Story.6 月下の賭け

「――キヨ、鳥にしては静かな子だね」
 フレイアは両肘をつき、組んだ両手の上に顎を乗せながら言う。
「鳥ってもっと鳴くイメージだったからさ。それともそういうのって小鳥だけなのかな。カラスってあんなもの?」
 イズムは小さく「ああ、」と漏らすと、少しだけ言いづらそうにゆっくりと口を開く。
「キヨ、本来の姿だと声が出ないんです」
 ハールは元々知っていたのだろう。何も言わない。
「だから一度も鳴かなかったんだ」
「フレイアさんは、気付いていらっしゃったんですね」
「うん。そういう理由だとは……思わなかったけど。それも生まれつきなの?」
「違う、と思います。本人が言ってましたから。昔、急に出なくなったって」
「……病気か何かなの?」
「いえ、多分精神的なものでしょうね」
 丁度その時、キヨが奥から姿を現した。その手には人数分に切り分けられたタルトが乗ったトレーがある。
「キヨ、タルト持ってきました! イズムさま、人数分ありそうですよ。どうせですから、みんなで食べましょうっ! みんなで!」
 声が妙に弾んでいるのと皆でという部分が強調されていた辺り、“イズムの作ったモノが食べたい”という欲望が見え隠れしている。あまりに分かり易くて、思わず笑いが込み上げる面々だった。
 キヨは慣れた手つきで皿に取り分けると、自身も食べ始める。満面の笑みである。
「何かお前ら似てるな」
「ふお?」
 その正面の席で幸せそうな表情の模範であるかのような顔をして頬張っていたリセは、隣のハールに目を遣る。
「キヨと?」
「お前」
「そうなの?……って、あれ、ハール甘いもの食べてる?」
 先刻の発言はどこへやら、いたって普通にフォークを口へ運んでいる。リセの質問に、彼は一旦食べる手を止めた。
「『モノによる』からコイツのは食えんの」
「ふーん、仲良しだねぇ」
 にっこりと笑って、フレイア。
「さぁどうでしょう?」
 イズムは自らの食べ終わった皿と、既に完食していたキヨの分の皿を重ねながら言った。
「さて、どうせ今日は家に泊まっていくつもりだったんでしょう? お風呂、お貸ししますよ」
「わ、イズム君ありがとぉっ! リセ、一緒に入る?」
「ふおぉっ……!?」
「あは、可愛いなぁー……冗談だったけど本当に入ろっか!」
「もう、からかわないでよ……!」
 じゃれあう二人を微笑みながら横目で見つつ、イズムは皿を片付ける為に席を立った。ハールが座っている後ろを通ろうとし――
「……イズム、後で話」
 小さく、彼にしか聞こえないように呟く声がした。
「……わかってます」
 誰にも気付かれること無く短い会話を交す。そして何事も無かったかのように、時間は過ぎていった。
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