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第一章 出水公平

 ︎︎出水公平がそれを思い出したのは、界境防衛機関「ボーダー」なる組織についてのニュースを見た時だった。
 フラッシュが焚かれるその前に並ぶ顔ぶれに、「あ、城戸司令」と思ったのがきっかけだ。しかもその会見というのも中継でもなんでもなく、数日経った後のワイドショー的なやつなのであった。アイドルとか俳優とかが出てくるやつ。
 ︎︎瞬間、出水の脳裏に溢れ出した存在しない記憶――。というのはさておき、出水は自分がボーダー隊員であったことを思い出したのだった。A級一位太刀川隊射手。射手ランキングNo.2。一応ボーダーの主力であったと自負している。

「……タイムスリップってか?」

 みかんを剥く手を止めて、出水は唖然と呟いた。
 ちなみに出水の家には特に大規模侵攻の被害は無く、至って平和だった。故にニュースを深く見ることもなく、故にボーダーを知ったのが今だった。
 ︎︎ぱかり、と口を開けて固まる出水の横を、出水映子が胡乱げな顔で通り過ぎて行った。また弟が馬鹿やってる、とでも思われてるかもしれない。
 それはさておき、自身に何が起きたのだろうか。近界絡みかと邪推するものの、思い当たる節はない。開発部を手伝っていた、などもない。
 自分の手足をしげしげと眺めてみると、慣れ親しんだものではなく、まだ成長期前の身体だと分かった。出水が丸ごと過去に戻ったというわけでなく、というより体感的には13歳の自分に、中身だけがインストールされた感じ。見た目は子供、頭脳は大人を体現している。

「こういうの、何て言うんだっけ……」

 タイムスリップよりも、何か適した表現を聞いたことがある気がする、と記憶の箪笥を引っくり返すも埃しか出てこない。「柚宇さんあたりが言ってた気がするけどな……ま、いっか」出水は何とも雑に諦めた。

「……ボーダー入るか」

 ︎︎どうしたものかと数秒腕を組み、うんうん唸った出水は、再びかの厨二と名高い黒いロングコートに袖を通すことを決めたのであった。それ以外の選択肢は端からなかったとも言うが。
 「おれボーダー入るわ」「え!?」という両親との会話を終え、説得に説得を重ねた末に了承を得、ボーダーの入隊式なのである。イマココ、というやつだ。

 ︎︎周囲を見渡せば、どうやら見知った顔もちらほらいる。遠目に見えるあの後ろ姿は三輪だろうか。部屋の反対側に立っているのは、もしかしたら風間かもしれない。
 ︎︎ボーダーの入隊者はどうやら大半が年上のようだった。出水は現在13歳。入隊式に臨む者たちの平均年齢を計算したら、間違いなくそれを下回るだろう。
 ︎︎しばらく周りを観察していれば、ふと部屋が暗くなった。ざわざわと騒めきだす入隊者の向く舞台上で、誰が立っているようにも見える。出水は部屋の端の方に立っていること加えて、周囲が年上ばかりで背が高く、前が見づらい。先頭の方に行っておけばよかった。

「本日はお集まり下さり誠にありがとうございます──」
 男の声が響いた。

 マイクを持った男性が、和かに話し出す。彼は髪を後ろへ流し、ゴーグルを首に掛けている。遠目であるがそれに見覚えがある気がして、出水は首を傾げた。が、気のせいかと思い直した。
 このような場で沢村が司会ではないのは珍しい。沢村か、あるいは彼女が表に出ないときは忍田が取り仕切るのが常ではなかっただろうか、といつものように考えて、まだ沢村は上層部ではないのだったと出水は軽く首を振った。沢村は、当初は戦闘員だったと話に聞いていた。即ち今の出水の後輩かもしれない。──そうとするならばあの司会の男は他の上層部の誰か、だろうか。
 しかし、出水は彼に見覚えはない。例えば出水の知る忍田などの姿が、壮絶なイメチェンといった紆余曲折を経ての姿ならば何も言えないが。流石にそのようなことはないだろう。
 出水が思考に沈んでいる中、どうやら話は進んでいたらしい。

「本日司会を務めさせていただきますのは最上宗一です。……って堅苦しいのやめていい?」
「おい最上!」

 ︎︎舞台裏からツッコミが飛ぶ。「真面目にやんなさいよ」との少女らしき声も届いた。
 それらを黙殺する司会。「いやー、皆だってこんな硬い雰囲気じゃ嫌だろー? もっと気軽にいこうぜ」と入隊希望者たちに話しかける司会に、どっと場が沸いた。緊張していた入隊希望者たちが安心した顔をする。
 皆が笑みを浮かべる中、出水は──出水だけが言葉を失っていた。

「……最上、宗一?」

 ︎︎最上宗一。迅悠一の師匠。風刃。黒トリガー。旧ボーダーの一員。
 ︎︎出水が知るのはそれぐらいだ。それらも太刀川や他の隊員の噂話から知ったくらいで、出水が旧ボーダーについて知っていることは少なかった。
 しかし彼が第一次大侵攻の前に黒トリガーへとなった、つまり亡くなったということは知っていた。
 ︎︎それだというのに、最上宗一が生きている。思い返せばニュースに映る城戸の顔に傷跡はなく、第一次大侵攻の被害も随分と小さくはなかったか。出水がはくはく、と口を動かすも肺にうまく空気が入らない。

「……大丈夫?」

 ︎︎出水が絶句していれば、いつの間にか隣に青年が立っていて、出水の顔を覗き込んでいた。茶色がかった髪を前で分け、青い双眸がこちらを見つめている。心配の色を浮かべ、落ち着けとばかりに背中を摩ってくれた。記憶より随分とあどけなさが残るその顔に、今度こそ顔色を失った出水は、とうとうひっくり返った。「迅さんじゃん!!?」と心の中で盛大に叫んだことはここに記しておく。





 ︎︎夢を見た。
 それも、最悪の夢だ。
 ──夢の中で出水は、風間の前で正座をさせられる太刀川を眺めていた。風間はその赤い目をらんらんと光らせ、腕を組んでいる。凄みを増すその姿に、太刀川が項垂れた。

「おい太刀川、俺は防衛任務から帰ってくるまでに最低でもこのレポートは終わらせておけと言ったはずだが?」
「いや……あの……」
「聞いているのか、太刀川!!!」

 ︎︎風間が怒声をあげる。気まずげにうろうろと視線を動かす己の隊長に、出水は冷たい目を向けた。
 単位を犠牲にしたA級一位とはよく言ったもので、今日も今日とて単位が危うい太刀川は風間に叱られている。頼みに頼んで教授に出して貰った、落単を回避するためのレポートさえをも、太刀川は終わらせていないらしい。
 ︎︎己の隊室に響くそれは、当事者で無い出水からしても身のすくむ思いがする。それにしても課題を終わらせようとしていたが、どうやらラウンジにでも行くべきのようだ。流石に怒声の中で課題を続ける勇気はない。
 出水が広げていた問題集を閉じた瞬間、風間と目が合った。背中に冷や汗が垂れる。怒られることなど何もしていないが、それはさておき、死ぬほど叱られる太刀川を常に目にしているのだ。殺気立つ風間は、有り体に言って、超怖い。
 ︎︎険しい顔の風間がゆっくりと口を開いて──

「おい出水、何を寝こけている」
「うぎゃっ」

 ︎︎風間の声に出水は飛び起きた。「すみません風間さん!」と条件反射に言いかけて、出水は固まった。見知らぬ部屋だ。

「あれ、おれって……」

 ︎︎周囲の壁は白く、天井から垂れるカーテンで仕切られている。掛けられていた真っ白な掛け布団を持ち上げて、出水はきょろきょろと辺りを見回した。
 先程まで自分は入隊式に参加していたはずだが。

「倒れたらしいが記憶はないのか」
「……風間さん」

 ︎︎隣から声がして出水は目を瞬かせる。ベッドサイドに佇んでいたのは風間だった。夢を見たのはそのせいか、と出水は人知れずふう、と息を吐いた。何かの予兆かと思った。
 例えば太刀川がまた単位を落とすだとか。
 因みにあの夢は実際に起きた出来事だ。そろそろ太刀川にはいい加減にして欲しい。

「倒れたって言っても……」

 ︎︎自分が「倒れた」という言葉に、出水は胡乱げに記憶を探る。首を右に45度、左に135度。うーん、と唸った出水は、程なくしてぽんと手を叩いた。思い当たるものがあった。

「やらかした……」

出水は溜息を吐いて項垂れた。
 迅に話しかけられた瞬間にぶっ倒れたのであった。心配してくれている様であったというのに、それを無視した形だ。見事に申し訳なさ度マックスである。
 思い返せば沈みゆく意識の中、迅の焦り声が聞こえた気がする。「読み逃した!」「嘘でしょう!?」「えっちょっと、誰か、も、最上さん!!!」──とまあ、パニックになった様な悲鳴が思い出された。非常に申し訳ない。
 思わずベッドの上で正座をした出水。そんな謎の行動をとる生命体を、風間は非常にクールな目で、この上なく華麗にスルーした。攻撃手界隈は主に太刀川と生駒のせいで突飛な行動に慣れているというのは全くの余談である。

「体調でも悪かったのか?」
「いや……あの……おれ、最上さんを見て……」

 ︎︎記憶のものより少し小柄な風間とは、ベッドに正座していても目が合う。真っ直ぐな視線に、出水がしどろもどろに口を開けば、「そういうことか」と納得風に風間は頷く。

「……って、風間さんも──」

 出水の言葉に、何も聞かずとも理解した風間。加えてそもそもの話、風間とはボーダーにおいてが初対面であって、出水の名を親しげに呼ぶこと自体がおかしい。
 記憶がなければありえないその言動。それに気付いた出水が目を見開けば、かつてのA級三位隊隊長は薄く笑った。

「ああ、覚えている」

 間。

「え、えええー!!?」

 出水が叫んだ。
 タイムスリップなのか何なのか、はたまたトリガーバグなのか。出水が未来の記憶を持ったまま第一次侵攻直後の世界線に、しかも故人が生きている上にその他の事象にも差異がある、そのような世界に来てしまったと言う事実。まるでコミックのような出来事が己だけでなく風間にも適応されていると言う。
 「おれだけはなくて良かった」と言う安堵の気持ちと、「自分だけが特別ってわけじゃなかったのか」というちょっぴり残念な気持ち。誰しも一度は「自分だけが特別な力を持っていて……!?」というシチュエーションに憧れるものだ。例に漏れず出水も、混乱の中にあっても知らず知らずのうちに心内で少しの浪漫を抱いていたらしい。それら期待の風船が、みるみるうちに萎んでいったのが分かった。相反してに「風間さんがいるならもう大丈夫」と言う期待は膨らむ。
 いくら出水とは言えど、世界でひとりぼっちな異端児だというのは流石にごめんだった。
 百面相をする出水に、風間は「静かにしろ」と肩をすくめた。

「ここは医務室だ」
「はい、すみません」

 居住いを正す出水。三雲の病室前での出来事を思い出した。あの時は米屋と緑川と共にいたところで、風間と出会ったのであった。
 一拍置いて、出水は恐る恐る口を開いた。

「……ところで風間さん」
「なんだ?」
「東さんの好きな焼肉の部位は……!?」

 ごくり、と唾を飲み込む。出水の期待のこもった目に、風間がフッと笑った。

「──ギアラだ」
「FOOOOO!!」

 スタンディングオベーション。心の槍バカと迅バカも、皆揃って拍手した。
 さすが風間さん! と出水は興奮冷めやらぬ様子で、にこにこと満面の笑みを浮かべた。
 盛り上がる出水を「うるさい」と注意しようとして、風間はそれを止めた。医務室には出水と風間しかいない。そこまで目くじら立てる程でもないだろう。
 しょうがないやつだ、と風間は後輩を見て目を細めた。
 程なくして医務室の扉が開いた。スライド式のドアがカラカラと音を立てる。

「蒼也ー?  大丈夫だったか?」

 ︎︎ひょこりとカーテンから顔を出したのは、風間によく似た青年だった。激似である。言うなれば記憶の中の成人済みの風間さんを縦に伸ばしたような感じ。
 これ以上身長に触れると、どこからともなく現れた、隊長過激派の菊地原辺りに緊急脱出させられそうなので、出水はきゅっと口を噤んだ。本人は気にしていない上に、菊地原自体は身長ネタをよく口にするというのに。過激派オタクってそういうとこあるよね〜、とは国近の談だ。
 ︎︎それはさておき、青年と風間は非常によく似ている。風間に先に会っていなければ、「背伸びたんですか!?」とでも口走りそうなほど似ていた。
 ──また身長に触れてしまった。「あっ、やべ、緊急脱出させられる」と出水が視線を泳がせていれば、青年と目が合った。彼はにこりと手を振る。それに会釈で返せば、風間が呆けた顔で青年の方を向いた。

「──兄さん」
「エッ、兄さん!? 風間さんってお兄さんいたんすか!?!?」

 ︎︎風間にしては珍しく幼げな声による青年への返事に、出水は裏返った声を発した。風間が片眉を上げて出水に振り向く。

「なんだ、俺に兄がいるのがそんなに不思議か?」
「いや、風間さんってどちらかと言うと兄属性じゃないですか? 面倒見めっちゃいいし」
「そうか?」

 なかなか世間は狭いもので、やれ誰と誰が兄弟だ、誰と誰が従兄弟だと、よく噂が回ってきていた。例を挙げれば米屋と宇佐見、奈良坂と那須、月見姉妹に北添兄弟。烏丸家は弟妹が多いと聞いていたし、そもそも出水自体も姉がいる。
 そんな中で兄弟がいるという話を聞いたことがなかったから、出水は風間のこと一人っ子だと思っていた。とはいえ他隊の先輩の上にポジションも違う。仲良くないと言えば嘘にはなるが、家族構成のような込み入った話をしたことは無かった。

「へぇー?  いい先輩してるんだな」

 ︎︎風間と出水の会話に、青年が目を少し開いたかと思うと嬉しそうに笑った。そのまま、わっしゃわしゃと風間の頭を掻き混ぜる。

「止めてくれ兄さん」

 風間が兄の手に翻弄されつつ抵抗した。
 その声を無視して撫でるのを止めないそれに、林藤とよく似た気配を感じた。

「ああ、自己紹介してなかった。俺は風間進──蒼也の兄だ、よろしくな」
「おれは出水公平です……あー、風間さん……蒼也さんにはいつもお世話になってます……?」
「出水くんか、これからも蒼也をよろしくな」

 にっこりと笑うその顔に、たじたじになる出水。風間の兄というだけあってそっくりな容姿である。それだというのに彼の顔に浮かぶのは風間なら絶対にしない様な、人好きのする笑み。出水は途轍もなくたじろいだ。

「いやー、蒼也って誰かを家に連れてきたりとか無かったからなぁ。仲良いやつがいて嬉しいよ。なぁ、出水くん」

 進に同意を求められた。「風間さんのお友達といえば、レイジさんとはお酒飲みに行くらしいですし、雷蔵さんとラウンジで諏訪さんを煽ってるのよく見ますよ」とは入隊0日目で口が裂けても言えない。出水は返答に困り、にへらと笑った。

「後輩を困らせるな」

 ︎︎べしり、と風間が一刀両断する。

「俺の後輩だからってわざわざ見に来たわけじゃないだろう?」
「え? 八割方そのためだけど」
「は?」

 風間が地獄を這いずる様なほど低い声を出す。「これは太刀川さんのレポートが三つとも翌日提出だった時の声……!」と出水は顔を引き攣らせた。風間怒りメーター検定一級取得者である。太刀川隊隊員は皆必修だ。因みに出水くらいの者になってくると、タイガー腕組み検定も一級だ。
 げっそりとレポート・デスマーチに思いを馳せる出水である。
 それを不思議そうに眺めていた進が、風間のじとりとした視線に、言い訳がましく口を開いた。

「や、だってトリオン兵と戦ってみて精神的にキツそうな人にはエンジニアとか勧めようって話はあったけどさー、出水くんって入隊式で倒れたんだろ?」

 口をへの字に、進が続ける。

「まだ戦ってもないわけじゃん。もし出水くんに一度トリガー使ってもらおうって話になっても、俺、今は訓練用トリガー持ってないし。……というか、大人たちはそこまでトラウマがあったのかもしれない、って真面目な顔で議論してるしなー」
「……そうか」

 進の言葉に、風間は何やら苦いものを噛んだような顔をした。

「……ところで疑問なんだが……それ、本人の前で言って良かったのか?」
「え? 普通なら良くないね」
「兄さん?」

 あっけらかんと答える進。風間が進に詰め寄った。兄弟喧嘩が始まる。
 それを出水は、感情的な風間さん珍しー、と流した。図太いどころではない。やいのやいのと軽い口論をする仲良し兄弟を横に、進の言葉を反芻していた出水は、その言葉を理解して青ざめた。

「ってか思ったより大事……?」

 出水が倒れたのは、故人が生きていたことなどへの驚きが理由であって、特に第一次侵攻へのトラウマではない。だが確かにあの状況では、そう捉えられたとしても無理はなかった。

「……出水にそんなトラウマなどないだろう」

 あんなに撃ち抜いていたというのに、とでも言いたげな顔の風間に、出水は勢いよく何度も頷いた。

「……本当に?……先輩に言わされてるわけでなく?」
「いや全然。ふつーに体調悪くなっただけです」
「俺のこと『いい先輩』と言ったのは誰だ、まったく」

 風間が不貞腐れた。「いや、言葉の綾じゃん」と風間の頭を撫でた進は、またもや風間に嫌がられている。
 風間の抵抗に「反抗期か……?」と半ば真面目にダメージを受けていた進は、少し考え込んだかと思うと、少し離れて何か一人で話し始める。話している内容は、よく聞き取れない。通信か、と出水がそれを眺めていれば、進が「えっ、それ本当です?」と大声を上げたかと思うと、出水と風間を見てひそひそと声量を落とした。どんどん顔が渋くなっていくのをおもしれー、と観察していると進が戻ってきた。その顔だと風間によく似ているな、と出水は思う。

「……あーー、許可降りたので……ブースのとこ行ってみようか……体調は大丈夫?」
「あっ、はい。全然いけます」

 突如とした提案に、出水は驚きつつそれに乗った。
 じゃあ準備するからゆっくり来なー、と案内役に風間を指名して進は足早に医務室を出て行った。すんなりと決まった出水の処遇に若干呆けていれば、風間は「……これは流石に何かあるな」と呟く。

「どういうことです?」
「……いや、いい。考えすぎかもしれん」
「……『考えすぎか……』って気付いたことを言わなかった人が翌日殺されてるのって、クローズド系シナリオの十八番らしいですよ」
「俺なら返り討ちにするから問題はない」

 さも当然のように言う風間に、出水はひゅう、と口笛を吹いた。

「ところでお前は推理小説など嗜まないだろう。誰の入れ知恵だ」
「え? 諏訪さん」
「あの立方体が……」

 風間が盛大に舌打ちをした。それに「やっぱ同年代仲良いなぁ」と笑いながら、出水はベッドから降りる。

「でも真面目に、何か気付いたことあるなら共有してくれると助かります」
「そうだな……帰りにでも話すか」

 二人で廊下を歩きつつそう言えば、風間が数秒悩み頷いた。しかし、「だがな……」と続ける。

「どうしました?」
「……お前はまず、これからのことを心配した方がいい」

 風間の沈痛な面持ちに、出水は足を止めて首を捻った。その本当に何も気付いていない様子に、風間は「そうか、本来なら入隊はもう少し遅かったな……」と納得する。

「何か初期入隊だと最初のトリオン兵違ったりしたんですか?」
「いや、そう言うことじゃない」

 出水の疑問に首を振る風間。

「──お前、弧月を使えないだろう」
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