Story.5 小さな盗人(後編)
旅人狩の二人組を自警団に引き渡し姉弟と別れた一行は、次の町『リディアス』に向かう為、『シリス』の出口へと向かう道を歩いていた。しかし既に市門が閉まる時間をまわっており今日はこの町からは出られないゆえ、『リディアス』方面への出口に近い場所にある宿を探すことが目的である。
と、ふいに。
「あぁーっ!」
「ふお!?」
「何だ!?」
突然フレイアが上げた大きな声に、飛び上がらんばかりに驚く二人。彼女らの驚きように、ゴメンゴメンと謝り、斜め前を指さす。
「いやー、あの服かわいーなーと……」
「そんなことかよ……」
「びっくりしたぁ……」
リセも一瞬跳ね上がった心臓を宥めると、フレイアが指し示した方向に目を向けた。
そこには――。
「あ……」
店の飾り窓の向こうにあったのは、柔らかな菫色のワンピースドレス。けして派手な意匠ではないが、レースが品良くあしらわれていて地味な印象は受けない。長さは膝丈で、裾がふわりと広がっているのが可愛らしいと思った。そしてその服は――――
(昼間、女の子達が見てたやつだ……)
よくよく辺りを見回せば、あの武器屋が近くに見てとれた。
先刻通ったばかりの道。ただ、一人で歩いていた時とは、全く別の道に見えるのが不思議だ。武器屋に、小さく微笑みかける。
「……うん、可愛いね」
「でしょでしょ、そりゃ叫びたくもなるよねー! ……あ、色違いが中にあるってー」
そして目を輝かせ――
「だって、ハール君っ」
手を組んで、ハールに向き直るフレイア。これは何を言っても無駄そうだと彼は悟った。
「だって、って言われてもなぁ……いーからさっさと行ってこい、どうせ今日は町から出られないし。オレは此処で待ってるから」
賢明な判断と言えよう。もし逆の返事をしていたら、大変面倒な事になっていたに違いない。まったく、どうしてこうも女というやつは、買いもしない買い物を好むものなのか。
「やった、リセ行こ!」
ふと、彼女の手に温もりが伝わった。
――昔もこんな風に、誰かと繋いだことがあったのかな、なんてことを思う。
「……うんっ」
でも、今この手を繋ぐのは見知らぬ誰かではない。ここにいる『私』を想ってくれる人で、それはこの優しい温かさが何よりの証拠だ。
そして、記憶の底に眠る『リセ・シルヴィア』ではなく、ここにいる『リセ・シルヴィア』を、強く想ってくれている。けして、あの姉弟のように長い年月を積み重ねてきたわけではない。でも、とても、大切な人。
彼女に逢えたから、無力である悔しさに気付いて、それを乗り越える勇気をお爺ちゃんに貰った。そして――――。
強くなるという想いの理由を、くれた彼がいる。
だからいつか、その想いをチカラで返したい。この想いと――――心と、共鳴するモノを見つけて。
「……フレイア」
「ん?」
「ありがとー……」
「え、何? 帽子のこと?」
「うーん、それも含めて」
「えー、何? 気になるじゃん!」
「いーのいーのっ」
――今日、新しく生まれた気がした。
『リセ・シルヴィア』が。
と、ふいに。
「あぁーっ!」
「ふお!?」
「何だ!?」
突然フレイアが上げた大きな声に、飛び上がらんばかりに驚く二人。彼女らの驚きように、ゴメンゴメンと謝り、斜め前を指さす。
「いやー、あの服かわいーなーと……」
「そんなことかよ……」
「びっくりしたぁ……」
リセも一瞬跳ね上がった心臓を宥めると、フレイアが指し示した方向に目を向けた。
そこには――。
「あ……」
店の飾り窓の向こうにあったのは、柔らかな菫色のワンピースドレス。けして派手な意匠ではないが、レースが品良くあしらわれていて地味な印象は受けない。長さは膝丈で、裾がふわりと広がっているのが可愛らしいと思った。そしてその服は――――
(昼間、女の子達が見てたやつだ……)
よくよく辺りを見回せば、あの武器屋が近くに見てとれた。
先刻通ったばかりの道。ただ、一人で歩いていた時とは、全く別の道に見えるのが不思議だ。武器屋に、小さく微笑みかける。
「……うん、可愛いね」
「でしょでしょ、そりゃ叫びたくもなるよねー! ……あ、色違いが中にあるってー」
そして目を輝かせ――
「だって、ハール君っ」
手を組んで、ハールに向き直るフレイア。これは何を言っても無駄そうだと彼は悟った。
「だって、って言われてもなぁ……いーからさっさと行ってこい、どうせ今日は町から出られないし。オレは此処で待ってるから」
賢明な判断と言えよう。もし逆の返事をしていたら、大変面倒な事になっていたに違いない。まったく、どうしてこうも女というやつは、買いもしない買い物を好むものなのか。
「やった、リセ行こ!」
ふと、彼女の手に温もりが伝わった。
――昔もこんな風に、誰かと繋いだことがあったのかな、なんてことを思う。
「……うんっ」
でも、今この手を繋ぐのは見知らぬ誰かではない。ここにいる『私』を想ってくれる人で、それはこの優しい温かさが何よりの証拠だ。
そして、記憶の底に眠る『リセ・シルヴィア』ではなく、ここにいる『リセ・シルヴィア』を、強く想ってくれている。けして、あの姉弟のように長い年月を積み重ねてきたわけではない。でも、とても、大切な人。
彼女に逢えたから、無力である悔しさに気付いて、それを乗り越える勇気をお爺ちゃんに貰った。そして――――。
強くなるという想いの理由を、くれた彼がいる。
だからいつか、その想いをチカラで返したい。この想いと――――心と、共鳴するモノを見つけて。
「……フレイア」
「ん?」
「ありがとー……」
「え、何? 帽子のこと?」
「うーん、それも含めて」
「えー、何? 気になるじゃん!」
「いーのいーのっ」
――今日、新しく生まれた気がした。
『リセ・シルヴィア』が。