SS(snap shot)もしも(治癒)魔法が使えたら
「……何の話してたんだっけ? あ、イズムの話か。とりあえず現状最下位な、まだ二人目だけど」
「フレイアちゃん優勝に一歩近づいちゃったな!」
「私イズム君のそういうところ好きだけど……やってほしいかどうかは別、だからね?」
「リセさんだって似たようなことする方じゃないですかー……」
「イズム君と約束したもん。自分も守る、ちゃんと大切にするって」
――ほんの、ほんのわずか、呼吸の止まった音。
「……言って、ましたねぇ」
変わっていないはずの表情を伝う、揺らぎ。ハールが小さく感嘆の声を漏らした。
「珍しいもの見られたな……」
「ハール君だいぶ嬉しそうだけどイズム君のこと好きなの嫌いなの? まあとにかく、少なくともリセの方が順位上そうだよー?」
「逆転の目は……」
「ねぇよ」
「リセさん、このまま優勝を狙いに出てもよろしいのでは?」
“予想外”というのは、遊びの範疇においてはけして悪くないものだ。普通に考えれば――いや、考えるまでもなく一位を掻っ攫っていきそうな者が見事に最下位である。何を賭けることもない暇潰しに、フェスタの声が心なしか弾む。
「よーし、がんばるぞー! えっと、私が治癒魔法を使えたら……ええと……」
両手を握り気合いを入れて話し始めたはいいものの、肝心の内容が出てこない。それはそうだろう、二人のように澱みなく喋れる方が珍しいのだ。
「んと……」
――が、それにしたって出てこない。一歩進むごとにリセの手が胸元から下がっていく。フェスタが彼女の番を後に回そうかと考え始めたのとほぼ同時。その空気を察したのかリセが急いで口を開いた。
「そ、そもそも治癒魔法使わなくていいように、みんなを守れるように、なりたいなぁ…………!」
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