Story.6 月下の賭け
†
「……それで、イズムに拾われたってワケか」
「うんうん、いやー、ハール君ってばお優しいお友達をお持ちですねぇー」
紅茶の入ったティーカップに角砂糖を一つ放り込むと、フレイアは言った。
「あ、ハール君砂糖いる?」
「いや、オレ甘いの苦手だからいい」
「え、ハール甘いもの駄目なの?」
「まぁ、モノによるけど甘いもの全般。子供のとき食べる機会が少なかったから、何か今でも慣れないんだよな」
――今までフレイアがしていた話を要約すると、二人を追いかけようとしたものの、不可抗力でそのまま人波に流されていってしまったそうだ。そして雨宿りをして途方に暮れていたところ、黒髪黒眼の少年――偶然にもハールの友人であるらしい、『イズム』と出会い、その好意に甘えることにしたら、この状況。という訳らしい。
とりあえずハールは「それは大変だったな」とだけ言っておいた。雨の中お前を探し回った自分達も、わりと大変だったぞ、とも少々思いながら。現在三人は濡れて着るに耐えない状態となってしまった服から、リセとフレイアはキヨから、ハールはイズムから着るものを借り、そちらを着用していた。ちなみにそのイズムは、「何か食べるもの持ってきますね」、と一言残し厨房へ消えていった。
「とにかく、フレイアと会えてよかったよ……『始まり悪けりゃすべて良し』、だねっ」
「いや、それじゃ良くないでしょ……」
すかさずツッコミをいれるフレイアだが、当のリセは自分の間違いに気付いていないようで、「ん?」と頭上に疑問符を浮かべただけだった。それも数秒程するとすぐに消え、ティーカップを手に取る。
ところで、彼女がいたって普通に口を付けているこの紅茶。実は、とんでもないシロモノである。……単刀直入に言うと、砂糖の量が尋常ではない。スプーンでカップを掻き混ぜると、『じょーりじょーり』と音がする。……砂糖が、溶けきっていない。詰まるところ、彼女は『恐ろしく』甘党なのであった。
ちなみに、フレイアが果敢にも『砂糖の飽和水溶液以上になった液体』に挑戦してみたところ、一口でテーブルに突っ伏し、イズムに水をコップになみなみ一杯頂く事とあいなった。
今までも、こんな感じだったのだろうか。だとしたら、よく健康でいられたものである。
(……どういう生活してたんだか)
とまあ、それはさて置き。
「ったく、心配かけんなっての……」
深く溜め息をついて、ハールはフレイアに恨めしげな目を向ける。
「お? 心配してくれてたの?」
小さく首を傾げ、正面に座るハールの顔を覗き込む。その仕草が何とも自然で愛らしい。
「……んな訳ねーだろ」
ハールはそんな彼女から目を背けると、ぼそっと呟くように零した。
「あはっ、ご心配をおかけして申し訳ありませんっ」
その様子に、自分の方が年下にも関わらず、思わず彼が「可愛い」などと感じてしまった。何か“慣れて”なくて初々しいと言うか……自分が慣れているという訳でもないが。何にせよ、本人に言ったら、きっと怒られるだろう。
すると、ふいに彼女の後ろから声が掛かった。
「言ってるコトが矛盾してますよ、ハール。相変わらず素直じゃないですねぇ……」
「……イズム」
イズムは手に持っていた皿を三人の前にそれぞれ置きながら話す。
「ハールもキヨぐらい素直になれば、少しは可愛げも出るんじゃないですか?」
一瞬、窓から外を見ているキヨに視線を向け、すぐにハールへと微笑みかける。その言葉に、ハールは怪訝そうに言い返した。
「キヨぐらいって……限度があるだろ」
「そうですか? まぁ、ハールがあそこまで素直になったら、気持ち悪いですよね。あ、お二人とも、冷めない内にどうぞ。具が余りモノですみませんが……」
ばっさりとハールとの会話を打ち切り、リセとフレイアに言う。どうやらこういったやりとりは、二人の間で日常茶飯事らしい。
「……それで、イズムに拾われたってワケか」
「うんうん、いやー、ハール君ってばお優しいお友達をお持ちですねぇー」
紅茶の入ったティーカップに角砂糖を一つ放り込むと、フレイアは言った。
「あ、ハール君砂糖いる?」
「いや、オレ甘いの苦手だからいい」
「え、ハール甘いもの駄目なの?」
「まぁ、モノによるけど甘いもの全般。子供のとき食べる機会が少なかったから、何か今でも慣れないんだよな」
――今までフレイアがしていた話を要約すると、二人を追いかけようとしたものの、不可抗力でそのまま人波に流されていってしまったそうだ。そして雨宿りをして途方に暮れていたところ、黒髪黒眼の少年――偶然にもハールの友人であるらしい、『イズム』と出会い、その好意に甘えることにしたら、この状況。という訳らしい。
とりあえずハールは「それは大変だったな」とだけ言っておいた。雨の中お前を探し回った自分達も、わりと大変だったぞ、とも少々思いながら。現在三人は濡れて着るに耐えない状態となってしまった服から、リセとフレイアはキヨから、ハールはイズムから着るものを借り、そちらを着用していた。ちなみにそのイズムは、「何か食べるもの持ってきますね」、と一言残し厨房へ消えていった。
「とにかく、フレイアと会えてよかったよ……『始まり悪けりゃすべて良し』、だねっ」
「いや、それじゃ良くないでしょ……」
すかさずツッコミをいれるフレイアだが、当のリセは自分の間違いに気付いていないようで、「ん?」と頭上に疑問符を浮かべただけだった。それも数秒程するとすぐに消え、ティーカップを手に取る。
ところで、彼女がいたって普通に口を付けているこの紅茶。実は、とんでもないシロモノである。……単刀直入に言うと、砂糖の量が尋常ではない。スプーンでカップを掻き混ぜると、『じょーりじょーり』と音がする。……砂糖が、溶けきっていない。詰まるところ、彼女は『恐ろしく』甘党なのであった。
ちなみに、フレイアが果敢にも『砂糖の飽和水溶液以上になった液体』に挑戦してみたところ、一口でテーブルに突っ伏し、イズムに水をコップになみなみ一杯頂く事とあいなった。
今までも、こんな感じだったのだろうか。だとしたら、よく健康でいられたものである。
(……どういう生活してたんだか)
とまあ、それはさて置き。
「ったく、心配かけんなっての……」
深く溜め息をついて、ハールはフレイアに恨めしげな目を向ける。
「お? 心配してくれてたの?」
小さく首を傾げ、正面に座るハールの顔を覗き込む。その仕草が何とも自然で愛らしい。
「……んな訳ねーだろ」
ハールはそんな彼女から目を背けると、ぼそっと呟くように零した。
「あはっ、ご心配をおかけして申し訳ありませんっ」
その様子に、自分の方が年下にも関わらず、思わず彼が「可愛い」などと感じてしまった。何か“慣れて”なくて初々しいと言うか……自分が慣れているという訳でもないが。何にせよ、本人に言ったら、きっと怒られるだろう。
すると、ふいに彼女の後ろから声が掛かった。
「言ってるコトが矛盾してますよ、ハール。相変わらず素直じゃないですねぇ……」
「……イズム」
イズムは手に持っていた皿を三人の前にそれぞれ置きながら話す。
「ハールもキヨぐらい素直になれば、少しは可愛げも出るんじゃないですか?」
一瞬、窓から外を見ているキヨに視線を向け、すぐにハールへと微笑みかける。その言葉に、ハールは怪訝そうに言い返した。
「キヨぐらいって……限度があるだろ」
「そうですか? まぁ、ハールがあそこまで素直になったら、気持ち悪いですよね。あ、お二人とも、冷めない内にどうぞ。具が余りモノですみませんが……」
ばっさりとハールとの会話を打ち切り、リセとフレイアに言う。どうやらこういったやりとりは、二人の間で日常茶飯事らしい。