SS(snap shot)もしも(治癒)魔法が使えたら
ぴちち、と小鳥の声。空白に合わせたように鳴くあの鳥は何なのか。そういう習性でも持っているのだろうか。それはさて置き。
「なん、て……思いました……」
発言を躊躇う静寂。何かを言いたくないわけではない、むしろ言いたいのだが、彼女の意図を図りかねての無言、である。“どちら”だろうか。もしかすると、再び鳥が鳴くかもしれない。
「……審査委員長、これはどうなのかなー?」
――が、二度目の囀りはフレイアによって不要となった。形の良い眉を下げて笑みを浮かべ、フェスタに判断を仰ぐ。
「そう、ですわね……フレイアさんが仰った勝利条件としては――」
「ああー! ごめんなさいズレてるよね! ただ、治癒魔法を使うってみんなが怪我してるってことだから、想像したらやだなって思っちゃって、思わず……!」
一応この遊びの流れを理解した上で、それでも出てしまった言葉だったと判明すると、かける言葉も自然と決まる。
「どんな想像したんだよ、多少の怪我ならそれなりにあるだろ?」
「傷の深さで言ったらリセさんが一番ヤバいやつ作ったまでありますからね?」
「それはそうなんだけど……っ! でも、ええと、もし使えたら、いざとなったら、絶対助ける! すぐに駆けつけるからね!」
「それは頼もしいな」
「ハール思ってないでしょ!」
「思ってる思ってる」
「ふふ、ちょっと想定とは違うけど一番大事なものは伝わったし、まあいっか! リセの魅力は十分発揮できたんじゃない?」
「ほんと!?」
「うん、アタシはリセのそういうところ好きだよ」
「ふへへー」
リセの頬をぷにぷにと優しく指でつつけば、焼きたてのパンに乗せたバターのように笑顔が溶けた。
「……確かに今までの流れからは外れているかもしれませんが、規定からは外れていないかと」
ぷにぷにを続けていた二人が同時にフェスタに顔を向ける。
「ここで一旦確認とまいりましょう。フレイアさんが初めに仰った優勝条件をもう一度お願いします。できることなら、一字一句正確に」
「ええー! まったく同じには言えないかもよ? 『もしみんなが治癒魔法が使えたらどんな風なのかなっていうのをひとりひとり順番に話し合って、最終的に……」
言えないかも、と言いつつ完璧に繰り返していたフレイアの唇が一瞬止まった。その“気付き”は感服ともとれる小さな溜め息となって零れると、続ける。
「一番そうなって欲しい! って思われた人が優勝!』」
「ええ。“ もしみなさんが治癒魔法を使えたら”はあくまで話す内容です。最後に“絶対助ける、すぐに駆けつける”という言葉がありましたので、ここは問題ないでしょう。加えてフレイアさんは“そうなって欲しい”とは仰いましたが、治癒魔法を効果的に使えそうだと思わせたら勝ち、とは明言されませんでした。つまり、そうなって欲しい――発言者の言葉が事実になって欲しい、と思わせたら勝ち、ともとれるのでは?」
「さすがにどうなんだそれ……」
「正しくはないかもしれませんが、間違いだとも言いきれないかと。私あまりお行儀のよい遊びは慣れておりませんの。規定は抜け道を探してこそ、ですわ」
そう言い、悪戯っぽく片目を閉じて見せるフェスタ。さすが、無法に散らばる秩序を綱渡りしてきただけあって説得力増し増しである。
「うーん、これはやられたなぁ……」
「フレイアさんが言葉遊びで負けるなんて、そんなこともあるんですねぇ」
「イズム君嬉しそう過ぎない? それでもアタシの方が上だからね?」
「えと、えと、つまり……私の番はこれで大丈夫ってことだよね?」
「ええ勿論」
やり切った! という清々しさ全開で笑むリセ。額の汗を拭う仕草までしているが、当然汗はかいていない。所詮暇つぶしなのだから、それらしく聞こえるように言っておけばいいものを。と小さく苦笑するフェスタ。何事にも全力なのが彼女の長所であり危うさでもあるのだが、何というか、慣れてきた。あの路地裏に放り込めば一晩で死ぬだろうが、ここはそうではない。なら、もう彼女の長所に苛つく必要もないのだ。
「暫定首位、でよろしいのではないでしょうか。実現できる可能性も、一番高いですし」
「なん、て……思いました……」
発言を躊躇う静寂。何かを言いたくないわけではない、むしろ言いたいのだが、彼女の意図を図りかねての無言、である。“どちら”だろうか。もしかすると、再び鳥が鳴くかもしれない。
「……審査委員長、これはどうなのかなー?」
――が、二度目の囀りはフレイアによって不要となった。形の良い眉を下げて笑みを浮かべ、フェスタに判断を仰ぐ。
「そう、ですわね……フレイアさんが仰った勝利条件としては――」
「ああー! ごめんなさいズレてるよね! ただ、治癒魔法を使うってみんなが怪我してるってことだから、想像したらやだなって思っちゃって、思わず……!」
一応この遊びの流れを理解した上で、それでも出てしまった言葉だったと判明すると、かける言葉も自然と決まる。
「どんな想像したんだよ、多少の怪我ならそれなりにあるだろ?」
「傷の深さで言ったらリセさんが一番ヤバいやつ作ったまでありますからね?」
「それはそうなんだけど……っ! でも、ええと、もし使えたら、いざとなったら、絶対助ける! すぐに駆けつけるからね!」
「それは頼もしいな」
「ハール思ってないでしょ!」
「思ってる思ってる」
「ふふ、ちょっと想定とは違うけど一番大事なものは伝わったし、まあいっか! リセの魅力は十分発揮できたんじゃない?」
「ほんと!?」
「うん、アタシはリセのそういうところ好きだよ」
「ふへへー」
リセの頬をぷにぷにと優しく指でつつけば、焼きたてのパンに乗せたバターのように笑顔が溶けた。
「……確かに今までの流れからは外れているかもしれませんが、規定からは外れていないかと」
ぷにぷにを続けていた二人が同時にフェスタに顔を向ける。
「ここで一旦確認とまいりましょう。フレイアさんが初めに仰った優勝条件をもう一度お願いします。できることなら、一字一句正確に」
「ええー! まったく同じには言えないかもよ? 『もしみんなが治癒魔法が使えたらどんな風なのかなっていうのをひとりひとり順番に話し合って、最終的に……」
言えないかも、と言いつつ完璧に繰り返していたフレイアの唇が一瞬止まった。その“気付き”は感服ともとれる小さな溜め息となって零れると、続ける。
「一番そうなって欲しい! って思われた人が優勝!』」
「ええ。“ もしみなさんが治癒魔法を使えたら”はあくまで話す内容です。最後に“絶対助ける、すぐに駆けつける”という言葉がありましたので、ここは問題ないでしょう。加えてフレイアさんは“そうなって欲しい”とは仰いましたが、治癒魔法を効果的に使えそうだと思わせたら勝ち、とは明言されませんでした。つまり、そうなって欲しい――発言者の言葉が事実になって欲しい、と思わせたら勝ち、ともとれるのでは?」
「さすがにどうなんだそれ……」
「正しくはないかもしれませんが、間違いだとも言いきれないかと。私あまりお行儀のよい遊びは慣れておりませんの。規定は抜け道を探してこそ、ですわ」
そう言い、悪戯っぽく片目を閉じて見せるフェスタ。さすが、無法に散らばる秩序を綱渡りしてきただけあって説得力増し増しである。
「うーん、これはやられたなぁ……」
「フレイアさんが言葉遊びで負けるなんて、そんなこともあるんですねぇ」
「イズム君嬉しそう過ぎない? それでもアタシの方が上だからね?」
「えと、えと、つまり……私の番はこれで大丈夫ってことだよね?」
「ええ勿論」
やり切った! という清々しさ全開で笑むリセ。額の汗を拭う仕草までしているが、当然汗はかいていない。所詮暇つぶしなのだから、それらしく聞こえるように言っておけばいいものを。と小さく苦笑するフェスタ。何事にも全力なのが彼女の長所であり危うさでもあるのだが、何というか、慣れてきた。あの路地裏に放り込めば一晩で死ぬだろうが、ここはそうではない。なら、もう彼女の長所に苛つく必要もないのだ。
「暫定首位、でよろしいのではないでしょうか。実現できる可能性も、一番高いですし」