眠りの深さに比例して


 彼の呟きに、フレイアが動揺したのが空気を通して伝わってきた。気まずそうに目線を落とす彼女を気にすることなくハールは続ける。
「何かされても気付かない気ィするし。お前悪戯して遊びそう」

 瞬きをするフレイア。一瞬、考えて。

 焚火が一度、爆ぜる音。

「――……」

 それと同時に遠回りなその言葉の意味を理解し、フレイアの表情が氷解した。彼に目を向ければ、その横顔はただ焚火を見ているだけだった。
「……えー、悪戯って何かなぁ? ハール君何して欲しいの?」
「だから前言撤回だっての」
 二人を起こさぬよう小声で続ける会話。安堵で緩む口元を隠そうと毛布を引っ張り上げた。
「いーからもう寝ろ、馬鹿」
「はーい」
 彼はフレイアから顔を背けるが、彼女は素直に返事をするとくすくすと笑った。
 暫くの後、ハールはフレイアを見遣る。そこにはこちら側を向いたまま眠る彼女がいた。毛布は規則的に上下し、いつも明るい光を燈している蒼い目は閉じられている。そしてその唇から漏れる寝息は穏やかで。

 ――今、傍らに行ったら、彼女の瞼は開かれてしまうだろうか。

 恐らく答えは、自分と同じだろう。そんなことを思いつつ、西へ傾く星座を見上げた。





UP:2014.05.06
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