Story.9.5 狭間の蒼


 夜の眠りから意識を引き上げたのは、左腕へのごく軽いものが当たった感覚。
「――……?」
 まるで小鳥か綿花でもぶつかったかのようなそれは、微かなものながらイズムの瞼を開けさせた。野営であったから、いつもより過敏になっていたのかもしれない。
 首を動かし左腕に目を遣れば、そこにあったのは小さく白い柔らかなかたまり。だがそれは小鳥でも綿花でもなく、清潔に巻かれた包帯であった。
 掛けていた薄い毛布を退けてゆっくりと上体を起こす。解けながら転がってきたらしく白線の先を目で追って行けば、再び白に辿り着いた。
「あ……」
 その白は、申し訳なさげな声を上げる。
「どうしました?」
 イズムは白――リセへと穏やかに問い掛けた。しかし問うたものの、周囲の様子を見ればすぐに状況が把握できた。乱雑に散らばる白い帯と、転がってきた包帯本体。それを彼に気付かれぬよう取ろうとしたのか膝立ちのリセ。その右手には、まだ塞がらない赤い傷。
「……一人では巻き辛かったでしょう、やりましょうか?」
 どんな巻き方をしようとすればここまで包帯が散らばるのかは謎であったが、それでも懸命に自分で換えようとする姿を想像するのは容易かった。言うと、彼女はややあって遠慮がちに頷く。
「……うん、ありがとう」
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