Story.7 星宿の地図
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「あの辺りに大きな星があるの、わかりますか?」
「黄色っぽいの?」
「そうです。あの星があるということは、あっちは北なんですよ」
二人は大小さまざまな光が散らばる夜空を見上げていた。リセはイズムが指し示す先にあるはずの明かりを探す。
「星も月や太陽と同じで東から西へ動きますが、この星は北皇星と呼ばれていて、時間が経っても殆ど位置が変わらないんです。夜道では北皇星の位置を確認しておくと便利ですよ」
彼の言う『星の地図』とは、天体による時間と方位の確認手段であった。リセは気分転換も兼ね、楽しみつつも懸命に覚えようと夜空に目を凝らす。
「なるほど……でもいっぱい星があるから、すぐに見つけられるかな」
「そうですね、今の季節だと目印は……あそこに七つの星が十字を象っていますよね。その先の二つの星の間隔を五倍延長していくと、北皇星に辿り着きます」
「えっと、五倍……」
「手を翳して、指を目安にすると測り易くないですか?」
「わっ、ほんとだ!」
白い指先に、淡い金の星が灯った。まるで本当にその手に星が降りてきたかのような笑顔だ。
「手で角度も測れますよ。大体人差し指から親指までが十五度ですから、六回分で、空の真上から地上ですね」
そんな彼女を横目に説明を続ける。
――――こんなことなら、何の迷いも無く教えることができるのに。
「それと、昼間は太陽の位置で時間を見ますが、星や月でもできますよ。今は真上から少し西側に月が傾いていますよね。ということは……」
彼女に『魔法を教えてほしい』と言われた時、正直なところ心は否に傾いていた。通常の彼女の力がどの程度『その時』に影響するのかは分からないが、万が一のことを考えれば、それを断るのが正しい判断であったはずだ。
「わぁ……空を見ただけで何でもわかっちゃうね、すごいね! イズム君、ありがとう!」
「……どういたしまして」
そう、“はずだった”。
自分が旅に同行した理由を忘れた訳ではない。しかし、断れなかった。『その時』は知らないが、『その時』で無い今、彼女はごく普通の、一人の少女なのだ。
――――『人間の感情が一色なわけない』。
それは、彼女も。
そして、自分も。
いつもの微笑で誤魔化す。本音は、隠した。
(……ただの、気まぐれですよ)
――――彼女にも、自分にも。
「あの辺りに大きな星があるの、わかりますか?」
「黄色っぽいの?」
「そうです。あの星があるということは、あっちは北なんですよ」
二人は大小さまざまな光が散らばる夜空を見上げていた。リセはイズムが指し示す先にあるはずの明かりを探す。
「星も月や太陽と同じで東から西へ動きますが、この星は北皇星と呼ばれていて、時間が経っても殆ど位置が変わらないんです。夜道では北皇星の位置を確認しておくと便利ですよ」
彼の言う『星の地図』とは、天体による時間と方位の確認手段であった。リセは気分転換も兼ね、楽しみつつも懸命に覚えようと夜空に目を凝らす。
「なるほど……でもいっぱい星があるから、すぐに見つけられるかな」
「そうですね、今の季節だと目印は……あそこに七つの星が十字を象っていますよね。その先の二つの星の間隔を五倍延長していくと、北皇星に辿り着きます」
「えっと、五倍……」
「手を翳して、指を目安にすると測り易くないですか?」
「わっ、ほんとだ!」
白い指先に、淡い金の星が灯った。まるで本当にその手に星が降りてきたかのような笑顔だ。
「手で角度も測れますよ。大体人差し指から親指までが十五度ですから、六回分で、空の真上から地上ですね」
そんな彼女を横目に説明を続ける。
――――こんなことなら、何の迷いも無く教えることができるのに。
「それと、昼間は太陽の位置で時間を見ますが、星や月でもできますよ。今は真上から少し西側に月が傾いていますよね。ということは……」
彼女に『魔法を教えてほしい』と言われた時、正直なところ心は否に傾いていた。通常の彼女の力がどの程度『その時』に影響するのかは分からないが、万が一のことを考えれば、それを断るのが正しい判断であったはずだ。
「わぁ……空を見ただけで何でもわかっちゃうね、すごいね! イズム君、ありがとう!」
「……どういたしまして」
そう、“はずだった”。
自分が旅に同行した理由を忘れた訳ではない。しかし、断れなかった。『その時』は知らないが、『その時』で無い今、彼女はごく普通の、一人の少女なのだ。
――――『人間の感情が一色なわけない』。
それは、彼女も。
そして、自分も。
いつもの微笑で誤魔化す。本音は、隠した。
(……ただの、気まぐれですよ)
――――彼女にも、自分にも。