Like a Dragon
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ターコイズ
彼女を迎えた空港を出たその足で、アロハストリートにあるカフェ『モーニングジョー』まで向かい、トミザワはアイスコーヒーとツナサラダサンドを注文した。
なんにも食べてなくて、と、さっきまで腹の虫を鳴かせていたなまえは、いまや渡されたサンドイッチをしあわせそうに頬張っている。
ビーチ沿いのこの場所にはときおりつよい風が吹いて、そのたび彼女の髪をなびかせる。いたずらに毛先が口のなかに入ってしまいそうなのを見かねて、みだれた髪を耳にかけてやると、見おぼえのある
「あっ、これ? 前にトミーが貸してくれたものだよ」
あれからずっと付けてるんだ。耳たぶに注がれる視線をくすぐったそうにしながら、彼女が笑う。
数か月前――ハワイから帰国するなまえとの別れ際。しょんぼりと落ちこむ彼女をすこしでも元気づけてやれないかと、いつも身につけているターコイズのピアスを片方渡したことを、たしかにおぼえている。
べつに、自分の代わりにこいつが傍にいる、なんてロマンチックな意味を込めたわけじゃない。
ターコイズの石言葉は『旅の安全』。むかしは身代わり石として扱われていたらしいこの石は、これからとおい地に発つなまえにはうってつけだと、トミザワはそう思った。
「このピアスのおかげかな。日本で過ごしてるあいだも、ふしぎとかなしい気持ちにならなかったんだよね」
「そうか? そりゃあ、渡した甲斐があったな」
「でも、こうして実際に逢っちゃうとだめだなあ。ああ、やっぱりわたし、すごくさみしかったんだって実感しちゃった」
なまえはそう言ってはにかみながら、ストローでコーヒーをかき混ぜる。プラスチックのカップに入ったチップアイスが、しゃらしゃらと涼しげに音を立てた。
「そうだ。忘れるまえに、返しておかないとね」
コーヒーとサンドイッチをていねいにテーブルに置いてから、なまえは耳もとのピアスを外しかける。
「まだ、つけとけよ」
「えっ?」
トミザワの制止に、なまえは目をまるくする。
「あ、いや……返すのはお守りが必要なくなったときでいい、っつうか、」
意図せずずいぶん遠まわしな言い草になってしまって、トミザワは首筋をさすりながら、濁した言葉尻をそのまま飲みこんだ。
返すのは、こっちでいっしょに暮らせるようになったときでいい。
たったそれだけを言葉にするのが、なんだか無性に照れくさい。これでは伝わるものも伝わらない、はずなのに。
「……うん。そうする。ありがとう、トミー」
彼女がこちらの意図をこともなげに汲み取ってしまうので、もはやトミザワは降参するほかなかった。
ハワイの燦然とした太陽は、きょうも目のまえの彼女だけをまぶしく照らしている。
2024.03.18