Story.7 星宿の地図
†
「ではまず、リセさんの内に在る魔力を実体化させることから始めましょう」
言うと、イズムは右手に蒼い光を灯した。流石と言うべきか、やはり慣れている。彼が魔力を顕現させるのが早いということは、素人であるリセにも分かった。
リセはイズムの掌の内にある柔らかい光を放つ蒼を覗き込む。よくよく目を凝らせば、本当にごく微細な粒子が炎のような一つの形となって揺らめいているのが分かった。魔法というのが、魔力という小さな粒の集まりだということを実感する。
リセが模範を見終わったのを確認すると、イズムは手中の光を消した。
「まず……そうですね、最初は利き手の方がやりやすいと思います」
リセは右手を胸の前へ上げ、掌に視線を落とした。
「そうしたら、身体の中の《魔力の流れ》を感じるようにしてみてください」
「魔力の……流れ?」
きょとんと首を傾げるリセ。イズムは少し考える素振りをしたが、すぐに微苦笑を見せた。
「少し難しかったでしょうか……でもこればっかりは感覚ですから、こう言うしかないんです」
「大丈夫、やってみる」
リセは一度頷くと目を閉じ、身体の全神経を右手に集中した。身体が感じる以外のことは、すべて放り出す。
辺りは夜の静寂に包まれ、音らしい音もしない。注意すれば自分の心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。
――……ふと、身体を巡る“何か”に気付いた。
それは一定の感覚で押し寄せてくる。まるで――……そう、さざ波のようだ。引いては、返す。引いては――――
「…………ッ!」
瞬間、リセは見えない何かを掴みとるが如く、右手を捻った。
「……――」
ゆっくりと目を開けると――――……。
「わーっ! やった、できた! できたよイズム君!」
掌の上には、まるで舞い降りてきたひとひらの雪のような、小さな小さな、純白の丸い光があった。
しかしそれは束の間のもので、次の瞬間には、泡雪のように溶けてしまった。
「あー、消えちゃった……」
リセは少し肩を落とすが、それでも魔力を顕現できた、という喜びからか、それほど落胆しているようには見えなかった。
「……――」
「イズム君?」
「……!」
何も言わないイズムを訝しみ、彼の顔を覗くリセ。
「あ、すみません……まさか一回で出来るとは……思っていなくて」
未だ驚きを隠せずにいる彼にリセは無邪気に喜ぶ。
「本当? なんかねなんかね、定期的に、力が溢れてくる瞬間って言うか、『ここだ!』って思う時が来ることに気付いてね、その力を右手に集めるようにしてみたら、できたのー! なんて言うか、『魔力の波』って感じ!」
「『魔力の波』ですか。……あぁ、確かにそんな感じもしますね。言い得て妙ですよ、リセさん」
「ふふー」
誉めて、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべるリセに、イズムは称賛の言葉を返しつつ思考を巡らせる。
(これだけで最低でも十日はかかるものを……たった一回で)
驚くべきは彼女が魔力を現出させた事に対してではなく、その異様と言うべき早さにである。
「嬉しいなー、初めてでできると思ってなかった!」
(“初めて”……ですか)
勿論、その『初めて』という言葉は真実ではない。彼女は魔法を使っていた。もしかしたら、記憶を失う以前にも。完全にではないのであろうが、身体が魔力の捕まえ方を覚えているのだろう。そう考えればこの早さにも納得がいく。
「ではまず、リセさんの内に在る魔力を実体化させることから始めましょう」
言うと、イズムは右手に蒼い光を灯した。流石と言うべきか、やはり慣れている。彼が魔力を顕現させるのが早いということは、素人であるリセにも分かった。
リセはイズムの掌の内にある柔らかい光を放つ蒼を覗き込む。よくよく目を凝らせば、本当にごく微細な粒子が炎のような一つの形となって揺らめいているのが分かった。魔法というのが、魔力という小さな粒の集まりだということを実感する。
リセが模範を見終わったのを確認すると、イズムは手中の光を消した。
「まず……そうですね、最初は利き手の方がやりやすいと思います」
リセは右手を胸の前へ上げ、掌に視線を落とした。
「そうしたら、身体の中の《魔力の流れ》を感じるようにしてみてください」
「魔力の……流れ?」
きょとんと首を傾げるリセ。イズムは少し考える素振りをしたが、すぐに微苦笑を見せた。
「少し難しかったでしょうか……でもこればっかりは感覚ですから、こう言うしかないんです」
「大丈夫、やってみる」
リセは一度頷くと目を閉じ、身体の全神経を右手に集中した。身体が感じる以外のことは、すべて放り出す。
辺りは夜の静寂に包まれ、音らしい音もしない。注意すれば自分の心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。
――……ふと、身体を巡る“何か”に気付いた。
それは一定の感覚で押し寄せてくる。まるで――……そう、さざ波のようだ。引いては、返す。引いては――――
「…………ッ!」
瞬間、リセは見えない何かを掴みとるが如く、右手を捻った。
「……――」
ゆっくりと目を開けると――――……。
「わーっ! やった、できた! できたよイズム君!」
掌の上には、まるで舞い降りてきたひとひらの雪のような、小さな小さな、純白の丸い光があった。
しかしそれは束の間のもので、次の瞬間には、泡雪のように溶けてしまった。
「あー、消えちゃった……」
リセは少し肩を落とすが、それでも魔力を顕現できた、という喜びからか、それほど落胆しているようには見えなかった。
「……――」
「イズム君?」
「……!」
何も言わないイズムを訝しみ、彼の顔を覗くリセ。
「あ、すみません……まさか一回で出来るとは……思っていなくて」
未だ驚きを隠せずにいる彼にリセは無邪気に喜ぶ。
「本当? なんかねなんかね、定期的に、力が溢れてくる瞬間って言うか、『ここだ!』って思う時が来ることに気付いてね、その力を右手に集めるようにしてみたら、できたのー! なんて言うか、『魔力の波』って感じ!」
「『魔力の波』ですか。……あぁ、確かにそんな感じもしますね。言い得て妙ですよ、リセさん」
「ふふー」
誉めて、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべるリセに、イズムは称賛の言葉を返しつつ思考を巡らせる。
(これだけで最低でも十日はかかるものを……たった一回で)
驚くべきは彼女が魔力を現出させた事に対してではなく、その異様と言うべき早さにである。
「嬉しいなー、初めてでできると思ってなかった!」
(“初めて”……ですか)
勿論、その『初めて』という言葉は真実ではない。彼女は魔法を使っていた。もしかしたら、記憶を失う以前にも。完全にではないのであろうが、身体が魔力の捕まえ方を覚えているのだろう。そう考えればこの早さにも納得がいく。