主に呼ばれる名前を変更できます。夢主の本名は設定上変更が出来ません。ご了承ください。
宇宙望遠
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ーーヘルサレムズロットの片隅、朽ち果てたプラネタリウムにて。
暗闇の中、少年は星空を眺めていた。霧に覆われたHLでは星空自体珍しいため、この街で見ることができる星空は基本的にプラネタリウムだけだ。
銀髪の少年は目蓋を閉じ、プラネタリウムを見上げる。目を閉じているがどうやら見えているようだ。
全ての音が無い世界はこの街の喧騒もどこ吹く風。万華鏡の様にくるくると空が廻る。
「やあやあ望遠王、随分暇してるねぇ」
「暇ではないけれど」
コツコツと靴音を鳴らし、プラネタリウムに入ってくる一人の怪人。HL一の愉快犯、堕落王フェムト。せっかく静かだったのに、と溜め息。観客一人だけの満天の世界にノイズが入る。
13王の一人、望遠王。人前に出る事はほぼ無く、知名度も低い(堕落王、偏執王が目立ちすぎているだけだが)。そして世界全ての事象を観察し続けていると噂されている。
「聞いておくれよニュクス!新しい義眼持ちが僕のゲームを早々に邪魔したんだ!仕込みは上々で!!あとほんの少しだったのに!!」
ヒステリックに叫ぶフェムト。どうやらご機嫌ナナメらしく、今回は愚痴りに来たようだ。嘘臭いオーバーリアクションに呆れる望遠の王。
「……知っている。随分前から。」
「ははーん、さては君、ずっと観ていたな?面白かったろう!」
「いい暇潰しだった、天体観測の次くらいに。義眼持ちをゲームに巻き込むなんて相当運が無かったね、フェムト」
13王はほぼ全員が暇人である。世間では迷惑がられる死者多数のフェムトのゲームも、彼らにとってはいい酒の肴だ。ちょうどTVでバラエティ番組を見る感覚に近い。
月光をくしけずった様な髪を弄る少年は、会話をしていてもプラネタリウムから目を離す事は無い。ゆっくりと廻る夜を楽しんでいる。
不意にニュクスが手をかざすとプラネタリウムの星空は消え、代わりに霧けぶる街を映し出す。正確にいえば、HLのある一人の少年を映していた。
癖毛、糸目。間違いなく先程邪魔した一般人だ、とフェムトは舌打ちをする。
「なんだ、もうお手つきかい?」
「一応調査だけは。まだコンタクトは取っていない。」
癖毛と糸目が特徴的な少年は、どこかのレストランで食事中のようだ。美味しそうなハンバーガーを前に大口を開ける。
「美味そう」
「今度食べに行くかい?ゼオドアくんでも誘ってさ」
フェムトにしては珍しい提案にニュクスは少し驚く。13王で集まることは多くても、個人で集うことはあまり無いからだ。
「……断る。彼、リアクション大げさすぎて見てると心配になる。」
「凄いよねぇアレ。一口食べるだけで不味かろうと美味かろうと10分はビクンビクンしてるもん」
感覚が鋭い彼は生きるのが大変そうだ。打ち上げられた魚か、最近はやりのグルメ漫画を彷彿とさせる。
どうやら知り合いと食べに来ていたらしい。端正な顔立ちの褐色が画面に映り、糸目の少年にちょっかいを出していた。じゃれつく姿は仲の良い兄弟にも見える。HLでは珍しい位平和な光景だった。
『奪うなら、僕から奪ってください。兄さんの旅路は此処で終わらせない。』
不意に過去を思い出す。
仲の良い弟がいて、畑を耕しながら暮らしていた。生活に不満なぞ何一つ無く、ただ幸せだった。
(僕が殺した、弟)
「……半年前にHLに来た際に妹が代わりになったらしい」
不意にニュクスが口を開く。調査済みという言葉は本当だったようだ。ぽつりとどこか寂しげな音を言葉に乗せて話す。
「なんだい望遠王、アンニュイだねぇ。君の弟でも思い出したのかい?」
「まあ多少は。でも口は慎めよ若輩者。僕の半分も生きてないくせに」
「1000年生きたら若輩者では無いと思うぞ!せめてオッサン位は…でもそうしたら君って爺じゃないかい?」
「はいはい。」
1000歳をゆうに超えたと噂の堕落王を軽くあしらうという光景。一般人が見たら目を剥くだろう、だったらまだUFOを見たと言った方が現実的だ。
プラネタリウムを消して、部屋の電気が付く。ニュクスの座る席以外は全て空席だ。まだ明るさに目が慣れず、視界が星空を惜しんでいる様だった。
「そろそろ彼に挨拶に行かないと。回収する時、面倒になる」
「もう動くのかい、せっかちだねぇ。彼の人生、まだ長いだろう?」
いつもだったらもう少しゆっくりだったのに、そんなに彼が気に入ったのかい、とフェムトが嗤う。
「気に入った。回収する時にいい夢で終らせたい位には」
優しく笑う少年はあまりにも神様じみている。人間が出来る表情では決して無い、この世総てを知り、受け入れた顔。少なくともたった1000年生きただけのフェムトではこうはいかない。
「いつもそれ言ってないかい?君」
「バレたか」
明るさが戻った部屋で月の少年は笑った。伏せていた眼を開き、出口を見つめる。
あお、青、蒼。溢れんばかりの蒼い光が瞳からこぼれ、幾何学模様を描く。神々の義眼と呼ばれる眼球の王は宝石よりも星空よりもまばゆくこのプラネタリウムで輝いた。
「久しぶりだね、君が動くのを見るのは。ニュクスーーーいや、望遠王カイン」
「その名前嫌いだから呼ぶなって言わなかったっけ、僕」
白銀の髪と義眼をフード付きの有りふれたパーカーとサイバーゴーグルで隠し、出口に向かう。出口には大きな望遠鏡が立て掛けられていた。
「義眼回収は21年4ヶ月ぶりかな。この街は物騒だからね、いつ死なれるか分からない。」
だから早めにね、と望遠王はつぶやく。
弟の命と引き換えに不老不死を神から押し付けられ数千年。彼の役目は世界の全てを見続けること、そして憐れな犠牲者に植え付けられた神々の義眼を死に際に回収することだ。
「一つ回収し損ねた義眼もあるからね、それも探しに行きたい。」
望遠鏡を持って街に繰り出すニュクスは、もうとっくに霧に紛れていった。
「『原初の殺人者』ねぇ。好き勝手に運命を押し付けてよく言うよ、まったく」
神様ってやつは傲慢だな、とつぶやくフェムトの声は誰もいないプラネタリウムに溶けていった。
暗闇の中、少年は星空を眺めていた。霧に覆われたHLでは星空自体珍しいため、この街で見ることができる星空は基本的にプラネタリウムだけだ。
銀髪の少年は目蓋を閉じ、プラネタリウムを見上げる。目を閉じているがどうやら見えているようだ。
全ての音が無い世界はこの街の喧騒もどこ吹く風。万華鏡の様にくるくると空が廻る。
「やあやあ望遠王、随分暇してるねぇ」
「暇ではないけれど」
コツコツと靴音を鳴らし、プラネタリウムに入ってくる一人の怪人。HL一の愉快犯、堕落王フェムト。せっかく静かだったのに、と溜め息。観客一人だけの満天の世界にノイズが入る。
13王の一人、望遠王。人前に出る事はほぼ無く、知名度も低い(堕落王、偏執王が目立ちすぎているだけだが)。そして世界全ての事象を観察し続けていると噂されている。
「聞いておくれよニュクス!新しい義眼持ちが僕のゲームを早々に邪魔したんだ!仕込みは上々で!!あとほんの少しだったのに!!」
ヒステリックに叫ぶフェムト。どうやらご機嫌ナナメらしく、今回は愚痴りに来たようだ。嘘臭いオーバーリアクションに呆れる望遠の王。
「……知っている。随分前から。」
「ははーん、さては君、ずっと観ていたな?面白かったろう!」
「いい暇潰しだった、天体観測の次くらいに。義眼持ちをゲームに巻き込むなんて相当運が無かったね、フェムト」
13王はほぼ全員が暇人である。世間では迷惑がられる死者多数のフェムトのゲームも、彼らにとってはいい酒の肴だ。ちょうどTVでバラエティ番組を見る感覚に近い。
月光をくしけずった様な髪を弄る少年は、会話をしていてもプラネタリウムから目を離す事は無い。ゆっくりと廻る夜を楽しんでいる。
不意にニュクスが手をかざすとプラネタリウムの星空は消え、代わりに霧けぶる街を映し出す。正確にいえば、HLのある一人の少年を映していた。
癖毛、糸目。間違いなく先程邪魔した一般人だ、とフェムトは舌打ちをする。
「なんだ、もうお手つきかい?」
「一応調査だけは。まだコンタクトは取っていない。」
癖毛と糸目が特徴的な少年は、どこかのレストランで食事中のようだ。美味しそうなハンバーガーを前に大口を開ける。
「美味そう」
「今度食べに行くかい?ゼオドアくんでも誘ってさ」
フェムトにしては珍しい提案にニュクスは少し驚く。13王で集まることは多くても、個人で集うことはあまり無いからだ。
「……断る。彼、リアクション大げさすぎて見てると心配になる。」
「凄いよねぇアレ。一口食べるだけで不味かろうと美味かろうと10分はビクンビクンしてるもん」
感覚が鋭い彼は生きるのが大変そうだ。打ち上げられた魚か、最近はやりのグルメ漫画を彷彿とさせる。
どうやら知り合いと食べに来ていたらしい。端正な顔立ちの褐色が画面に映り、糸目の少年にちょっかいを出していた。じゃれつく姿は仲の良い兄弟にも見える。HLでは珍しい位平和な光景だった。
『奪うなら、僕から奪ってください。兄さんの旅路は此処で終わらせない。』
不意に過去を思い出す。
仲の良い弟がいて、畑を耕しながら暮らしていた。生活に不満なぞ何一つ無く、ただ幸せだった。
(僕が殺した、弟)
「……半年前にHLに来た際に妹が代わりになったらしい」
不意にニュクスが口を開く。調査済みという言葉は本当だったようだ。ぽつりとどこか寂しげな音を言葉に乗せて話す。
「なんだい望遠王、アンニュイだねぇ。君の弟でも思い出したのかい?」
「まあ多少は。でも口は慎めよ若輩者。僕の半分も生きてないくせに」
「1000年生きたら若輩者では無いと思うぞ!せめてオッサン位は…でもそうしたら君って爺じゃないかい?」
「はいはい。」
1000歳をゆうに超えたと噂の堕落王を軽くあしらうという光景。一般人が見たら目を剥くだろう、だったらまだUFOを見たと言った方が現実的だ。
プラネタリウムを消して、部屋の電気が付く。ニュクスの座る席以外は全て空席だ。まだ明るさに目が慣れず、視界が星空を惜しんでいる様だった。
「そろそろ彼に挨拶に行かないと。回収する時、面倒になる」
「もう動くのかい、せっかちだねぇ。彼の人生、まだ長いだろう?」
いつもだったらもう少しゆっくりだったのに、そんなに彼が気に入ったのかい、とフェムトが嗤う。
「気に入った。回収する時にいい夢で終らせたい位には」
優しく笑う少年はあまりにも神様じみている。人間が出来る表情では決して無い、この世総てを知り、受け入れた顔。少なくともたった1000年生きただけのフェムトではこうはいかない。
「いつもそれ言ってないかい?君」
「バレたか」
明るさが戻った部屋で月の少年は笑った。伏せていた眼を開き、出口を見つめる。
あお、青、蒼。溢れんばかりの蒼い光が瞳からこぼれ、幾何学模様を描く。神々の義眼と呼ばれる眼球の王は宝石よりも星空よりもまばゆくこのプラネタリウムで輝いた。
「久しぶりだね、君が動くのを見るのは。ニュクスーーーいや、望遠王カイン」
「その名前嫌いだから呼ぶなって言わなかったっけ、僕」
白銀の髪と義眼をフード付きの有りふれたパーカーとサイバーゴーグルで隠し、出口に向かう。出口には大きな望遠鏡が立て掛けられていた。
「義眼回収は21年4ヶ月ぶりかな。この街は物騒だからね、いつ死なれるか分からない。」
だから早めにね、と望遠王はつぶやく。
弟の命と引き換えに不老不死を神から押し付けられ数千年。彼の役目は世界の全てを見続けること、そして憐れな犠牲者に植え付けられた神々の義眼を死に際に回収することだ。
「一つ回収し損ねた義眼もあるからね、それも探しに行きたい。」
望遠鏡を持って街に繰り出すニュクスは、もうとっくに霧に紛れていった。
「『原初の殺人者』ねぇ。好き勝手に運命を押し付けてよく言うよ、まったく」
神様ってやつは傲慢だな、とつぶやくフェムトの声は誰もいないプラネタリウムに溶けていった。
1/1ページ