Story.4 小さな盗人(前編)
リセは手で口元を押さえて、ぽつりと言った。激しく打ち寄せた感情が引いていくとそこには冷静さがそこに残り、今度は申し訳なさが遅れてやってきた。思わず感情を昴らせ、それをぶつけてしまった。それも初対面の相手にである。
「いいや」
その答えに正面を向くと、彼の深い緑の目と視線が交わった。
「……お嬢ちゃんが謝ることはない」
ぽん、と頭に小さな温もり。
「きっと、お嬢ちゃんの武器になる奴はしあわせだろうね」
「え……」
予想外の言葉に目を丸くし、老人の瞳を見つめる。
――いきなり、何を言い出すのだろうか。そして彼は、ゆっくりと話を続ける。
「……武器というものは、力や技術で扱うものではないんだよ。武器を使うのに必要なものは……」
――その一言はゆっくりと、噛み締めるように。
「…………心だ」
静かに目を閉じ、リセの頭には手を乗せたままで。
「感情なんだよ、お嬢ちゃん……今あんたが吐き出したみたいな、ね」
「……かん、じょう……?」
「……そう。恨み、憎しみ、金のため、誰かのため、願いのため、強くなりたいという想い……人が武器を取る理由は様々だがね。そのなかで最も武器の本当のチカラを引き出せるのは――」
リセは無言のまま。老人は、彼女の頭をぽんぽんと叩く。
「……『守りたい』という想いなんだよ」
「…………想、い?」
「そうとも。誰かを、何かを守りたいという強い想い……武器の本質は『破壊』だと思われがちだ。確かに、武器は殺したり、傷つけたりするものだ。だけど、真の本質はな……お嬢ちゃん、わかるかい?」
リセはふるふると頭を横に振った。いつの間にか、話に引き込まれている自分がいることに気付く。
「武器の真の本質はな……『守る』ことなんだよ」
「え……」
「……例えば、魔物と戦うとき。魔物は……殺してしまうことが殆どだろう。だけどな、その真髄には、『守る』というモノがあるんだ。魔物を殺すのは、自分の生活や命を『守る』ためだろう?」
リセは頷いた。
「だから、武器の真の本質と、その武器の持ち主の強い想いが共鳴したとき、そのとき初めて、武器は本当の意味での武器になる。お嬢ちゃんの武器はお嬢ちゃんの武器になる……さっきお嬢ちゃんは、その仲間に迷惑をかけないために、自分を『守りたい』と言おうとしたんだろう? ……共鳴する素質十分って訳だ」
そして、だから、きちんと自分の本質を引き出してくれるお嬢ちゃんの武器になれる奴はな、しあわせなんだよ、と続けた。
「グリッド、さん……」
いつの間にか、置かれた手が頭を撫でていることに気付いた。なんだか子供みたいだが、悪い気はしないので、そのままでいた。
「……まぁ、なんだかんだ言っても、結局、最後に残る武器は――ここなんだがね」
老人は、リセを撫でていた手を止め、もう片方の手を自分の左胸の辺りに置いた。
「お嬢ちゃんも、持っているだろう? さっきも見せてくれたじゃないか。――揺るぎないモノ」
リセも、老人と同じような場所に手を添える。確かな鼓動が感じられた。
――きっと、これが武器と共鳴する、感情の生まれる場所なんだ。
「お嬢ちゃんは、自分と共鳴できる相棒をみつけたら、きっと強くなれるよ……だから、今無理して探さなくてもいいんじゃないかね」
「……はい」
「分かったなら、老いぼれの戯言はこれにてお終い」
顔を上げた先にあった緑の瞳は、穏やかに、穏やかに、笑っていた。
「いいや」
その答えに正面を向くと、彼の深い緑の目と視線が交わった。
「……お嬢ちゃんが謝ることはない」
ぽん、と頭に小さな温もり。
「きっと、お嬢ちゃんの武器になる奴はしあわせだろうね」
「え……」
予想外の言葉に目を丸くし、老人の瞳を見つめる。
――いきなり、何を言い出すのだろうか。そして彼は、ゆっくりと話を続ける。
「……武器というものは、力や技術で扱うものではないんだよ。武器を使うのに必要なものは……」
――その一言はゆっくりと、噛み締めるように。
「…………心だ」
静かに目を閉じ、リセの頭には手を乗せたままで。
「感情なんだよ、お嬢ちゃん……今あんたが吐き出したみたいな、ね」
「……かん、じょう……?」
「……そう。恨み、憎しみ、金のため、誰かのため、願いのため、強くなりたいという想い……人が武器を取る理由は様々だがね。そのなかで最も武器の本当のチカラを引き出せるのは――」
リセは無言のまま。老人は、彼女の頭をぽんぽんと叩く。
「……『守りたい』という想いなんだよ」
「…………想、い?」
「そうとも。誰かを、何かを守りたいという強い想い……武器の本質は『破壊』だと思われがちだ。確かに、武器は殺したり、傷つけたりするものだ。だけど、真の本質はな……お嬢ちゃん、わかるかい?」
リセはふるふると頭を横に振った。いつの間にか、話に引き込まれている自分がいることに気付く。
「武器の真の本質はな……『守る』ことなんだよ」
「え……」
「……例えば、魔物と戦うとき。魔物は……殺してしまうことが殆どだろう。だけどな、その真髄には、『守る』というモノがあるんだ。魔物を殺すのは、自分の生活や命を『守る』ためだろう?」
リセは頷いた。
「だから、武器の真の本質と、その武器の持ち主の強い想いが共鳴したとき、そのとき初めて、武器は本当の意味での武器になる。お嬢ちゃんの武器はお嬢ちゃんの武器になる……さっきお嬢ちゃんは、その仲間に迷惑をかけないために、自分を『守りたい』と言おうとしたんだろう? ……共鳴する素質十分って訳だ」
そして、だから、きちんと自分の本質を引き出してくれるお嬢ちゃんの武器になれる奴はな、しあわせなんだよ、と続けた。
「グリッド、さん……」
いつの間にか、置かれた手が頭を撫でていることに気付いた。なんだか子供みたいだが、悪い気はしないので、そのままでいた。
「……まぁ、なんだかんだ言っても、結局、最後に残る武器は――ここなんだがね」
老人は、リセを撫でていた手を止め、もう片方の手を自分の左胸の辺りに置いた。
「お嬢ちゃんも、持っているだろう? さっきも見せてくれたじゃないか。――揺るぎないモノ」
リセも、老人と同じような場所に手を添える。確かな鼓動が感じられた。
――きっと、これが武器と共鳴する、感情の生まれる場所なんだ。
「お嬢ちゃんは、自分と共鳴できる相棒をみつけたら、きっと強くなれるよ……だから、今無理して探さなくてもいいんじゃないかね」
「……はい」
「分かったなら、老いぼれの戯言はこれにてお終い」
顔を上げた先にあった緑の瞳は、穏やかに、穏やかに、笑っていた。