Story.8 古の殺戮者
†
「いや、取り返せばいいだけのハナシだよ! 大丈夫大丈夫!」
――ひとしきり叫んだ後に落ち着いて辺りの様子を窺って見ると、帽子を攫っていった魔物の傷口から滴ったのであろう血液が道に点々と染みていた。少し辿ってみたところ途中で休みながらどこかへ向かっているようで、時折小さな血溜まりもあり見失うことはなさそうだった。血痕というのは落ちにくいもので、かつ結構な量であったため、雨にさえ降られなければ消えることもないだろう。途中で力尽きて倒れてくれていれば一番手っ取り早くはあるのだが。
「本当にごめんなさい……」
消え入りそうな声で肩を落とすリセ。別に誰が怒っているというわけでもないのだが、言わずにはいられなかった。シリスでの一件といい、今回の件といい、自分が原因で足止めをしてしまった。前者は最終的に旅人狩を捕まえ姉弟のすれ違いを解く形になったものの、後者は完全に失態であった。あの日、出来ることから少しずつ始めようとしたその“少しずつ”すら、自分は果たせなかった。
「あの速さでは仕方なかったと思いますよ。寧ろ対応できただけでも褒められて然るべきです」
申し訳なさと情けなさで、本来ならばその先にあったはずのことがほぼ成し遂げられたというのに喜ぶことができない。しかしこうならなければ掴めなかったのだと思うと、皮肉なものだ。
自らを追い込むことで、引き出された力。これも、自分が望んだことのうちにあったもののはずなのに。
「だけど……」
こんな形でも、欲するべきなのか。
「……まぁ、早めに追い付けばどうにかなるだろ」
「ハール……」
いつもより一回り小さく見える彼女は、まるで初めて出逢ったときのようだと思った。なおも表情を暗くするリセに、ハールはその頭に手を置こうとし――――止めた。浮かんだ気持ちを潰すようにして、持ち上げかけた左手を握る。
そう見えたとしても、きっと、今の彼女は違うはずだから。
「いや、取り返せばいいだけのハナシだよ! 大丈夫大丈夫!」
――ひとしきり叫んだ後に落ち着いて辺りの様子を窺って見ると、帽子を攫っていった魔物の傷口から滴ったのであろう血液が道に点々と染みていた。少し辿ってみたところ途中で休みながらどこかへ向かっているようで、時折小さな血溜まりもあり見失うことはなさそうだった。血痕というのは落ちにくいもので、かつ結構な量であったため、雨にさえ降られなければ消えることもないだろう。途中で力尽きて倒れてくれていれば一番手っ取り早くはあるのだが。
「本当にごめんなさい……」
消え入りそうな声で肩を落とすリセ。別に誰が怒っているというわけでもないのだが、言わずにはいられなかった。シリスでの一件といい、今回の件といい、自分が原因で足止めをしてしまった。前者は最終的に旅人狩を捕まえ姉弟のすれ違いを解く形になったものの、後者は完全に失態であった。あの日、出来ることから少しずつ始めようとしたその“少しずつ”すら、自分は果たせなかった。
「あの速さでは仕方なかったと思いますよ。寧ろ対応できただけでも褒められて然るべきです」
申し訳なさと情けなさで、本来ならばその先にあったはずのことがほぼ成し遂げられたというのに喜ぶことができない。しかしこうならなければ掴めなかったのだと思うと、皮肉なものだ。
自らを追い込むことで、引き出された力。これも、自分が望んだことのうちにあったもののはずなのに。
「だけど……」
こんな形でも、欲するべきなのか。
「……まぁ、早めに追い付けばどうにかなるだろ」
「ハール……」
いつもより一回り小さく見える彼女は、まるで初めて出逢ったときのようだと思った。なおも表情を暗くするリセに、ハールはその頭に手を置こうとし――――止めた。浮かんだ気持ちを潰すようにして、持ち上げかけた左手を握る。
そう見えたとしても、きっと、今の彼女は違うはずだから。