二人の瞬間~恋色のめぶき♡ ~アズールポーチ

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はじめて会った時に思ったの。

この人のそばにいたい。

だけどあの時のわたしにはかなえたい目的があったから…。
つぶれちゃうかもって思うくらい胸がくるしくて、どうしてもがまん出来なくて、
だから
「もしも、おにいちゃんに会えなかったり、おにいちゃんに会えても聖守(サポーター)にしてもらえなかったら…、その時はコーラルを、タケルちゃんの聖守にしてくれる?」
あの日のわかれぎわ、せいいっぱいの気持ちを伝えたの。
「ああ。約束な!」
力強くてまぶしい、あったかい笑顔で答えてくれて、すごくうれしかったの。

タケルちゃんのことが好きなんだって、すごく思ったの。


タケルちゃんの気持ちは、わからないけど…。

あの日の約束。タケルちゃんは覚えてくれているのかなあ?
 地上を遥か下方に見下ろし、空を行く艇の朝はほんの少し早い。
 星天使タケルは日の出と共に目覚め、一人日課の修練に励んでいる。星悪魔アズールが起きているなら付き合ってもらうのだが、夕べ彼は眠りについたようなので一人艇の廊下でランニングや柔軟、素振りなどをして汗を流す。
 一通り終える頃には他の面子も起き出して来るだろう。
 今日の朝食もきっと美味いに違いない。
 そんなことを思いながら一息つこうとエアカーテンで外気を遮る石造りの窓辺から、輝くレモンイエローの雲がたなびくシアンブルーの朝の空を眺めていたタケルは、意外な人物から朝の挨拶を受けた。
「おはよう。タケルちゃん。」

 背後に感じた温かな気配に振り向くと、一人の少女がほんわかと穏やかな声音で笑いかけてきた。長い珊瑚色の髪を二つに結い上げた、碧と赤のオッドアイズの少女。それは一行の中で一番年少で、いつもなら一番遅くまで寝ている聖守の愛助コーラルだった。
 星悪魔アズールと、ひとつの容(からだ)を共有しているこの少女は、アズールが眠りにつくと表に現れる。
 夕べアズールが眠るのを確認しているのだから、今日コーラルが現れるのは道理なのだが、タケルは少し驚いた。
「おはよう、コーラル。珍しいじゃん。」
 元気にヨッ!と手を掲げてタケルも挨拶を返す。朝の光を背にした少年の真っ赤な逆毛の頭髪は、日の光に透けて緋色に輝いた。
「…! どうした?」
 不意に、目の前の少女からいつもの笑顔が消えて、かわりに寂しげな色を宿した瞳が潤んだので、タケルはギクリとして声をかける。
 この少女が、「いつでも笑顔」を信条にしているのは仲間の誰もが知っている。どんな時でも場を和ませるその笑顔はみんなの宝物だった。コーラル自身もそれを自覚していて、大好きな人たちを元気にしたいがために「いつでも笑顔」でいようと心がけていた。
 
 だけど、今は笑顔になれない。
 
 笑顔を、見せてくれない…。

 コーラルが泣きそうになっている。
 窓から差し込む目覚めたての朝の眩い光に照らされているというのに、いつも愛らしいその面差しに影が落とされていて…。
 それだけで、タケルにとっては深刻な緊急事態だった。
 何とかしなくてはと思うのにオロオロするしか術のない少年の、濃い茜色の衣の裾を つん と掴んだコー
ラルが弾けるような声を上げた。
「タケルちゃん…、ポーチのこと、好きなの?!」
「へっ??」
 俯いていた顔をあげ、真っ直ぐな切なさを湛えた真剣な瞳で自身を見つめて紡がれた少女の言葉に、タケルは素っ頓狂な声を上げる。
 いきなりすぎる、そもそもどうしてそんな事を思ったのかさえわからない内容の質問に、タケルは困惑しながら答えた。
「好き…ていうか大事な仲間、だと思ってるるけど…。」
「女の子としては?好き?きらい?」
 後ずさりしつつの少年のたどたどしい返事に、少女は詰寄り更に追求する。
「嫌いじゃないけど…、て、え?どういうイミだ??何でそんな事訊くんだよ?」
 うろたえるタケルの質問返しにコーラルは、掴んでいた少年の衣から手を離し再び俯いてしまう。
「おにいちゃんが、昨日ポーチに…、タケルちゃんが、ポーチのこと好きなのかもしれないって、言ってたのが聞こえたから…。」
 個人を大事にしたいと思っているのか、アズールはコーラルと共有している意識、精神世界でも壁を作っていた。そんな兄を気遣って、普段はコーラルもなるべくその世界の奥底で、うとうとと眠りの闇を漂っている。だけど昨日のアズールとポーチのやりとりは、タケルの名前が出てきた個所は、耳が大きくなっていたのではないかと思うくらいにはっきりと、少女の意識に届いてしまったのだ。
「タケルちゃんが、おにいちゃんがポーチのこと好きって言ったのが気にさわったんだとしたら…それって、れんあいたいしょうの『好き』でしょう?だから…。」
 きゅ と小さな両の手でスカートの裾を握り締めて、コーラルは言葉を詰まらせた。
 ああ!そう言やあ☆
 ポン!とタケルは手を打ち、昨日のアズールとのやり取りを思い出した。
「いや…あいつ、ポーチを好きだとは言ってなかったけど…え?そういうイミだったのか?アレ!」
 ゼウスを交えて三人で本の話をしていたはずだったのに、どんどん話が妙な方向へ流れていって、アズールが無邪気に…だったとは思うけれど、多分とんでもないことを…『コーラルに聞かせたくない』と思うようなことを口走ったので、つい掴みかかってしまったのだった。ソレがたしか、ポーチに関わることだったから、アズールはその様に誤解したのかもしれない。
「えと…ポーチがどうこうというよりは、むしろコーラルに聞かせたくないって思ったから…、なんだけど…。」
「え…っ?」
 タケルは正直な胸の内、他にない真実を告げる。
「あんまり、良い兄貴の発言じゃなかったから…、あんなの聞いたら、コーラル悲しむんじゃないかって思ってさ。」
 何を言ったのかは訊かないでくれよ、と苦笑いするタケルの言葉にコーラルはきょとんとしている。その様子を見て、タケルは更に たはは と苦笑いした。

 本当に昨日から微妙に散々だ。

 まずポーチに妙な誤解をされて金ダライの洗礼を受けた上に、アズール、連鎖的にコーラルにまで微妙~な誤解をされて、タケルは何とも言い難い情けない気持ちになった。
 だけど、その誤解のおかげで、ひとつの想いを確かなものとして認識することが出来る。
 普段色恋に無縁、興味皆無なタケルにも、相手が他ならぬコーラルだからこそかもしれないが、その真剣な眼差しの理由が判った。
「コーラルのためなの?コーラルのために、おにいちゃんに怒ったの?」
「ああ。ポーチのためじゃない。コーラルのためだ。」
 タケルはきっぱりと気持ち良く言い切る。
 勿論ポーチが悲しむ顔も決して見たくはないし、仲間の誰が悲しむのもイヤだけれど、あの時は誰よりもコーラルの悲しむ顔を見たくないと思ったから。


 初めてこの少女と出会った時、タケルは奇妙な感覚にとらわれた。

 ずっと前から知っているような温かな懐かしさと、ちいさなドキドキ。

 コーラルはタケルが生まれて初めて、ひとりのおとことして守ってやりたいと思ったおんなのこだった。

 だから、兄を見つけ出す旅を続けるために別の道を行くという少女が、もしもの話でも自分の聖守になりたいと言ってくれた時には正直に嬉しかったのだ。
「コーラル、約束、覚えてるか?」
 あの日に感じたドキドキが、少年の胸に蘇る。
 照れくさそうに、頬を掻きながらタケルが切り出した。
「!」
 沈んでいたコーラルの表情に、ぱっと明りが点る。
 すっと、真剣な眼差しのタケルが幼いながらも逞しい右手を差し出した。
「気持ち、変わってないんなら…。これからも、ずっと一緒にいよう。」
 暖かで力強い笑顔の申し出に、ほころぶ花の様な満面の笑みを浮かべたコーラルが、その小さな右手をタケルの掌にのせて応える。
 
 二人はきゅっと握手を交わした。

「うん!タケルちゃん、大好きv」
 頭一個半分の身長差を埋めるべく小さな翼で羽ばたいて、コーラルはタケルに抱きついた。
 これはれんあいの大好きだよ?
 と、埋めきれない身長差で下から少年を覗き込む姿勢となった上目遣いの少女が付け加えると、少年はその顔を自身の髪の色と同化するかというほどの真っ赤に染めて、黙ってコクリと小さく頷いたのだった。
 

 小さな天使が、初めて自分で求めた聖守。

 それが星の定めなのか、気紛れなのかは定かではないけれど。
 その日確かに、さわやかな朝の光を証人に、温かな新しい絆がひとつ結ばれたのだった。


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 初めて会った時思ったんだ。

 この子を守ってやりたい って。

 だけどあの時、俺とこの子には別々の目的があったから…。
 小さくても自分の道を行く事を決めたこの子の、
 綺麗な目の輝きが曇らないように、願いを込めて送り出すのがせいいっぱいで。

 
 あの日コーラルが言ってくれた願いを、約束にした俺。 
 本当は、この約束が果たされるのを、願っちゃいけないと思ってたんだ…。
 
 だけど、さ。
 

 まあ…、いいよな☆
 

おしまい。



あとがきみたいなもの。


まあ…、いいよね?
と、訊かれたところで読者様も困るだけというものですね。
はい、すみません。

このお話は「めぶき」4話を書き上げた頃(年単位で昔)にはもう書き上がっていたものだったりします。
寝かせたなぁ…。
掲載に当たり、本文もあとがきみたいなもの、も、一寸手直しとか加筆とかしました。


タケルvコーラル。
私は本放映当時のアニメを見ていて、すっかりきっぱりタケルvコーラルになってしまったのですよ。

だって「タケルの本当の聖守」なんですよ?
出会いの順番の運命壊されても、育まれるはず(私的憶測)のタケルのこと好きだって想いは壊れずに持っているように見えたんですもん(;▲;)

それがさ、…いえ…いいんですけどね。仕方ないんですけどね。
とか言いつつ。

心の中では微妙に「よくない」からこんなSS綴ってるんでないのかい?

ということです。


書き終わって幸せと空しさの織り成す混沌に漂う心境を味わいました…。
どうせ世間的にはマイナーさ―――☆はっは――ん☆☆☆


本筋がどうにもならんのなら、
せめて自分の中の物語では「この二人のラブラブ」見たいし、他の方にも見てもらいたいと思いました。
「めぶき」の設定においては、この二人も終身刑でらぶらぶです。本筋のタケルの奥さんは別の人としあわせになります。
パラレル万歳っ!!!←あんたが終身刑だ!


本筋カップルはですねー、順当ヒロイン2名のことさえなければ、むしろツボカップルなんですよねー。悔しいですよー、本当☆
どうにか消せないものかしら、この胸のわだかまり。


などと言いつつ。


いつか
夢想2000のカップリングJr.「達」が主人公の物語&自作シール展開したいなんて野望
があるとかいうのはまた別のお話。


読んで下さってありがとうございました☆
2007年3月吉日(多分) 海王寺千愛
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