Story.6 月下の賭け
あまりにさらりと放たれたその言葉に、「うぁー……ッ」と小さく呻くハール。まぁ、そこまで言いたくない、ということでもなかったのだが――
…………嫌な、予感がする。
「ふーん?」
フレイアが、今まさに悪戯をしようとしている子供の笑みを浮かべていた。タチが悪い。何とも、タチが悪い。
「……ってコトはぁ、あの時ハール君はリセを――――」
「バッ……、黙れってフレイア!」
「むぐっ!?」
今度は一応防止に成功した。咄嗟に彼女の口を塞ぎ、その先を言わせないように努める。
「こうなると思ったから言わなかったんだっつの!」
かなり手加減しているにも関わらず、いや、恐らくそれを分かった上で――大袈裟にじたばたするフレイアを無視し言う。少しの間そうしていたものの彼女も飽きたのか諦めたのか、大人しく抵抗を止めた。その様子にもう危険は無いと判断すると彼女を解放する。ようやく自由に言葉を発せるようになったフレイアは、発言を止められた事に対して抗議した。
「もー、いーじゃん別にー! 悪いコトじゃないんだしさっ! というか、結構当たり前だし、そういう人って多いと……あ、もしかして照れてるの? 照れてる? 照れてるんだぁ!」
だが、それも間もなく元と変わらないような状況に戻るのだった。
「ちっ、違――!」
「そーだよねぇ、そんなに一生懸命に守――」
必死の否定も虚しく、フレイアは再度ハールが阻止したがるであろう言葉を口にする。しかし。
「いいからお前はこれ以上喋るな!?」
「むぐっ!」
結局、押さえ込まれてしまったのだった。いくら口が達者であるといえど、その口自体が封じられてしまっては元も子もない。勿論力で敵うはずもなく、今回は、ハールの勝ちである。
「賑やかでいいですねー、あんなに楽しそうなハール久しぶりに見ましたよ」
「あれは楽しそう、なの……?」
そして先程フレイアが言いかけ、ハールによってその耳に届くことを阻まれた言葉を思う。いずれも最後までは聞けなかったが、イズムの発言からすれば、その先を想像するのは容易だった。
つまりは、あの時ハールは自分を……
(そう、思っていてくれていたんだ……)
それが嬉しいのと同時に、再びあの悔しさが込み上げてくる。
(そう、思ってくれていたのに……)
あの時自分は――――…………
「……ハールっ!」
名前を呼ばれ、ハールは未だフレイアと攻防を続けながら彼女を振り返った。
「いっ、いつかは……ッ」
いつかの、静かに鋼の光る店内で、老夫に向けたあの強い瞳で。
「ハールが、強いままでいられるように、なるから……!」
輪郭を持たない強い想いを、どうにか言葉にしようと押し出す。
「だから……っ」
もうあの時の自分とは、違うから。
突然の彼女の言葉に、驚きですぐに声が出なかった。
「リ……」
ハールが彼女の名を呼ぼうとした――――その時。
「……え」
イズムが、小さく声を上げた。
「イズム君? どうしたの?」
彼に目を向けるフレイア。
そして、白い羽根が一枚、空からふわふわと降りてきた。