SS(snap shot)もしも(治癒)魔法が使えたら


「そういえば、ハールの番はまだでしたね」
「いや別にオレは……」
「せっかくだからやろーよ、もう優勝は無理だろうけどっ」
「勝つのが無理って分かっててやる勝負ってどうなんだ」
「んと、時と場合によるけど大体かっこいいと思う!」
「立ちはだかってるのはお前だからな?」
「ふお!? そっか!?」
 一瞬悩んだものの、リセは軽く右手を握ると小さく頷き、ハールに“頑張って!”を送る。その様子はどこぞの村の祭りで行う何かの決勝戦を爽やかに迎える好敵手のような空気を醸していた。醸していたのは片方だけであるが。とはいえ、まあ、その空気を壊すのも野暮である。
「えー、そうだなー……オレは戦い方がどうしても近接になるから――」
「やっぱり今のナシ! かっこよくない!」
「は!?」
 超至近距離での真っ直ぐな“かっこよくない!”を浴びせられたハールにフレイアは思わず噴き出す。
「時と場合と人によるの! ハールはダメ!」
「え、いや、話が見えないって……」
「ハールが治癒魔法使えたら、そういうのやりそう、だから……ダメ」
「んー、わかる。ハール君は治癒魔法使えちゃダメ」
「同感ですね。ダメだと思います」
「先ほども似たような理由で最下位に転落した方がいらっしゃいましたが、そちらは無理を通せば勝ち筋が見えるという前提だったようでしたけれど。こちらは……ダメですわね」
「この短時間でこんなにダメダメ言われることあるか?」
 四人の物言いに遠い目をするハール。しかし、当人よりもしょんぼりと肩を落としている者が他にいた。森を進む歩みすら止めてしまいそうなほどに。
「……リセ?」
 呼びかければ、隣を歩く彼女の瞳が見上げてくる。淡く水面に溶ける、月の色。
「だって、ハール絶対無理して倒れるまで使うと思う……」
「……そう決めつけるなって」
「じゃあ何で今目そらしたの」
 リセの語気がわずかに揺らいだのを察し、後ろを歩くフェスタは困ったように微笑む。
「その方、結構我儘ですものね? 目の前で倒れられるくらいなら自分が倒れるって駄々を捏ね始める光景が目に浮かびますわ」
「お前言い方……」
「みんなの言いたいことふんわりまとめるとさ、ここでちょっと無理すればいける! って明確な作戦があるわけでもないのに“ヤダー!”ってだけで自分が倒れるような魔力消費の仕方しそうだからダメだよーってことだよね?」
「そうそれ!」
「まとめ方雑過ぎるだろ」
「いえ、的確ですよ?」
「その目怖い、マジで」
「さてさて審査委員長、どういう評価になりそうかな――……あれ?」
 訴求の前にダメの嵐を浴びせられたのだから評価も何もない気はするが、日頃の言動の結果である。フレイアは言葉を止めると、首を傾げて顎に手を添えていた。
「ふお、フレイア?」
「でもそれって逆に考えればさ、ハール君が治療担当だったら絶対に魔法使わせないぞって気持ちでみんな死ぬ気で怪我しないように気を付けるんじゃない? 負傷率圧倒的低下?」

 間。

「……ハールさん優勝!」

 のち、唐突な祝福がハールを襲う。

「おめでとうございます」
「フェスタお前バカにしてるだろ笑い方で分かるからな?」
「失礼を仰いますのね、誓ってバカになどしておりませんわ。笑う意味がまた別にあること自体は否定しませんが」
「ハール優勝ですよ、ここは喜ぶところじゃないですか」
「さっきわざわざ確認してた勝利条件とかいうのはどこいった?」
「そういうのを超えて掴んだ勝利ってこと! オメデトー!」
「いるだけで全体の士気を上げられるなんて素晴らしいじゃないですか」
「ハール、いい勝負だったね……!」
「そうか……?」
 そうかな。そうかも。ここまで爽やか満開で言われてしまうとそんな気もしてきた気がしないでもない。
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