途中、仕事なのだろうかクレインが席を外すと、アルヴィンもそれにつられて不自然に屋敷を後にする。
皆は不思議に思ったが、飄々とした態度を多く見せるアルヴィンであったため、特に誰も引き止めることは無かった。
ふと、名無しはミラたちが軍に追われる理由が再び気になりだした。突然に、というわけではないのだが、旅に同行してから直ぐにでも確認したかったのが名無しの本心であった。
だが、実行に移すには名無しの中でアルヴィンの存在が気がかりだったのだ。名無しの考えたと通り、彼がラ・シュガルと繋がっているのなら、ミラたちが追われる理由におそらく関係しているのだろう。僅かでも可能性があるのならば、話題を出したところで彼に割って入られれば恐らく必要な情報は得られないだろう、と名無しは考えていた。
話を彼のペースで流されるか、それとも彼にとって必要な情報を得るのかのどちらかが恐らくは発生するだろう。どちらであるにしても、面倒である事に変わりがない。どちらかの可能性があるなら、アルヴィンを話題に触れさせない方が得策だろうと名無しは考えていた。そして、名無しはジュードとミラだけを呼び、部屋の奥で話題を出した。
「領主ってことは、貴族よね…?」
「ああ、そうだな。あまりここには長居できそうもない」
「そうだね、エリーゼには申し訳ないけど」
「向こうが気がつかないうちに…だよね…、ねぇ、私疑問があるの」
ここで、名無しは話題をきりだした。
「どうした?」
「ん、ミラとジュード君は、どうして指名手配なの?スパイで乗り込んだって話しにしては、なんか腑に落ちなくて…」
「それは、えーっと」
ジュードが言葉を濁す。ミラも名無しが疑問を持つことに少し警戒をする。
「名無しには、関係ないことだろ、気にする必要はない」
「あるよ、私も少なからずラ・シュガルに狙われてるみたいだけど、命狙われたのにジュード君達みたいに指名手配にはなってないもの、何が違うのかなって引っ掛かって」
「たしかに、おかしいね…、僕達なら納得はいくけれど」
「名無し、心当たりはないのか」
「んーん、何も…あの時の二人が軍の指金だっていうのはあくまで推測だし…、もし、その推測通りだとしたらミラ達と私になにか共通点がないかなって思ったから、どうしても確認したかったの」
「僕達と名無しの共通点…」
ミラも考えを巡らせ控えめに名無しに聞く。
「名無し、お前の両親は鍵を作る仕事をしていなかったか?」
「へ?鍵?…鍵…」
ゆっくりと、幼い記憶を巡らせる。15年前の記憶、名無しと両親との貴重な記憶のなかに、ミラに問われたことばにつながる物を探す。鍵、そんな言葉を両親から聞いたことがあるような、そんな気がして。
考えを集中させた直後、クレインが兵を連れ屋敷に戻ってきた。クレインの表情は厳しいもので、アルヴィンからジュード達の事情をきいたと口にするも、彼らを軍につき出すつもりはないようだ。
そのかわり、研究所でミラが見たことを教えてほしいと彼はいう、名無しもその話しに興味を抱いた。
クレインから、現在のラ・シュガルの情勢を聞くとミラは研究所での出来事を話し出す、その内容は研究所で人体実験でマナの搾取を行っているというものだった。
初めてその事を聞かされた者は当然のように耳を疑った。名無しも例外ではないが、耳を疑う理由が他とは確実に違うものであった。
「まかさ…異…計……、だとす…ラシュガル…ア…」
「名無し、なにか知っているのか?」
無意識に出た名無しの声にミラが反応した。名無し自身もミラに声をかけられなにかをいっていたのに気がついたぐらいのものだったので、その問いに答える術を持っていなかった。
ミラもそのことを察したらしくなんでもない、と断りクレインとの会話を続けた。
話を終えると、クレインは妹の友人を傷つけたくないと、ジュード達に街から出ていくよう頼む。ジュード達も、クレインの好意を裏切らないよう街を離れるべく屋敷をあとにした。