Story.4 小さな盗人(前編)

「あ、あのさっ、実は、イタズラじゃなくて……」
 彼はフレイアの背後へ視線を遣る。瞬間、少年が息を呑んだ。
「お姉さん後ろッ!」
 ――背筋を殺気が這う。
「……ッ!」
「うわあっ!」
 風が左頬を掠め、反射的に肩を引いた。フレイアは少年を半ば突き飛ばすようにしてその風を起こした『何か』から逃れさせる。
「おいおい……なーに素直に返してんだよ、ガキ」
 振り返ると、その声の主であろう無骨ななりの青年が不機嫌そうな面持ちで立っていた。そして今しがた二人に向けて振り下ろした『何か』――鈍く光る剣を肩に掛けると、少年を睥睨して言う。
 フレイアは瞬時に状況が理解できず、男に警戒しつつ少年を自らの後ろへ下がらせる。
「待ち合わせの時間まで、暇つぶしに遊んでただけだったんだ……」
「待ち合わせ……?」
 フレイアは呟くと、蒼の目を思案に細める。
 宿から出た途端にまるで待ち構えていたかのように泣いていた少年、奪われた帽子、待ち合わせ、そして突然襲いかかってきた青年――――

「旅人狩……!」

 そして次の瞬間には、すべてが繋がった。
「おー、理解が早いな嬢ちゃん」
 つまりはこの少年を使って子供だと油断した旅人から金目の物を奪い取らせ、指定の時間に待ち合わせ場所で取引をするということだろう。子供には一定の報酬を渡し、受け取った獲物は何らかの形で換金し懐に入れる。おそらく、その取り分は実行犯の方が格段に少ないのであろうが。
 男は剣を肩から下ろしつつ少年を睨む。
「携帯水晶が幾つも手に入るところだったのに、つけられてた上に舐めた真似しやがって……後でどうなるかわかってんだろうな?」
「ご、ごめんなさ……っ」
「まぁ、顔見られちまったからには可哀想だが嬢ちゃんにも――」
 フレイアは帽子を右手のグローブに付いた携帯水晶にしまう。そしてそこから入れ違いに赤い光を引き出すと、長く伸びたそれを器用に身体にかけて胸元で結んだ。輝きが消えるとその背には矢籠が背負われており、続いて弓も出現させる。
「痛い目見てもらおうか!」
 ――そして再び、悪意を持った銀の太刀が振り下ろされた。


To the next story……


originalUP:2007
remakeUP:2012.7.31
16/16ページ
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