開花予感のウワサ

 時はまだカリスマデビルが多くの悪魔属を統べ、その軍隊の手により世界に混沌が広がり、天使属と悪魔属が次界卵をめぐっても戦いを繰り広げていた頃の事。
 天使属・星戦使タケルとその一行の悪魔属と戦いながらの旅の途中、立ち寄ったゾーンで通りがかった店のガラス壁越し目の端で捉えた品に、触角をぶんと振り聖守・天助ポーチは体を外に残し飛び付いた。
「ウッソ!あんなに可愛くてこのプチプライス?!ちょっと寄らせて!!」
「お、おぉ?!」
「ちょっとって、ポーチさ〜ん!」
 店の看板、客寄せのタペストリーの文字も見て、赤毛の少年天使を浮かばせる勢いで腕を引っ張り二対の翼をはためかせ店内に飛び込む聖守の少女の後に、止めても止まらないだろうと既に諦めているゴーグルの少年聖守は、やれやれととほほの入り混じった声を上げゆっくり続く。

 ポーチの目には真っ先にアクセサリー等のオシャレ雑貨やカスタムパーツが目に入った様だったが、店内を見渡すと食器や文房具、玩具のコーナー等、多岐に渡る雑貨や素材を取り扱っている。
 『初恋雑貨店プチプライラック』取り扱うほぼ全ての品が一つコイン三つポッキリの価格というのに、ゴーグルの少年・賢守カンジーも素直に驚いた。ふと手に取った飾り気はないが透明度が高いガラスのコップは少年のまだ小さめな手にもなじみが良く、安かろう悪かろうといったクオリティには見えない。千里ゴーグルに手をかけたが失礼と思ったのだろうか、むぐむとわずかに唇を動かし、結局何もせずそっとそれを棚に戻した。
「なあなあコレ、スター天帝のファンの奴らが持ってたのと同じだよな?」
 ポーチの手を逃れた赤毛の少年・星戦使タケルが持って来たのは中身が分かる包みに入ったサイリウムだった。
「へえー。そんな物もあるんですね!」
 感心して答えながら必要ないなら戻して来るようにとタケルを促し、ポーチを探して歩いていると携帯電話を飾るためのキラキラしたモチーフシールのシートを携帯電話なスーパーゼウスが見付けた。
「ワシもオシャ」
「シンプルが素敵ですよ!」
 胸元の老ヘッドにみなまで言わせず陳列棚の間を進み角を曲がると、キラキラした瞳で品物を選ぶポーチがいた。
 薄手で透け感のあるリボンが付いたヘアゴムや細部の飾り編みが異なるカチューシャを、ずらしたり奥に手を伸ばしたりして、陳列棚の色違いデザインの中からお目当ての色を選んでいる様だった。
 カスタムパーツのコーナーではハートや星、翼のモチーフ等を両の手に取ってウキウキと、どうやら形を見比べたり、少し迷っては既にカゴに入れてある物と入れ替えてとを繰り返し実に楽しそうだ。
「へぇえー?」
 カンジーの後ろから遅れて現れ、そのカゴの中身を見たタケルが意味有りげな声を上げた。
「何よ、タケル?」
 二人と一台に気付き物色の手を止めて、首を傾げてポーチが訊ねる。
「んー?いやあ、なんか選ぶ時さあ、おまえってピンクばっかり選んでるっぽい気がしてたのに、今日のはアズールの色だなーって。」
 ほんのちょっとの好奇心が含まれた何気ない一言を受け三人が一斉にカゴの品を見ると、ピンク色もあるものの、青系、紫系、光沢のある黒等の色彩が目立って見えた。それは最近彼らが知り合った、悪魔属の少年・星悪魔アズールを思い出させる配色だった。初めてアズールに遭遇した時にポーチは彼の手を取りアピールする勢いで彼に一目惚れしたようなのだが、彼が悪魔属である事から良い顔をしないカンジーには「本気にはならない。キープだ」等と口にしていた。しかし……。
 一瞬の間を置き、手の品とカゴを上に放ると同時にぽぽんっと音がしそうなほどに顔を真っ赤にしたポーチは
「こ、こ、こういう色も似合うんだもん!私ったら美人だから!お会計して来るぅっ!」
 と、キャッチした袋入りのパーツとカゴを抱えるようにして、マナーも忘れて慌ただしくドタバタターッと転びそうになりながらレジに向かった。
(ほほっ。無意識にか。しかもあんなに照れるとは。可愛らしいところもちゃんとあるもんじゃのう♪)
「……。。。。」
「?何だよ。カンジー?」
 ほっこり気分のスーパーゼウスとは違い、向けられた事のない形容しがたいジメッとした視線を感じたタケルが問うと
「……いえ。僕が気付かなかった、単純ながらも細やかなポーチさんの心理を……タケルさんに先に気付かれたのが、何だかショックで……。」
「カンジーお主、時々直球で失礼じゃのう。」
「失礼なのか?」
 認識のズレは時として平和を呼ぶらしい。

 程なく店を後にして。

 穏やかなまま夜を迎えた一行は、食事を済ませた後の宿で思い思いの時間を過ごしていた。
 一人の寝息が本格的になって来た頃、ポーチは自分の寝台の上で昼間に買った品のキラキラ改造に勤しんでいた。
 濃いめな桃色一色の大きめなハンカチの上に、昼間購入した品々から選んだ細かいパーツの素材や自前の道具が袋から出されて星座のように広がっている。
 ヘアゴムから丁寧に外したグラデーションがかかった紫の蝶結びオーガンジーのリボンに、青い五芒星型の宝石風チャーム、その下に黒いビーズと金色の金具を繋いだパーツを取り付け、小さめなハンドメイドアレンジ用の金色のヘアクリップに固定する。ポーチのアクセサリーアレンジ最初の一品の髪留めが完成した。
「あはっ☆でーきたぁ!」
 満面の笑みで出来上がったそれを両の手で掲げ、努めて小さく歓喜の声を上げると、ポーチは早速髪に当ててみる。
 手鏡の中の金糸に、寝台傍の明るめオレンジを受けた紫の濃淡が黎明の朝のように映え、青い星の下から尾のように連なる黒のスワロフスキー風硝子ビーズがゆらゆらと揺れてきらめいた。幾度も角度を変えて映し出される鏡の中の女の子の頬はほんのり桃色に染まり、満足げに微笑んでいる。
(ほら。やっぱりお似合い♡)
 そう思うと同時に、きらめく色のモデルを思い出し胸のトクトクが高鳴るのを感じて、ポーチは手鏡と髪留めをそっと膝に置く。
 ふと目線を上げると、タケルが閉めたカーテンのバランスが悪かったらしく窓の端……縦長の夜闇に自分の姿が映った。それを見ながらもう一度、顔の横に髪留めを当ててみる。
(あなたの色は、私にすーっごくお似合いだよ?私の色は……。)
 色達を映す湖の青緑が期待に揺れる。
(あなたの隣にいる私も、お似合いだといいなあ……。)
 夢見心地に零れた吐息に気付くものは誰もいなかった。

 とある世界にそんな夜もあったという、運命の神々のウワサ。
 恋の花が開く予感がすると、あたたかくささやかれたのだとか。


おしまい
>>>NEXT


1/3ページ
スキ