Story.6 月下の賭け

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 見送り(?)に来たキヨも帰り、一行は再び歩き出す。前を行くリセとフレイアの少し後ろで、ふと隣の友人が言った。
「何と言うか……送り出してくれる人がいるって、いいですね」
「……そうだな」
 脳裏に浮かんだのは、双子の姉妹。彼女たちが送り出したのち、旅路を共にする者が増えたなどとは夢にも思っていないだろう。しかもその動機は、けして穏やかなものではない。できることなら止めたかった。しかし約束は約束であるし、第一、あれだけ強く言ったにもかかわらず頑として姿勢を崩さなかったのだから、どんな手を講じてもついてきただろう。もしあれ以上断り続けていたならただ事では済まなかったかもしれない。人の好さそうな外面に反して何をするか分からない人間だということは、十分すぎる程に知っているつもりだ。
「……お前さ、本当にあの時、何も仕組んでなかったよな?」
「“賭け”のことですか? 勿論あの時は何も。……もしかして、コイン嫌でした? 言えばカードとかに変えましたのに」
「カード? ……お前絶対イカサマするだろ」
「鮮やかなカード捌きと言って欲しいですね」
 過去、彼にカードで勝ったことは一度もない。勿論それはハールが極端に弱いからではなく、イズムに言わせるところの『鮮やかなカード捌き』によってもたらされた、仕組まれた不運によっての結果である。とは言え、今回ばかりはそういった誤魔化しが利かない方法を取り、用心深く確認までした上でのことなので責めることもできない。
「……そういやさ、お前、何で最初フレイアに声かけたんだ?」
「今度は急に何です?」
「いや別に……お前が人を助けるなんて、珍しい事もあったもんだなー、と。お前、優しくないし」
「それはまた……はっきり言いますね」
「お前に社交辞令を言う必要はない」
 イズムは苦笑し、ほんの少しだけ、目を細めた。
「雨だったから、ですよ」
「……そっか」
 ハールは言う。
「気分が良かったんです」
「本当、好きだな」
「えぇ……」
 一瞬、目を閉じて。
「大好きなんですよ」
 笑って、言った。
「……そうだハール、コレ、あげますよ」
「え?」
 イズムはポケットから、小さく光る何かを取り出すと、ハールに放って寄越した。彼は反射的にそれを取り、何だろうかと目を落とす。

 ――――するとそれは、

「なぁッ!?」

 両面が表になるように接着された、コインだった。
 ハールはつい先程のイズムの言葉を思い出す。確かに彼は言ったのだ。

 ――――「“あの時は”何もしていなかった」と。

「常日頃から裏の裏を読まなければいけませんよ?」
「お、お前、最初からオレが反対する上に逆にしろっていうのを見越して……っ!」
 イズムは実に楽しそうな笑みを浮かべ、先を行っていたリセとフレイアの元へと歩いていく。
「お前今すぐ帰れ――ッ!」
「イズム君、ハール君は何を怒ってるの?」
「さぁ? 見当もつきませんけど……」
「ハール、イズム君をいじめちゃダメだよ?」
「いじめられてるのはこっちだ――――っ!」

 ハールの叫びが響く高い空は、青い青い、快晴だった。


To the next story……

originalUP:2008.3.13
remakeUP:2012.12.25
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