Story.4 小さな盗人(前編)
「見つかんないねぇ……」
フレイアは辺りを見回しながら、どちらに言うでもなく呟く。
大通りに着いた三人は、身を隠せそうな場所を覗いたり道行く人に尋ねたりとすぐに少年を捜し始めたのだが、一向にその姿は見付からない。
「うん……ごめんね」
彼女の隣を歩くリセがぽつりと言う。その言葉に、フレイアは大きな蒼い瞳を向け、なぜ謝るのか尋ねた。するとリセは顔を上げて見つめ返す。
「だって……私のせいで先、進めないし」
しょんぼりと肩を落とすリセ。帽子がないせいか、その姿はいつもより小さく見えた。
「……余計なこと、しちゃったね」
苦笑してそう続けるものの、無理に口角を上げているのは手に取るようにしてわかった。フレイアから次の言葉は無い。止まる会話。
「……まあ、結果的には足止めだよな」
まるで針で突かれたかのように、俯いていたリセの肩が微かに跳ねる。
「けど、お前の対応を“余計”っていう奴がいたとしたらどうかと思うけどな」
俯き、銀の前髪で隠れていた瞳が見開かれる。
「それに、別に急ぐ旅でもねぇだろ? ……って、本人は急ぎたいか」
ハールは途中で言葉を切り微苦笑する。だがリセは彼を見上げると、何度もかぶりをふった。
「う、ううん、大丈夫……!」
「まあまあ、こういうのも旅の醍醐味ってヤツだよ!」
言うとフレイアはウインクする。
「そう、だね」
胸に温かいものが広がる。そして同時に、申し訳無さ。共にいてくれるのが二人であったことに対する感謝が深いほど、それもまた濃いものになる。
(やっぱり、私も……)
――この人達のように。
いや、そこにまだ届くことはなくとも、手を伸ばさなくては。こんな自分が、今彼らにできることといえば――
「……ありがとう」
精一杯微笑む。苦いものは、混ざっていたが。
こんな顔をし続けて、気をつかわせてはいけない。
「――とりあえず手分けするか。固まって行動してたら埒あかないしな」
彼女の表情を見、頷くハール。勿論異議が出るはずもなく、ハールが集合するまでの時間と、発見しだい捕まえて今いる十字路に連れてくるという旨を告げた。
「――分かった、絶対返してもらう……っ」
「あのコ、結構すばしっこそうだったよねぇ……ちょっと頑張っちゃおうかな」
「大丈夫だとは思うけど、あんまり無理するなよ」
「うんっ」
「はいはいっ」
そして、各自リセの帽子を取り返す為、違う道へと散っていった。