二人の瞬間~恋色のめぶき♡ ~アズールポーチ

「!?」
 アズールが、驚きに目を見開いた。ポーチの、その大きな青緑色の瞳から、大粒の涙がいくつも溢れ出したからだ。
 眉をひそめ固唾を飲むアズールの困惑の表情に、今までとは明らかに異なる焦りの色が濃厚に表れている。
 己の頬を伝う液体の感触。泣いていることに一番衝撃を受けているのは、誰よりもポーチ自身だった。その、涙の理由に。

 落胆と悔しさ…。

 アズールに抱きしめられて感じた心地良く熱い胸の高鳴り。それが、今の言葉を耳にした事で一瞬にして、身も心も芯まで凍てついてしまった。
 それにより自分がこの少年に対して抱いていた恋心を、改めて思い知ってしまったのだ。

 外見の面ではアズールは、ポーチが今まで好意を持った異性の中では一、二を争う美形だろう。しかし、内面はひとまずおいておくとしても、その経歴で言えば少年は、間違いなく彼らの真逆に位置する存在だ。
 優しくて力強い、正義然とした英雄的紳士…。今までポーチが憧れてきたのは、そんな男性天使属だった。
 対するアズールはというと…。種属を問わず無差別殺戮を繰り返していたという話が本当であれば、直接その場を目撃した事はなくても、彼はポーチの同胞である天使属をも、大量に手にかけてきているはずの犯罪者だった。一度だけ、それと近い場面に遭遇した事もある。恐らくは真実なのだ。
 なのに、ポーチは彼を憎むことも、恐れることも出来なかった。
アズールがその運命を嘆いていないのを、彼女は知っている。犯し続けた殺戮の罪を悔いてはいない事も。
 奪い取った「命」達に対する謝罪の念は抱いている。でも、その行為に対する悔いは持たない。
 理由はどうあれ、彼は殺戮の為に生まれ、その為に生きて来たのだから。過去のそれを否定するのは、己の存在を否定することだから…。だから彼は、これから先、誰に恨みを向けられたとしても、それらから逃げることなく胸を張って生きていく事だろう。未来への歩み方は自分で決められる。これからの生き方は変えて行けるのだから。
 そんな強さを持っている彼だと解っているのに、ポーチはどこか危うさを感じ取ってしまう。ただ、手を差し伸べずにはいられない気持ち。どこか放って置けなくて、保護欲を掻き立てられる。側にいたいと思ってしまう。役に立ちたいと願ってしまう。それは名に星を冠する、もう一人の少年にも感じている事であった。属性の立場は違っても、どんな大儀があったとしても、この星の少年達の背負う物は限りなく近しくて…。それでも、今誰よりも彼女が守りたいと思うのは、この蒼い星の少年だった。
 それこそが恐らくポーチがアズールに抱いている、理屈ではない恋心の象徴するもの…。やっと、自覚したというのに!

 悔しかった。抱き締められて一瞬でも、アズールに好意を向けてもらえていると思い、舞い上がった自分が情けなく自嘲した。
 自分はこの少年に「親切で、頼まれれば簡単に体を許す女」だと、そう思われている…。普段は闘論の天才と謳われる程、言葉の真意を読み取り操ることに長けているポーチであったが、すっかり翻弄されて冷静さのかけらもない今の思考で、アズールの言葉をその様に解釈した。
 自分だって、好きな男性との甘い抱擁のひとときに憧れが無いわけじゃない。でも「自分に惚れてる女には手を出しても問題にならない」なんて思考をしているのならば、そんなのは本当の「おおかみさん」じゃないか。いくら好きだとしても、そんな気持ちの相手に「ぎゅっ」としてもらっても、少しも嬉しいとは思えない。
 ついに、絶望の風船がはじけとんだ。
「絶っ対、嫌ッ!!」
 嗚咽しながら、ポーチはわめいた。
 何とも言えない惨めな気持ちが滴となって、その双眸からとめどなく溢れ落ちる。
 みっともない泣き顔を好きな人に見られている事実が、少女の惨めさに追い討ちをかける。くしゃくしゃの泣き顔を可愛いなんて思ってくれるのは、その泣いている相手に好意を持っている場合だけだ。可愛くない顔を晒して嫌われたくないと、この期に及んで考えている自分が滑稽だった。
 羞恥に顔を覆いたくても涙を拭いたくても、腕の自由は相変わらず、その泣き顔を見られたくない相手によって奪われたままで。その相手こそが、こんな気持ちの原因そのもので…。なんて状況だろう、とポーチは視線で木漏れ日の空を仰いだ。
 はらはらと溢れつづける涙で視界がぼやける。それでも、きっ と自分を組み敷く少年を睨み訴えた。
「離してよ!あんたは女に興味があるだけで、あたしに気持ちはないんでしょ!?」
「……☆」
 その言葉で、少女の涙を為す術なく見つめていた少年ははっとする。
「あたしがあんたを好きだとしても、それだけじゃ駄目なんだからッ!!こういう事は、好きな人同士じゃなきゃ駄目なのっ!お互いの気持ちが重なってなきゃ、駄目なんだからあ…っ!!」
 腕の自由を封じられている為に、魔法の杖さえ出すことが出来ない非力な自分が情けない。それでもこの戒めから逃れようと、ポーチは必死で身を捩り続けた。
「…わかってる。それもゼウスから聞いた。」
 アズールの口からぽそりと小さく早口で、それでもはっきりとつむがれた言葉に、見事な金髪を振り乱し頭(かぶり)を振っていたポーチの動きが止まる。恐る恐るアズールの顔を見ると、殊の外優しい目線が向けられていた。
「…ふぇ…?」
 まの抜けた声を漏らしきょとんとしてこちらを見ているポーチに、アズールは小さく嘆息し、言葉を続けた。
「だから!全部わかって言っていると言っているんだ。『問題ない』って…。」
 とくん

 凍てついた心が溶ける音がした。
 春の訪れに緩む雪解けの小川のせせらぎの様に、ポーチの胸の鈴が再び高い音で鳴り始める。
「俺は、今のオマエの言葉で全部判ったんだが…。」
 アズールは言葉を切り、乱れて顔にかかったポーチの金糸の髪をその手で優しく整えてやる。
「オマエはまだ判らないのか?『闘論の天才少女』。」
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言って、少年は子犬を思わせる仕草で、少女の顔に残る涙の筋をその舌で優しく舐め取った。そして悪戯っぽく挑む様に、にやりと笑う。
「俺の、言葉の意味。」
 かあっと体中に熱が走る。恥ずかしさと、くすぐったい刺激に全身が溶け出すのではないかとポーチは思った。

 本当なら、ウレシイ。
 素直に、ヨロコビ タイ。
 だけど、シンジラレナイ から。

「…わからない…。」
 バラ色に染まった頬に映える青緑色の瞳は、潤んだ輝きを湛えて問いかけに応える。
「ちゃんと…、言ってよ。」
 愛らしい恥じらいに彩られた頬に、つうと、新しい滴が滑り落ちる。
 それを聞いて少しの間むー、と唸った少年は、フムと頷き言葉を紡ぐ。
「…さっきは少し言葉を間違えたな。オマエが俺に惚れて『いるなら』問題ない。」
「そうじゃなくてッッ!!!」
「…惚れて『いるから』問題ない?」
「~~~~~~~っっ!!!」
 恐らく天然な少年の台詞に、腕の戒めは解かれていても動けない体で少女は地団太を踏んだ。

 ちゃんと、言葉で教えて欲しい。
 たった一言で幸せになれる、魔法の言葉はひとつだけ。
 貴方の声が奏でる旋律、小さな奇跡はひとつだけ。

「だから……。」

 甘い香りのする白い小さな花がさく低木に囲まれたそこへ、白い蝶が二頭、戯れながら舞い戻ってきた。
 街の公園、林の中の、ひときわ大きな木の根元。柔らかな木漏れ日に照らされた金色の天助の至福の笑みは、かくして蒼い星の悪魔の宝と成り、蒼い星の悪魔のその腕(かいな)は金色の天助の安息の地と成った。
 風にさわさわと揺れる梢で、小鳥達が歌うのは祝福の歌だろうか。
 初夏の日はまだ高い。白い小花の香りに負けないひとときは、ゆっくりと流れていくことだろう。


おしまい



☆★☆★☆★☆★☆★☆
はい。とちゅうがきトーク三回目です。
まだ一寸だらりと続くのであとがきにあらず…(切腹)
でも一応は一区切りとしてみました。いかがでしたでしょうか?

…まとまって、る?(小首傾げ)でしょう、か??(逆側に傾げ)
中々こっぱずかしい内容になったのは満足v
ヲトメは可愛い…vポーチが可愛い…vアズールも可愛い?あはははは☆(全壊)

一寸でも「お」とか「ふーん」とか「ぷっ」とか、思って楽しんで頂けたなら幸せ☆


私はお話を考えるのが大好きな人種です。
オリジナル創作も、パロディ的二次創作も大好きです。
創作が好きな事とビックリマンが好きな事、どちらが先にあったのか思い出せませんが、今は多分相乗効果になっているかと。

ビックリマンは何枚ものシールにある情報を読み取り、物語を創っていくという楽しみ方のあるジャンルです。
アニメーションを見る楽しみもあるし、見て、創作する楽しみもあります。
色々と設定を考えて、選んで組み合わせて、切り離して、くっつけて…世界が生まれていきます。
今回のこれも、その内の「ひとつ」です。
しかも「抜粋」…★だから、まとまってないかもしれないなあ…と(吐血)

野望としては、2000第1弾から第6弾と7、8弾の一部の設定を使っての創作をやりたいのですけど、かなり無謀★何と言っても長いのが…致命的。
いつかオフラインで描ききりたいと思うのが設定A。
なので、このサイトでは設定Bで遊ぼう!と決めました♪(遊びすぎて2000である意味がなくなりかねないのが難点ですが…/爆死)
だってアズールvポーチ楽しいんだもん☆


vキャラクター設定話v
賢守カンジー
…あんまり細かく考えたことが…★(爆)遺伝子誕生でも想い等の現象発生でもどっちでも良いけど、ひとまず遺伝子(両親在り)としておきましょうか。性格設定は生真面目さん。一行内で一番の常識人です。ちっさいけど飛び級していて高学歴。同級生の年上のお姉さま方に可愛がられていたり(←居心地悪し)、同世代のお友達がいなくて寂しかったり(シールストーリーにもケーシーがいたとしたら同じ境遇で心の友ですね)。簡単な魔法も使えるかと。体力勝負は一寸苦手。
エリート(?)扱いせず普通~に接してくれる旅の仲間内、特にポーチになついたり。大人ぶってみたり、甘えてみたり。お姉さん的存在なのか、淡淡な思慕もあるのか??ポーチがアズールと仲良くするのは微妙に気に入らないご様子★間に割って入ってみたりする…らしい(苦笑)
本編では現在名前しか登場してませんね…。しまった…!!(爆死)

愛助コーラル
タケルの運命の聖守!譲らないっすよ、コレは☆…シールにはそんな設定特にないんだけどね。良い所取りって事でアニメからだけど採用~☆(苦笑)
W属のおじいちゃんが運命弄くらなきゃ、きっとつつがなくタケルとくっついていたと思うのさ。
ダンディーラーの所を見てみて下さい。絆で結ばれた悪魔様の元で幸せに暮す魔守の代表ですよね。アニメのコーラルは、ああいう幸せを奪われた様に思えてならないのですよ、超絶個人的に。
なので、私の世界ではタケルの一番の聖守になりますです。天真爛漫な女の子です。博愛の聖守です。タケルが大好きで仕方ないのです。今はまだ未熟だけど魔法の素養は充分です。星戦使一行と初接触した頃は、ポーチに対して聖守として、そして女として、敵対心むきだしに接します。ポーチに優しく接してもらっても、素直になれなくて反発しちゃいます。後にポーチがタケルに対して然程特別な恋愛感情を抱いていないと知るとあっさり態度を軟化。可愛い妹ちゃん的存在に変貌♪

設定Aではアズールとは血縁在りの兄妹ですが、設定Bでは…。後日、アズールの設定にて語らせてイタダキマス。(かなり突拍子もない設定デス★)
次回は活躍の場、在り…かと。

 

ではでは、次回は「星悪魔」とその「心中」を掘り彫り出来たら…と思います。(^^;
つたない文章に他愛無いトークまで、読んで下さってありがとうございました☆

2005年4月27日 海王寺 千愛
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