二人の瞬間~恋色のめぶき♡ ~アズールポーチ
「概ね」平穏な世界であった。
突如として聖蓋(タガ)の封印を逃れた「悪意」が歓喜の声を上げ、空を、街を、闇色に染め始めるまでは。
暴れながら拡散を続ける「混沌(カオス)」。蠢くゲル状の物体…負のエネルギー粒子の集合体であるそれは、天使属からは生命力を奪い、糧として増殖する。そして悪魔属には魂と、その魔力を活性化させる力を持っている。
カリスマデビルXを頂点と仰ぐ悪魔属等の軍勢の働きもあって、聖魔和合界に住まう天使属もろとも全てを飲み込まんとする混沌は、その勢いを増すばかりというのが現在の状況だった。
汚染され、朽ち行く世界を救う手立てが「次界卵」にあるという情報を得た天使属のヘッド・スーパーゼウスと星戦使の一行は、未知なる希望の卵を捜し求め、妨害する悪魔属との攻防を繰り広げながら各ゾーンを奔走する旅を続けていた。
古(いにしえ)の遺産らしい、石造りの巨大な飛空艇。
一寸した冒険の果てに入手した山一つはあろうかという大きさのその艇(ふね)は、現在、星戦使一行の住居兼旅の足となっている。
その外観は古代の神を象った像…だったのかもしれないが、Z化した聖魔和合界のヘッド・スーパーゼウスが憑依し、同化している為に今はその面影はない。
その中で起きた一騒動。
聖守・天助ポーチが偶然通りかかり、目撃してしまったソレは…。
彼女がひょんな事から旅に同行する事になった「天使属の少年・星戦使タケル」が、やっぱり成り行きでこの旅に加わる事になった「悪魔属の少年・星悪魔アズール」に、馬乗りにのしかかって床に押さえつけている場面だった。
最初は、とっくみあいの喧嘩でもしているのだろうと思った。だが、組み敷かれた蒼い髪の少年が着ている深い紫色の上着の詰襟は、赤い髪の少年の手でボタンが引きちぎられている様で。
押し倒された少年の白い肌があらわになっていて、その表情は困惑の色に溢れていて…。
そう、「無理に押し倒されている」としか見えないその状況に、ポーチの全身の血液は、ちちちちちーーん★と一瞬で怒気を含んで脳天に駆け上った。
「こぉんの、おバカーーーーーー!!!」
「へぁっ!??」
ふいに響いた少女の叫び声に驚く間もなく、タケルは彼女の放ったマジカルシュート・特大弾丸金ダライを10発喰らい、どげしゃ!と鈍い音を発しつつ部屋の奥の壁に叩きつけられた。鬼の形相を見ずに済んだのが、唯一の救いと言えるかもしれない。
「さ、いらっしゃい!」
言うが早いか、突然の事続きで面食らっているアズールの手を取り、ポーチは艇を飛び出した。
「な、なんで…ぇ?」
石頭に当った衝撃で凹んだ輝ける金ダライの下で、ぐるぐる目を回している赤毛の少年がへろへろうめき声をあげた。一部始終共にいたゼウス(ホログラフ)はそ知らぬふりをして退散するのだった。
百化辞典では事足りない調べ物があるからとカンジーが一人街の図書館へ向かっている為、今、艇はその街外れに停泊している。
心地よい初夏の昼下がりの空気を感じる余裕もなく、ポーチ達はかなりの速度で飛翔していた。
カンジーもまだ当分戻ってこないだろうし、タケルが頭を冷やすまでの間は外にいた方が良いだろうと、飛びながらポーチはそう思った。
息を切らした二人が落ち着いた先は、静かな公園の中にある林の中の、ひときわ大きな木の根元だった。
立派な木々が多く生える林にあって、ことさら目を引くその幹の太さは他の木々の悠に三倍はありそうだった。日差しを遮る葉の蔭は丁度良い涼しさで、甘い香りのする白い小さな花をいくつもつけた低木に囲まれているそこは、身を隠すには丁度良い感じだった。小さな頃、よくこんな場所でおままごとやかくれんぼをして遊んだ事を、少女は懐かしく思い出していた。
ふと、傍らの少年の赤と碧のオッドアイが凝視している先を辿り、ポーチははっとした。きゅっと、アズールの左手首を握っている己の右手がそこにあった。
「こ、ここまで来れば大丈夫よね。まったくあのおバカは。無理強いなんて最低だわ。」
艇を出てからずっと、少年の手を握り続けていた事に気が付いたポーチは慌てて手を離す。気恥ずかしさで、頬がほのかに上気しているのが自分でもわかる。
(…気付かれませんように。)心の中で無意識に祈りながら大木に背を預け、草の上に腰を下ろしたポーチは一呼吸すると、一寸ぎこちない笑みを浮かべてアズールに話し掛けた。
「上着、貸してちょうだい。ボタン付けてあげる。」
少年は状況に戸惑っているのか、どこか腑に落ちない顔をしていたが、素直に上着を脱ぎ少女に手渡した。
上着を脱いだ事であらわになったアズールの体躯。格闘系体術を得意とするタケルと、魔法剣に長けたアズール。同じ戦使でも、得意とする戦闘様式によって随分体形が変わるのだな、と、ポーチは改めて思った。
(女の子みたい…。)
ノースリーブのシャツから覗く少年の肌は、普段日に晒す事がないのか、少女の様に白かった。元々顔の色も白い方なのだから、それを思えば予想の範疇内の色の白さなのだが。そしてそれよりも目が行ってしまうのが、その線の細さだった。
無駄な肉のない均整のとれた体形をしているが、野生児のタケルのそれと比べるとかなり華奢で、首筋も二の腕も、大分細く見えた。まだ発育途上の「少年」のそれは、色の白さとあいまってなまめかしく感じられ、ポーチはなんだかドキドキしてしまった。
そんな風に思った事を内心ちょっぴり恥じ苦笑しつつ、ポーチは受け取った上着に目を移す。ボタンはちぎれた糸がその名残を示すだけで、やはりここにはなかった。おそらくまだ艇のあの場所に転がっていることだろう。少女は両手を覆う長い手袋を外し、肩にかけたポシェットの中から裁縫セットを取り出すと、少しもたつきながらも針に糸を通し、そこに入っていたボタンの中から適当な物を選び、付け始めた。
小鳥のさえずりが耳に優しく響く、静かな時間が流れていく。遠くの方から小さな子供の高い笑い声が聴こえるが、ここまで来る気配はないようだ。
時折吹くさわやかな風が肌を優しく撫でて行く。白い小花の蜜を楽しんでいた白い蝶が二頭、戯れながら飛びすぎていった。
「…魔法、使わないのか?」
傍らに座るアズールが、ふと不思議そうに少女の手元を見つめて言った。
「魔法でも出来るわよ。でも、手で出来る事まで魔法に頼る事ないかなって。使わない技術は忘れちゃうしね。」
俯いていた顔をあげると、少女の内巻きの金髪がさらりとゆれた。質問の主に向けられる、木漏れ日の下で輝く笑顔は素直に可愛らしい物だ。
「そうか…。」
少女の応えに、少女の手元を見つめたまま背中を丸めて片ひざを抱えている少年は、短く納得の返事をした。
☆★☆★☆★☆★☆★☆
とちゅうがき的とーく。
はい。日記にて「近い内にお届け~」と言っていたアズvポーチSSになります。途中までですが★
濃いんだか薄いんだか微妙に解らない内容ですねぇ。少しでもお楽しみ頂けましたでしょうか?
描写については、思い立ったら加筆とか訂正とか、するつもりでおります(をいをい)☆
キャラの年齢イメージについて☆
私は一寸高めに設定しております。(描画的にも少し等身高めで♪)
ポーチ14歳、タケル12歳、カンジーもう直ぐ10歳、アズール推定13歳、コーラル8歳…な、感じです。
独自夢想(オリジナルアレンジ)で物語を考える上では、大体この年齢設定で考えております。
今回の創作は自分の中にある物語を大まかに2つに分けている内の「設定B」を使用したお話です。
何が違うかっていうと、キャラクターの出生設定が決定的に違います。
「設定A」は、いつかオフラインで漫画化したいなぁ~と考えておりますので秘密(笑)。「B」の設定は又次回…。
読んで下さってありがとうございましたv
2005年4月13日 海王寺 千愛
突如として聖蓋(タガ)の封印を逃れた「悪意」が歓喜の声を上げ、空を、街を、闇色に染め始めるまでは。
暴れながら拡散を続ける「混沌(カオス)」。蠢くゲル状の物体…負のエネルギー粒子の集合体であるそれは、天使属からは生命力を奪い、糧として増殖する。そして悪魔属には魂と、その魔力を活性化させる力を持っている。
カリスマデビルXを頂点と仰ぐ悪魔属等の軍勢の働きもあって、聖魔和合界に住まう天使属もろとも全てを飲み込まんとする混沌は、その勢いを増すばかりというのが現在の状況だった。
汚染され、朽ち行く世界を救う手立てが「次界卵」にあるという情報を得た天使属のヘッド・スーパーゼウスと星戦使の一行は、未知なる希望の卵を捜し求め、妨害する悪魔属との攻防を繰り広げながら各ゾーンを奔走する旅を続けていた。
古(いにしえ)の遺産らしい、石造りの巨大な飛空艇。
一寸した冒険の果てに入手した山一つはあろうかという大きさのその艇(ふね)は、現在、星戦使一行の住居兼旅の足となっている。
その外観は古代の神を象った像…だったのかもしれないが、Z化した聖魔和合界のヘッド・スーパーゼウスが憑依し、同化している為に今はその面影はない。
その中で起きた一騒動。
聖守・天助ポーチが偶然通りかかり、目撃してしまったソレは…。
彼女がひょんな事から旅に同行する事になった「天使属の少年・星戦使タケル」が、やっぱり成り行きでこの旅に加わる事になった「悪魔属の少年・星悪魔アズール」に、馬乗りにのしかかって床に押さえつけている場面だった。
最初は、とっくみあいの喧嘩でもしているのだろうと思った。だが、組み敷かれた蒼い髪の少年が着ている深い紫色の上着の詰襟は、赤い髪の少年の手でボタンが引きちぎられている様で。
押し倒された少年の白い肌があらわになっていて、その表情は困惑の色に溢れていて…。
そう、「無理に押し倒されている」としか見えないその状況に、ポーチの全身の血液は、ちちちちちーーん★と一瞬で怒気を含んで脳天に駆け上った。
「こぉんの、おバカーーーーーー!!!」
「へぁっ!??」
ふいに響いた少女の叫び声に驚く間もなく、タケルは彼女の放ったマジカルシュート・特大弾丸金ダライを10発喰らい、どげしゃ!と鈍い音を発しつつ部屋の奥の壁に叩きつけられた。鬼の形相を見ずに済んだのが、唯一の救いと言えるかもしれない。
「さ、いらっしゃい!」
言うが早いか、突然の事続きで面食らっているアズールの手を取り、ポーチは艇を飛び出した。
「な、なんで…ぇ?」
石頭に当った衝撃で凹んだ輝ける金ダライの下で、ぐるぐる目を回している赤毛の少年がへろへろうめき声をあげた。一部始終共にいたゼウス(ホログラフ)はそ知らぬふりをして退散するのだった。
百化辞典では事足りない調べ物があるからとカンジーが一人街の図書館へ向かっている為、今、艇はその街外れに停泊している。
心地よい初夏の昼下がりの空気を感じる余裕もなく、ポーチ達はかなりの速度で飛翔していた。
カンジーもまだ当分戻ってこないだろうし、タケルが頭を冷やすまでの間は外にいた方が良いだろうと、飛びながらポーチはそう思った。
息を切らした二人が落ち着いた先は、静かな公園の中にある林の中の、ひときわ大きな木の根元だった。
立派な木々が多く生える林にあって、ことさら目を引くその幹の太さは他の木々の悠に三倍はありそうだった。日差しを遮る葉の蔭は丁度良い涼しさで、甘い香りのする白い小さな花をいくつもつけた低木に囲まれているそこは、身を隠すには丁度良い感じだった。小さな頃、よくこんな場所でおままごとやかくれんぼをして遊んだ事を、少女は懐かしく思い出していた。
ふと、傍らの少年の赤と碧のオッドアイが凝視している先を辿り、ポーチははっとした。きゅっと、アズールの左手首を握っている己の右手がそこにあった。
「こ、ここまで来れば大丈夫よね。まったくあのおバカは。無理強いなんて最低だわ。」
艇を出てからずっと、少年の手を握り続けていた事に気が付いたポーチは慌てて手を離す。気恥ずかしさで、頬がほのかに上気しているのが自分でもわかる。
(…気付かれませんように。)心の中で無意識に祈りながら大木に背を預け、草の上に腰を下ろしたポーチは一呼吸すると、一寸ぎこちない笑みを浮かべてアズールに話し掛けた。
「上着、貸してちょうだい。ボタン付けてあげる。」
少年は状況に戸惑っているのか、どこか腑に落ちない顔をしていたが、素直に上着を脱ぎ少女に手渡した。
上着を脱いだ事であらわになったアズールの体躯。格闘系体術を得意とするタケルと、魔法剣に長けたアズール。同じ戦使でも、得意とする戦闘様式によって随分体形が変わるのだな、と、ポーチは改めて思った。
(女の子みたい…。)
ノースリーブのシャツから覗く少年の肌は、普段日に晒す事がないのか、少女の様に白かった。元々顔の色も白い方なのだから、それを思えば予想の範疇内の色の白さなのだが。そしてそれよりも目が行ってしまうのが、その線の細さだった。
無駄な肉のない均整のとれた体形をしているが、野生児のタケルのそれと比べるとかなり華奢で、首筋も二の腕も、大分細く見えた。まだ発育途上の「少年」のそれは、色の白さとあいまってなまめかしく感じられ、ポーチはなんだかドキドキしてしまった。
そんな風に思った事を内心ちょっぴり恥じ苦笑しつつ、ポーチは受け取った上着に目を移す。ボタンはちぎれた糸がその名残を示すだけで、やはりここにはなかった。おそらくまだ艇のあの場所に転がっていることだろう。少女は両手を覆う長い手袋を外し、肩にかけたポシェットの中から裁縫セットを取り出すと、少しもたつきながらも針に糸を通し、そこに入っていたボタンの中から適当な物を選び、付け始めた。
小鳥のさえずりが耳に優しく響く、静かな時間が流れていく。遠くの方から小さな子供の高い笑い声が聴こえるが、ここまで来る気配はないようだ。
時折吹くさわやかな風が肌を優しく撫でて行く。白い小花の蜜を楽しんでいた白い蝶が二頭、戯れながら飛びすぎていった。
「…魔法、使わないのか?」
傍らに座るアズールが、ふと不思議そうに少女の手元を見つめて言った。
「魔法でも出来るわよ。でも、手で出来る事まで魔法に頼る事ないかなって。使わない技術は忘れちゃうしね。」
俯いていた顔をあげると、少女の内巻きの金髪がさらりとゆれた。質問の主に向けられる、木漏れ日の下で輝く笑顔は素直に可愛らしい物だ。
「そうか…。」
少女の応えに、少女の手元を見つめたまま背中を丸めて片ひざを抱えている少年は、短く納得の返事をした。
☆★☆★☆★☆★☆★☆
とちゅうがき的とーく。
はい。日記にて「近い内にお届け~」と言っていたアズvポーチSSになります。途中までですが★
濃いんだか薄いんだか微妙に解らない内容ですねぇ。少しでもお楽しみ頂けましたでしょうか?
描写については、思い立ったら加筆とか訂正とか、するつもりでおります(をいをい)☆
キャラの年齢イメージについて☆
私は一寸高めに設定しております。(描画的にも少し等身高めで♪)
ポーチ14歳、タケル12歳、カンジーもう直ぐ10歳、アズール推定13歳、コーラル8歳…な、感じです。
独自夢想(オリジナルアレンジ)で物語を考える上では、大体この年齢設定で考えております。
今回の創作は自分の中にある物語を大まかに2つに分けている内の「設定B」を使用したお話です。
何が違うかっていうと、キャラクターの出生設定が決定的に違います。
「設定A」は、いつかオフラインで漫画化したいなぁ~と考えておりますので秘密(笑)。「B」の設定は又次回…。
読んで下さってありがとうございましたv
2005年4月13日 海王寺 千愛