Story.7 星宿の地図

 ――その後は『自分の意思で魔力を制御し、一定の時間まで顕現を持続させる』という練習を行った。しかしさすがにすべてが一度で上手くいくはずもなく、リセの魔力はすぐに霧散してしまうのだった。そしてたった今、数十回目の挑戦がはかなく散ったところである。
「随分とお疲れのようですし、もうそのくらいにしておきませんか? あまり無理はしない方が……」
 本音を言えば、魔法に関しては今夜限りで終わりにして欲しかった。そうすれば、この板挟みの状況に悩む必要もなくなる。
「うー……まだ、あと少しだけ……あっ、でもイズム君もう疲れたよね……!」
「僕はいいですけど、明日に響きますよ。大丈夫ですか」
 勿論そんな願いなど届くはずもなかった。リセは頷くと、再度右手に意識を集中させる。たった数秒とは言え、顕現できるほどの集中力がこれだけ続いているだけでも大したものだ。素直に喜ばしいとは言い難いが。
 やがて掌に白い光が生まれた。しかしそれは瞬く間に闇に溶け消えてしまう。魔力の顕現時間は回数を経るごとに短くなっていた。彼女自身それに気付いていないはずはない。
「もう一回、だけ……」
 再度魔力をその手に灯そうとするリセ。その瞳は、ほのかに赤らみ潤んでいた。
「…………何でそんなに頑張るんですか」
 意図せず出てしまった言葉に、はっと口を噤む。当の彼女は、なお魔力を現そうと右手を見つめていた。
「……ハールのこと、守りたいから」
 その名に、どくりと心臓が不穏に脈打つ。
 彼女の手中に淡く光が集い、そして溶け消えた。
「私、見つけてくれたのがハールで本当によかったって思ってる……だからいつかは、私が助けるの。みんなのことも」
 リセは一度手を下ろしイズムを見上げると、やや疲れた瞼に、しかしそれでも柔らかな笑みを乗せた。
「まずは自分の身からだけどね」
 少し恥ずかしげに言うと、再び掌へと視線を戻す。
 彼を守りたいという目的も同じ。魔法という、手段も同じ。ただ、それがもたらす結果だけは――――
 イズムは視線を落とした。その瞳に映るものは、“迷い”。
 この少女が彼を守るために求めたチカラは、いつか彼を傷つけるかもしれない。そして――――彼女の心も。

「リセさん」

 今、すべてを話したら、彼女はどんな顔をするだろうか。

「ん、なぁに?」

 もし、言ったら――――

「……――休憩がてら、もう一つ、地図の読み方知りたくないですか?」
「もう一つの地図?」
「ええ」
 きょとんと首を傾げるリセにイズムは笑いかけ、言った。
「星の地図です」
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