開花予感のウワサ

 朝の木漏れ陽を見上げる。葉の重なる濃い陰がそれでも光を含む青緑。
 昼日向舗装された道の端、隙間から生えるタンポポの花を見た。はっきりした、力強い黄色。
 ビルの狭間の夜空の月は色も形もレモンの様で、冴えているのに温かみがある、陽に透けて輝き躍る糸の金色。
(否……糸じゃ、ないな。)
 元気な明るい金髪。その内巻きに縁取られた、隙だらけの聖守の少女の、だけど好ましい笑顔が星悪魔アズールの眼裏に浮かんだ。桃色の頬、青緑の瞳。
 異性から……しかも天使属から明確な好意を向けられたと感じたのは初めてで、二度目は躱したけど追ってくれたのにも、内心奇妙な、でも温かい物が胸の辺りをくすぐる感覚に戸惑った。それを思い出してしまった自分にも。
 アズールは強さに敬意を抱く悪魔属だ。だから、天使属だが星天使タケルに興味と好意を持ち、自分の仲間になれと誘ったのだが。
「あたしじゃダメ?」
 タケルを誘った瞬間、割って入って答えて来た少女の……ポーチの甘い響きの声と握られた手の感触がよみがえる。再び浮かんで来た少女を振り払う様に自分にも隙があったのかと、苦く思おうとする。
(……隙と言うなら、あいつも俺に対して隙だらけだったな。)
 タケルの笑顔も思い出す。目の前で彼らにとっての敵を片付けて見せた事が大きかったのかもしれないが、あの少年も明らかに自分に気を許していた。彼らのもう一人の仲間、生真面目そうな聖守の少年の態度の方が、一般的な天使属の反応として正しいものだろう。
「アズールは悪魔なんですよ!」
 悪魔属と行動を共にする事、ましてや好意を持つなんてどうかしていると。それならば、タケルを仲間にと請う自分もどうかしているのかもしれないとアズールは思ったが。
(タケルは強い。それは間違いなく価値がある。それに、あいつも『戦使』だ。)
 自分と同じ存在。対等である、対等でいたい存在。同じ業を背負って来ただろうあいつだから、天下を取った暁に同じ目線いて欲しい。
(天蓋核も要るしな。)
 はたして素直に使わせてくれるかは謎だが……。等々と、意図してか無意識か、金を赤に塗り替えて未来に思考を馳せる悪魔属の少年だった。

 月からはスクリーングラスの向こうの瞳を伺えない。導きの月の光を遮っていることに、気付くものはいなかった。

 とある世界にそんな夜もあったという運命の神々のウワサ。
 花芽は既にその胸にも。きっとこの恋も花開くと、まことしやかにささやかれたのだとか。

おしまい>>>NEXT

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