Story.7 星宿の地図
†
「……で、問題だな」
朝食後、ハールが片付いたテーブル上の地図に描かれている現在地に目を落とし、他三人も同じような場所を注視する。昨日は魔物の件があったため、結局進路決めには至っていなかった。
「今から戻って街道を通れば、引き返す時間が余計に入るから、アリエタまで八日間」
と、そこで小さく息をつく。
「だけど此処から先は、『通行禁止』……と」
「戻るしかないかなぁ……」
リセも地図上の道を目で辿りつつ言う。早くも昨日の成果が出たのが嬉しくて、彼女はイズムに目配せをした。
「お? 何か仲良しだー!……あれ?」
「ふおっ!」
それを目敏く見つけたフレイアが後ろから覆いかぶさるようにして抱き着く。そして顔を近づけたせいで彼女の白目が若干色を帯びていることに気付いた。
「ねぇリセ、目、赤くない? 眠れなかったの?」
そういえば、昨日はアタシが寝る時にはまだ起きてたよね、と続ける。
「あ、えっと……」
「ああ、それは昨日僕が寝かせなかったので」
「「――は!?」」
瞬間、フレイアとハールの声が見事に重なった。
「ち、違うよ、私の方がもう少しだけって頼んだから……!」
リセが慌てて否定するが、それは『寝かせなかった』ではなく『彼が』という点であって、これでは何の疑惑も解消しない。より深まるだけである。
「お二人さん、昨晩は一体何を……」
何かを言おうとするが一体何から言えば良いやら寧ろ言うべきなのか……と口を開閉するだけのフレイアだったが、ようやく出てきた言葉はそれだった。
「そうですね、色々と」
――しかし追い打ちの如く、更に悩ませるような答えが微笑と共に返ってくるのだった。
「リセさん飲み込み早くて教え甲斐がありましたよ」
「イズム君が教え方上手だからだよ」
のほほんと会話する二人。片方は素だとしても、もう片方は“誤解”を招くような言い方をしているに違いない。確かに、昨晩イズムは何処かと訊かれた覚えはあるが、というか外から話し声が聞こえたような、いや、でもまさか外で――――……いや、場所を問われた後、もう一つ訊かれたことがあった。
「……あ、地図」
ハールはようやく答えに至ったらしく、思い出したように言う。
「うん、地図の読み方……教えてもらってたの。貸してくれてありがとう」
リセが頷き、どことなく安心した様子のフレイアを横目にハールは溜め息をつく。
「いや、と言うか地図読むのにわざわざ外出たのか?」
「あ、それはね――」
が、
「魔法も、教わってたから」
「……魔法!?」
「頼んだの。魔法、教えてほしいって」
ハールとフレイアの顔が、僅かに強張った。
「私も戦えるように、なりたいなあって」
思わずイズムを見遣るハール。
「……そっか」
――――が、彼の表情に、何も言えなかった。
「昨日ね、すぐに魔力の顕現できたんだよ! 白だった!」
「……だろうな」
「え?」
「いや、何でもない」
無邪気な子どものような報告に、思わず零れた言葉。できるはずだろう、自分はよく知っている。
「ハール……?」
リセは彼の沈黙に、不安げな顔を見せた。
「あっ、イズム君イズム君、アタシも何か教えてほしいなー! あ、料理とかー?」
「僕でよければ喜んで」
雰囲気を察したフレイアが話題を切り替え、イズムもそれに乗った。
恐らく今はまだ言うべきではない。だが、いつ告げるべきなのか。もしくは――――告げるべき日は、迎えていいものなのか。
「……で、問題だな」
朝食後、ハールが片付いたテーブル上の地図に描かれている現在地に目を落とし、他三人も同じような場所を注視する。昨日は魔物の件があったため、結局進路決めには至っていなかった。
「今から戻って街道を通れば、引き返す時間が余計に入るから、アリエタまで八日間」
と、そこで小さく息をつく。
「だけど此処から先は、『通行禁止』……と」
「戻るしかないかなぁ……」
リセも地図上の道を目で辿りつつ言う。早くも昨日の成果が出たのが嬉しくて、彼女はイズムに目配せをした。
「お? 何か仲良しだー!……あれ?」
「ふおっ!」
それを目敏く見つけたフレイアが後ろから覆いかぶさるようにして抱き着く。そして顔を近づけたせいで彼女の白目が若干色を帯びていることに気付いた。
「ねぇリセ、目、赤くない? 眠れなかったの?」
そういえば、昨日はアタシが寝る時にはまだ起きてたよね、と続ける。
「あ、えっと……」
「ああ、それは昨日僕が寝かせなかったので」
「「――は!?」」
瞬間、フレイアとハールの声が見事に重なった。
「ち、違うよ、私の方がもう少しだけって頼んだから……!」
リセが慌てて否定するが、それは『寝かせなかった』ではなく『彼が』という点であって、これでは何の疑惑も解消しない。より深まるだけである。
「お二人さん、昨晩は一体何を……」
何かを言おうとするが一体何から言えば良いやら寧ろ言うべきなのか……と口を開閉するだけのフレイアだったが、ようやく出てきた言葉はそれだった。
「そうですね、色々と」
――しかし追い打ちの如く、更に悩ませるような答えが微笑と共に返ってくるのだった。
「リセさん飲み込み早くて教え甲斐がありましたよ」
「イズム君が教え方上手だからだよ」
のほほんと会話する二人。片方は素だとしても、もう片方は“誤解”を招くような言い方をしているに違いない。確かに、昨晩イズムは何処かと訊かれた覚えはあるが、というか外から話し声が聞こえたような、いや、でもまさか外で――――……いや、場所を問われた後、もう一つ訊かれたことがあった。
「……あ、地図」
ハールはようやく答えに至ったらしく、思い出したように言う。
「うん、地図の読み方……教えてもらってたの。貸してくれてありがとう」
リセが頷き、どことなく安心した様子のフレイアを横目にハールは溜め息をつく。
「いや、と言うか地図読むのにわざわざ外出たのか?」
「あ、それはね――」
が、
「魔法も、教わってたから」
「……魔法!?」
「頼んだの。魔法、教えてほしいって」
ハールとフレイアの顔が、僅かに強張った。
「私も戦えるように、なりたいなあって」
思わずイズムを見遣るハール。
「……そっか」
――――が、彼の表情に、何も言えなかった。
「昨日ね、すぐに魔力の顕現できたんだよ! 白だった!」
「……だろうな」
「え?」
「いや、何でもない」
無邪気な子どものような報告に、思わず零れた言葉。できるはずだろう、自分はよく知っている。
「ハール……?」
リセは彼の沈黙に、不安げな顔を見せた。
「あっ、イズム君イズム君、アタシも何か教えてほしいなー! あ、料理とかー?」
「僕でよければ喜んで」
雰囲気を察したフレイアが話題を切り替え、イズムもそれに乗った。
恐らく今はまだ言うべきではない。だが、いつ告げるべきなのか。もしくは――――告げるべき日は、迎えていいものなのか。