Story.7 星宿の地図
†
青々とした草原を抜けて山に近づくにつれ、樹木が増えてくる。まばらだったそれらの密度は高くなってゆき、やがて視界は生い茂った深緑が多くを占めるようになった。
「ね、フレイア……」
歩き出して暫くの後、隣で歩を進めるフレイアにのみ聞こえる程度の声。ぼんやりとしていたら聞き逃していたかもしれない。少しだけ首を動かし、リセと視線を合わせる。
「ん?」
「山ってさ……魔物、いるかな」
一瞬、何を言っているのだろうか、と眉を顰めそうになったが、すぐに合点がいった。これは質問ではない。有り得ないと解りつつも、『もしかしたら』の微かな希望を求める言葉。この場合、彼女の望む答えは、『否定』だろう。
(何となく思ってたけど、無邪気に見えてかなり気負う性格……かな)
彼女の望む返答をするには事実が邪魔するので、とりあえずは平凡な答えを返した。
「そりゃいるでしょー。町から一歩出たら、もう出くわしてもおかしくはないし……森とか、ましてや山なんて、遭って当然かな。……町中だって、ちょっとはいるんだからさ」
「そう……だよね」
「魔物、心配?」
「うん、少し……」
「大丈夫だよー! また正義の美少女・フレイアちゃんが守ってあげる!」
「あっ、違うの、フレイア達が強いのは分かってるよ、そういう心配じゃ……なくて……」
段々と声が弱々しくなっていき、最後の言葉は誰の耳にも届くことはなかった。
「んー? 大丈夫大丈夫! ねっ」
続きは、『みんなだけ魔物と戦わせるのが申し訳ない』――かな?
「あ、うん……ありがと」
彼女の寂しげな微笑でそれは確信に変わり、心中で唇が弧を描く。これで隠しているつもりなのだから可愛らしいものだ。その努力は意味をなしていないが。
しかし、隠そうという気持ちがあるのは事実である。
誰にだって、隠し事はあるものだ。
そう、誰にでも。
青々とした草原を抜けて山に近づくにつれ、樹木が増えてくる。まばらだったそれらの密度は高くなってゆき、やがて視界は生い茂った深緑が多くを占めるようになった。
「ね、フレイア……」
歩き出して暫くの後、隣で歩を進めるフレイアにのみ聞こえる程度の声。ぼんやりとしていたら聞き逃していたかもしれない。少しだけ首を動かし、リセと視線を合わせる。
「ん?」
「山ってさ……魔物、いるかな」
一瞬、何を言っているのだろうか、と眉を顰めそうになったが、すぐに合点がいった。これは質問ではない。有り得ないと解りつつも、『もしかしたら』の微かな希望を求める言葉。この場合、彼女の望む答えは、『否定』だろう。
(何となく思ってたけど、無邪気に見えてかなり気負う性格……かな)
彼女の望む返答をするには事実が邪魔するので、とりあえずは平凡な答えを返した。
「そりゃいるでしょー。町から一歩出たら、もう出くわしてもおかしくはないし……森とか、ましてや山なんて、遭って当然かな。……町中だって、ちょっとはいるんだからさ」
「そう……だよね」
「魔物、心配?」
「うん、少し……」
「大丈夫だよー! また正義の美少女・フレイアちゃんが守ってあげる!」
「あっ、違うの、フレイア達が強いのは分かってるよ、そういう心配じゃ……なくて……」
段々と声が弱々しくなっていき、最後の言葉は誰の耳にも届くことはなかった。
「んー? 大丈夫大丈夫! ねっ」
続きは、『みんなだけ魔物と戦わせるのが申し訳ない』――かな?
「あ、うん……ありがと」
彼女の寂しげな微笑でそれは確信に変わり、心中で唇が弧を描く。これで隠しているつもりなのだから可愛らしいものだ。その努力は意味をなしていないが。
しかし、隠そうという気持ちがあるのは事実である。
誰にだって、隠し事はあるものだ。
そう、誰にでも。