第二章 三輪秀次
風間の言葉に、出水は息を呑んだ。確かに、考えるべき問題だった。あり得るのは他の記憶持ち。そして迅による暗躍。出水や風間に記憶があることによるバタフライエフェクト。
完全に歩みを止めていた二人に静寂が訪れる。その二人を避けるように、通行人たちが歩いて行った。この少し先が商店街だ。
「……?」
思考に沈む出水の横で、何かに気づいたように風間が顔を上げた。遅れて出水もその方向を見る。
──そこにいたのは、三輪だった。
あどけない少年。赤いマフラーを首に巻いて、鞄を手に持っている。そしてその横に、 三輪によく似た女性 が立っていた。
「……まさか」
「兄さんと、同じということか」
思い当たる可能性に、二人は顔を見合わせた。故人が生きている事例が確かに身近にあるのだ。三輪の姉が生きていたって何も不思議では無い。そもそも旧ボーダーの者たちが生きていたおかげだろうか、大規模侵攻は記憶のものよりずっと小さい。被害も少なかったのではなかったか。勿論、記憶のものよりは、という注釈が付くが。
三輪の目元には隈一つなく、姉らしき女性と話し込んでは顔を綻ばせている。
三輪の姉が近界民に殺されたというのは有名な話だ。城戸派として近界民を排除する姿を、苦悩にする姿をよく覚えている。
二人が見つめていたからだろうか、三輪がきょろりと辺りを見渡し、そして固まった。三輪の肩が大きく揺れる。震える唇が、小さく「かざまさん、いずみ」と動いた。
「……!」
風間が息を呑む。「あら、お友達?」と三輪優希が三輪に問うているのも聞こえた。
その反応に、ある確信めいたものが芽生える。三輪も、記憶持ちかもしれない。話しかけるぞ、と風間は出水に目配せをした。それに、出水は笑顔で大きく頷いて、すうっと大きく息を吸った。太刀川隊にある意味鍛えられた風間に嫌な予感が走る。止めようと口を開いて──
「待て、いず……」
「三輪ーー!!東さんの好きな焼肉の部位はーー!?」
──間に合わなかった。
元気よく繰り出されたその質問に、風間は顔を覆った。通行人たちが綺麗に皆振り向く。三輪優希は首を傾げ、三輪は呆気に取られたように瞬きをした。しかし、そのよく知る答えは、混乱の最中であっても滑らかに唇をついて出る。
「……ギアラ、じゃないのか?」
「よしきた、さすが元東隊!!」
流石は焼肉の伝道者が率いた伝説の部隊、と出水がガッツポーズした。風間は盛大に、盛大にため息を吐いた。
「……まて、東さんって、つまり……出水、お前……」
一拍置いて頭が追いついた三輪が、出水を詰め寄る。それを他所に出水は優希に笑顔で話しかけた。
「初めまして、出水です! いつも三輪には……秀次くんにはお世話になってます!」
「あら、初めまして。三輪優希です。これからも秀次をよろしくね?」
「はーい!」
「……ところで出水って……出水映子って名前に聞き覚えあったりするかな?」
「あ、姉ちゃんっすね」
「ならあなたが噂の『公平』くんね。色々と映子ちゃんに聞いたことがあるわ」
「うわー、何話されてんだろ……怖……。逆に三輪からも『姉さん』の話よく聞きますよ」
「あらあら」
「出水!!呑気に会話をするな!!」
和かに自身の姉と会話を弾ませる出水に、三輪が吠えた。眉間に皺がより、鋭い眼光が出水に突き刺さる。尚も出水に言い募ろうとした三輪は、風間に止められた。
「三輪、周りに迷惑だ」
「そうよ、秀次。それに、あんまり難しい顔してちゃダメよ? お友達なんでしょ?」
続けて優希に嗜めるように頭を撫でられ、顔を真っ赤にする三輪。それを出水がにやにやと口元に手をやって眺めていれば、三輪の姉が視線を逸らした瞬間、不機嫌そうな三輪に足を踏まれた。
痛みに悶える出水。そして風間に「出水、お前もだ。何市街地で叫んでいる」と叱られた。
「はい……すみません……」
反省。
「風間蒼也、十七歳です。弟さんには少し縁がありまして」
項垂れる出水に「よし」と許しを出した風間が優希と挨拶している間、出水は三輪と連絡先を交換していた。大人の会話だ、と風間を崇めておく。
「……っし、できた」
出水の携帯電話の画面に「三輪秀次」と表示される。「相変わらず本名のままかよ」と、そのアカウント名に出水が言えば、三輪は「お前が遊び過ぎだ」と画面に映るの「みかんコロッケ」という文字列にため息を吐いた。ちなみに三輪の頭には揚げられたみかんが思い浮かんでいる。
「相変わらずお前のセンスは謎だ」
「いいだろ、美味いじゃん」
「みかんコロッケが……!?」
「みかんとコロッケが!」
三輪が戦慄したように一歩下がるので、出水は食い気味に訂正した。
完全に歩みを止めていた二人に静寂が訪れる。その二人を避けるように、通行人たちが歩いて行った。この少し先が商店街だ。
「……?」
思考に沈む出水の横で、何かに気づいたように風間が顔を上げた。遅れて出水もその方向を見る。
──そこにいたのは、三輪だった。
あどけない少年。赤いマフラーを首に巻いて、鞄を手に持っている。そしてその横に、
「……まさか」
「兄さんと、同じということか」
思い当たる可能性に、二人は顔を見合わせた。故人が生きている事例が確かに身近にあるのだ。三輪の姉が生きていたって何も不思議では無い。そもそも旧ボーダーの者たちが生きていたおかげだろうか、大規模侵攻は記憶のものよりずっと小さい。被害も少なかったのではなかったか。勿論、記憶のものよりは、という注釈が付くが。
三輪の目元には隈一つなく、姉らしき女性と話し込んでは顔を綻ばせている。
三輪の姉が近界民に殺されたというのは有名な話だ。城戸派として近界民を排除する姿を、苦悩にする姿をよく覚えている。
二人が見つめていたからだろうか、三輪がきょろりと辺りを見渡し、そして固まった。三輪の肩が大きく揺れる。震える唇が、小さく「かざまさん、いずみ」と動いた。
「……!」
風間が息を呑む。「あら、お友達?」と三輪優希が三輪に問うているのも聞こえた。
その反応に、ある確信めいたものが芽生える。三輪も、記憶持ちかもしれない。話しかけるぞ、と風間は出水に目配せをした。それに、出水は笑顔で大きく頷いて、すうっと大きく息を吸った。太刀川隊にある意味鍛えられた風間に嫌な予感が走る。止めようと口を開いて──
「待て、いず……」
「三輪ーー!!東さんの好きな焼肉の部位はーー!?」
──間に合わなかった。
元気よく繰り出されたその質問に、風間は顔を覆った。通行人たちが綺麗に皆振り向く。三輪優希は首を傾げ、三輪は呆気に取られたように瞬きをした。しかし、そのよく知る答えは、混乱の最中であっても滑らかに唇をついて出る。
「……ギアラ、じゃないのか?」
「よしきた、さすが元東隊!!」
流石は焼肉の伝道者が率いた伝説の部隊、と出水がガッツポーズした。風間は盛大に、盛大にため息を吐いた。
「……まて、東さんって、つまり……出水、お前……」
一拍置いて頭が追いついた三輪が、出水を詰め寄る。それを他所に出水は優希に笑顔で話しかけた。
「初めまして、出水です! いつも三輪には……秀次くんにはお世話になってます!」
「あら、初めまして。三輪優希です。これからも秀次をよろしくね?」
「はーい!」
「……ところで出水って……出水映子って名前に聞き覚えあったりするかな?」
「あ、姉ちゃんっすね」
「ならあなたが噂の『公平』くんね。色々と映子ちゃんに聞いたことがあるわ」
「うわー、何話されてんだろ……怖……。逆に三輪からも『姉さん』の話よく聞きますよ」
「あらあら」
「出水!!呑気に会話をするな!!」
和かに自身の姉と会話を弾ませる出水に、三輪が吠えた。眉間に皺がより、鋭い眼光が出水に突き刺さる。尚も出水に言い募ろうとした三輪は、風間に止められた。
「三輪、周りに迷惑だ」
「そうよ、秀次。それに、あんまり難しい顔してちゃダメよ? お友達なんでしょ?」
続けて優希に嗜めるように頭を撫でられ、顔を真っ赤にする三輪。それを出水がにやにやと口元に手をやって眺めていれば、三輪の姉が視線を逸らした瞬間、不機嫌そうな三輪に足を踏まれた。
痛みに悶える出水。そして風間に「出水、お前もだ。何市街地で叫んでいる」と叱られた。
「はい……すみません……」
反省。
「風間蒼也、十七歳です。弟さんには少し縁がありまして」
項垂れる出水に「よし」と許しを出した風間が優希と挨拶している間、出水は三輪と連絡先を交換していた。大人の会話だ、と風間を崇めておく。
「……っし、できた」
出水の携帯電話の画面に「三輪秀次」と表示される。「相変わらず本名のままかよ」と、そのアカウント名に出水が言えば、三輪は「お前が遊び過ぎだ」と画面に映るの「みかんコロッケ」という文字列にため息を吐いた。ちなみに三輪の頭には揚げられたみかんが思い浮かんでいる。
「相変わらずお前のセンスは謎だ」
「いいだろ、美味いじゃん」
「みかんコロッケが……!?」
「みかんとコロッケが!」
三輪が戦慄したように一歩下がるので、出水は食い気味に訂正した。
