二人の瞬間~恋色のめぶき♡ ~アズールポーチ

~プロローグ~

 外は、新月の闇夜。明かりのない部屋で世界を写す鏡を、窓の外を漂う夜光虫のほのかな光がかすかに照らし出した。
 瞬間、そこに映ったのは俺の顔だろう。深海の蒼い髪、左右の瞳は色違いで、森の碧と血の赤をしていた。
 俺の名前は…、そう、「星悪魔アズール」。天涯孤独の悪魔属で「戦使」。
 目指すのは、天下を手中に収めるコト。
 その為に必要なモノ…、「次界卵」。
 次界卵を生み出すのに、更に必要なモノ…、悪魔属と天使属の「二つの『コア』」。
 一つのコア…悪魔属のコア…「俺のコア」を生み出す為に必要なモノ…、「流壺」若しくはその欠片…。
「まずは、ソレを手に入れなければ…。」
 今は、それだけが目的。それこそが俺の存在する理由。
 そこは見知らぬ部屋だったはずだが、そんな事は気にも留めなかった。…留められなかった。
 大きな窓を開けると、厚手の桃色のカーテンと白いレースのカーテンがバサバサと音を立てて翻る。
 窓枠に足をかけ、本能が示す唯一つの「道」を目指し皮膜の羽根が風を切る。
 俺は、巻き上がる風と共に闇夜の中へ飛び込んだ…。

「それと、これとは、別!!」
 目の前の少女は、露になっている肌の全てを真っ赤にして言葉を荒げた。
 先程、成り行きでやって来たこの場所、公園の中にある林の大樹の下で自分の想いを伝えるに至り、晴れて「両想い」「ソウシソウアイ」の仲になれたというのに、体に触れようとすると頑なに拒まれている。理性的というか、この天使属・聖守の少女は意思が堅い。物事には順序があると、俺は先程から何度も諭されている。
「だから…。最初は、そうね、手を繋いで歩いたり…。」
 ここに来るまでずっと繋いでたじゃないか。
「二人で出かけて、デートしたり…。」
 今のこの状況は、それに数えちゃいけないのだろうか。
「そういうのを一寸づつ重ねてから、ていうのが男女の仲の一般的な常識の手順よ。一足飛びにイかなくて良いの!(時と場合にもよるかもしれないけど。そんなコト今言ったら、間違いなく増長しちゃうわ、このお子ちゃまは★)…ていうより、あんたには!まだ絶対『早い』から!!解った?アズール!」
「………。」
 俺は、不満を込めた視線で応える。
 そんなのは当事者の嗜好の問題だと思う。俺は今すぐ、もっと、この少女の色々を知りたい。だけど、この少女の意思の強さをむしろ好ましく思っているから、じれったくても無理強い出来ずにいるのだ。

 この少女、天助ポーチと初めて会ったのは、携えていた己の剣、流壺の欠片で出来たその刃を「闇王核(ダークマター・コア)」へと成長させる旅の途中だった。
 「己が天下を取る為」に必要な「次界卵」。それを生成するのには、いずれ己の所有する事になる悪魔属の「コア」と対を成す、「命」を喰らい成長を続けるもうひとつの「コア」が必要だった。
 その天使属側のコア「天蓋核(ビッグバン・コア)」を有する少年、己と同じく名に星を冠する天使属・星戦使タケルの存在を確かめ、接触を試みた時だった。
 目的の少年は快活というか呑気というか、初めは緊張感のかける奴という印象だったが、あらゆる意味で「対等」でいられる気がして、共にいると「休まる」感じさえした。それは俺のそれまでの人生の中で初めて感じるものだった。
 対して、全く意図していなかった少女の存在は始め、正直うざったいものだった。
 訊きもしないのに名乗って来た少女、聖守の天助ポーチは、ひらひらと寄って来てきゃるきゃると笑う。ビビッドカラーの星だとかハートだとかのモチーフをセットで思い浮かべてしまうような、騒がしい奴だった。時折殺気も感じる程の執拗さで追ってくるが、この首にかかった賞金の事を知っているわけではないらしい。俺の姿を見つけると、笑顔を見せて飛んでくる…。 何度目かに星戦使らの一行と行きあった時、俺は狂戦使・殺戮モードに入っていた。
 コアの成長の為に、強力な悪魔属を一人仕留めた事でトランス状態となり、その周囲にいた配下の悪魔属、捕まっていた天使属とを、それこそ無差別に剣に喰わせ続けている最中だった。
 混濁とする意識の隅で、見覚えのある赤い髪の天使属を捕えた。迷いだらけの苦悶の表情を浮かべる天使属は俺を止めようとしているのか、三椏のブーメランを振るい俺の剣を叩き落そうとする。
 鮮烈に冴えるもう一つの意識が、それを容易にかわし、返り討ちになぎ払った。
 赤毛の天使は勢い良く吹き飛んでいったが手ごたえはまるでなかった。おそらく大したダメージは受けていないだろう。とどめを刺そうかと動きかけ、背中の皮膜が一度空を切る。しかし俺は上昇した事により開けた視界の中、より近場にいる、目に付いたエモノに標的を定め直した。
 恐怖にうずくまる、小さな「命」。
 戦闘で砕かれた石造りの建物の、瓦礫の影で震える力無い子供すら手にかけようと剣を振り上げた瞬間、金色の輝きが目の端を掠めた。
 俺とエモノの間に割って入ったのは、誰あろうポーチと名乗った聖守の少女だった。
 剣の刃をコアに成長させるには、多くの「命」の滴りが不可欠だ。ただ剣を振り下ろすだけで、二つの命はたやすくコアの一部となる。己の野望に一歩近づくことが出来る。なのに、振り上げた剣を握る腕は凍りついたように痺れて、動かす事が適わない。
 明らかに俺より戦闘能力の低いはずの天使属の少女が、おそらく見ず知らずの全くの他人である悪魔属の子供を庇って立ちはだかる。
 知っていた、この世界の悪魔属と天使属の常識を覆すその異常な行動に衝撃を受け、俺は初めて完殺を果たさずトランス状態から解き放たれた。
 金色髪の聖守の真っ直ぐな青緑の瞳は、他の奴らが俺に向ける様な恐怖や憎しみとは異なる光を、半ば呆然と空中で立ち尽くす俺に投げ掛けて来た。
『…どうして…?』
 それは抱かれた悲しみとも、向けられる哀れみとも違う、芯に響く静かな疑問の視線だった。
 己の行動に疑念を抱いたことなど唯の一度もなかったのに、その視線に「心」を射抜かれた気がした。
 初めて、己の中の「心」を、実感したと思った瞬間だった。
 真摯な表情で俺を見据える少女は大きく見えた。
「く…っ」
 軽い目眩に見舞われて、俺は左手で前髪ごと額を掴むように抑えてよろめいた。
 自分の中に、これまで感じたことのないモノが生まれていくことに言い知れぬ違和感を覚えて…、俺は、その場から逃げ出していた。
『喜んでいる…?嬉しいのか?だとしたら、何がそんなに嬉しいんだか。』
 あの頃の俺には全く理解できなかった。
 そんな訳で、俺にとってのメインよりも、オマケの方が食いつきが良いという想定外な予定の狂いに戸惑いを覚えていた。
 …その「予定」が、神の用意した「脚本」だったとは、あの頃は思いもせずに過ごしていたのだが。
 その直後。俺の前に「W属」を従えた神が現れた。
 促されて目をやると、俺の剣は先程のトランス時に喰らった「命」で満たされて「闇王核」へと成長を遂げていた。命の器を切り裂き吸収させていた事で効率よくエナジーへの純化が進み、コアは驚くべき速さで成長したのだった。
神の望む段階まで。
 神は俺に真実と現実を語り… その時初めて俺は、自分がどういう存在であるかを、知った。

 「俺」は「戦使の遺伝子」に手を加え、創造された神(ヤツ)の「駒」…。
 「次界卵創造」の為の道具の一つ…。

 衝撃は受けたが、どこかで予感していたのか妙に納得して自嘲がこみ上げ、嘆くより先に反発した。大人しくコアを渡す気等起こる筈もない。
「俺の」予定通りこの神さえもコアの糧として喰らい、俺が天下を手中に収める。この神(こいつ)にだけは絶対に従わない。そう決意し、俺は神に牙を剥いた。
 しかし、現実はそう甘くはなく、俺は用済みとばかりに消滅の浮き目を見た。
 神の放つ圧倒的なまでの魔力。まず、あっさりと俺の手からコアが奪われた。抵抗は虚空の中に消え、目に見えない力により体の自由が奪われた。神の魔法で歪み始めた重苦しい大気の重圧に息が苦しくなり目がかすむ。そして意識と、肉体が「ズレる」感覚が襲ってくる。ズルリという嫌な感覚を伴い、俺の意識体の一部が肉体から引きずり出された。
 宙に浮かぶ、先程まで「俺」であった肉体が淡く白い光を放ち、一対の小さな白い翼を背に持つ、珊瑚色の髪を二つに結い上げた小さな天使属・聖守の少女に変貌を遂げた。俺の意識がまだ強く存在するせいか、少女は眠りの中にいるようだ。
 激しい憤りの中為す術もなく…自分の意識が、融合され存在を共有している少女から、それを施した産みの神のその手により完全に剥がされようとしたその瞬間…その少女、聖守・愛助コーラルが、戦使の聖守としての癒しの力に覚醒した。
「命」として、確かな容(カタチ)を持たない不完全な俺は、寄る辺がなければ存在を保てない。コーラルはそれを直感で悟ったんだろう。
「おにいちゃん…?」
 うっすらと開かれた少女の瞳は、俺の瞳のと左右が逆…「鏡」に映したかの様な色彩をしていた。
意識体の俺に笑いかけたコーラルはその小さな手を精一杯伸ばし、再び、「俺」をその体に受け入れようと力を発した。
 コーラルの指先から発せられた青白い光が弾け、小さな星を散らしながら広がり、その体を包む。一度その身が受けた術を、体が記憶しているそれを、無意識に再現しようとしたのだ。だがそれは、おそらくあまりにも複雑な術式と膨大な魔法力を要したのだろう。術の負荷に耐える少女の呼吸は荒く、額に汗を滲ませる顔は苦悶に歪んでいる。
 充分な資質を備えていても、覚醒したばかりのコーラルの小さな肩にそれは重過ぎて耐え切れず、ついには意識をなくしてしまった。
 導き手を失った膨大なエナジーは金色の輝きを放ち、激しく渦を巻き逆流を始めた。このままでは少女の体はこのエナジーの刃でズタズタに引き裂かれてしまうだろう。

 こんなことになるまで、俺は自分の「記憶」が極端に「少ない」事実を疑問に思う事がなかった。その様に仕組まれて創造されたのだから、当然だが…。 
 そんな俺が俺としての意識を持ち、思い出せる一番古い記憶がある。
 その記憶…遠い意識の彼方からずっと見ていたもの…。
 ぼんやりと霞んで見える、笑顔を絶やさず健気に「兄」を探し旅を続ける少女の姿。
 少し舌足らずにしゃべる愛らしい声が、まどろみに似た世界で漂う俺に届く。

 乾きを感じてはいた。すぐにコアが全てを飲み込む為に一瞬だけ冷たい血に濡れる己の手を、どうとも思わず見つめていた。
 その俺にとっての日常は、決して苦痛な物ではなかったし、むしろ好んでしていたはずだ。だがいつしか、明るく柔らかな声の響きに染み渡るような、安らぎを感じている自分に気付いた。
 まどろみに似た温かな闇の世界からその声の主の顔を「見た」次の瞬間にそこにあるのは、いつも、夜闇の鏡に映し出された俺自身の姿だった。

 俺にとっての「夢の中の、妹」。この少女もまた、神の策略に落とされ、利用された一人だ。
 創られた俺とは違う、巻き込まれただけの本物の「被害者」。
 おとなしくしていれば、穏やかな日常に戻って行けただろうに、神の道具の俺なんかを助けようとしたばかりに命を落とそうとしている。

 そんな馬鹿な事があるか!こいつが死ななきゃならん謂れが何処にある!?
 俺は刃と化したエナジーの全てを引き受ける覚悟を決め、繕われかけた存在の糸を切り離そうとした。
 神に向かい投げつけられた三椏のブーメランをW属がはじき返した。
 その衝突音に驚き意識がそちらへ向いた瞬間、小さなコーラル(俺)の体をふわりと包み込む力を感じた。

 鮮烈でありながら、暖かく優しい真っ白な光。

 それは二対の翼を背に持つ金色髪の聖守が構えた、ハート型をしたルビー色の宝玉を二つ先端に頂く杖から放たれた魔法の力だった。
 俺達を包む穏やかな力とは対照的に、激しくぶつかり合う魔法の力が起こす風圧で、少女の見事な金色髪と先端に球体の付いた二本の触角が翻っている。
「起きなさい、コーラル。貴女の力も必要なの…。」
 厳しい表情でコーラルを見据えて、少女ははっきりと言った。
 刃と化したエナジーを相殺してなお衰えない癒しの光の中紡がれた言葉に応え、コーラルは意識を取り戻した。そして再び、肉体と意識に刻まれた術の再現を試みる。
 ポーチは未だ逆流を続けるエナジーを相殺しながら、コーラルが新たに発動した術の光を捕えると同時に力の方向性を見極め、先読みし、コーラルに代わって揺らぐエナジーを導いた。
 青白と純白の光がぶつかると、パールピンクの火花が散る。ただの物見なら美しく壮観な光のイリュージョンを思わせる光景だが、術を行使する当事者にとってはそれどころではないだろう。二人の聖守の少女は、ビリビリとその身にかかる激しい術の負荷を堪え、その眉間には愛らしい顔に似合わぬしわを寄せ、苦悶の汗の滴を落としていた。
 そうして、暴れつづけていたエナジーは新たな導き手の示す道に従い、俺を完全に、コーラルの中へと戻してくれた。
 「コーラル」が表にいる為、俺の意識は遠く、まどろみに似た世界へ落ちていった。

その刹那心に留まった、コーラルを抱きとめる汗だくの少女の安堵の涙を浮かべた慈愛の笑顔に、感謝の念と、もう一つの感情が芽生えるのを感じながら…。
 それは、ほんの数日前にあったことだ。
 神を守護していた「W属」はタケルのコアに呑まれたらしいが、神は俺のコアを奪い姿を消してしまった。
 今それを悔いても仕方ないことだからおいておくが、とにかく俺は、あの時改めてこの少女に以前以上の興味を持ち、意識して見る様になった。

 こいつは本当に面白い。
 自分から近づいて世話をやいてくれるクセに、ふとした拍子に目が合ったりすると真っ赤になって俯いたり、どこかへ行ってしまったりする。聴こえてくる鼓動のリズムもそれにあわせてめまぐるしく変わって…。
 そんなサマが可笑しくて、鼓動のリズムは心地良くて。
 そして、その響きがくすぐったい。
 ポーチが街中で見かける小さな子供に向ける優しい視線も、タケルをどなりつける厳しい声も、カンジーと古代の文献についての難しい話をしている時の真剣な表情も、みんな、みんな面白くて、なるべく沢山一番側で見ていたいと思うようになってしまった。
 それが俺の少女に対する好意、恋心の表れなのだと教えてくれたのは、あの日以来心の中…意識下の精神世界で会話できるようになった「妹」コーラルだった。

「ねえ!聞いてるの?」
 俺は突然響いた声と俺の顔を覗き込む青緑の瞳に、一瞬どきりとした。
「すまん、オマエの事考えてた。」
「…おばか。」
 素直に詫びたのにバカ呼ばわりはないだろう。でも、そう言ってほんのり赤くなるこいつの表情がかなり面白いので良しとしよう。
「…ね、おねがいだから、そろそろ返してよ。」
 手を伸ばせば届く程度の距離で向かい合って座っている少女が、困った顔をしてつぶやいた。
 あごを少し引いて、抗議の意を込めているのだろう上目遣いで俺を見つめている。

 ポーチはずっと、両の腕で抱きしめるように「ぎゅっ」と胸をガードしている。さっきこいつが泣き出す前に抜き取ったモノを返してやってないせいらしいのだが、服はとりあえず着ているのに(背中の止め具はいくつか外したままだけど)、こんなぺろんとしたモノが下に一枚ないだけで、そんなに不安になるものなんだろうか。
 
寄せ上げるカタチで圧迫している為に、もともとそれなりにボリュームのある柔らかそうな谷間が更に強調されている。
 これはゼウスの言っていた、俗に「誘ってる」と言われる行為ではないのか?見られたくないなら後ろ向くとかするだろうに…と思ったところで、こいつが以前言っていたことを思い出した。

『真剣にお話するときは、心も体も相手に向けるのが礼儀ってものよ!』

 つまり、多分こいつはずっと真剣に、俺に向き合ってくれているのだろう。そう思うと何だか嬉しくて、ますます面白く思えてくる。
 今回は、そろそろ俺が退いてやろうか。
「わかった。返す。」
 でも、その前に…。
 俺は素早く、胸をガードするのに一生懸命で、隙だらけになっているポーチの背をとり、肩を抑えた。そして止め具を外したが為に露になっている二対の翼の真ん中、少し左上寄りの付け根…その滑らかな白い肌に紅梅を一輪咲かせてやった。するとポーチは小さく声をあげ、びくりと身を堅くした。俺の息がかかり、柔らかなオパールの羽毛がふよよと揺れる。
「心臓まで届くかな。」
 そう言って後ろから顔を覗き込むと、ポーチはまた真っ赤になってふるふると震えながら、涙目で俺を睨み返した。
「き、きっ、きぃ~(キスもまだなのにっ)!」
 うろたえている顔がどうにも可笑しくて、
「面白いヤツ…!」
 俺はポーチを、そのままぎゅっと抱き締めた。
  
 オマエは俺が、初めて手に入れた小さな天下、誰にも渡したくない城だから。
 願いを込めた花を咲かせて鍵としよう。
 オマエの心が、他の誰にも奪われることのないように。

 今夜俺が眠れば、明日はコーラルが目覚め「表」に現れる。コーラルが夜闇で鏡を見なければ、俺はその間ずっ
と「裏」に留まることになり、次にこいつと直接会える日がいつになるのかわからない。

 だから、今はこのまま抱き締めていたい。
 今は、ここで沢山話をしよう。
 
 見上げる木々の緑の向こう
 太陽が傾いて空を朱色に染めるまで。

 

 いつか大きな天下を手にする時は、オマエと、コーラルとタケルと…、「俺」以外の仲間がいるのも、悪くないかもしれない。

~エピローグ~
 暗闇なのに、不思議と安らぐ世界。
「俺達」の意識の世界で、何やら複雑な表情をした「妹」がその姿を象る。
「おにいちゃん。本当に好きなのねぇ?ポーチのコト☆」
 笑ってはいるのだが、どこか呆れている様な響きがある。
「何でだ?」
 俺も己の姿を象りながら、不思議な問いに訊き返した。
「すっごくビシビシ届いてきたもの。おにいちゃんの『うれしい』気持ち。ぬすみ聞きはよくないなぁって思
ったから、コーラル、ずいぶん奥の方で寝ていたのに★」
 全然意味がなかったと、コーラルは半眼で肩をすくめ苦笑した。
 お互いの存在を認識しあった時から、同じ容(からだ)の中で、俺達は二人の意識をある程度共有できるようになっている。
「表」に出ている意識の方が肉体の主導権を握れるのは当然だが、内側にいる方も一割位は覚醒していて、「表」に出ていなくても外界の出来事をある程度把握できるようになっていた。
「おまえだって、タケルの傍にいる時は結構凄いぞ。」
「えー☆あったりまえじゃない!コーラル、タケルちゃんのコト好きだもの!」
 コーラルは、ほんのり赤くなって無邪気に笑い飛ばしてきた。やり返したつもりだったのに当てられた気分だ。

「それはそれとして、ね?おにいちゃん?」
 ふいに真剣な表情をして、コーラルが俺を見据える。
「何だ?」
「今度ポーチと一緒にいてうれしい気持ちになったら、『面白い』じゃなくて『かわいい』とか『きれい』って、言ってあげてね?その方が、ポーチもきっと喜ぶから…v」
 コーラルは、口元に手を当ててウインクをした。
「……わかった。」
 よくわからないけど。
「…おにいちゃん~…★」
 コーラルがぷうとむくれて呆れた視線をよこしている。 どうも今考えた事が伝わってしまったらしい。全てじゃないにしても、思考が見えてしまうのは考え物だな。
「コーラルは、知られて困るようなこと考えないもん。」
「それはそうだな。」
「でしょ~☆」
 妹は、そう言って無邪気に笑っている。
 …知られて困る事、俺は一杯抱えているがな。
 血なまぐさい記憶…何よりも感触を、コーラルには教えたくない。それだけは、同じ容を共有している今は、己の意識の最下層に押し込めなくてはならない。
「でも、そうだね。いつか、外の世界で会いたいねぇ。」
 ふいにかけられた言葉に、肝が凍る思いがした。
「ダブルデート!いつか四人でしようね♪」
 コーラルは、どこまでも無邪気に笑っている。
「そうだな…。」
 いつか「個人(ひとり)」の肉体を手にする日が来るのだろうか。
 妹の、明るい笑顔にほっとして、俺の意識が暗闇になじみ始めた。「表」の俺も、まどろみ始めているだろう。

「じゃあ、交替ね。おやすみなさい、おにいちゃん。ポーチに変な虫がつかないように、しっかりガードしてあげるからね☆」
「ああ、おやすみ…。」
 頼もしい妹に振る手の象が揺らぎ、互いの姿の輪郭が不確かになり、薄らいでいく。 
 俺の意識は、温かなまどろみの闇へと沈んでいった。







☆★☆★☆★☆★☆★☆
あとがき的トーク♪
はい。あとがきです☆一先ず…(え)
小説とするには短く、SSと呼ぶには長ぇ本文を、読んで下さってありがとうございました。
「いかがでしたでしょうか?」と訊くのもコワイ様なキャラメイクでございましょうvをほほ★
アズール君ファンの皆様には平謝りの方向で。でも本人的にはお気に入りですv(ほげーぇ)

どうせならラブラブが良いなvとか思いながら書いたらこんな事に…。
Pushされるポーチが見たかったんです、てか、書きたかったんです、てか、やっぱり見たかった
んですぅ。はい。
恋で押される事に慣れていない人のうろたえるサマって愛らしいと思いませんか?(ワタクシだけっすか??)

どうせなら、タイトルもこっぱずかしく☆と思って付けたりしました。
タイトル考案のセンスがないので、相乗効果でより一層こっぱずかしいモノに☆
微妙にそれっぽい単語をならべたサブタイトルの頭文字というか、を読むとタイトル副題(?)部分になるのvなんていう素敵に阿呆な試み実施。気付いてくれた人いたかな…?(いなかろう;)

後ね、「アズール」を書いてみたかったのです。以前にもお話しましたが、私の中にはいくつか設定がございます。これはその内の一つになりますが、形にしてみたかったのです。自己は満足♪駄文ですけれど★

コーラルの出番が多くなりました。アニメの影響強し!という感じで切り離せない感じと言いましょうか。
二重存在としてこの二人を捉えるのであれば、アズールにとって、コーラルは光に目を向けるきっかけを与えてくれる導(しるべ)なのだと思います。そのままアズールの心が恋愛の対象としてコーラルに向かなかったのは、直接的出会いの順番と、ウチのコーラルがタケルにぞっこんだからです(^^; だって心がわかっちゃうから。アズールは「おにいちゃん」と慕って支えてくれる「妹」の「兄」でありたいな、と思うのですね。




vキャラクター設定話v
星悪魔アズール:設定Bのアズールは、次界卵にまつわる事象、歴史にのみ博識で古代語まで解るのですが、他の事はてんで無知、という子です。スピード勝負の魔法剣士です。打撃が比較的軽いので、それを魔法で補います。
基本的に我侭で自信過剰。支配欲強し。プライドも高め。そして天然なお子ちゃま。
W属出身の五造大神のおじいちゃんからお話を聞いた後は、自分で自分の事を神に作られた「命の模造品」「道具」だと思ってしまっている部分もあったのですが(実際そう聞かされてるし)、まあ、周りが天然的にそういった部分を全く気に留めてくれないので、自分でも(表層では)忘れていくでしょう。
生みの神に与えられた生存理由である「コアの成長」を終えてしまい、ある意味全くの「自由」を得てしまったアズールは、現在自我の確立が生きる上での主題となっている模様。それまで「次界卵」の事しか頭に無くて、他の事を殆どシャットアウトしていた反動が現れているので少々壊れ気味なのです(んな馬鹿な;)。

彼は戦争とは少し離れた位置で殺生を繰り返した形になると思うのですが、普通に考えたら罪に問われます…よね?そこらへんどうなるのかしら?と思いつつ、多分微妙にその変の事実もみ消されたんだろうなという気がしてなりません。(爆)
タケル辺りは「しょーがねーじゃん!」で済ませそうです。「彼も被害者」な展開になるのかな…。
でもそうだとしても何となく、周りがどう言ってもアズール自身には、そういう解釈して嘆いて欲しくないので逆切れ的に開き直っていただきました★(爆)

アズールの出生について、シール裏では特に語られていません(よね?)が、アニメでは「W仏KING(以下W仏)が『戦使の遺伝子』を用いて作った擬似生命体」的な説明がなされていたかと。んで、思ったこと。

「一体何処からその『遺伝子』調達したのさ??」

ありがちな設定の夢想をしてみました。ありがちなのに突拍子もありません。
人によってはすっげい「退く」と思うので、ヤバイなぁ~★と思われる方は、数行先に進まず、ここでお帰りください☆

ではでは、ここまで読んで下さってありがとうございました☆
次回作は今の所未定となっておりますが、何かしら書いていきたいと思っておりますので、その折は宜しくお願い致します。

2005年6月…に書いておいたものをほぼそのまま掲載…;;。
2007年2月 海王寺千愛



はい。来てしまいましたね?
…まあ、たいしたことない…とも、思うのですけど。
語ってみせた友人数人が、始め理解不能っつうか、かなり衝撃受けた的な表情しておられたので。
   

設定Bのアズールは……、




タケルとコーラルの息子です☆
どっかーんv(爆死)


つまりですね、「戦使の遺伝子」の提供者→タケル。
卵子(もしくはそれにあたる物)の提供者→コーラル。
で、W仏が培養して生まれた天使属の子供に属性転換(コンバート)を施こしたのがアズールである、と。…あはぁ★(全壊)

これならアズールが「悪魔でありながら『戦使(戦う為に生まれた天使)』」の説明もつくんですにょよ。
…まあ、タケルとコーラルに限定しなくても他の戦使と誰かでも成立するけどさ。そこはそれ、私がタケルvコーラルだからvvv(撲殺)

アニメを見ていて、タケルとコーラルが出会う運命がすり替えられなければ、結ばれた二人の間に戦使の子供が生まれたんじゃないかな~と思ったのです。それがアズールだったんじゃないかな~、と。(ここら辺のドリームがありがちv/苦笑)

W仏が神の特殊技能でタケルからは遺伝子を抽出し、その運命の聖守の少女には鏡の魔法(仮定)を仕掛け、鏡の中の少女の時を進めて大人にし、子を宿らせた…とか。
でもW仏は本来その魔術を使える立場にないので、魔術自体が不完全に終わり、正常な状態で子供を取り上げることが出来なかったのですね。(ですね、て;;)
自分の駒として動かせるだけの成長を促してしまうと、鏡の世界から出せるのは意識体のみ。試行錯誤の末に、W仏は母体であるコーラルにアズールの意識体を融合させ、肉体を補う方法に辿り着いた…と。そんな感じです★

でも、そんな事本人等はまっったく知りません。一生知らずに終わるでしょう。
後々アズールとコーラルの分離に尽力する天使は彼等の関係を見抜くのですが、告知はしません。アズールにとって、コーラルは妹でタケルは親友。コーラルとタケルにとっても同じ。それで良いのだ、という事で☆

アズールvポーチでタケルvコーラルが揺ぎ無い世界ならではの設定デス。これでアズタケとかタケアズとかアズコーとかコーアズとかやっちゃったら…(震撼)背徳レベルはMAX……?;;ワタクシには(今の所)書けない世界だ…。
あ、普通に人様の作品で他のカップリング読むのは平気ですからv
良い読み物があるのは理解してますので☆むしろ非難される可能性が高いのは己の方だということも重々理解しておりますのでご理解宜しくお願いします。

ではでは、長ったらしい語りにお付き合いいただきまして、どうもありがとうございました☆


そんな貴方に次頁にさらにおまけ☆



☆★☆
初めて!
自分が好きになった人から、好きって言ってもらえたのv

聖守の少女天助ポーチはそれはもう幸せの絶頂で、嬉しい涙を味わっていた。
でも、その先の触れ合いは、やっぱりまだ恥ずかしくて、お断りを差し上げてしまう。

ゆっくりで、いいよね?女の子ががっつくのは、はしたないものよね??

こころの中でどきどきふわふわ自問自答。

そんな理屈はこの男の子には中々通じはしない様だけど、
好きって言ってもらえたのはやっぱりどうしようもなく嬉しくて、自然と笑顔が零れてしまう。

「…?何、見てるの?」
 ふと、自分を地面に押し倒している少年の視線が、自分の顔を外れて左脇に向いているのに気が付いた少女はそちらの方を向いてみる。
「ヘンな物着けてるな、オマエ。こんなのしてて苦しくないのか?外した時の感触が『ばつん』って、弾けるみたいだったぞ。」
「~~~~★☆★!!?」
 瞬間、少女は自分のお胸のふくらみに わし! と両手を当ててみた。
 むにゅ。
(………無い★★★)
 たりたりと、全身に噴出した汗が流れ出す。
 少年の右手には、見知った色模様の見知った形の、多分自分のお胸にジャストフィットなソレが握られていた。
 そういえばさっき、少年に背中をもぞもぞされていたのだということを思い出した少女は、恥じらいに耳まで真っ赤に染めてソレを取り返そうと手を伸ばした。
「いやーーーっ!!返してぇっ!!!」
 叫びつつがばりと起き上がるも、流石に素早い少年が反射的に身を引いた為に取り返すことが出来なかった。
 幸か不幸か二人の間には距離が出来、ポーチはアズールの、詰まるところ『触らせろ』のお願いを拒否するのには都合が良い状況になったのだが…、少年はナニを思ったのか、少女のソレを ひょい☆ と自分のシャツの内側へ滑り込ませてしまった。

「~~~~~っっ!!!★★★」
 あんまりな展開にポーチは腰がくだけ、ふるふる震えてアズールを指差し口をパクパクするばかりである。
「返して欲しかったら、ここまで来い。」
 自身の胸元を指差し、アズールは激烈に珍しくニッと挑戦的ないたずらっ子の笑みを浮かべた。
「お、お、お、お!大おバカーーーーー!!!」
 ふるふると震えつつ むぎゅ とお胸をガードした、ポーチの叫びに木々が揺れた。
 
 全くね★

 様子を見ていた小鳥達が笑う様に囀って…。
 こうして初夏の一時に、二人の攻防は今暫く続くのであった。

おしまい♪


☆★☆★☆★☆★☆
3月中旬頃、上記SSのイメージカットを数点、この後の頁にアップする予定
…でおりましたが、
体調不良につき制作頓挫中にございます;;;

アップしましたら日記にて、
ちらりとほのめかしますので、
よろしければチェックしてやってくださいませv
5/6ページ
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